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Alicia Keys - NO ONE (killer b remix)

No One skeleton ver

 現在進行形のディーヴァ伝説、アリシア・キーズ。
 11月にリリースされた最新作『AS I AM』は、発売以来、まるで彼女の大きな尻のようにどっしりと私のCDプレイヤーの中に居座り続けている。

 アルバムからの先行シングル「No One」にはかなり意表をつかれた。シンプルな循環コードの上を、一段と逞しさを増した彼女のヴォーカルが迷いなくメロディを紡ぎだしていく。"No one" を連呼するサビ部分が強烈で、一度聴いたら耳から離れない。基調となるピアノの分散和音リフがアリシア印を残しつつ、サウンドはこれまでにないほどポップ。アコギまでかき鳴らされる終盤のリフレインのダイナミズムに至っては、ほとんどロック的でさえある。今までのアリシアにはなかったタイプの楽曲。恐らく、あまり考えて作った曲ではない。こうした淀みのない明快な曲は、何かの弾みで突発的に出来てしまうものだろう。

 この新曲を聴いて私が彼女の変化にまず感じたことは、“前進した”でも“成熟した”でもなく、一言で言えば、ずばり“突き抜けた”だった。アーティスト/歌手として、彼女が今までとは違う次元に突入したことがこの曲からは十分に予感された。一体、何がどうなっているのか。

 アリシアは「No One」について次のように説明している。
 
「〈No One〉はとってもシンプルで、愛する相手との関係について歌ってる。それは男女関係かもしれないし、母親や兄弟などの家族かもしれない。神や音楽かもしれない。それらは強い絆で結ばれていても、必ずそれを邪魔する何かが現れるものよ。でも、人間は話し合えるし、誰も強い絆は断ち切ることができないと歌っているのよ」(Best Hit USA, 20 Oct 2007)

 “誰にもこの想いだけは止められない(No one can get in the way of what I'm feeling)”というフレーズで個人的に連想されるのは、ジョン・レノンが書いた「Across The Universe」のサビ“何ものも私の世界を変えることはない(Nothing's gonna change my world)”である。アリシアは『AS I AM』を“ジャニス・ジョプリン meets アレサ・フランクリン”と表現しているようだが、実際、アルバムにはジョン・レノン的な瞬間も感じられる。

 世界に真っ向から対峙する素っ裸の声。感情が音の塊になって押し寄せてくるような感覚。自分の実生活や体験に照らして共感できるか否かは関係ない。優れた表現者は、私たちを全く未知の世界に引きずり込み、かつて抱いたことのない感情さえ経験させることができる。私たちは、例えば、電気椅子を前にした死刑囚にもなれるし、例えば、目の前で子供を殺された母親にもなれるだろう。真に優れた歌手は、その声ひとつでこの世を終わらせることさえできる。
 『AS I AM』で、アリシアは確実にそういう領域に足を踏み入れつつあるような気がする。ここまで来たら、もはや細かい音楽性や完成度の話はどうでもいい。私はただ彼女の比類なき「声」に圧倒され、感動するだけだ。

 私はこれまで特別アリシアの大ファンだったわけではないが、『AS I AM』で彼女は私にとって間違いなく重要な存在になった。'70年代シンガーソングライター然とした趣がよりマニアックに追求されている分、前2作と較べるとサウンド面では後退したような印象も与えるが、良い意味で王道を行っていて、尚かつ、かつてないテンションで全編が貫かれている(前半最後に連なる「Wreckless Love」「The Thing About Love」の2曲がアルバムの性質を端的に表しているように思う)。月並みだが、“タイムレス”と言うしかないシンプルで力強い歌の数々。なんと真っ直ぐな声をしているのだろうか。誰かの歌声を聞いてここまで心が揺さぶられ、涙が出たのは本当に久しぶりのことだった。

Alicia piano

 そんな『AS I AM』からの挨拶状だった「No One」。その新鮮さに驚かされつつ、同時に、この曲は“どこかで聴いたような”感覚を激しく喚起するものでもあった。私はこれが気になって仕方なく、しばらく悶々とした日々を過ごすはめになった。私にはその奇妙な“引っ掛かり”にこそ、今回のアリシアの変化を読み解く鍵があるように思われたのである。彼女は一体どういう意識でこの曲を作ったのか?

