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あなたの愛は王さま級

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 『DIAMOND LIFE』(1984)のベスト・トラックと言っても過言ではない名曲「Your Love Is King」。これはロビン・ミラーのプロデュースで録音された最初の2曲のうちの1曲で(もう1曲は「Smooth Operator」)、スタジオ入りの2日前に書かれた作品だったという。'84年2月、シャーデーはこの曲でレコード・デビューを果たした。

 ゆったりした三連ビートのミディアム・バラードで、大当たりした「Smooth Operator」ほどのインパクトはないが、どちらにシャーデーの特長がより顕れているかと言えば、断然こちらである。曲も歌詞も、とにかくソウルフル。しかし、決して熱すぎることはなく、表現は落ち着いていて、品がある。温度は体温よりも微妙に高い、いわばちょうどいい湯加減で、どんな気分の時に聴いても、ほんわかと気持ちを温かくしてくれるような曲。これぞまさしくシャーデーの真骨頂である。


 Your Love Is King
 (Adu/Matthewman)
 
 Your love is king
 Crown you in my heart
 Your love is king
 Never need to part
 Your kisses ring
 Round and round and round my head
 Touching the very part of me
 It's making my soul sing
 Tearing the very heart of me
 I'm crying out for more
 
 あなたの愛は最高
 冠をかぶせてあげたい
 あなたの愛は最高
 片時も離れたくない
 あなたのキスが
 ぐるぐる頭を駆けめぐる
 私のいいところにさわり
 心の底から悦ばせてくれる
 この胸はかきむしられ
 私はもっと求めてしまう
 
 Your love is king
 Crown you in my heart
 Your love is king
 You're the ruler of my heart
 Your kisses ring
 Round and round and round my head
 Touching the very part of me
 It's making my soul sing
 I'm crying out for more
 Your love is king
 
 あなたの愛は最高
 冠をかぶせてあげたい
 あなたの愛は最高
 私の心に君臨するひと
 あなたのキスが
 ぐるぐる頭を駆けめぐる
 私のいいところにさわり
 心の底から悦ばせてくれる
 私はもっと求めてしまう
 あなたの愛は最高
 
 I'm coming up
 I'm coming
 You're making me dance
 Inside
 
 いい感じ
 すごくいい感じ
 私を踊らせてくれる
 とても気持ちよく
 
 Your love is king
 Crown you in my heart
 Your love is king
 Never need to part
 Your kisses ring
 Round and round and round my head
 Touching the very part of me
 It's making my soul sing
 Tearing the very heart of me
 I'm crying out for more
 
 あなたの愛は最高
 冠をかぶせてあげたい
 あなたの愛は最高
 片時も離れたくない
 あなたのキスが
 ぐるぐる頭を駆けめぐる
 私のいいところにさわり
 心の底から悦ばせてくれる
 この胸はかきむしられ
 私はもっと求めてしまう
 
 Touching the very part of me
 It's making my soul sing
 I'm crying out for more
 Your love is king
 
 私のいいところにさわり
 心の底から悦ばせてくれる
 私はもっと求めてしまう
 あなたの愛は最高
 
 This is no blind faith
 This is no sad and sorry dream
 This is no blind faith
 Your love
 Your love is real
 
 これは思いこみじゃない
 悲しい哀れな夢なんかじゃない
 これは思いこみじゃない
 あなたの愛
 あなたの愛は本物よ
 
 Gotta crown me with your heart
 Never never need to part
 Touch me
 never letting go
 never letting go
 never gonna give it up
 I'm coming
 You're making me dance
 
 私に冠をかぶせて頂だい
 片時も離れたくない
 さわって
 もう離さない
 もう離さない
 どこへも行かせないわ
 すごくいい感じ
 私を踊らせてくれる


 はっきり言って、この曲はエロい。エロいと言うよりは、官能的と言うべきか。かなりセクシャルな内容で、家族が揃った茶の間に突然流れると、結構気まずくなるような類の歌である。
 “I'm coming”というのが特に恥ずかしい。“Hold on, I'm coming”、“Get ready, cos here I come” というのもそうだが、“come”という言葉がソウルフルに歌い上げられると、性的絶頂を示す“イク”というニュアンスがしばしば漂うことがある。“Touching the very part of me”にしても、私の“very part”ってどこだよ、という感じで、ポルノ小説だったら、これは“アソコ/秘部”と訳されるべきフレーズだ。“You're making me dance inside”の“inside(内側)”というのも意味深である。

 要するに、これはマーヴィン・ゲイ「Let's Get It On」の系譜に連なる一種の性愛ソングなのだが、もちろん、これらの性的表現は、同時に精神性を伴ってもいる。“I'm coming”は“I'm coming up”とも歌われているので、“私”がまるで草花のように芽生える感じの表現だ。やや解釈を広げて、“私は花開く”という日本語表現に置き換えるとニュアンスが掴めるかもしれない。愛の芽生えを歌ったポール・マッカートニーの'80年のヒット曲「Coming Up(*)を思い出してもいいだろう。“Touching the very part of me”は、日本語の“琴線(感じやすい部分)に触れる”という表現に近く、肉体的な意味にも精神的な意味にも取れる。この曲には、身体と心を隔てる境がない。これは骨の髄まで愛される女の悦びと恍惚を赤裸々に表現した歌なのだ。

