2017 051234567891011121314151617181920212223242526272829302017 07

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

港のヨーコ・リターンズ──外人相手で頼んだぜ(B面)



 イギリス人の山口百恵ファン、ベン・ブロックさんが英訳したダウン・タウン・ブギウギ・バンドの古典「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」。そのブロック訳「Yoko From The Docks」は、前回“港のヨーコ・リターンズ──外人相手で頼んだぜ(A面)”で紹介した通り。

 ブロックさんの英訳は、歌うためのものではなく、基本的に読んで鑑賞するためのものだが、曲の大部分が“語り”で構成される(つまり、メロディの制約がない)「港のヨーコ」ならば、英語リメイク用の歌詞として応用が利くのではないか?──そう考えた私は、完全な“実用化”を想定して、ブロック訳に手を加えることにしたのだった。

 そうして出来上がったブロック訳「港のヨーコ」の改変版。それを以下に公開する。
 これは、読んで鑑賞するだけでなく、実際に宇崎竜童がそのまま外人相手に語って歌うことができる、「港のヨーコ」の完全な英語ヴァージョンである。


yoko5.jpg
YOKO FROM THE HARBOR (YOKOHAMA, YOKOSUKA)
Lyrics: Yoko Aki / Music: Ryudo Uzaki
Translation: Ben Bullock (Revamped by killer b)

I can remember a moment ago
But a year ago I don't know anything about
Long hair, you said?
You see a lot of girls here like that
Sorry, try someone else
Hey you, what you gonna do with her?
Yoko from the harbor, Yokohama, Yokosuka

She quit six months ago
Didn't say anything to us
She took one of Mari's customers, that was already trouble
You can't stay here if you don't know the rules
Hey you, what you gonna do with her?
Yoko from the harbor, Yokohama, Yokosuka

You mean the girl from Yokohama?
She could dance really well
She was here until three months ago
The night she found a little kitten, she got away with the kitten
I've got no idea where she went
Hey you, what you gonna do with her?
Yoko from the harbor, Yokohama, Yokosuka

She said she liked Yokosuka
I felt sorry for her, foreigners, you know?
She was a girl who didn't talk much
She used to talk to her kitten
Last month she got an advance, and that was the last I saw of her
Hey you, what you gonna do with her?
Yoko from the harbor, Yokohama, Yokosuka

She was here until just now
Sitting in the corner right over there
Saying a customer touched somewhere, she ran out of the place
It ain't no child's game
What's that girl thinking?
Hey you, you're in love with her!?
Yoko from the harbor, Yokohama, Yokosuka


 変更点について書く。

【港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ】
 まず、タイトルにもなっているサビのフレーズ“港のヨーコ”を、“Yoko from the docks”から“Yoko from the harbor”に変更。“docks”(ドック地帯)という語には、いかにもアメリカ海軍が駐屯していそうな雰囲気があって良いのだが、“港”を意味する語としてより標準的な“harbor”を採った。理由は、単語の音にある。この結びのラインには唯一メロディがある。“Yoko from the docks, Yokohama, Yokosuka”でもメロディに乗せられるが、“harbor”にすれば、限りなくオリジナルに近いメロディで歌うことができる。尚かつ、“Yoko”+“harbor”で、続く“Yoko-hama”と音を似せることができる。

 タイトルは、オリジナルに倣って「Yoko From The Harbor, Yokohama, Yokosuka」としたいところだが、少々問題を感じる。メロディなしで普通に口に出した時、「Yoko From The Harbor, Yokohama, Yokosuka」は「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」ほどフレーズとして気持ち良くないのだ。むしろ、ちょっと言いにくい(“Yokohama, Yokosuka”の部分がまどろっこしい)。簡潔に「Yoko From The Harbor」とした方がキャッチーな気がする。一方、“Yokohama”“Yokosuka”という地名は、英語圏の人間にとってさほど馴染みのあるものではないので、タイトルに入れてしっかり認識してもらう必要性を感じる。そこで、地名を括弧処理して「Yoko From The Harbor (Yokohama, Yokosuka)」としてみた。タイトルの長ったらしさは、「港のヨーコ」という曲のひとつのフック(掴み)である。これならそれを活かすこともできる。
 “Yoko”は、幸い日本人女性の名前として世界で最も知られているものなので(世界で一番有名な日本人の名前がこれだ)、外人相手には最高である。これが女の名前であることは誰でも一発で理解できる。