 まず、「No One」を聴いて誰もが即座に思い浮かべたのは、ブラック・アイド・ピーズ『ELEPHUNK』(2003)からの大ヒット「Where Is The Love?」だろう。「No One」とこの曲の循環コードの進行はまるで同じである(「No One」はE-B-C#m-Aだが、「Where Is The Love?」はキーがひとつ上がってF-C-Dm-Bb)。ラップのヴァースにキャッチーな歌メロを挿入してサビを作る、歌ものヒップホップの典型的な楽曲構造。歌メロ自体は異なるが、ストリングスを使ったリリカルなアレンジ、アンセム狙い的な歌詞、曲全体の方向性などにおいて、この2曲には明らかに共通性がある。コード進行が同じゆえ、歌メロの差し替えも容易。当然のように、「Where Is The Love?」をネタにした「No One」のマッシュアップが複数ネット上に出現することになった。

 更に似ているのは、フォート・マイナー『THE RISING TIED』(2005)からのヒット「Where'd You Go」。「Where Is The Love?」同様、ラップ+歌メロのサビという構成。この曲も同じコード進行のループが基になっているが(ブリッジ部分で僅かに変化あり)、こちらは「No One」とキーも同じだ。何より似ているのは、イントロから登場して曲のムードを決定づけているピアノのリフ。恋人との関係性/絆を綴った詞も似ている。歌メロ部分でフィーチャーされたホリー・ブルックによる単独ヴァージョンを聴くと、「No One」との類似はよりはっきりするかもしれない。ちなみに、この曲にも「No One」とのマッシュアップが存在する。

 私が「No One」から受けた“どこかで聴いた”感は、しかしながら、この2曲によっても解決されることはなかった。もっと決定的な曲が絶対にあったはずである。そして、それは自分が昔からよく知っている曲に違いない。「No One」を頭の中で延々とリピートし、脳内検索を掛けながら悩み続けた末、ある日、私はようやく“その曲”に気が付いた。


Joshua Tree Corbijn

 「No One」を初めて聴いた時、私が直感的に思い浮かべたのは、U2だった。
 エモーショナルな曲調、内省的でありながら普遍性のある詞、やけに熱のこもったヴォーカル、そして、合唱を促すような終盤のリフレイン。この曲に漂うロック的なムードは、U2のそれにすんなり結びつく。ストレートなようでいてキメの細かいサウンド・プロダクション、粒立ちの良い音の質感といった点では、ダニエル・ラノワとブライアン・イーノが絡んだ彼らの原点回帰作『ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND』(2000)あたりを彷彿とさせる。そして、何よりも私にU2を想起させたのは、その楽曲構造だった。

 彼らにとって大きなブレイクスルーとなった『THE JOSHUA TREE』(1987)。そして、そこからの1stシングルで、当時全米1位の大ヒットを記録した名曲「With Or Without You」。この曲は、ひたすら続くシンプルな循環コードを基に、呟くように始まるヴォーカルが徐々に音階を上昇しながら豊かな歌メロを紡ぎ、終いに1オクターブ上まで登りつめて感動的なカタルシスを迎える。バンドの演奏もこれと併走し、再弱音から始まり、滑らかな上昇線を描くようにクレッシェンドしていく。Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、ブリッジといったパートに分割して捉えられる通常のポピュラー・ソングとは、まるで異なる楽曲構造である。
 実は、私がU2というバンドを知るきっかけにもなったのが「With Or Without You」だったのだが、'87年当時まだ子供だった私にも、この曲の異質さは明らかだった。楽曲構造、サウンド、ヴォーカルの雰囲気、バンドの佇まい……どれを取っても、それまで私が聴いていたアメリカのトップ40ものとは違っていたのである。

