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Your Love Is King [video]


YOUR LOVE IS KING (1984)
Directed: Jack Semmens

 シャーデーの初のミュージック・ヴィデオ。同曲シングルのカヴァー写真と全く同じ黒ずくめのアデュが登場する。赤を基調にした背景、スペードのキングのカードを使った演出も同様で、シングル・カヴァーの動画版といった趣の作品。いかにも低予算な作りだが、そのチープさがなかなかに味わい深い、愛すべきヴィデオである。


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 このヴィデオは基本的にバーのセットで演奏するシャーデーの4人を見せるだけの非常に単純なものである。背景はどことなく『カリガリ博士』な感じがしないでもないヘンテコな書き割りで、無数にぶら下がる裸電球とあわせて、ちょっとシュールな雰囲気を醸し出している。彼らはそのバーで演奏するバンドという設定だが、このセットのフェイク感が、シャーデーの擬似酒場音楽的な性質と絶妙にマッチしていて面白い。本物の酒場で演奏している「Smooth Operator」ヴィデオより、結果的にはこちらの方がシャーデーの音楽性を正しく捉えているような気がする。

 パンとディゾルヴを多用しながら、曲同様に緩やかなテンポで各メンバーが映し出されていく。シンプルな低予算セットながら、様々に角度をつけた構図がなかなか工夫されていて、最後まで飽きさせない。背景色が赤、青、黄色と次々に変化するのも効果的。フィルムならではの発色が美しく鮮やかで、アデュの口紅の色も引き立って見える。彼女の目元、口元、顔のクロースアップも印象的で、ド派手なアイライン、分厚い口紅で固めたオバQチックなモデル顔はいま見てもインパクト十分。漫画にしやすそうなアデュの特異なルックスをフィーチャーしたこのヴィデオは、当時の音楽番組視聴者の目をさぞかし惹いたことだろう。

 バーのセットでのパフォーマンスの他に、このヴィデオには白いドレス姿のアデュがトランプを使ったテーブルマジックを披露する場面も登場する。何もない手に突然カードを出す、裏返すとすべて同じカードに変わる、広げたカードの中から手を触れずに一枚だけ抜き出す、などで、そのカードが一様にスペードのキングになっている。実は、手もとのアップ映像のみ16才の少年手品師が代役を務めているのだが(きちんと体毛まで剃ったという)、このカードマジックの場面はアデュのミステリアスな雰囲気にとても合っていて、全く違和感がない。キングだけ一枚残して、他のカードを全部ばらまいてしまうオチも良い画だ。テーブルの緑とドレスの白のコントラスト、そこにカード(ダイヤとハート)、マニキュアの赤がアクセントになっているあたりも綺麗で、色彩にかなり注意が払われたヴィデオであることがこの手品場面からも窺い知れる。

 監督を務めているのは、これがシャーデーでは唯一の作品となるJack Semmens。他には、やはりこのヴィデオと同時期、'84年6月発表のアリソン・モイエのソロ・デビュー曲「Love Resurrection」を監督しているくらいしかキャリアは不明(中東の砂漠を舞台にしたヴィデオで、「Your Love Is King」と共通する作風は特に見出せない)。ネット検索でも「Your Love Is King」絡みでヒットするばかりで、ほとんどこの一本のみで歴史に名を刻んでしまっているような人物だ。もっとも、単にクレジットされていないだけで、'80年代前半のイギリス勢のヴィデオには他にも監督作があるのだろうが、ひとまずシャーデー・ファンとしては、この「Your Love Is King」での彼の仕事を讃えておきたいところである。


 バーを舞台にしたこのヴィデオは、初期シャーデーのサウンドを売り出す上で非常に効果的だったはずだが、ジャジーな酒場音楽、という捉えられ方には、アデュは当時から居心地の悪さを示していた。

●あなたたちの音楽は曇った酒場を思わせます。薄暗く、煙っていて、キラキラとした……。
「う~ん、私はそういう煙った酒場ってものがちっとも好きじゃないの。古くさくて懐古的だし、私はいつまでも古さを感じさせないものが好き。決まった聴き方はされたくないわ。前にも同じことを言われたことはあるんだけど。多分、私たちの音楽が、いま一般的に受け入れられているものからちょっと外れているせいじゃないかしら。違ってるのよね。私たちは飛んだり跳ねたり、頭でグルグル回ったりもしないし」
●自分のことを“ジャズ歌手”ではなく“ソウル歌手”だと以前言ってましたね。ジャズ・マニアがケチをつけるんじゃないか、ということで。
「自分がジャズ歌手だなんて言うつもりはないわ。現に違うもの。なろうともしてないし。ジャズっぽい感じもあるけど、言われているほどではないんじゃないかしら。実際、初めてインタヴューを受けた時、ジャズという言葉を出されても全くピンと来なかったし」
●ジャズとソウルは別物でしょうか。容易に分けられるものでしょうか。
「良い音楽は良い音楽だし、それについてあれこれ分析することはできないわ。ジャズとソウルを聴いて同じような感じがすることはあるわよ。音楽はムードを作り出して、聴き手に訴えかけるものだから。ジャズもソウルも、どちらにも良いところがある。でも、ジャズとソウルには構造的にものすごく違いがあるわよね」(April 1985, RockBill)

 初期のシャーデーには、とにかく“ジャズ”というタームが付きまとっていた。現在でこそ彼らをジャズ・バンドだと思っている人はいないだろうが、当時はそうしたレッテルを払拭するのに、アデュはインタヴューでかなり骨を折るはめにもなっている。シャーデーは“ジャズ”なのか“ソウル”なのか? 以下の発言には、そんな問いへの回答になり得る、アデュらしい実に単純明快な見解が示されている。

「私たちがジャズ・バンドを目指しているだなんて、ちょっとでも人から思われるとゾッとするわ。もしそうなら、私たちはもっとずっと巧いはずでしょう。私たちは別に“よし、こういうサウンドを作ろう”とか考えてやってるわけじゃない。あまりにも自然に生まれるから、分析することすらできないわ。曲を作る時は、単に……出来るのよ。私たちの音楽は明らかにポップよね。理解しやすいものだから。私が今まで好きになった曲というのは、ジャズであれ、何かを物語るものなの。(ローランド・カークの)『THE INFLATED TEAR』とかね。あと、(マイルス・デイヴィスの)『SKETCHES OF SPAIN』とか、聴くとスペインにいるみたいな気になるし。ソウルで好きなのは、スライなら「Family Affair」とか。マーヴィン・ゲイなんかも、いつもシンプルなことを物語る。すごく簡潔で飾りがない。私にとって音楽というのはそういうものなの。聴き手をどこかへ誘い、何かを訴えかけるもの。私たちはそういう曲を作りたいの」(23 May 1985, Rolling Stone)

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