 ちなみに、英語にすると、女の名前が“ヨーコ”でなければならない理由がよく分かる。阿木燿子は自分のペンネームに因んで女の名前を決めたわけではない。“横浜”“横須賀”の“横(Yoko)”と音を揃えるためである。“Yoko”が三連発されるから、この曲のサビは爽快で、聴き手に強い印象を与えることができる。「港のサチコ・ヨコハマ・ヨコスカ」だったら、この曲はまるでヒットしていなかっただろう。

【アンタあの娘の何んなのさ】
 さて、最大の難関、“アンタあの娘の何んなのさ(What's she to you anyway?)”。
 “あなたはあの娘と一体どのような関係の人ですか?”という意味の英文を色々と考えたが、“アンタあの娘の何んなのさ”と音数とリズムが合う表現がどうしても思いつかない。そこで妥協案。“あなたは一体なんでまたあの娘を捜しているのですか?”→“あの娘を捜してどうするつもりですか?”と解釈を広げ、“Hey you, what you gonna do with her?(アンタあの娘をどうしようってのさ)”にする。これなら完璧に音が合致し、しかも、オリジナル同様、話言葉そのままのイントネーションでビートに乗せることができる。“アンタ”部分の候補には、他に“Hey man”“Anyway”“So”などがあるが、“Hey you”が最もストレートで良いと思う。主人公の男──つまり、聴き手──に向かって出し抜けに“アンタ”と呼びかけるブレイク部分こそ、この曲の肝である。ここで聴き手はドキッとする。この“アンタ”部分は、実際に宇崎が聴き手を指差して言えるフレーズでなければならない。

 最終コーラスで、“アンタあの娘の何んなのさ”は“アンタあの娘に惚れてるね”に変わる。ここは“Hey you, you're in love with her!?”にする。“you're in love with her!?”は“what you gonna do with her?”よりも全体的にややピッチ高めに、特に“love”を強調する言い方で、“アンタあの娘に惚れてるってか?”というニュアンスを出したい。オチとしてより分かりやすくするため、ここだけ“Hey you”を“Oh yeah”に変えることも考えたが(“Oh”を強調して“はは~ん”という感じで言う)、結局、“Hey you”で合わせることにした。“アンタあの娘の何んなのさ”と“アンタあの娘に惚れてるね”は、“アンタあの娘”までフレーズが一緒であるところがミソである。“Hey you”で頭を合わせた方が意外性があって面白い。


 “港のヨーコ”と“アンタあの娘の何んなのさ”はこれで決まった。この2箇所さえクリアすれば、ほぼ完成したも同然である。他の語り部分に関しては、宇崎と同じくらいの速度と間合いで喋った時、元の日本語と長さが合うことを意識しながら手を加えた。

【1番】
 ここにゃ沢山いるからねェ
 “Lot of girls here like that”の“like”は、動詞(“長い髪を好む”)とも前置詞(“そういう風な”)とも取れるのだが、“You see a lot of girls here like that”と明確に前置詞として扱った方がオリジナルの意味(“ここではそういう女はたくさん見かける”)に近づく。

【2番】
 半年前にやめたハズさ
 “She stopped working here six months ago”では長すぎるので、“She quit six months ago”と換言。何をやめたか、ということは、その後の台詞で分かるので問題ない。
 それにしても、“She took one of Mari's customers, that was already trouble / You can't stay here if you don't know the rules”というブロック訳は感動的だ。意味も文節のバランスも完璧にオリジナルと同期している。これは名訳だと思う。

【3番】
 ハマから流れて来た娘だね
 “The girl from Yokohama?”のままでも良いが、より会話らしさを出すため“You mean”を加えた。“That's the girl from Yokohama”でも良い。

