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Alicia Keys in Japan [November 2007]

AK in Japan Nov 2007

 '07年9月中旬、『AS I AM』(アメリカ発売11月13日/日本発売11月21日)の先行プレミア試聴会のために来日したアリシア・キーズ。それから約2ヶ月半後の11月末、彼女は本格的なプロモーションのため再び日本にやって来た。その間、彼女はテレビ、ネット、新聞・雑誌等、日本の様々なメディアに登場。

 私はその全てを追いかけるほどのアリシア・フリークではないが、その中で実際に自分がチェックしたいくつかのイベント/テレビ出演を、ここで備忘録としてまとめておきたい。


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YAHOO! LIVE TALK
Broadcast: 28 November 2007
Performance: No One / Fallin'

 Yahoo! Japanで配信されているトーク&ライヴ番組に出演。会場は代官山のライヴハウスUNITで、11月28日の21時過ぎから生中継された。抽選で集まった100組200名のファンを前にした公開イベントである(48分)。

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 男性司会氏の紹介に続いてアリシア登場。革ジャンにジーンズの軽装。今回のアリシアは一時期に較べて随分スリムになったが、これを見ると尻は相変わらずビッグマックのようなボリュームがある。

 日本のファンに対する簡単な謝辞に続き、月曜(26日)に来日して以来、過密スケジュールの合間に買い物をしばし楽しんだこと(帽子を買った)、いかにも外タレらしく“歌舞伎を観たい、けど、来日する度に機会がない”等々、通訳女性を介して司会氏との和やかなトークが始まる。
 序盤は、ニュー・アルバムについて、『AS I AM』というタイトルに込めた思い、「Superwoman」について、といった基本質問が中心。それらにアリシアは簡潔に丁寧に答えていく。また、この番組はリアルタイムで視聴者からの質問も受け付けていて、“印象的な日本食は?”“美を保つ秘訣は?”など、適当な質問が取り上げられ、これにも彼女は飾らず素直に答えていく。

 10分ほど経過したところで、「No One」の生パフォーマンス。ギターとベースがステージに迎えられ、“ヴェリー・スペシャル・ヴァージョン”という紹介に続いて、3人編成による「No One」が始まる。“8-5-6-4”を8分で弾くベース、明らかにエッジ風のリフを弾くギター。これはどう聴いても「With Or Without You」である。ここまでネタバレしてしまって良いのかと心配になるほどだ。もちろん頑張って歌うアリシアなのだが、シンプルな循環コードを基にしたこの曲は、こうした中途半端なアンプラグド仕様だとどうにも冗長になってしまう。もう少し何とかならないものだろうか。これではちょっと緩すぎる。

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ジェフとスティーヴ

 それにしてもバックの白人2人。“ジェフとスティーヴ”と紹介されているが、彼らは一体何なのか。一応、今回のレギュラー・メンバーのようだが、スキンヘッド&入れ墨のベーシストなどは、単なるそこらへんの中年アマチュア・ロックおやじにしか見えない。それほど達者なようにも思えないし、どういう理由で彼女のバックに収まっているのかちょっと気になるところではある(ベーシストは『UNPLUGGED』『AS I AM』にも参加しているスティーヴ・モスティンだと思うが……この曲で普通、ピック弾きはないだろうよ)。

