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山口百恵の魔法陣──『夜のヒットスタジオ』を観る (part 1½)



 山口百恵と〈夜ヒット〉の素晴らしさをプレイバックする連載“山口百恵の魔法陣──『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』を観る”。今回は連載第1½回目として、前回、「パールカラーにゆれて」の項で触れた〈夜ヒット〉のカメラ・フィルターについて特筆することにしたい。このフィルター使いを意識しながら観ると、〈夜ヒット〉が更に面白くなること請け合いだ。


夜ヒットはなぜ輝いていたか?

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番組のエンディング場面('75年)──フィルターによるソフトフォーカスと光条

 「パールカラーにゆれて」('76年12月20日放送)のフィルター使いは、〈夜ヒット〉の常套演出のひとつである。「パールカラーにゆれて」では分かりにくいが、このフィルターを使った映像では、ハイライト部分を滲ませて強調するソフトフォーカス効果と同時に、大抵の場合、照明などの強い点光源に光条(放射状の光の筋)が発生するのが確認できる。前者は“ソフトフォーカス・フィルター”、後者は“クロス・フィルター”と呼ばれるレンズ・フィルターで得られる効果である。

 私はカメラ機材について専門的知識を持っているわけではないが、〈夜ヒット〉では、光条をより強調するため、クロス・フィルターにソフトフォーカス・フィルターを重ねて使用していたのではないかと思われる(あるいは、両方を兼ねたフィルターかもしれない)。歌手が身に付けている光りもの(スパンコールやアクセサリー類)など、比較的弱い光源にも綺麗な光条が見られるのは、恐らくこの二重のフィルター使いのためだろう。中でも、照明にできる美しい十字状の光条は、スタジオ・セットのモチーフになっている無数の菱形模様と相まって、非常に“〈夜ヒット〉らしさ”を醸し出している(そもそも、あの菱形自体、キラキラ輝くスタジオ照明をイメージしているように思われる)。照明が煌めくスタジオ風景を映し出すフィルター映像は、'76年前半頃まで番組エンディングに毎回のように登場していた。

 ソフトフォーカス+クロス・フィルターを使った演出は、多くの歌手のパフォーマンス映像で見られる。〈夜ヒット〉を観ていて、画面全体にうっすらと霧がかかったような映像に切り替わったら要注意だ。そこでは大抵、“何か”が光っている。以下、その具体例をいくつか紹介することにしたい。


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沢田研二「白い部屋」('75年5月5日放送)

 まず、沢田研二「白い部屋」。ジュリーの白い衣裳が暗いスタジオ内で光を滲ませて浮かび上がり、照明、サスペンダーの光沢、マイクの反射光などが美しい光条を作り出している。ここで歌われている“白い部屋”とは、朝日が差し込む恋人不在の空白の部屋のこと。主人公の虚ろな心持ちが、ぼんやりしたソフトフォーカス映像によって上手く表されている。照明が十字に煌めくロングショットに、虚脱したジュリーの顔面アップがオーバーラップされる終盤の展開は圧巻。光条との対比によって空虚さが一層際立つ。


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山本リンダ「やけどしそう」('75年10月20日放送)

 山本リンダ「やけどしそう」。この日は広島の郵便貯金ホールからの公開生放送だった。ここでは珍しくソフトフォーカス効果なしのクロス・フィルター映像が見られる。ステージ前からのショット(画像左)は、クロス・フィルターなしの通常映像。ステージ真横からのショット(画像中央)では、フィルター効果で照明に4本の強烈な光条が発生している。このギラギラ感。まさに“やけどしそう”な輝きである。一方、ステージ真横、逆方向からのショット(画像右)では、光条が6本になっているのが分かる。クロス・フィルターは、種類によって光条の数を変えることができる。カメラによって別のフィルターを使い、映像にさりげなく変化をつけているのである。

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客席後方からのロングショット

 客席後方からステージ全景を映した映像では、輝度の高い照明に6本の見事な光条が発生している。上の画像内で、他の出演者の待機スペース前方にカメラマンの影が確認できると思うが、これが先述した光条4本の映像を撮っているカメラである。この日は、欧陽菲菲「風のしのび逢い」でも同様のクロス・フィルターの使い分けが見られる。


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西城秀樹「白い教会」('75年11月3日放送)