 小さな仔猫を拾った晩に 仔猫といっしょにトンズラよ
 “Found a kitten one night / Then she left, with the kitten”では短すぎるので、“The night she found a little kitten, she got away with the kitten”に変更。直訳でぴたりとハマる。

 どこへ行ったか知らねェなあ
 “I don't know where she went”でも構わないが、“I've got no idea where she went”の方が長さが合う。

【4番】
 あんまり何んにも云わない娘だったけど 仔猫と話していたっけねェ
 “She didn't talk much / She talked to her kitten”では短すぎるので、“She was a girl who didn't talk much / She used to talk to her kitten”に変更。

 前借り残したまんま 一月たったらおサラバさ
 “She paid in advance / And after one month, goodbye”は、まず、“She paid in advance(前払いして)”という誤訳を“She got an advance”に修正。このライン、“前借りして”までは簡単だが、“残したまんま”の訳出が難しい。単に“and after one month, goodbye”だと、きちんと律儀に働いてからおサラバしたようにも取れる。“and less than a month, goodbye(一月しないうちにおサラバ)”とすると、“残したまんま”の感じが少し出るが、ヨーコの勤め先は週給制かもしれないので(外人の聴き手は必ずしも“給料=月給”という発想はしない)、“and less than a week, goodbye”、あるいは“and after a few days, goodbye”としておく方が無難だろうか。面倒くさいので、“Last month she got an advance, and in the end, goodbye(先月彼女は前借りし、そして結局、おサラバさ)”と文意を変えることにした。これなら“前借り分をすべて働かないまま”というニュアンスが醸し出せるように思う(もしくは、“and in the end”の代わりに“and after a while”)。しかし、いまいちしっくりこないので、最終的に“Last month she got an advance, and that was the last I saw of her(先月彼女は前借りし、そしてそのままバックレた)”としてみた。この方がオチとしてキマるし、台詞としてもすっきりする。もはや翻訳の域を越えているが……。
 “一月たったら”を“先月”に変えたことは問題ないだろう。主人公の男は物語が進むにつれ、“一年前”“半年前”“三月前”……と徐々にヨーコの居場所に迫っていく。“先月”の方が、むしろこのサスペンスが盛り上がる。

【5番】
 たった今まで坐っていたよ あそこの隅のボックスさ
 客がどこかをさわったって 店をとび出していっちまった
 “She was sitting over there in the corner until just now / A customer upset her and she ran out of the place”を、“She was here until just now / Sitting in the corner right over there / Saying a customer touched somewhere, she ran out of the place ”に変更。ほとんど原詞そのままの意味と間合いで喋ることができる。

 ウブなネンネじゃあるまいし
 最後の2行はなかなか手強い。“ウブなネンネじゃあるまいし”は、言い回しとしては、“She's too naive”というより、“Ain't she old enough to know better than to be naive?”という感じに近いのではないか(あるいは、“~know better than to be a shy girl”とか)。これだと長いので、単に“She's old enough to know better”としてみたが、あまり小馬鹿にしている感じが出ない。これを“She ain't no child no more”と言い換え、最終的に“It ain't no child's game(ママゴトやってんじゃないんだから)”という意訳で落ち着いた。

 どうにかしてるよ あの娘
 “There's something up with that girl(あの娘はヘンだ、様子がおかしい)”というブロック訳は別に問題ないのだが、もっと話者(店の従業員)が呆れている感じが欲しい気がする。“She's queer in the head”、もっとストレートに“That girl is crazy”などの表現も考えたが、ヨーコは客をひっぱたいたり、テーブルをひっくり返して店を飛び出したわけではないので、文脈的にちょっと不自然な感じがする。そこで、“What's that girl thinking?(何考えてんのかね、あの娘)”と意訳することにした。話者の気分としては、この台詞の方が自然ではないだろうか。


ここまで来たらサクセス!

yoko6.jpg

 宇崎竜童はこれでいつでも外人相手に「港のヨーコ」を歌うことができる。外人相手に歌える、というのはどういうことかというと、つまり、これで実際にアメリカのヒットチャートを狙えるということである。「港のヨーコ」をこのまま単なるドメスティックな流行歌で終わらせておくのはもったいない。これは絶対に英語圏の人間が聴いても面白い作品だと私は信じている。問題は、言葉の壁だけだ。そして、それは今、打ち壊された。

