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夜のヒットスタジオ──特集サヨナラ山口百恵 (part 1)



 '10年6月30日に発売される6枚組DVDボックス『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』。
 このDVDボックスの概要や、〈夜のヒットスタジオ〉という番組がいかにとんでもなく素晴らしかったか、ということについては、前回、発売のニュースが報じられた時に簡単に書いた。今回は、発売日を目前にして気合いを入れるべく、『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』の大きな目玉のひとつでもある「特集サヨナラ山口百恵」について書くことにしたい。

 「特集サヨナラ山口百恵」は、百恵の〈夜のヒットスタジオ〉最終出演回。歌手やグループが引退、もしくは解散する際、この番組では、仕事仲間らがスタジオに大勢集まり、盛大な“送別会”を催すのがひとつの慣例になっていた。このサヨナラ企画は、ザ・ピーナッツ('75年3月31日)に始まり、南沙織('78年9月25日)、ピンク・レディー('81年3月30日)、石野真子('81年8月31日)など、多くの歌手やグループの引退・解散時に組まれている。中でも最も有名なのが、'80年10月6日に放送された、この「特集サヨナラ山口百恵」である。いつもの1時間の生放送枠が、丸ごと一人の歌手のお別れのために費やされた点でもこの回は特別だった(通常は番組終盤にサヨナラ企画用の特別枠が設けられる)。

 この〈夜ヒット〉最終出演の前日、10月5日(日)の夜に、百恵は日本武道館で引退公演を行っている(最後に白いマイクをステージに置いて去る有名な公演。当日、TBSで生中継された)。そこで彼女は、引退を惜しむ聴衆を一人残らず黙らせ、歌手・山口百恵を自ら抹殺するかのような壮絶なパフォーマンスを見せた。百恵の実質的な引退の日は、その武道館公演の10月5日なのだが、彼女の芸能活動のスケジュールは、その後、10月15日のホリプロ創立20周年パーティーまで組まれていた。
 現役最後の10日間、百恵は各テレビ局の引退特番(*1)に出演し、繰り返し視聴者や仕事仲間たちにお別れをした。時間の経過に伴い、その様子は非常に爽やかでさばさばとしたものに変わっていく。これは、彼女を送り出す共演の仕事仲間たちも同じである。いくらお別れとはいえ、そう何度も何度も感極まってはいられないからだ。

 そうした百恵のサヨナラ期間にあって、10月6日の「特集サヨナラ山口百恵」は、前日の武道館公演の余韻を引きずり、感傷的なお別れムードが強く漂っている点で、他の百恵の引退特番と大きく異なる。共演者たちの中には前日の武道館に足を運んだ人間も少なくなく、仕事仲間たちが集結した盛大な百恵引退公演の二次会のような趣もある。そこには、山口百恵の引退時の惜別感が、実に生々しく捉えられているのである。

 ここでは、名作「特集サヨナラ山口百恵」を、当時の録画テープでじっくりプレイバックしていく(完全なネタバレになるので、DVDボックス購入予定者は読まない方がいいかもしれない)。見所は大きく2つ──引退公演直後の百恵の虚脱感、そして、百恵の感情を再びマックスに持っていく〈夜ヒット〉の鬼の演出力である。山口百恵の引退が、当時いかに大きなイベントであったかを伝えるドキュメントとしても秀逸だ。

 では、30年前の'80年10月6日、月曜夜10時へプレイバック!


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井上「こんばんは。〈ヒットスタジオ〉のお時間がやってまいりました」
芳村「芳村でございます」
井上「井上でございます。今晩はいつもの〈ヒットスタジオ〉とちょっと趣が違いますけど。え~、それはと言いますと」
芳村「はい。実は、昨夜、武道館でさよならコンサートを開いた山口百恵ちゃん、この百恵ちゃんに1時間スポットを当ててお送りしたいと思っております」