VelvetHeroesJoshua Tree

 ラヴェルの「Bolero」(1928)型とでも呼ぶに相応しい、この曲のシンプルで煽動的な曲想は、大人になった今の耳で聴けば、デヴィッド・ボウイ「"Heroes"」(1977)、あるいは、その先にあるヴェルヴェット・アンダーグラウンド「Heroin」(1967)を、意識的ないし無意識的に参照したものとして理解することができる(「"Heroes"」とは終盤の "Oh Oh Oh Oh" の雄叫びも共通する。制作には同じくブライアン・イーノが関与。背後で空間を埋め尽くす恍惚的なギターの音響美にも注意したい。それとは対照的に、ぎこちないモータウンのような独特のノリを生むリズム・セクション、ベースのグルーヴ、ここぞとばかりに登場するタンバリンの決まり具合も素晴らしい)。しかし、これはもちろん“パクリ”云々の話ではない。「"Heroes"」が「Heroin」と異なるように、「With Or Without You」という曲に、 U2というバンドにしか生むことのできない独自のクオリティがあったことは誰の目にも明らかだろう。芸術の歴史というものは、こうした連鎖の中、作者にとっての「必然」とでも言う他ない、何か大いなる力によって乗り越えられ、更新されていくものなのだと思う。

 「No One」は決して「Bolero」型というわけではないが、シンプルな循環コードを軸に、流麗な歌メロ(白人的なそれ)が起伏をつけていく点が、私に「With Or Without You」を思わせた。サビの "No one" の連呼などは、いかにもボノが力みながら暑苦しく歌い上げそうなフレーズである。しかし、「With Or Without You」は、パッと較べた感じ、さほど「No One」と雰囲気が似ているようにも思えなかった。終盤のリフレインの類似から、同じく循環コードを基にしている「Pride (In The Name Of Love)」(1984)あたりが近いかとも思ったが、どうも違う。

 私はU2に絞って脳内検索を続けていたのだが、ある日、電車の吊革に掴まっている時、ふと「With Or Without You」に立ち返り、そのベースラインと「No One」を頭の中で同時に鳴らしてみたところ、これがピタリと重なるように思えた。帰宅して早速ギターを手に取り、「With Or Without You」のコードを弾きながら「No One」を一通り熱唱してみて、私は全く呆気にとられてしまった。この2曲は、なんと全く同じコード進行だったのである。ポリスの「Every Breath You Take」が、「Stand By Me」と同じコード進行を基にしていることに気付いた時以来の衝撃だった。

 「With Or Without You」のキーはDだが、「No One」はEである。その違いも私を悩ませ続けた要因のひとつに違いないが、それにしても、同じコード進行でここまで違う曲になるのかと、私は今回、妙に新鮮な感動を覚えた。試しに「No One」のキーで「With Or Without You」を歌ってみたところ、その旋律の豊かさ、構成の見事さに腰を抜かしそうになった。U2は何年もまともに聴いていなかったが、改めて大したものだと思った。

 さて、2つが同じコード進行であることに気付き、アリシアがU2を参照したであろうことをほぼ確信するに至った私は、アリシア・キーズ研究の一環として、「With Or Without You」のループを基にした「No One」の即席リミックスを独自に制作することにした。キーとテンポを調整し、モータウンのとある曲から拾った適当なビートを付け、「With Or Without You」のループにアリシアのヴォーカルを乗せてみたところ、再び私を巨大な感動が襲った。完璧なハマリ具合なのである。オリジナルより良い、と言うわけではないが、間違いなく、曲のコアな部分が浮き彫りになり、より直接的に訴えかけるようなものに変わった。そうだ、これは本来こういう曲だったのだ、と私はそこで確信を深めることができた。

 「No One」のアリシアのヴォーカルは確かに素晴らしいが、U2を長く聴いてきた私にとっては、終盤のリフレイン(オオオッオッオ~)が少し中途半端に感じられる。余計なアレンジは何も加えなかったが、終盤のリフレイン部分に関してのみ、気合いが入るよう若干構成だけいじらせてもらった。この歌はこれくらいやらないとダメだろう。このスケルトン仕様「No One」は既にYouTubeに上げてあるので、暇なファンの方には試しに聴いて頂きたいと思う。