 つんと澄ましたアデュが、こうした女心を歌うギャップもまた良かったと思う。“あなたの愛は王さま(=最高、最上、天下一)”という決めのフレーズには、快感に服従させられてしまう女の性が吐露されているようで、なかなか男心に訴えるものがある。しかし、この曲は同時に、同性からの深い共感も得るはずだ。これを、挑発的なセックス・アピールで世間を手玉に取った同時期のマドンナの表現と較べてみるのも一興かもしれない。

 初期のシャーデーはマドンナとよく比較された。別に両者に明確な共通点があったからではなく、単に当時、マドンナが女性シンガーとして圧倒的な注目を集めていて、女性アーティストであれば誰でも彼女と比較されるような時代だったからである。シャーデーはもっぱらマドンナとは正反対のタイプと目されていた。

「まるで私がセックス嫌いみたいな? そうね、おかしいわよね、ほんと。皆、人を見る目がおかしいんじゃないかしら。思い込みで人を小さな枠に押し込んで、実際そうとは限らないのに、勝手なイメージで見るのよね。私はあからさまにセクシーってわけじゃないけど、かと言って、別に人が思ってるような人間でもないし。自分のことは分かんないわ! スケベ女ということはないわよね。そんな感じじゃないし。そりゃ私だってお遊びくらいあるわよ。誰だって遊ぶでしょ。でも、大っぴらというわけじゃないから。だから、人が私にそういう印象を抱くのは解せなくはないわよね。私だってやる時はやる女なんだけど(笑)!
 マドンナについて言えば、彼女はカメラのためにやっているんじゃなく、自分自身のためにやっているんだと思う。それに関しては何も悪いことだとは思わないし。でも、私はちょっと誤解されてるわ。私は完全に貞淑なんかじゃないもの!」(May 1986, Creem)

「彼女は性差別者の価値観に迎合して女性運動を50年も後退させた、とよく言われるわよね。自分のセクシュアリティを売り物にして。でも、そんなに気にすることはないと思うわ。ああいうんじゃない女性シンガーたちに皆もっと目を向けるべきよ。アニー・レノックスや私やクリッシー・ハインドみたいなね。マドンナが人類に対して責任を負っているとは思わないわ。彼女は自分自身だけに責任を負っているのよ。ひとつだけ彼女に関して私が好きになれないのは、人が自分をどう見るべきか押しつけてくることね。やれ、私はこうよ、私は官能的なのよ、とか。人がどんなかなんて、それぞれで判断できた方がいいでしょう。それよりも私が気になるのは、イギリスの新聞屋たちの彼女の扱いようよ。あれこそ時代錯誤だわ」(26 Oct 1985, No.1)

 以下はマドンナの写真集『Sex』が話題になっていた頃の発言。

「名声に対するああいう飽くなき欲望というものが理解できないわ。名声がどういうものか知った上でのことなんだから尚更よね。マドンナの写真集はポルノ雑誌の素人投稿モノみたいだけど、男が公表するわけじゃなく、彼女が自分から見せてる、っていう。彼女はとても頭がいいし、自分のありとあらゆる部分を明るみに出す覚悟があって、それが彼女を完璧なポップ・スターたらしめているのよね。でも、彼女と私の違うところは、彼女はとてつもなく有名で金持ちになりたがっているようだけど、私はそうじゃないということ。彼女の目的は私なんかよりずっと明快だし、だから迷うこともそんなにないのよ」(Autumn 1992, Arena)

 こういう発言を見ると、シャーデー・アデュというのは素朴な人なのだろうなという気が改めてする。ちなみに私は、シャーデーの衒いのない表現も、マドンナのガッツ溢れる表現も、どちらも好きである。

 '01年のライヴ映像『Lovers Live』では、「Your Love Is King」が情感たっぷりに歌われていて、発表から20年近くを経ても尚、新鮮で味わい深いパフォーマンスになっている。これは「Smooth Operator」が懐メロ的で、軽いパーティ・ソングのような趣を見せているのとは対照的だ。作品としてどちらの耐久性が高いかは歴然としている。シャーデーが初めてものにした正真正銘の傑作がこの曲ではないだろうか。


(*)“It's coming up”と歌われているが、これは“It”を“大麻”と読むと実に愉快な歌だ。なぜならこの曲は、成田空港でポールが大麻所持でパクられてから数ヶ月後、シャバ復帰の第一声として発表されたものだからである。ファンキーではないか。「マリファナ天国」という邦題をつけたいくらいだ。意識的でないにせよ、こういう底抜けにハッピーな曲を作ってしまうところがポールはつくづく偉いと思う。

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