 いつもと全く異なる暗転した静かなスタジオ。司会の井上順と芳村真理が現れ、オープニングの挨拶をする。“昨夜、武道館でさよならコンサートを開いた……”と言うところで、芳村が、“開いた”を“ひろいた”と思いきり言い損じている(言い直さずにそのまま進行する)。別に笑う箇所ではないのだが、この映像を観るたびに、私はどうしてもここで吹き出してしまう。このような歴史に残る重要なテレビ放送の冒頭で台詞を噛んでしまったことは、芳村にとっても、これを繰り返し観る我々にとっても、全く不幸としか言いようがない。
 また、これはごく基本的なことだが、当時、山口百恵が、“百恵さん”ではなく、“百恵ちゃん”だったということは何気に重要である。14歳のデビューからずっと成長を目にしてきた当時の同業者や視聴者にとって、山口百恵は、近所でいつも見かける“山口さんちのモモエちゃん”的に親しみのある存在でもあった。非リアルタイム世代にとって、この感覚は結構新鮮であるように思う。

井上「泣いても笑っても〈ヒットスタジオ〉最後の出場でございます。さあ、それではお呼びしたいと思います。山口百恵ちゃんです」
芳村「どうそ!」


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横須賀ストーリー(1976)
作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童

 演奏開始と同時に、スタジオ後方の階段がライトアップされ、華やかなパーティー・ドレス姿の百恵が登場する。曲は「横須賀ストーリー」。歌手・山口百恵の礎を築いた決定的代表作である。10月15日の引退記者会見の際、“レコードと映画の代表作は?”という記者の質問にも、百恵はこの曲を挙げていた(映画の代表作には『伊豆の踊子』を挙げた)。冒頭を飾るのにこれほど相応しい曲もない。
 この時の「横須賀ストーリー」、イントロがヤバい。4つ打ちのバスドラと16分のハイハットがもの凄い切れ味で、始まった瞬間に一気にテンションが上がる。ここまで鋭い「横須賀ストーリー」のイントロは他に聴いたことがない。演奏は番組オケのダン池田とニューブリードなのだが、これはぶっ飛びである(*2)

 大勢の歌手仲間に迎えられ、ちょっとはにかみながら階段を下りる百恵。彼女を囲むようにして歌手仲間たちが後ろに並び、手拍子で主役の歌唱を見守る。曲の序盤、番組に出演する芸能人の名前がテロップで流れる。総勢18名。以下、テロップの順番通りに書き出しておく。

沢田研二五木ひろし、西城秀樹、郷ひろみ、野口五郎、青空球児青空好児、和田アキ子、ジュディ・オング、小柳ルミ子、研ナオコ、アン・ルイス、太田裕美、桜田淳子、森昌子、岩崎宏美、ピンク・レディー、高田みづえ(順不同)

 青字で示したのは番組終盤に登場する人物。それ以外はオープニングからずっと番組に参加する。テロップでは“順不同”とされているが、男性、女性でまとめられ、基本的に年功序列で名前が並べられているのが分かる。こういうのは順番を組むのが難しい。素直に五十音順にすると、青空球児・好児が先頭になってしまうため、このような並びになったのではないか(もちろん、青空球児・好児も百恵の大事な仕事仲間には違いないのだが)。

 まさに“これっきりですか”の「横須賀ストーリー」。後年になるに従って、百恵はこの曲をドスを利かせて力で押し切るように歌うようになった。基本的にいつもの通りだが、ここでは、熱いわけでも冷めているわけでもない、丁寧な歌唱が印象的。ワン・コーラスの短縮版で終了。


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ロックンロール・ウィドウ(1980)
作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童

 続けて「ロックンロール・ウィドウ」。これが熱い。引退を目指して戦う'80年の百恵にとって、大きな推進力にもなった重要曲。最高のパーティー・ソングでもあって、こういう特別な宴の場には打ってつけのナンバーだ。百恵が〈夜ヒット〉でこの曲を歌うのはこれで4度目だが、錚々たるメンバーが後ろに並ぶこの時の「ロックンロール・ウィドウ」には、また格別の趣がある。演奏はニューブリードではなく、いつも通り、百恵の専属バンドが担当している(スタジオの右後方にいる)。

 曲が始まると、後ろにいた歌手仲間たちが脇へ捌け、百恵の独擅場のような状態になる。スモークをバックにマイクスタンドの前で百恵が仰け反る映像がクール。そして、Aメロ頭で百恵がギターのリフに合わせてやる両手のアクション。私はこの両手アクションがえらく好きで、「ロックンロール・ウィドウ」のパフォーマンス映像を比較する際、この振りの決まり具合を優劣のひとつの目安にしているのだが、その点、この映像は百恵の動きの切れもカメラ・アングルも文句なしだ。