Alicia Keys + U2 - NO ONE (killer b remix)

 「No One」は発表されてから瞬く間にアンセム化したが(実際、そういう狙いもあったと思う)、正直言うと、そうした盛り上がりが私には少し安易にも思える。個人のごく私的な感情を綴った歌が(時に勘違いを経て)アンセムになるという矛盾は、ポピュラー音楽の世界ではよく起きることである。アーティストはその表現を通じて、自分の感情なり思考なり価値観を社会に広く認めさせたいという野心を抱えているので、自分の歌がアンセム化するということは、最終的にそのアーティストにとっては勝利を意味する(“オオオッオッオ~”のような単純なリフレインは、歌の世界にリスナーを巻き込む上で非常に効果的なのである)。しかし、「No One」が単なる脳天気な“応援歌”と化し、歌に本来込められていた、祈りにも似た深い感情がスポイルされてしまうのだとしたら、それは残念なことだ。私はアリシアにこの曲を大切に歌っていって欲しいと思う。


Black Ball 2007
'07年10月25日〈Black Ball〉コンサートでのボノとアリシア

 アリシアとU2(ボノ)の間には、それなりに密接な交流がある。
 '01年、ボノを中心にアメリカの人気アーティストたちが集結したチャリティEP「What's Going On」にはアリシアも参加。'01年9月5日、7日に録音され、10月に発売されたこの曲(マーヴィン・ゲイのカヴァー)は、もともとアフリカのエイズ基金のための企画だったが、録音直後の11日に起きたNY同時多発テロを受けて、売り上げの半分がテロ犠牲者のために寄付されることになった。
 また、'05年には、アリシアとボノのデュエットによるチャリティ・ソング「Don't Give Up (Africa)」(ピーター・ガブリエル&ケイト・ブッシュの名作のカヴァー)も実現。'05年12月にiTunesストアで限定発売され、収益金はNPO団体〈Keep A Child Alive〉に寄付された。

 〈Keep A Child Alive〉は、'03年、アフリカの貧しいHIV/エイズ患者の子供やその家族に医薬品を提供することを目的に設立された組織で、アリシアはイマンと共に世界大使として活動に参加している(『AS I AM』のインナーにも、〈Keep A Child Alive〉の活動を告知する彼女のメッセージが添えられている)。ちなみに、そこで会長を務めるリー・ブレイク女史は、画期的エイズ・チャリティ『RED HOT + BLUE』(1990)を始めとする名シリーズを生んだ〈Red Hot Organization〉、また、先述の「What's Going On」を生んだ〈Artists Against AIDS Worldwide〉の設立者でもある。

Ophra Winfrey show
'06年10月13日〈Ophra Winfrey Show〉でのボノとアリシア
ボノのこの暑苦しさはどうだ!


 その他、アリシアは'05年2月13日に行われた第47回グラミー授賞式の舞台で、ボノを始めとするオールスター出演者たち(スティーヴィー・ワンダー含む)と「Across The Universe」を歌い(このライヴ音源は、スマトラ沖津波被災者のためのチャリティとしてiTunesストアで販売された)、また、'06年10月13日放映のテレビ番組〈Ophra Winfrey Show〉では、ボノと共に「Don't Give Up (Africa)」を披露した。
 更には、〈Keep A Child Alive〉によって'04年から毎年開催されているチャリティ音楽イベント〈Black Ball〉でアリシアは出演/司会/監督役も務めており、第2回('05年11月3日)と第4回('07年10月25日)のステージでは、ボノとやはり「Don't Give Up (Africa)」で共演している(第4回では、ボノが長年の慈善活動を称えられ、表彰も受けている。アリシアがグウェン・ステファニーと「Sunday Bloody Sunday」を歌う場面もあったらしい)。'07年の第4回〈Black Ball〉、僅か一晩で150万ドル(約1億7000万円)の寄付金を集めたというのだから大したものだ。

