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Rahsaan Patterson @ Billboard Live TOKYO 2007

Rahsaan Patterson

 '07年9月に4枚目のアルバム『WINES & SPIRITS』を発表したラサーン・パターソン。
 ニュー・クラシック・ソウル~ネオ・ソウル系の一人で、デビューは'97年。同期のディアンジェロ、マックスウェル、エリック・ベネイらに較べると、それなりにコンスタントにアルバムも発表し、そのどれもが高い完成度を誇るのだが、いまいち地味な存在で、どうにも通好み的な地位に収まってしまっているという、ちょっと微妙な男でもある。
 
 新たな意気込みを感じさせる最新作の発売から約2ヶ月、絶好のタイミングで実現した彼の来日公演をビルボード東京に観に行ったところ、なんとシャーデーのカヴァーを披露してくれた。


 12月5日の2ndステージ。定刻の21時半を少し過ぎたところで開演。バックは、ステージ向かって左からキーボード、ギター、ドラム、ベース、女性バッキング・ヴォーカル2人の計6人。

 オルガンのコードに導かれてバンドがドワ~ッと音の壁を作り、ひとしきり盛り上がったところへ、ハーフオープンのハイハットのカウント。バスドラの4つ打ちに乗って、ゴリゴリの熱いギター・リフが始まる。アグレッシヴなロック・ビートが斬り込んで火蓋を切ると、そこに分厚いハモンド・オルガンが被さって煽りまくる。やたらテンションが高い。
 予想を超えるイケイケな展開に面食らっていると、脇からふらりとラサーン登場。紺のポロシャツにジーンズというカジュアルな出で立ち……というか、単なる普段着。グラサンにジャケット姿で出てくるものだと勝手に想像していたので、そこで再びズッコケそうになった。アーバンでもアダルトでもなんでもない、そこらへんの単なるあんちゃんではないか。これは一体どういうステージになるのか?

 マイクの前に立ち、得意のスティーヴィー・ワンダー的な小節回しを軽くかますと、"Take me to Harlem where I was born..." と勢いよく歌い出す。未発表の新曲でも始めたのかと思っていたら、最新作収録「Oh Lord (Take Me Back)」だった。ラサーンの出自が語られる自己テーマ曲のような歌で、いかにもライヴのオープニングに相応しい。オリジナルはねちっこいシンコペーションが印象的な、ひしゃげた「Cold Sweat」といった感じの曲なのだが、これが直線的なノリでテンポを上げて演奏される。激しく叩き込むドラム、派手なシンセ・ソロ。無茶苦茶にロックである。
 うへえ、プリンスみたいだなあ、と思っていたら、後半ではロックなノリが後退、カッティング・ギターがファンク度を一気にアップさせ、小気味よくブレイクダウンが連発されていく。これはもう完全にプリンス状態である(但し、ポロシャツ姿)。ポイントでヒットする回数はバンマスの鍵盤奏者、ケネス・クラウチが指でサインを出していたが、ラサーン自身がバック・ヴォーカルの2人に即興でフレーズを示して歌わせる場面もあり、さすがの柔軟性を見せる。1曲目から11分に及ぶファンク攻撃。これは嬉しい。

 いい感じに温まったところで2曲目、1st『RAHSAAN PATTERSON』(1997)収録のアップ「So Fine」。オリジナルに忠実だが、これもテンポが上げられ、タイトで熱い演奏が繰り広げられる。ライドを裏に入れながらオカズをガンガン叩き込んでくるドラムが痛快。間奏ではギター・ソロも登場。ライヴならではのドライヴ感が最高である。このバンドは良い。
 プリンス・モードな「Oh Lord」からの流れで聴いてふと思ったが、この曲のヴァース部分の歌メロは「The Future」に似ているかもしれない(ちなみに、サビ後のファルセット部分はストーンズ「Miss You」風だ)。

 「So Fine」が終わったところでラサーンの挨拶。“どうもありがとう。……調子はどう。いいかい?”。“イエア”と客のまばらな反応。男性客の一人が日本語で“ゲンキ!”と言うと、“ゲンキ? OK……”(静寂)。“OK! じゃあ……”(静寂)。間が悪い。場内からちらほら苦笑がこぼれる。いまいちキャラがよく分からない男である。静かな日本の観客に戸惑っていたのだろうか。

 3曲目は、前作『AFTER HOURS』(2004)の冒頭を飾っていた「The One For Me」。アニタ・ベイカー「Sweet Love」を無性に口ずさみたくなるが、パッと聴いた感じは一癖あるメロウなスティーヴィー風ミディアムであるところがラサーン風、といったところだろうか。いずれにせよ、いい曲である。ライヴでは終盤、バックの演奏が徐々に抑えられ、ヴォーカルを楽器のように駆使して自由自在に即興フレーズを繰り出すラサーンの独擅場になった。