 無闇に熱い西城秀樹の悲恋バラード「白い教会」。ここでは、歌の中盤の一箇所だけにソフトフォーカス+クロス・フィルターが使われている。
 1コーラス終了後、間奏へ入ると同時に、西城の顔面アップを捉えるカメラから、アウトフォーカスでキャンドルの炎を捉えるフィルター付きカメラへ、ディゾルヴで映像が切り替わっていく(画像上段右)。カメラはフォーカスインしながら徐々に引き、バンドスタンド前からスタジオ中央へと立ち位置を移動する西城の姿をキャンドル越しに捉える(画像下段左)。共演歌手たちが手にしているキャンドルの炎には、フィルターによって美しい十字の光条が見られる(画像下段左・中央)。フィルター付き映像は、間奏から2コーラス目のAメロ前半まで、切り替えなしの1ショットのみ。キャンドル係たちが去ると同時に、再びフィルターなしの通常カメラに切り替わる(画像下段右)。つまり、この曲では、キャンドルの炎を美しく見せるためだけにフィルターが使われているのである。教会を舞台にした歌なので、光条はもちろん4本の十字状。わずか1カットとはいえ、その効果は絶大だ。ついでに、スタジオの床や背景に巨大な白い十字架を映し出す照明も素晴らしい(画像上段中央。ダイナミックな構図も最高)。


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スリー・ディグリーズ「天使のささやき」「口づけでおやすみ」('75年11月17日放送)

 スリー・ディグリーズは2曲連続でのパフォーマンス。1曲目「天使のささやき(When Will I See You Again)」はソフトフォーカス+クロス・フィルター付き、2曲目「口づけでおやすみ(Take Good Care Of Yourself)」はフィルターなしの通常映像。画像を見比べてフィルターの効果を確認してもらいたい。前者では衣裳の輝きに見事な光条が発生し、3人のゴージャス感がグッと増している(セットの背景に踊る人影が映し出される演出も良い)。一方、フィルターなしの後者では、カメラが3人の真後ろに回り込み、普段は映らないスタッフ側の様子を映すなどして、逆にライヴ感を強調したリアルな映像で魅せる。
 ちなみに、クロス・フィルターは同時期のアメリカの黒人音楽番組〈ソウル・トレイン〉でも頻繁に使われていた。照明や歌手たちの衣裳がキラキラ輝く映像は、同番組の大きな特徴のひとつである。アットホームな番組作り、スタジオ空間の雰囲気など、〈夜ヒット〉と〈ソウル・トレイン〉には共通点が少なくない(共に日米を代表する長寿音楽番組でもある)。このスリー・ディグリーズの映像に関しては、踊る人影を映し出す演出も含めて、間違いなく〈ソウル・トレイン〉が意識されているはずである。


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アグネス・チャン「思い出して下さい」('76年8月9日放送)

 この日は、カナダ留学のため芸能活動を休止するアグネス・チャンをフィーチャーしたサヨナラ企画が番組終盤にあった。スタジオに駆けつけた大勢の仕事仲間に見守られ、アグネスは涙しながら全4曲を歌う。最終曲「思い出して下さい」では、左、正面、右から構える3台のカメラのうち、アグネスをアップで撮る左のカメラだけにフィルターが取り付けられている。アグネスの手にしている風ぐるまの光沢に、綺麗な光条が見られる(画像中央)。

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フィルターによって強調される瞳の輝き

 しかし、カメラが狙っていたのは、風ぐるまの光沢だけではなかった。アグネスの表情が更にアップで捉えられると、なんと、涙で潤んだ彼女の瞳の中に、少女マンガでしか見られないような見事な煌めきが。〈夜ヒット〉は、遂に瞳まで光条付きで輝かせてしまった。光条があるとないとでは、感動の度合いが全く違ってくる。このように、感動的なイメージとは、映るものではなく、作るものなのである。


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沢田研二「コバルトの季節の中で」('76年12月13日放送)