 '05年の「Don't Give Up (Africa)」発表時、アリシアはこう話している。
 
「大好きな曲だし、ボノのことも大好きよ。彼がアフリカに対して行ってきたこと、自分の名声を慈善活動にうまく役立ててきたことは本当に尊敬してる。私にもその半分でも何かできればいいと思ってるの」


 慈善活動や音楽活動を通じてボノが発し続けている社会的メッセージに疎ましさを覚える人も少なくないだろう。あるいは、「No One」に象徴される『AS I AM』のロック色が気に入らないという一部のファンの気持ちも分からなくはない。しかし、表現活動を通して、大人としての社会的役割を積極的に果たそうとする彼らの努力を否定することは誰にもできないはずだ。彼らは多分、我々の想像を遙かに超える世界で、気の遠くなるような耐久戦を強いられている(それに較べれば、ロックが単純に反社会的/反抗的でいられた時代など全く呑気なものに違いない)。

 『AS I AM』のロック色が、気まぐれな方向転換や売れ線狙いだとは思わない。人間として視野が広がり、アーティストとしてより大きなものに向かおうとした時、より遠くまで「声」を届かせようとした時、恐らく彼女にはロックのスケール感が必要だったのだろう。それによって彼女のソウルがダメになったわけでもないし、表現の質が落ちたわけでもない。それは何より『AS I AM』の不屈のヴォーカルが証明しているように思う。そう、何ものも彼女の世界を変えることはない、のである。

 彼女の歌は垣根を突き破ってどんどん大きくなっていく。どこまで行くのか分からないが、とにかく私はアリシア・キーズの今後を応援したいと思う。

Bono doesn’t give up
“あきらめない”執念の男、ボノ

 私の暑苦しい文章にも確実に影響を及ぼしているに違いないU2。'07年12月現在の最新情報によると、ニュー・アルバムは“トランス”“メタル”“モロッコ音楽”ということらしい(ボノ談)。何を言っているのかさっぱり分からないが、ここ数年の長すぎた原点回帰~ギター・ロック路線に辟易していた私にとっては、なかなか興味をそそる話ではある。イーノとラノワもレコーディングに合流しているとのこと。

 ところで、すっかり忘れていたが、'07年7月に発売されたプリンス『PLANET EARTH』からの1stシングル「Guitar」は「I Will Follow」だった。そして、アリシアが「With Or Without You」でそれに続く。なるほどねえ。
 プリンスのことを“R&Bアーティスト”として捉えるリスナーは既にいないだろう。あるいは、プリンスの音楽を“黒い/黒くない”で批判する声も聞かなくなって久しい。プリンスの音楽は“プリンスの音楽”でしかありえない。アリシアが目指すのも全く同じ地平であり、それがつまり、“そのままの私(As I Am)”という言葉の意気込みであるはずだ。器用さや意外性では到底プリンスに及ばないが、単純に歌い手としてのポテンシャルなら、私はアリシアの方が上だと思っている。さて、彼女はプリンスの域に達することができるのだろうか?
 『AS I AM』からの2ndシングル「Like You'll Never See Me Again」は、言うまでもなく「Purple Rain」を借用したプリンス・モード全開のセンチメンタル・バラード。確かに、アリシアそのまんま、ではある。終盤のウェンディ&リサ風コーラスも、何かモロな曲があった気がするが、なかなか思い出せないでいる。「Erotic City」あたりかな?




■HOW LONG MUST WE PLAY THESE CHORDS?