 どうでもいいことだが、今回のライヴを観る前に私がひとつ気になっていたのは、ラサーンの頭部だった。彼はアルバムを出すごとに明らかに薄毛が進行していて、ジャケやブックレットなどでは頭部が入らないよう、必ず写真がさり気なくトリミングされているのだ。'74年生まれだというのに気の毒なことである。
 被り物もなしで普通にステージに登場した今回のラサーン。そのまんまパターソン。しかし、その頭からはなんと一本も毛がなくなっていた。スキンヘッドにしていたのである。さすが黒人、違和感ゼロ。なぜもっと早くからそうしなかったのか全く不思議である。
 彼の音楽はスティーヴィー・ワンダーとよく比較される。周知の通り、スティーヴィーは目が見えない。ラサーン・パターソンは見えるが、その代わりに髪がない。彼らが背負っているハンディキャップは、その音楽の素晴らしさと一体どれほどの関係があるのだろうか? 恐らくあまり関係ないとは思うが、そんなことをふと考えさせてしまうのがラサーン・パターソンの頭部なのである。

 “次は……僕の2ndアルバム……'99年の……”。相変わらずボソボソとした間の悪いMCに続き、4曲目『LOVE IN STEREO』(1999)から「Any Other Love」。陽性の爽やかなミディアム。観客も手拍子で付き合う。これも「The One For Me」と同じく、後半で演奏が抑えられ、ラサーンの即興ヴォーカルが引き立てられた。

 一通り全4枚のアルバムから1曲ずつ演奏したところで、5曲目は最新作から「Feels Good」。タイトル通りに気持ちいいミディアム・スローの好ナンバー。やはり後半で演奏が抑えられ、ヴォーカルが前面に出るが、この曲ではバック・ヴォーカルの2人がラサーンと共に活躍。オリジナルにはない凝ったヴォーカル・アレンジで魅了してくれた。

 バック・ヴォーカルの女性2人はダイナマイトだった。身体が、である。向かって左のオクタヴィアは山のように巨大。もっと凄いのは右側にいたトレイシーで、尻が肩幅の2倍くらいある(本当にそのくらいある)。あれはちょっと今までに見たことのないシルエットだった。2人ともバリバリのド迫力ゴスペル・ヴォーカルを聴かせるのかと思いきや、意外にも線の細い可憐な声で、おまけに態度も何だか奥ゆかしい。同様に線の細いラサーンのヴォーカルには確かに合っているかもしれない。'70年代のスティーヴィーのバンドを少し思い出させもした。

 ミディアム系ナンバーが続き、会場は和みを通り越して、いい加減ダレ始めてきたところだった。ここらで一発、鋭いファンクをかまして引き締めてもらいたいところだったが、次に始まったのはキーボードの寂しげなイントロ。3分近く即興的なプレイが静かに続き、ようやくラサーンが歌い始める。『AFTER HOURS』収録のスロー「The Best」だった。オリジナル以上にテンポを落とし、情感たっぷりに歌われる。決して悪くはないのだが、これはさすがに長すぎた(14分)。ちょっと自己陶酔的というか、昔のプリンスのステージ中盤によくあったダレ場のような感じである。

 ぼんやり脱力しながらステージを眺めていると、ようやく曲がクライマックスに達し、続けてタムタムのスローなビートが始まった。大海原を漂うような緩やかなコード進行。どことなく聴いたことがあるような気がするが、さっぱり思い出せない。ハービー・ハンコックの「Maiden Voyage(処女航海)」あたりも思い出させる曲調。1分半ほどイントロが続き、ラサーンがおもむろに歌い出す。"I won't pretend... that I intend to stop living..."。こ、これは……? 知ってるぞ、俺、この曲メチャメチャ知ってるぞ! 猛烈に焦った私は、しかし、一瞬経ってすぐに分かった。シャーデー「Love Is Stronger Than Pride」である。うおおお。来てよかった~。この歌い出しで会場からも僅かに歓声が上がる。
 ラサーンの「Love Is Stronger Than Pride」、これがかなり良い。割とオリジナルに忠実なのだが、アデュとはまるで異なる粘着質でソウルフルな歌唱が、緩やかな曲調にいい具合の緊張感を与えて実に気持ちがいい。アドリブも冴え、バック・ヴォーカルと絡みながら波のように大きくうねる後半が抜群だ。名演。
 彼がこの曲をライヴでカヴァーしていることを私は事前に全く知らなかった。帰宅後、早速YouTubeで検索してみると、オーディエンス撮りのライヴ映像がすぐにいくつか出てきた。割と前からやっているようで、恐らく彼のフェイヴァリット・ソングのひとつなのだろう。これはライヴ音源を是非発売してもらいたいところだ(余談だが、「Maiden Voyage」を引き合いに出したついでに触れておくと、ハービー・ハンコックは'95年『THE NEW STANDARD』で「Love Is Stronger Than Pride」をカヴァーしている)。

 “気に入ってくれた?”。“イエ~イ”と好反応の観客。なかなかいいムードになったところで、またしてもラサーンのMC。“拍手をどうも……”(静寂)。“さて……では……”(静寂)。“OK……え~……”(静寂)。ラサーンよ、頼むから何も喋らずさっさと次の曲に行ってくれないか。“OK、最新作に戻るよ……”。