 間奏では百恵がギタリストと背中合わせになり、同時に、共演者たちが再び百恵の後ろに入ってくる。主に画面に映り込むのは、タキシード姿の新御三家(西城、郷、野口)、白ドレスの和田アキ子、タキシード・ジャケットを着た小柳ルミ子で、ヴィジュアル的にも非常に華やかだ。
 特筆すべきは、郷ひろみ。百恵の後ろで踊りながら、ガンガンに場を盛り上げているのが偉い(彼の姿を現場処理できちんとフレームに収める左のカメラも偉い)。郷の活躍でまた一段と熱さが増す。こういうことが嫌味なくできるところに、彼のスター性があるのかもしれない。間奏の際、百恵の様子を覗き込む井上順の姿しかり、この「ロックンロール・ウィドウ」は、特別行事ならではの意外性に満ちたライヴ感が大きな魅力である。一度、共演者たちを画面から外し、間奏以降の後半で再び登場させるという演出も、さり気ないが、よく考えられている(共演者がずっと後ろにいたままだと単調になってしまい、ここまで盛り上がらない)。

 3台のカメラはダイナミックな動きで百恵を捉える。この番組のカメラの切れはつくづく感動的だ。1番のAメロに入る際、左→右→正面と移行するスイッチングの完璧さ。サビ(“Rock'n'Roll Widow, Ah-ha-ha”)で横から正面に緩やかに回り込んでいくショットの躍動感。決め台詞“いい加減にして、私あなたのママじゃない”で、正面から迫っていくクロースアップの決まり具合(ブレイク1拍目の“ママ”でバチッとピントが合うところが最高)。2番の“かっこかっこ……”部分では、カメラ3台の連続スイッチング──〈夜ヒット〉がこの曲で毎回やる演出──も見られる。動き、構図、スイッチングの全てがいちいち見事で、しかも、完璧に曲の表情にマッチしている。百恵や共演者のパフォーマンスもさることながら、この映像の興奮度の高さには、これらのカメラ技術が莫大な貢献を果たしている。

 終盤、“Rock'n'Roll Widow, Ah-ha-ha”を3回繰り返す箇所で、百恵が3度上のハーモニー部分を歌っている点にも注目したい。これはオリジナル録音版の歌唱とは異なる。この曲がヒットしていた数ヶ月前は普通に歌っていたので、この熱い歌唱はこの時期ならではの聴きものである(それにしても、3回目、最後の“Rock'n'Roll Widow, Ah-ha-ha”での正面カメラの動きは熱すぎるぞ)。とにかく、最後の最後まで目が離せない。曲の終了と同時に、百恵の表情が瞬間的にコロッと変わるところも凄いものがある。

 というわけで、大盛り上がりの「ロックンロール・ウィドウ」。しかしながら、ここで百恵は決して全開のパフォーマンスをしているわけではない。印象としては、70~80%くらいの馬力しか出ていないように思う。前日の武道館公演はもちろん、この曲を売り出していた数ヶ月前のテレビ出演時のパフォーマンスと較べても、明らかにテンションが低いのだ。眼にもほとんど殺気が感じられない。歌詞をもじって言うなら、“山口百恵を気取っているけど、何かが違う”のだ。
 もちろん、手を抜いているわけでも、調子が悪いわけでもないだろう。このある種の緩さは、この時点で既に、百恵にとって単純にこの曲を歌う理由がなくなっていることが原因と思われる。空元気のような百恵の歌唱を聴いていると、引退時の彼女のテンションのピークが、前日、10月5日の武道館公演だったことがよく分かる。一定の水準は保たれているものの、ここで歌っている百恵は、半分、抜け殻のようだ。