Adam bass

 以下はおまけである。

 「With Or Without You」のコード進行(D-A-Bm-G)は、実はポピュラー・ソングの世界ではちっとも珍しいものではない。この進行を使っている曲は、恐らくこの世に数え切れないくらい存在している。

 このD-A-Bm-Gという進行は、キーであるDを“1”とし、続くコードのルート音を7音音階上の度数で示していくと、“1-5-6-4”と表すことができる(「With Or Without You」のベースはすべてルート弾きで、最初のDから音が下がる展開なので、“8-5-6-4”とも言える。“1”と“8”はオクターブ関係にあり、同じDである)。この中で3番目に来るコードがマイナーとなり、独特の切ない叙情的な雰囲気を醸し出す進行になっている。「No One」のE-B-C#m-Aも、「Where Is The Love?」のF-C-Dm-Bbも、キーは違っても、同じくこの“1-5-6-4”に置き換えることができるのである。

 最後に、この必殺の“1-5-6-4”進行を使っている曲をいくつか挙げておく。これらに合わせて、是非「No One」を無理やり歌ってみて欲しい(分かりにくい場合は、8分でルートを刻む「With Or Without You」のベースラインを思い浮かべると良い)。


Boyzone - All That I Need (1998)
 う~ん、爽やか。アイドル系だとこうなる。同じコード進行、同じアイルランド出身でありながら、U2とはこうも違う。

Luna - Lovedust (2002)
 文学ロック系。ヴェルヴェット・チルドレン。そういえば、「Sweet Jane」はD-A-G-Bm-Aだった。

Avril Lavigne - Things I'll Never Say (2002)
 イントロからいきなり“オ~、オオオッオッオ~”と歌える。屈託のない可愛いU2といった感じ。

James Blunt - You're Beautiful (2005)
 これも実は“1-5-6-4”ソング。耳タコの有名なサビではなく、イントロ~ヴァース部分がそれ。

Beyonce - Irreplaceable (2006)
 これは“1-5-2-4(A#-F-Cm-D#)”なのだが、'07年前半の特大ヒット曲(全米10週連続1位)なので例外的に取り上げる。「No One」のキーをA#に移すとA#-F-Gm-D#で、違いは3番目のCmとGmのみ。GmはCmに対して属調という関係にあり、構成音に近親性がある。Cmというコードは「No One」の“6”に当たるG音を含んでいるので、「Irreplaceable」で“1-5-6-4”の「With Or Without You」ベースラインを弾くことも可能。逆に、Gmというコードは「Irreplaceable」の“2”に当たるC音を含んでいないため、「No One」を聴いて「Irreplaceable」はちょっと思い出しづらい。私は'07年11月のアメリカン・ミュージック・アウォード(アリシアも「No One」のパフォーマンスで出演)で「Irreplaceable」を半年以上ぶりに聴き、“あっ、「No One」だ!”と(もちろん逆なのだが)両者の類似に気付いてゲラ笑いしてしまった。「Where Is The Love?」も確かに似ているが、誰もが首を傾げた「No One」の“どこかで聴いた”感の正体は、もしかするとこの曲ではないのか? それにしても、'07年最初と最後の大ヒットがこうも似ているとは……。

Creed - What's This Life For (1997)
Creed - One Last Breath (2001)
The All-American Rejects - Swing Swing (2002)
The All-American Rejects - Move Along (2005)
Red Jumpsuit Apparatus - Your Guardian Angel (2006)
 ここら辺まで来ると、もうどうでも良くなってくる。彼らは他にコードを知らないのか? ロックと言えば3コードが基本だったが、4つに増えただけ進歩したと言えなくもない。個人的には全く興味が持てない世界だが、この手の曲は多分他にも腐るほどあるのだろう。こうしたエモ系ロック・ソングの「型」を作ったのが「With Or Without You」なのかもしれない。

 では、本家「With Or Without You」のコード進行は一体どこから来たのか?
 すぐに思い浮かぶのは、ボノがステージでこの曲によく挿入するジョイ・ディヴィジョン「Love Will Tear Us Apart」(1980)だが、歌のコアな部分で通底するものがあるにせよ、コード進行そのものは異なる。残念ながら、“これだ”という決定的な曲を私は指摘することができないが(もっとも、明らかな元ネタ曲は存在しないかもしれない)、単純に“1-5-6-4”進行を使っているU2以前の古典であれば、いくつか挙げることができる。