 「No One」の演奏後、アリシアはピアノの椅子に座ったまま質問に答えていく。
 “今でもピアノの練習は欠かさない?”という質問の流れから、さっき楽屋にいる時も曲を作った、という話が飛び出す。仮題は「This Is The Wave」。その作りかけの曲かどうかは知らないが、どういう感じで曲を作るのか実演して欲しい、という司会氏の要望に応えて、ピアノを適当にポロポロと弾いてみせるアリシア(BとDのコードを6/8で緩やか弾く)。一応、お約束で拍手が起こるが、実に普通の何でもない演奏である。これが仮にスティーヴィー・ワンダーあたりなら、エンターテイナー精神を発揮して、即興曲で観客を巻き込んで盛り上げるところかもしれない。次に、“日本の音楽は聴きますか? 「スキヤキ」なんかはご存じでしょうけど”という話題で、“(「スキヤキ」は)知ってます。大好きです”と答えるものの、もちろん即興で「スキヤキ」を歌ったりもしない。あまりにも普通なアリシアなのだった(単に私が要求しすぎなだけかもしれないが、日本に来る時は「スキヤキ」と「さくらさくら」くらいは予習しておいたほうがいいと思う)。
 その後に出てくる“バンドのメンバー全員とカラオケに行った”という思い出話は少し面白い。基本的にみんな歌が上手いので、上手く歌ってはいけない、というルールを設けて盛り上がったそうだ。マドンナ「Holiday」の一節をダミ声でほんの少し歌ってみせるアリシア。ウェザー・ガールズ「It's Raining Men」を歌ったことも判明するが、司会氏もソフトに突っ込んでいるように、ここは是非とも“カラオケで下手くそに歌うアリシア”をきちんと実演して沸かせてもらいたかったところだ(いや、アリシア、君は何も悪くないのだが……)。

 その後も、神戸から訪れたという客席の70歳の女性に温かい言葉をかけたり、“自分らしくあるための心構えは?”“悩みごとの解消法は?”といった会場からの素朴な質問にも、アリシアは真面目に誠実に答えていく。“次の映画出演作は?”という質問には、詳細は話せないが'08年に1本予定があり、歴史上の人物を演じる(*)、とのこと。
 他に、司会氏の振りで〈Keep A Child Alive〉の活動について語り、“最終的に実現したい夢は?”という問いには、“平穏(peace)”と答えた。“夢はたくさんあるわ。……行く行くは自分のテレビ局やインターネット会社も欲しい。Yahoo!も所有したいわ(笑)。だから今日こうして出演してるの!”という発言はなかなか上出来だ(あながちギャグでもないのだろうが)。
 “憧れの人、尊敬している人は?”という視聴者質問には、“質問してくれた人、会場の皆さん、いい人たちみんな”という煮ても焼いても喰えない相変わらずの回答に加え、オプラ・ウィンフリー、ニーナ・シモン、マーヴィン・ゲイ、そして、彼女の母親が挙げられた。“好きな言葉は?”という最後の問いには、“う~ん、すごくいい質問ねー”と悩んだ挙げ句、“歓び(pleasure)”と答えた。う~ん、なんと真っ直ぐなのだろうか。参りました。

 “ツアーでまた皆さんとお会いするのを楽しみにしています”という別れの挨拶に続き、“私のすべてが始まった曲”という紹介で、最後に「Fallin'」が演奏された。これはさすがにこなれたパフォーマンスで安心して聴いていられる。会場のファンから花束を受け取り、ステージを後にするアリシア。

 “アリシアを囲む会”的な温かい雰囲気が印象に残るイベント。トークでは彼女の飾らない実直な性格がよく伝わってくるが、その人柄ゆえに、せめてもう1曲分、歌のパフォーマンスに時間を割いて欲しかったとも思う。司会氏はとてもいい仕事をしているが、日本でこういうイベントをやると、言葉の壁もあり、どうしても場の雰囲気が硬くなってしまうのは残念だ。この番組の模様は〈Yahoo! ライブトーク〉にて'08年1月6日まで公開されている。


(*)映画界進出までプリンスに倣いすぎてズッコケなければいいが……などと思っていたら、12月半ば、なんとリナ・ホーンの伝記映画(オプラ・ウィンフリー製作)に主演するという衝撃的情報が! でかした、アリシア! ホーン役は以前からジャネットが狙っていたらしいが、スーパーボウルのポロリ事件のせいでホーン自身から断られてしまったらしい。ドロシー・ダンドリッジ役に続いてリナ・ホーン役も落としてしまったジャネット……。但し、ホーン役であれば、気骨を感じさせるアリシアの方が間違いなく向いているだろう。容姿もメイク次第でかなり似そうだ(しかし、アリシアが歌う「Stormy Weather」はさっぱり想像できない)。一体どういうリナ・ホーン像を見せてくれるのか今から楽しみだ。