 再び沢田研二。百恵のフィルター付き「パールカラーにゆれて」の1週間前の放送。ここでは、先述の山本リンダ「やけどしそう」とは逆に、クロス効果なしのソフトフォーカス映像が見られる。ジュリーの着ているジャケットや、手もとのマイクは強く光を反射しているが、光条はできない。画面に直接映り込む照明の強い光源も同様。この曲では、単純にソフトフォーカス効果だけが意図されている。「コバルトの季節の中で」は、コバルトブルーの秋空が歌われた、爽やかでちょっぴり切ないラヴ・ソング。ソフトフォーカスの淡い光が、やわらかな秋の日差しを感じさせて、実に魅力的な歌唱映像になっている。ここに更にクロス効果を加えると、ジュリーは全身キラキラになってしまい、映像の印象はまるで違ったものになるだろう。“コバルト vs パールカラー”ということで、百恵とあわせて楽しみたい映像である(ちなみに、「パールカラーにゆれて」にはクロス効果も入っている。画面内に強い光源がないので分かりにくいが、よく見ると、百恵の左肩の白い花やダン池田の譜面が、うっすらと十字状に光を滲ませているのが確認できる)。

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ソフト・フィルター付き(左)とフィルターなし(右)の井上&芳村

 '76年12月13日の放送回では、ジュリーの他に、野口五郎「針葉樹」でも全く同様のソフトフォーカス・フィルター使いが見られる。面白いのは、野口のパフォーマンスの最終ショットを撮っていたカメラが、そのままフィルター付きの状態で司会2人のトークの撮影に入ってしまっていること(画像左)。まるでスタジオがサウナにでもなったようだ。曲の終了時点で別カメラへの切り替えがなかったため、フィルターを外すことができなかったのである。これは珍しいミスだ。トークがしばらく進んでから、ようやく別カメラのショットが挟まれ、再び切り返された時にはきちんとフィルターが外されている(画像右)。比較するとフィルターの効果がよく分かるだろう。


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高田みづえ「硝子坂」('77年3月21日放送)

 またしても歌手が泣かされている。高田みづえの番組初出演時の「硝子坂」。彼女の頬が涙で濡れているのは、歌唱前、番組名物の“御対面”で幼なじみの女友達が登場したためである。但し、ここでソフトフォーカス+クロス・フィルターが使われているのは、涙を美しく見せるためでも、照明を強調するためでもない。おまけに、高田は光ものを一切身に付けていない。ここで全てのカメラにフィルターが取り付けられている理由は、床にある。フィルター効果によって、床に散りばめられた無数の粒の光に光条が発生し、ガラス片のようにキラキラ輝いて高田の歌を引き立てているのだ。まさに、硝子坂。同時に、頬の涙も強調されるので一石二鳥である(さすがに光条はできていないが)。


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山口百恵「乙女座宮」('78年3月20日放送)

 泣かない女、山口百恵。最後に、'78年3月20日の「乙女座宮」を取り上げよう。
 ここでもソフト+クロス・フィルター使いが見られるが、面白いのは、フィルターが1台のカメラにしか取り付けられていないこと。つまり、1曲のパフォーマンスの中で、フィルターなしの映像とフィルターありの映像の両方が楽しめるのだ。フィルターを使った映像は2カット登場する。1番Aメロ後半~サビ前半、間奏~2番Aメロの映像がそれ。フィルター付き映像では、百恵の衣裳に散りばめられたスパンコールの輝き方が全く違う。画像右(フィルターあり)では、百恵の首元のスパンコールの輝きに6本の光条が発生している。一方、画像左(フィルターなし)では、百恵の左肩のスパンコールが輝いているが、光条は全くできていない。静止画ではいまいち分かりづらいので、是非、実際の映像でスパンコールが連続的に煌めく様子を見て、フィルターの効果を実感してもらいたい。いかにも“お星様キラキラ”な感じである。「乙女座宮」は、背景に登場する流れ星にばかり目が行きがちだが、見ものは決してそれだけではない。
 ちなみに、'77年7月11日(大磯ロングビーチ中継)の「イミテイション・ゴールド」でも、通常カメラとソフト+クロス・フィルター付きカメラの映像が混ざっている(あまり効果的な使い方ではないが)。ここまで説明すれば、どのショットがフィルター付きかすぐに分かるだろう。DVDを持っている人は、改めて観直して欲しい。また違った面白さを感じるはずである。

 〈夜ヒット〉のこの芸の細かさ、映像へのこだわり方はどうだろう。フィルターを使った映像自体は決して珍しいものではないが、〈夜ヒット〉の場合、使い方が非常に巧い。無闇に多用するのではなく、然るべき演出上の理由があって、ここぞというところで使っている。常に歌に合ったイメージを考え、映像に様々な技巧を凝らしていた〈夜ヒット〉。文字通り、他の歌番組とは輝き方が違うのである。



山口百恵の魔法陣──『夜のヒットスタジオ』を観る (part 1)

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