 8曲目、“アメリカとヨーロッパでの1stシングル”という紹介で、胸がキュンとなるミディアム・テンポの佳曲「Stop Breaking My Heart」。中盤からバンドのメンバー紹介が始まる。紹介の言葉にいちいち節をつけて歌うラサーンがいい感じだ。キーボード、ギター、ベース、ドラム、バック・ヴォーカルの順に紹介され、各メンバーがソロを披露。
 ソロはどれも聴き応えがあり、かなり達者揃いのバンドであることが分かったが(ケネス・クラウチとトレイシーが「スキヤキ」を挿入して盛り上げる場面もあった)、中でも最も面白かったのが、ベースのレイモンド・マッキンレー。いきなりチョッパーでファンキーなリフを弾き始め、ドラムとアイコンタクトを取りながらどんどんテンポを上げていく。この日、久々のファンク・モードである。しばらくチョッパーでアグレッシヴに攻めると、突然、非常に馴染みのある特徴的なフレーズが始まった。スライ&ザ・ファミリー・ストーン「If You Want Me To Stay」である。ぬおおお。盛り上がる会場。ケネス・クラウチとラサーンがすぐにそれに合わせ、そのままカヴァーに突入。ラサーンの声はスティーヴィーにも似ているが、スライにもそっくりである。何の違和感もなく、まるで彼のオリジナル曲のようなハマリぶり。しばらくして演奏が収束すると、そこからまた「Stop Breaking My Heart」に強引に戻った。「If You Want Me To Stay」はマッキンレーのソロ・パートの一環だったのである。なるほど。

 一通りメンバー紹介が終わると、最後にラサーンが軽く挨拶。20分以上続いてきた「Stop Breaking My Heart」が最高潮を迎える中、ラサーンはそのままステージを去っていった。フル・ヴォリュームで演奏を終えたメンバーも続いて退場。当然アンコールがあるものと思ったが、会場の手拍子も空しく、そのまま終演のアナウンスが始まってしまった。うえ~。全8曲で1時間半弱。
 決して不満というわけではないが、アンコールで最後にファンク・ナンバーが是非とも欲しかった。絶対にやると思っていた最新作1曲目のエクスペリメンタル・ファンク「Cloud 9」もやらない。攻めの哀愁アップ「Delirium」もなし。何を考えているのだ、ラサーン・パターソン。結局、彼は最後の最後までよく分からない奴だった。


 それにしても、あまりにも普通で地味な彼のルックスから、スティーヴィー・ワンダーとスライ・ストーンが合体したような粘着ハイトーンが飛び出す様はなんとも奇妙なものである。自由自在に音を上下させ、声帯を楽器のように操るラサーンの佇まいには、歌うたい、というより、むしろ単純に演奏家のそれに近いものを感じる(“シンガー”ではなく“ヴォーカリスト”、あるいは“ヴォイス・プレイヤー”などと呼んだ方がしっくりくる感じ)。エンターテイナー的な態度もなく、カリスマ性も限りなくゼロ。変人/怪物的なオーラも感じられない。恐らく、純粋に「音」へと向かう彼の音楽のある種の抽象性やストイックさが、その良質な作品群をどこかマニア好み的なものにしてしまっているのだろう。決して器用貧乏なわけでもないし、レトロ志向でもないのに、どこか惜しい、“何か”が足りないような感覚。

 やはり、髪、だろうか。
 もし、彼に髪の毛があったなら……?
 
 それは、“もし、スティーヴィーに視力があったなら?”という問いと同じくらい、まさしく不毛でありながら、我々凡人の好奇心をそそらずにはおかない問題である。
 音楽的才能は申し分ない。確実に天賦の才を感じさせる。あとは天が彼に髪の毛さえ与えていれば、自己顕示欲も刺激され、ラサーン・パターソンは、それこそプリンスのようなイケイケでバキバキの大スター、大エンターテイナーとして弾けていたのかもしれない。何かをどこかで捨ててしまっているがゆえに、95点までは取れるが、絶対に120点が取れないタイプのアーティスト、と言ったら酷いだろうか。
 ただ、それはそれで何も悪いことではないし、私自身、彼の作品はとても好きである。恐らく、私は単に無い物ねだりをしているだけなのだろうが……しかし、それにしても、である。

 次回来日する際、頼むから喋りだけはもう少し練習してきてもらいたい。



1. Oh Lord (Take Me Back)
2. So Fine
3. The One For Me
4. Any Other Love
5. Feels Good
6. The Best
7. Love Is Stronger Than Pride
8. Stop Breaking My Heart (incl. If You Want Me To Stay)

Billboard Live Tokyo, 2nd show, December 5, 2007
Musicians: Rahsaan Patterson (vocals), Kenneth Crouch (keyboards), Craig Cooper (guitar), Gorden Campbell (drums), Raymond McKinley (bass), Octavia Pace, Traci Brown (backing vocals)

Rahsaan Patterson: Japan Tour 2007
December 5 - Billboard Live Tokyo (2 shows)
December 6 - Billboard Live Fukuoka (2 shows)
December 8 - Billboard Live Osaka (2 shows)

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