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Babyfather [video]


BABYFATHER (2010)
Directed: Sophie Muller

 『SOLDIER OF LOVE』からの第二弾ヴィデオ。「Babyfather」は、未婚の父母と子供の絆をテーマにしたシャーデー・アデュの私小説的な歌。同アルバムからの第一弾シングル「Soldier Of Love」とは正反対のピースフルな作品で、ヴィデオも同様のムードに包まれている。

 監督はいつもの通りソフィ・ミュラー。撮影は'10年4月、ロサンゼルスで行われたようだ。完成したヴィデオは、'10年5月4日からiTunesにて2日間の独占先行で公開された。


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 台所のラジオから「Babyfather」が流れる場面でヴィデオは始まる。アデュはいつもと異なる髪を下ろしたルックスで登場し、彼女の私生活を思わせる主婦像を演じている。洗い物をしたり、洗濯物を干したり、フルーツ・ゼリーを作ったりするアデュ。家事に勤しむアデュのセクシー主婦ぶりが実にいい感じだ。台所の窓の外には近所の子供たちがいて、アデュが焼く魚の匂いに鼻をクンクンさせたりする。空き地で踊る子供たちの様子や、通行人のショットが随所に挿入されるのも印象的。スローを多用しながら、黒人街の穏やかな日常風景が描かれていく。

 ヴィデオの後半で、アデュは完成したお菓子を屋台車に運ぶ。彼女は専業主婦ではなく、お菓子屋さんのおばちゃんでもあるのだ。アデュが仕事に出ている間、家の前ではキャスケットを被った幼い少年が桜の花びらと戯れている。黒いハットを被った男性が、少年の身体にかかった花びらをやさしく取り払う。男性は少年の父親である。
 屋台車を走らせ、仕事から帰ってきたアデュ。車を降りた彼女の視線と少年の視線がカットバックで交差する最終場面で、アデュが少年の母親であることが判明する。「Babyfather」の歌詞に照らせば、少年の父親と母親は未婚ということになるだろうが、少年の表情から、この家族が決して不幸ではないことが分かる。

 「Babyfather」は、前作『LOVERS ROCK』からの第二弾シングルで、同じくソフィ・ミュラーが監督した「King Of Sorrow」(2001)のヴィデオによく似ている。そこでアデュは髪を下ろした似たようなルックスで登場し、クラブ歌手として生計を立てるシングル・マザーの役を演じていた。女手ひとつで子供を育てる生活の厳しさが描かれた「King Of Sorrow」に対し、「Babyfather」では、同様に未婚でありながら、父親が存在することで、また違った家族関係が描かれている。

 このヴィデオには、'10年4月半ばのテレビ出演で「Babyfather」が披露された際、バック・ヴォーカルを務めていた2人組の少女も出演している(父親パートを歌うトニー・モムレルが着ていた白黒シャツを、このヴィデオの父親役の男性が着ている点にも注目)。彼女たちは特異なファッション──サスペンダーを付けたお揃いのボーイッシュな子供ルック──によって他の子供たちと明確に差別化されているため、キャスケットの少年と同様、アデュの子供として捉えることもできる。未婚のパートナー、実の娘アイラ、継子の少年と共に暮らすアデュの実際の家族構成が、ヴィデオにも反映されているわけである。キャスケットの少年は、もしかするとアデュ扮する女性の実子ではなく、男性の連れ子なのかもしれない。

 ソフィ・ミュラーの色彩感覚はいつも通り素晴らしい。ヴィヴィッドなアフリカ系の色使いが、黒人街を舞台にした映像にとてもマッチしている。中でも赤と緑は、台所の壁とアデュのファッション(あるいは、彼女が作るフルーツ・ゼリー)などによって繰り返し対比され、このヴィデオのひとつの基調になっている。後半、桜の花の淡いピンク色で変化をつけ、同時に、父親の登場へ繋げていくあたりの展開も実に上手いと思う。

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真っ赤な壁の前で踊る子供たち

 色彩が美しいこのヴィデオの中でもとりわけ印象的なのは、台所の外の道路沿いに広がる真っ赤な壁である。お菓子屋さんのおばちゃんに会いに来る子供たち、空き地で踊る子供たち、あるいは、通行人たちの背景には、常にこの真っ赤な壁がある(赤と緑の対比は、この壁とその前で踊る子供たちの服装にも見られる)。この真っ赤な壁は、どこかで見たことがないだろうか?

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『ドゥ・ザ・ライト・シング』──暇なおっさん3人組(ベンジャミン、ハリス、フェイゾン)

 その既視感の正体は、『ドゥ・ザ・ライト・シング(Do The Right Thing)』(1989)のこの場面である。ポール・ベンジャミン、ロビン・ハリス、フランキー・フェイゾン演じる3人のおっさん連中は、仕事もせず、一日中、道路の端に座って無駄話ばかりしている。彼らの背後には、目の覚めるような真っ赤な壁があった。スパイク・リーは、真夏の暑い日の物語であることを強調するため、ブルックリンのとある建物の壁の一部を、窓を埋めてわざわざ真っ赤に塗ったのだった。

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『ドゥ・ザ・ライト・シング』──ロージー・ペレスが踊るオープニング場面

 赤い壁の前で子供たちが踊る「Babyfather」の映像でもうひとつ思い出すのは、同映画でロージー・ペレスが「Fight The Power」に乗せて踊るオープニング・クレジット場面である。彼女の背景にあるブルックリンのアパートや、グラフィティで埋めつくされた壁は、やはり真っ赤に染まっていた。赤い壁を背景にした「Babyfather」のダンス場面は、おっさん3人組の場面と、このロージー・ペレスのダンス場面を混ぜたような感じである。

 恐らく意識的な引用だろうと思う。ミュラーやアデュの証言があるわけではないが、黒人コミュニティの日常をモチーフにしたこのヴィデオに、『ドゥ・ザ・ライト・シング』へのオマージュが含まれているのは何も不思議なことではない。ロケハンでたまたま赤い壁を見つけたのか、あるいは、わざわざ赤く塗ったのか、ちょっと気になるところである(もちろん、塗ったに決まっていると思うが)。

 そもそも、なぜスパイク・リー風のヴィデオになったか、と考えると──これは完全な憶測に過ぎないが──'09年12月に発表されたスパイク・リー監督によるマイケル・ジャクソンの音楽ヴィデオ「This Is It」の影響ではないか、という気がする。「This Is It」は、マイケルの人生をコラージュ映像とグラフィティで綴りながら、同時に、神格化されたキング・オブ・ポップを、彼の故郷、インディアナ州ゲイリーの生家へ帰還させる感動的な作品だった。「Babyfather」にも“家(ホーム)”というものの持つ温もりが表現されていて、鑑賞後に似たような幸福感に包まれる。「Soldier Of Love」ヴィデオには実際にマイケルへの言及があったが、「Babyfather」も間接的にマイケル繋がり……という可能性も、ひょっとしたら、なくはないかもしれない。


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この白黒ファッションの人物は……?

 「Babyfather」ヴィデオには、曲の録音にもバック・ヴォーカルで参加していたシャーデーの娘、アイラ・アデュがカメオ出演している(と言われている)。黒シャツ&白ジーンズの少女がどうやら彼女らしい。ロングショットの上、サングラスと帽子で顔を隠しているので容姿はよく分からないが、13歳('10年7月で14歳)にしては、かなり身長が大きい。少なくとも母親似でないことは確かだ。彼女はシャーデーの子供役の少女2人と一緒に台所の窓の外に登場する。少女2人と同じようにサスペンダーを付けている点も、彼女が他のエキストラの子供たちとは違う、特別な存在であることを示しているように思われる。ヴィデオ内で2人組の少女が直接的に絡む人物も、彼女だけだ。

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アイラを探せ(キャスケットの少年も色んなところに登場している)

 彼女の登場場面は他にも2つある。赤い壁の前に座り、2人組の少女や、父親役の人物と同じ白黒シャツを着た男性(トニー・モムレルに見える。被っているのはポール・デンマンのハンチングか?)と喋っている姿が確認できる。彼女がアイラであることは、これらの演出から見てまず間違いないだろう。アイラにとっても、シャーデーにとっても、このヴィデオは良い記念になったのではないだろうか。

 それにしても、シャーデーとソフィ・ミュラーのタッグは素晴らしい。確実にいいものを作ってくれるので、安心して観ていられる。アルバム全曲分、ヴィデオを制作して欲しいくらいだ。

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