 2曲連続でのパフォーマンス終了後、手短なトークがあり、番組は一旦CMへ入る。


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 CM明け。いつもの雛壇に出演者たちが着席し、トークタイムが始まる。前列から、井上、百恵、芳村、小柳ルミ子/森昌子、和田アキ子、野口五郎、西城秀樹/ピンク・レディー、郷ひろみ、アン・ルイス、太田裕美/桜田淳子、岩崎宏美、高田みづえ、という順序で座っている。事前に配置が明確に決められていなかったのか、当初、座る場所が足りなくなり、ピンク・レディーの2人だけしばらく脇に立っているのが可哀想。
 前日の武道館公演の話題から始まり、百恵が現在の心境を淡々と語る。ここにいる出演者の中では、私に分かる限り、少なくとも、芳村、小柳、和田、西城、野口、岩崎、アン・ルイスが前日の武道館に足を運んでいる(アンは夫の桑名正博同伴。森&桜田については知らない。詳しい方はご教示下さい)。

 トークは、百恵の過去の番組出演映像を肴に進行する。“百恵 思い出の8年間”と題されたVTRでは、「夏ひらく青春」('75年6月23日)、歌謡ドラマ('75年7月25日)、コンピュータ恋人選び('76年5月17日)の映像が紹介される。フジテレビに残る百恵の最古の〈夜ヒット〉映像は、この時点で既に'75年6月23日放送「夏ひらく青春」であり、実質的に“百恵 思い出の5年間ちょっと”になっているのが悲しい。このVTRを振りにして、トークは三人娘(森昌子、桜田淳子、百恵)と三浦友和の話題へ進む。

 続く“珍場面集”では、百恵が桜田淳子と「渚のシンドバッド」を歌った番組リハーサル映像('78年4月10日)、歌い出しでマイク落下のアクシデントがあった「プレイバック Part 2」('78年7月31日)、郷ひろみが間奏で百恵を引っ張り出して一緒に踊った「ハリウッド・スキャンダル」('78年9月11日)、三人娘と新御三家のスペシャル共演映像('77年10月3日)が紹介される。

 後年、郷ひろみは“フジテレビの音楽番組で思い出に残っていることは?”という質問に対し、ここで紹介されている「ハリウッド・スキャンダル」を挙げ、こう話している。

「間奏で百恵ちゃんを引っ張り出してダンスしてくれない?っていう演出なんですよ。それは僕の中では無茶苦茶思い出深いですよ。百恵ちゃんは僕より3つ下なんですけども、僕より遙かに精神的に上なんですよね。彼女の存在自体がドンとしたものがありましたから。なんか、それが僕の中ではね……こんな僕がエスコートできるのかなあ?とか。なんか、こう、恥ずかしさと、色んな思いが交錯して……」('09年2月27日放送、フジテレビ「ボクらの心に流れる歌」)。

 百恵は多くの仕事仲間たちから愛されていたと思うが、その独特の存在感のため、好意を抱きながら、彼女に対してある種の距離を感じる人も少なくなかったように思う。このトークタイムは、司会の2人を除き、全員遠慮がちで口数が少なく、終始、奇妙な堅苦しさが漂っているのだが、そこには、送別会という行事の性質の他に、百恵自身のそうした特殊なキャラクターも大きく関係していると思われる。

 堅くしんみりしがちな場の空気を、井上順がたった一人で和らげる。彼の気取りのない明るい司会は、本当に救いである。彼はよく女性をからかって笑いをとったが(特に年増いじりが上手かった)、キャラや言葉に嫌味がないので、ネタにされた本人ですら気持ちよく笑うことができた。ここでも得意の和田アキ子をネタにしたトークで、場を和ませてくれる。和田アキ子もこういう場ではかなり頼りになるキャラクターだが、百恵の変遷を巡る話の流れの中で、(これまた和田らしく)“虚像と実像の中で、彼女はいつでも自分自身を持ってたんちゃうやろか”という本気トークをいきなり始めたりして、再び送別会らしいシリアスなムードが漂ったりもする。
 百恵の引退公演について西城秀樹がやや意味不明な感想を述べたところで、再びCMへ。


 CM明け。百恵の歌に入る前にまとめのトーク。芳村の振りで、井上が百恵の変遷を振り返って感慨を述べる。デビュー当時、百恵の脚が“頑丈”だったことに触れると、百恵が横からすぐに“今も頑丈です”と言葉を挟む。百恵は脚が太いことをかなり気にしていたようで、脚をネタにされるとすぐにムキになるのが面白い('80年4月14日の出演時にも、井上に脚の話をされて過敏に反応していた)。
 トークタイムが終了し、百恵の3曲目の歌のパフォーマンスが始まる。