Bob Marley - No Woman, No Cry (1974)
 2拍単位でコードが変化するが、これも“1-5-6-4”ソング(ピンと来なければ、頭の中で「With Or Without You」のベースラインを倍速の16分で刻んでみよう)。サビは“1-5-6-4-1-4-1-5”、ヴァース部分は完全に“1-5-6-4”のループだ。

The Police - So Lonely (1978)
 「No Woman, No Cry」をギターで弾きながら、はたと思い出したのがこれ。キーも全く同じCではないか。畜生、たったいま気付いたぞ。スティング、おまえという奴は……。

The Beatles - Let It Be (1970)
 史上最も有名な“1-5-6-4”ソングは多分これだろう。これも2拍単位でコード変化するパターンで、イントロ~ヴァース部分が、「No Woman, No Cry」とよく似た“1-5-6-4-1-5-4-1”という進行になっている。これもキーはC。「No Woman, No Cry」とそのまま簡単にレゲエ・メドレーにすることもできる(ついでに「So Lonely」とも)。
 ポールは「Oh Darling」でも“1-5-6-4”を使っている。“1-5-6-4”を使ったビートルズの曲は他にもありそうな気がするが、ちょっと浮かんでこない。「I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)」が臭ったが、これは“1-5-6-3”だった。惜しい。
 ちなみに、“1-5-6-3”なら、ライチャス・ブラザーズで有名な「Unchained Melody」(オリジナルは'55年)にも登場する。これはU2もステージで取り上げていた。

 ところで、プリンスの曲で“1-5-6-4”はないかと脳内検索を掛けたが、意外と引っ掛からない。惜しいところでは、“1-5-6-1-5”(最後の1-5は2拍ずつ。BPM60くらい)の繰り返しがヴァース部分を作る超有名大傑作ラヴ・ソングがある。

Jimi Hendrix - Bold As Love (1967)
 歪んだ“1-5-6-4”が聴きたければ、これ。この荒涼とした激情が、他のアコースティックな正調“1-5-6-4”と合流し、恐らく'90年代以降のエモ系“1-5-6-4”に繋がっている。

Bob Dylan - Don't Think Twice, It's All Right (1963)
 “1-5-6-4”をイメージしながら最初に頭に浮かんだのは「Knockin' On Heaven's Door」(1973)だったが、あれは“1-5-2-2-1-5-4-4”だ。そこで、ディランで見つけたのがこの曲。歌い出しから“1-5-6-6-4-4-1-5”と進み、その後、結びの表題フレーズに入る直前部分で、ずばり“1-5-6-4”が登場する。やった~。ここまで来ると、ほとんど「ウォーリーを探せ」状態である。

The Teddy Bears - To Know Him Is To Love Him (1958)
 これが最初の“1-5-6-4”ソングかどうかは知らないが、ここまで溯ったところで私はようやく納得がいった。(ロックンロール以降の)ポピュラー音楽史において、不滅の“1-5-6-4”を打ち立てたのはフィル・スペクターだった、という結論で誰も文句はないだろう。邦題「会ったとたんに一目惚れ」。もちろんビートルズもカヴァーしている(最近ではエイミー・ワインハウスも)。
 今回、私はこの曲を深い感動と共にしみじみと聴き返した。“1-5-6-4”を探す私の終わりなき旅は、こうして決着を見たのである。


 それにしても、“1-5-6-4”を辿っていくだけで、実に立派な“愛の歌”の歴史ができてしまうものだ。文字通り“最初の事件”と呼ぶに相応しい「会ったとたんに一目惚れ」から、アリシア・キーズ「No One」に至るまで、この50年間、人は結局たったひとつのことについて歌っているのではないか。人は誰かと出会い、時に熱病に取り憑かれ、立ち上がり、あるいは、打ちひしがれ、そして、尽きせぬ想いをひとつのコード進行の中に託す。今、あなたがこれを読んでいる瞬間も、きっとどこかで誰かが“1-5-6-4”で曲を作っているに違いない。