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BRIGHT CHRISTMAS 2007: ALICIA KEYS IN MARUNOUCHI
Date: 29 November 2007
Venue: Marucube, Marunouchi Building, Tokyo
Performance: No One / Superwoman / Fallin'

 今回のプロモ来日で一番の大型目玉イベントがこれだった。11月29日夕方、東京、丸ビル1階のイベント空間“マルキューブ”にて、“頑張っている女性に一足早いクリスマス・プレゼント”なる名目の下、アリシアの無料ライヴが行われた。私は女性でも頑張っているわけでもないが、ただでアリシアの生歌が聴けるチャンスを逃す手はないと、のこのこ会場へ出向いたのだった。

 当日の会場は上の写真のような感じ。高さ8メートルの丸ビル・ツリーが、この日だけシャンパン・ピンクの“アリシア・ツリー”に云々……ということだが、そこらへんは、まあ、いいだろう。
 マルキューブはガラス張りの巨大な吹き抜け空間になっていて、2~4階のバルコニーからも1階の会場の様子を眺めることができる。バルコニーが四方を囲むのは2階のみで、3~4階になるにつれ死角も増え、見下ろせる場所が少なくなっていく(ステージが最もよく見える2階バルコニーの写真手前側は、プレス用に立入禁止にされていた)。1階のステージ前に設けられた観客席を埋めるのは、抽選に当たった100名のラッキーな女性ファンたち。この日、会場には約2500人が詰めかけたという。

 18時から30分間予定されていたイベントだが、私が会場に到着した16時過ぎの時点で、バルコニーの手すり沿いには既に多くのファンがへばりついていた(女性ファン率がやはり高い)。予想以上の人気ぶりである。君たちはそんなにアリシアが見たいのか。私はファンでないふりをしながら会場内をあたふたと彷徨い、しばらくして適当な場所をゲットすると、以後、そこから死んでも離れなかった。

 16~17時にかけて、ステージ上ではバンドのメンバーたちがダラダラと音出しをしていた(アリシアのピアノ弾き語りによる単独パフォーマンスを想像していたので、ちょっと意外だった)。私が会場に着いた時は、なぜか「With Or Without You」のベースラインが鳴り響いていて、これにはえらく驚いた。というのも、この数日前、私はちょうど「With Or Without You」をネタにした「No One」のリミックスを作ったばかりだったからだ。その時は冗談で弾いているのかと思ったが、後にして思えば、それは「No One」のリハだったのである(私は前日に行われた〈Yahoo! ライブトーク〉をまだ観ていなかったので、この丸ビル・イベントで「No One」の新アレンジを初めて知ることになった)。他に「Superwoman」のさわりなどが演奏され、早くから集まっていたファンを微妙に盛り上がらせていた。

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ひたすらアリシアの登場を待つ会場

 いよいよイベントの開始時刻。さて、アリシアは一体どこから現れるのか。ツリーが割れて電飾の中から登場するのだろうか? もしかしてピアノの中から蓋を開けて登場するのだろうか? 待っている間、何もすることのない私は、ステージをぼんやり眺めながら引田天功のようなアリシアを想像して時間を潰していたのだが、定刻の18時を20数分過ぎた頃、司会女性の紹介を受けてアリシアは、実際には、会場の1~2階を結ぶ長いエスカレーターに乗って実にエレガントに現れたのだった(エスカレーターは上の会場全景写真の左手前にある)。BGMの「No One」とファンの大歓声が鳴り響く中、四方八方に手を振りながらエスカレーターを降り、ステージへ上がるアリシア。シックでチャーミングなグレーのワンピース姿での登場である。

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私に向かって手を振るアリシア

 まず最初にプレス向けに撮影タイムが設けられ、ピアノの前でアリシアがポーズを取る。時折響くファンの声援にいちいち手を振って応えるアリシア。撮影タイムが終わると、通訳女性を交え、司会の南美布氏(J-WAVE)によるインタヴューが始まった。