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THIS IS MY TRIAL(1980)
作詞/作曲:谷村新司

 百恵の引退用に谷村新司が書き下ろした「My Way」風バラード。前日の武道館公演のオープニングでも歌われた。“私は今まぎれもなく自分で歩きはじめる This is my trial 私のゴールは数えきれない人達の胸じゃない(友和の胸です)”という、誰の目にも分かり切ったことを、ただひたすら大袈裟に、まぎれもなく自己陶酔的に歌い上げる、いかにも谷村新司的な作品。引退公演の冒頭でそれらしいムードを醸す分には悪くないかもしれないが、だから何だ、と言いたくなる、本当に無用の長物のような歌である。百恵の引退ソングの中で最もつまらないし、この引退特番の中で最も退屈なのもここだ。見所は、スタジオ中に広がるスモークと背景照明の美しさ、そして、遠い目をして眉間に皺を寄せる百恵の谷村顔だろうか。阿木+宇崎作品を歌う時の百恵は、基本的にこういう顔にはならない(彼らの作品は、目の前の“あなた”を見据えることを強いるからである)。百恵と一緒に酔えるか酔えないかがこの曲の好き嫌いの分かれ目だろうが、私は、歌に酔うよりは、やはり刺されたいと思う。

 引退特番ゆえ、ここでこの曲が歌われたのは分かるし、番組後半に向かって緩やかに惜別感を高めていく上でも、正しい選曲だったと思う(少なくとも「秋桜」よりは我慢できる)。しかし、他にもっと面白い曲はなかっただろうか。「一恵」(作詞:百恵/作曲:谷村)は前回の出演で歌っているし、この中盤で歌うにはちょっと重すぎる。
 ここで百恵が歌うのに相応しい曲として、「This is my trial」の他にひとつ思い浮かぶのは、井上陽水が書き下ろした「Crazy Love」である('80年10月21日発売の百恵の最終アルバム『This is my trial』収録。陽水の自演版も直後にシングル発売された)。絶妙に力の抜けたあのスローは、引退公演後の百恵が自然な緊張感で歌える恰好の新曲だったと思う。陽水がここだけゲスト出演しても面白かったと思うが……しかし、それは単なる私の個人的な願望。常識的には、やはり「This is my trial」で正解だっただろう。「特集サヨナラ山口百恵」を観る時、私はいつもここだけ飛ばす。


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 歌が終わると百恵は衣裳替えのために一旦姿を消し、番組はレギュラー・コーナーの“ラッキー・テレフォン・プレゼント”へ進む。通常は番組の最後に行われるが、この日は特番のため中盤に持ってこられた。前週に発表された電話番号の下4ケタを持つ視聴者の中から抽選で一人を選び、スタジオから生電話をする。スロットマシーンの5ケタの金額が、その当選者にプレゼントされるというコーナー。この時、応募葉書の中から小柳ルミ子が選んだのは、ちょうど小柳の出身地、福岡市西区の女性だった。実に驚くべき偶然なのだが、結構、あっさり流しているのが変と言えば変(もう少し驚いてもいいと思うが)。
 このコーナーの進行中、他の出演者たちは手持ち無沙汰な感じで後ろに適当に突っ立っている。が、アン・ルイスだけは、和田アキ子や郷ひろみをつかまえてずっと私語をしている(あんた、リラックスしすぎ)。

 賑やかな豪華メンバーにもかかわらず、スタジオは奇妙に静寂としている。

芳村「え~、なんか、スタジオが寂しい感じがしてきましたけれども」
井上「まだまだこれから賑やかになりますからね。みんながあまりおセンチにならないでよ」
芳村「順ちゃん、騒いで! はい、どうぞ!」
井上「いや、僕もセンチになってますけど」