 宇崎竜童は直ちにダウン・タウン・ブギウギ・バンドのメンバーを召集し、「港のヨーコ」英語ヴァージョンを録音してアメリカに乗り込み、本気でビルボードの1位を狙うべきである。下手にツナギを着てディーヴォのパクリと思われてもつまらないので、バンドのイメージは“Japanese gangsters”でいきたい(実際にメンバーがgangsterだった、という話を捏造しても良い)。坂本九「スキヤキ」に次ぐ、日本人アーティストによる史上2曲目の全米1位獲得は、決して夢のまた夢ではない。グラサンをかけた60過ぎの日本のおっさんたちがアメリカで天下を取る奇蹟の光景を、是非、私たち日本の音楽ファンに見せて欲しい。失うものは何もないはずだ。男ならやるしかない。

 ヨーコは今、横須賀港でアメリカ行きの切符を手にしている。



備考──英語版「港のヨーコ」のヴィデオについて

yoko7.jpg

 アメリカでのプロモーションには音楽ヴィデオが不可欠である。そのアイデアを出しておく。
 
 まず、「港のヨーコ」英語版を録音する際、同じオケを使って日本語版を併せて制作する。複数のヴォーカリストをフィーチャーした特別版である。1~5番に登場する話者を、実際に5人の人間が「We Are The World」のようなリレー形式で担当する。例えば、1番を横山剣、2番を大西ユカリ……4番を岩城滉一、5番を宇崎竜童、という具合に(3番に登場する若いあんちゃん風の男は適当な例が思いつかない)。
 そして、そのまま同じ人間を役者として使った短編映画風の音楽ヴィデオを制作する。歌と同様、ヴィデオ内に主人公の男、および、ヨーコは一切登場せず、カメラは基本的に主人公の主観ショットで事物を捉える。5人の主演者には、カメラを主人公の男に見立てて台詞を喋ってもらう。“アンタあの娘の何んなのさ”は、もちろん顔面アップのカメラ目線である。合間にはキャバレーの店内の様子、狭苦しいステージで「港のヨーコ」を演奏するダウン・タウン・ブギウギ・バンド、踊り狂うホステスたち、あるいは、横浜~横須賀の寂れた風景、日本語と横文字が入り乱れる繁華街、夜のネオン、客引き、アメリカ人、ゴロツキ、野良猫……等々のカットを入れる。頭と終わりは汽笛が鳴る港の風景で揃える。時代設定は'70年代だが、現代的にデフォルメされた架空の'70年代、架空の横浜~横須賀で構わない。私には実際の映像がありありと頭に浮かぶが、恐らく誰でも似たような映像を想像することができると思う。要するに、歌の世界をそのまま映像化すればいい。
 「港のヨーコ」英語版のヴィデオは、これをそのまま使い回す。オケが同じである上、英訳は原詞と長さを合わせてあるので、宇崎の英語ヴォーカルと、日本語で台詞を喋る各役者の口の動きは同期する。つまり、宇崎一人が声を担当する英語吹替版のような映像作品になる。もちろん、この英語版ヴィデオこそが完成品で、日本語版ヴィデオはその土台でしかないのだが、それはそれで面白いので、日本でDVDシングルのような形で発売すれば良いと思う。

 尚、オケは'75年のオリジナル・シングル版に忠実なニュアンスのアレンジと演奏で、更に激烈ヴァイオレントなサウンドになれば最高だ。間違っても「港のヨーコ(21世紀ヴァージョン)」(『SAD & BLUE』収録)のようなサウンドにしてはいけない。ストゥージズをぶっ飛ばすくらいのメタリックKOな直球サウンドで特攻を挑みたい。AIN'T NO WALL!



港のヨーコ・リターンズ──外人相手で頼んだぜ(A面)

山口百恵 関連記事◆目録

| Momoe Yamaguchi | 01:45 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT