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THE GURU OF A JAZZ THING




 グールーが亡くなった。
 心臓発作で倒れて昏睡状態に陥った後、手術が成功して回復に向かっていることが今年3月初めに報じられていたが、結局、全快することなくこの世を去った。どうやら癌と闘っていたようだ。

 ヒップホップ・デュオ、ギャング・スター Gang Starr のMCとして'89年にアルバム・デビュー。燻し銀のテナー・ヴォイスが繰り出す鯔背なフロウ、DJプレミアが作る無敵のトラックとの名コンビネーションで数多くのクラシックを生み、'90年代のヒップホップ黄金期を牽引した。

 ギャング・スターとしての活動の一方で、個人的には、彼がホスト役を務めたプロジェクト“JAZZMATAZZ”の諸作がとりわけ印象深い。これは“ヒップホップとジャズの実験的融合”を標榜する、非常に野心的なシリーズ企画作だった。グールーのライフワークとも言うべきこの作品集は、'93年の第一集に始まり、'07年まで断続的に計4枚が発表された。

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JAZZMATAZZ VOLUME 1 (1993)
Featuring: Carleen Anderson, Roy Ayers, Donald Byrd, N'Dea Davenport, Ronny Jordan, Courtney Pine, Lonnie Liston Smith, MC Solaar, Gary Barnacle, Zachary Breaux, DC Lee, Simon Law, Branford Marsalis

JAZZMATAZZ VOLUME II: The New Reality (1995)
Featuring: Chaka Khan, Ramsey Lewis, Me'Shell N'Degeocello, Jamiroquai, Patra, Ronny Jordan, Donald Byrd, Freddie Hubbard, Ini Kamoze, Mica Paris, Shara Nelson, Reuben Wilson, Courtney Pine, Bernard Purdie, Sweet Sable, Kool Keith of Ultramagnetcs, Kenny Garrett, The Solsonics, Bahamadia, DC Lee, Baybe, Big Shug, Branford Marsalis

 '90年代に発表された第一集と第二集では、ドナルド・バード(トランペット)、フレディ・ハバード(トランペット)、ラムゼイ・ルイス(ピアノ)、リューベン・ウィルソン(オルガン)、ロイ・エアーズ(ヴィブラフォン)、ロニー・リストン・スミス(ピアノ)、ブランフォード・マルサリス(サックス)、ケニー・ギャレット(サックス)、コートニー・パイン(サックス)、ロニー・ジョーダン(ギター)、ザッカリー・ブルー(ギター)ら、米英の新旧ジャズ~フュージョン系ミュージシャンを集め、ヒップホップとジャズの生演奏の融合が非常に洗練されたスタイルで示された。UKソウル~アシッド・ジャズ系のヴォーカリストが多くフィーチャーされていたのも特徴のひとつ。イギリスのクラブ・シーンでは'80年代からジャズの再発見、再解釈が盛んに行われていたが(シャーデーも巨視的にはこのムーヴメントに属する)、グールーが“JAZZMATAZZ”で試みたのは、つまり、ヒップホップをベースとしたそのアメリカ的展開だった。

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JAZZMATAZZ STREET SOUL (2000)
Featuring: Angie Stone, Donell Jones, Macy Gray, Bilal, Erykah Badu, The Roots, Amel Larrieux, Kelis, Craig David, Big Shug, Isaac Hayes, Les Nubians, Junior Reid, Prodigal Son, Herbie Hancock

JAZZMATAZZ VOL. 4 (2007)
Featuring: Common, Bob James, Damian Marley, Slum Village, Kem, Vivian Green, Raheem Devaughn, Bobby Valentino, Ronny Laws, Dionne Farris, Omar, Shelley Harland, Brownman, Blackalicious, Caran Wheeler, David Sanborn

 '00年代に発表された第三集と第四集では、ソウル~R&Bに接近して更に内容のフュージョン化が進んだ。ハービー・ハンコック、デヴィッド・サンボーンらの参加によって初期2作との連続性が示されているものの、全体としては、もはや狭義のジャズとは結びつきにくいサウンドになっている。

 これらを聴いて想像されるのは、グールーが恐らく“現代のジャズ”としてヒップホップを捉えていただろうということだ。ジャズがどんなジャンルのどんな曲でも自由に解釈して演奏してしまうように、ヒップホップもターンテーブルとサンプラーによって、ありとあらゆる音楽を取り込む雑食性を持つ。それは、決まったテクスチュアを持つひとつの音楽ジャンルと言うよりは、音楽を作り出すためのひとつのメソッド(方法論)の呼称と考えた方がしっくりくる。そこでは、狭義のジャズも、ブルースも、R&Bも、ソウルも、ファンクも、レゲエも、全てが等しく演奏の構成要素となり得る。“JAZZMATAZZ”は、ヒップホップの時代に、ジャズを単なるサウンドとしてではなく、現代に通じる黒人音楽の重要なアティテュード、または、スピリットとして捉え直す、非常に有意義な試みだったと思う。

 シリーズの中で個人的に最も愛着があるのは、第三集に当たる『JAZZMATAZZ STREET SOUL』。ネオ・ソウル系を中心とした豪華な客演陣で、シャーデーが名前を連ねてもおかしくないような内容だ。実際、この第三集の発表('00年9月)から間もなく、グールーは「King Of Sorrow」のリミックスをシャーデーから任されている。〈Guru Remix〉としてシャーデーの同曲シングル('01年3月発売)に収録されているので、未聴のファンはチェックして欲しい。ダークでスモーキーなトラックで原曲が引き立てられた好リミックスだ。彼のラップも聴くことができる。

 “ジャズ”というフィルターを通して、ヒップホップの可能性を幅広い層に知らしめたグールー。彼は、ヒップホップのコアなリスナーでなかった私に、ヒップホップの面白さ、カッコよさを教えてくれたアーティストの一人だった。冥福を祈る。

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追記('10年4月25日):
 グールーの実妹パトリシア・イーラムの公式発表によると、グールーが患っていた病気は多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)だったそうだ。白血病に似た血液癌の一種で、アフリカ系アメリカ人に特に多く発症すると言われる(白人の2倍、アジア人の4倍以上の発症率)。そのコメントによると、1年以上前からこの病気を患っていたグールーは、合併症による呼吸不全と心臓発作で今年2月中旬に昏睡状態に陥り、その後、再び心臓発作を起こして亡くなるまで、一度も意識を取り戻すことはなかったという。グールーの死を巡っては、彼の代理人的立場をとる音楽プロデューサー、ソラーの排他的な立ち振る舞いや、グールーが書いたとされる“遺書”(ファンへの手紙)の信憑性が大きく問題視されてもいる(回復に向かっているという情報はソラーによって発表されていた。ソラーが利権を独占するために画策したようにしか見えないわけだが)。ファンとしては、ともかく純粋に彼の冥福を祈りたい。

 尚、今回の逝去に際して、これまで'66年と思われていたグールーの生年が'61年に覆った('62年説も浮上)。ネット上に流出したグールー(本名 Keith Eram)のパスポートのスキャン画像がその情報源。その画像を掲載したサイトには、ソラー(本名 John Barry Mo'Sher/'63年4月8日生まれ)のパスポート画像まで掲載されている。これによって、グールーの享年は48歳ということになった(この記事のトップ画像の生年も修正した)。
 というわけで、死んでいきなり5歳も年を取ったグールー(笑)。ということは、'89年のデビュー時で28歳だったのか? ちなみに、相方のプレミア(本名 Christopher Edward Martin)は、'66年3月21日生まれである(とされている)。どう見ても同い年くらいに見えるのだが……。グールー、あんた本当は幾つだったの?!

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