 井上順が軽く笑いを誘ったところでCMへ。
 CM明けの後半、番組はクライマックスに向けて怒濤の盛り上がりを見せていく。


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後半では百恵が衣裳を替えて再登場

(*1)引退に際し、百恵は各テレビ局から引っ張りだこになった。'80年10月に百恵が出演した引退特番を順に挙げると、まず、TBSが10月5日(日)に武道館の引退公演を生中継。フジテレビは10月6日(月)に〈夜ヒット〉で「特集サヨナラ山口百恵」。日本テレビは10月12日(日)の昼、百恵の出身番組〈スター誕生!〉で特集「ハッピー・エンド・ザ・百恵」、そして、翌13日(月)の夜、〈紅白歌のベストテン〉で「山口百恵スペシャル ザ・ラスト・ソング」(これが歌手としての最後のテレビ番組生出演)。引退当日の10月15日(水)には、テレビ朝日で「水曜スペシャル特番 山口百恵 今夜旅立ち!」が放送され、ホリプロ創立20周年パーティーでの引退記者会見の模様が一部生中継された(NHKでも11月17日に10月14日収録のインタヴュー映像をメインにした「NHK特集 百恵」が放送されている)。
 その後も、11月前半にTBSで三浦友和との最後の共演ドラマ『赤い死線』が2週連続で放送され、11月19日に友和との結婚式があり(翌日、ハネムーンへ)、12月には最後の主演映画『古都』が劇場公開されるなど、百恵の引退フィーバーはしばらく続くことになる。

(*2)追記('10年7月4日)
 DVD『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』のクリアなステレオ音声で、改めてこの「横須賀ストーリー」を聴いた(私の手元にはモノラル録画映像しかなかったので、DVDで初めてステレオ音声で聴いた)。素晴らしい。イントロから最後まで、涙が出るほど完璧な演奏である。私は激しく感動した(特にドラムとピアノが素晴らしい)。ダン池田が指揮をする後ろ姿、ニューブリードのストリングスとホーン・セクションが演奏している様子から判断して、“演奏は番組オケのダン池田とニューブリード”と書いたが、この演奏はニューブリードにしてはあまりにも鋭すぎないだろうか?
 「ロックンロール・ウィドウ」を演奏している百恵の専属バンド、ザ・ムスタッシュ('78年の結成当初は“ザ・ユニバース”という名称で、メンバーは時期によって変動。リーダーはドラムの大石恒夫)。映像で確認できるが、彼らはこの引退特番で「This is my trial」「さよならの向う側」の演奏も担当している。つまり、この特番の演奏は、(百恵自身が歌う曲に関しては)基本的に“ザ・ムスタッシュ with ニューブリード(のストリングス&ホーン)”なのである。「横須賀ストーリー」も、そのように考えるのが自然ではないだろうか。
 前日、引退公演でのザ・ムスタッシュによる「横須賀ストーリー」は、テンポも早く、全くニュアンスの異なる激しい演奏なのだが、ドラムのフィルインのセンス、ギターやピアノのフレージングなどに注意しながら聴き較べると、この引退特番の「横須賀ストーリー」も、同じ人間の演奏であるような気がしないでもない。しかし、映像を改めてよく観察してみると、ニューブリードのドラマーが演奏しているような様子がちらっと見えたりもするのだ(“あなたの中の~”の箇所。ザ・ムスタッシュは共演者の陰でさっぱり見えない)。う~ん。やはり、完全にニューブリード? 演奏さえ良ければどちらでもいいのだが、私はこういうことがとても気になる。一体、どういう編成になっているのだろうか。

更に追記('10年7月5日)
 この「横須賀ストーリー」は、やはりニューブリードの演奏だ。'76年6月21日、百恵がこの曲で初めて〈夜ヒット〉に出演した際のニューブリードの演奏(名演)と聴き較べてそう確信した。やはり、ムスタッシュの突っ込み気味な性急な演奏とはどう考えても違いすぎる。また、芳村が“どうぞ!”と言った瞬間に演奏を始めるには、ドラマーのカウントではなく、指揮者の合図が必要である。ダン池田の指揮はムスタッシュ側からは見えないはずなので、リズム・セクションもニューブリードでなければ辻褄が合わない。私が最後まで騙されたのは、ギター。これだけムスタッシュの斉藤公泰が弾いているというのが、この「横須賀ストーリー」の正体に違いない(ちなみに、もう一人のギタリストは長岡忠治という。「RRW」で百恵と背中合わせになるのが長岡氏)。
 私は今までニューブリードに偏見を持っていた。これは本当に名演だ。どうもすいませんでした。




夜のヒットスタジオ──特集サヨナラ山口百恵(part 2)

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