 そんな愛の歌の歴史の中にあって、“1-5-6-4”を胸に秘めながら、“くよくよするなよ、大丈夫さ”と歌う21歳のディランの声に、私は何だか少し泣きそうになってしまった。

Dylan & Rotolo
冬のジョーンズ通りを行くディランとスージー・ロトロ


追記(2008/4/18):
「No One」のリミックスを上げてあった私のYouTubeのアカウント(AbejaMariposa)が3アウトで吹っ飛んでしまったため、別アカウント(AbejaMariposaJr)に上げ直した。「No One」リミックスは旧アカウントで'07年11月29日から'08年4月16日まで公開され、再生数約46,000回、お気に入り登録数約200人という成績であった。

 また、YouTubeのコメント欄で、ccpontesというユーザーから多くの“1-5-6-4”ソングを指摘してもらった。上に挙げたものも含め、以下に羅列。これはもう、笑うしかない。

Jason Mraz - I'm Yours (2008)
Colbie Caillat - Realize (2007)
Mika - Happy Ending (2007)
Linkin Park - Shadow of the Day (2007)
Jordin Sparks - Tatoo (2007)
Alicia Keys - No One (2007)
Akon - Sorry, Blame It On Me (2007)
Akon - Don't Matter (2006)
Red Jumpsuit Apparatus - Your Guardian Angel (2006)
Gary Jules - Falling Awake (2006)
Hellogoodbye - Here (In Your Arms) (2006)
Fort Minor - Where'd You Go (2005)
James Blunt - You're Beautiful (2005)
The All-American Rejects - Move Along (2005)
Eamon - F**k It (I Don't Want You Back) (2004)
Maroon 5 - She Will Be Loved (2004)
Kelly Clarkson - Breakaway (2004)
Billie The Vision and The Dancers - Summercat (2004)
Noam Kaniel - Un Monde Sans Danger (Code Lyoko theme) (2003)
Jack Johnson - Taylor (2003)
Blink 182 - Feeling This (2003)
3 Doors Down - Here Without You (2003)
Howie Day - Collide (2003)
Black Eyed Peas - Where Is The Love? (2003)
The All-American Rejects - Swing Swing (2002)
Luna - Lovedust (2002)
Red Hot Chili Peppers - Dosed (2002)
Avril Lavigne - Things I'll Never Say (2002)
Atomic Kitten - It's OK (2002)
Good Charlotte - Hold On (2002)
Simple Plan - Perfect (2002)
Creed - One Last Breath (2001)
3 Doors Down - Be Like That (2001)
The Calling - Wherever You Will Go (2001)
Five For Fighting - Superman (It's Not Easy) (2000)
NSync - This I Promise You (2000)
Savage Garden - Crash and Burn (2000)
Gigi D'Agostino - L'Amour Toujours (1999)
Boyzone - All That I Need (1998)
Remy Zero - Fair (1998)
Lighthouse Family - High (1997)
Natalie Imbruglia - Torn (1997)

Richard Marx - Right Here Waiting (1989)
*リチャード・マークスはインシンク「This I Promise You 」の作者でもある
U2 - With Or Without You (1987)
The Police - So Lonely (1978)
Bob Marley - No Woman, No Cry (1974)
The Beatles - Let It Be (1970)
The Beatles - Oh Darling (1969)
Jimi Hendrix - Bold As Love (1967)
Bob Dylan - Don't Think Twice, It's All Right (1963)
The Teddy Bears - To Know Him Is To Love Him (1958)


追記(2010/12/13):
 私の2番目のYouTubeアカウント(AbejaMariposaJr)がまたしても吹っ飛んでしまったため、新アカウント(AbejaMariposaIII)に上げ直した。「No One」リミックスは2番目のアカウントで'08年4月16日から'10年12月8日まで公開され、再生回数約280,000回を記録した。'10年夏頃に視聴地域が制限され、日本からは動画にアクセスできなくなってしまっていたが、新アカウントの再アップ動画は今のところ問題なく見られる。



Alicia Keys in Japan [November 2007]

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