 質疑の内容は、日本の印象について、ニュー・アルバムについて、〈Keep A Child Alive〉の活動について等々、これまで彼女がさんざん答えてきたであろう基本的なことばかりで、特筆するようなことは何もない。質問する側も真面目なら、アリシアもまた真面目。例によって誠実に淡々と優等生的な答えをするだけで、間違ってもギャグをかましたりはしない。才色兼備ゆえ、そんなことをする必要も習慣もないのだろう。実に普通。あまりにも普通である。こんな普通の会話を、何故に2500人もの人たちが固唾を呑んで見守っているのか? 
 このトークタイムはたっぷり10分ほど続いたが、これは正直きつかった(更に辛いことに、このやりとりは音量がとても小さく、少なくとも私がいた場所に関しては、会話内容が通訳の日本語ですらまともに聞き取れなかった。インタヴュー内容については、OnGenサイト内のレポートに詳しい)。

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 “では、ここでいよいよアリシアさんの音楽を……”という司会者の振りで、にわかに盛り上がる会場。おう、ネエちゃん、歌ってくれ、歌ってくれ。みんなアリシアのトークではなく、歌を聴きに集まっているのである。

 アリシアのピアノに、ギター、ベース、キーボードを加えた4人編成でのパフォーマンス。
 1曲目はお約束の「No One」。トークの時とは桁違いの音量で、アリシアの声がマルキューブの吹き抜け空間にものすごいエコーでガンガンに響き渡る。ぬお~、何だこりゃ。アレンジは〈Yahoo! ライブトーク〉出演時と同じ「With Or Without You」ヴァージョン(勝手に命名)なのだが、2500人の聴衆を前にしているだけあって、アリシア自身のテンションが明らかに違う。間延びしそうな演奏も、彼女の歌がぎりぎり力ずくで引っ張っていく。この曲はやはりこうした巨大空間にこそ相応しい。かなりの熱演に会場も大きな拍手と歓声を送る。

 続いて2曲目「Superwoman」。前半はアリシアの弾き語りでじっくり聴かせ、中盤のブリッジ部分からバンドが入ってくる。これも気合い十分。声よりも気持ちが先に出てしまっているような歌唱で、つんのめって声がひっくり返る瞬間もあったが、私は彼女のこういう歌が大好きである。

 そして3曲目。気を持たせるようなイントロ。そして、一瞬の静寂。彼女の声が会場の空気を唐突に切り裂く。「Fallin'」である。抜群の声の立ち上がりに悲鳴のような歓声がわき起こる。このロケーションで聴く「Fallin'」の響きは格別だった。垂直に伸びる巨大な吹き抜け空間を、彼女の歌がまさに落下していくような感覚。歌が2500人の頭上に降ってくるのである。It's raining Alicia、ハレルヤ・ハリケ~ン(意味不明)。この曲が凄いのは当然なのだが、それでもやはりねじ伏せられてしまう、さすがのパフォーマンスだった。

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 “応援してくれてありがとう。またすぐ日本に戻ってきます!”というような意味の言葉を残し、「No One」の短い生演奏をバックにアリシアは会場を後にした(向かって左側の出口から普通に退場)。トークを削ってもう1曲聴かせてもらいたかったようにも思うが、なにせ無料なので贅沢は言えない。

 イベント終了後、1階会場内は一般に開放され、人々は無邪気にアリシア・ツリーやら彼女の弾いたピアノやらをパシャパシャ写真に撮っていた(このイベントは写真撮影禁止だったが、みんな普通に携帯で撮りまくっていたことは言うまでもない。ちなみに、ここに載せた写真は私が飽くまで念写したものである)。



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とくダネ! TOKU-DANE!
Broadcast: 30 November 2007
Performance: No One / If I Ain't Got You

 11月30日、フジテレビの朝のワイドショー〈とくダネ!〉に生出演。今回の来日プロモ活動の中で、一番のハイライトはこれだったかもしれない。

 8時の番組開始早々、司会の小倉智昭を中心としたレギュラー出演者たちによるオープニング・トークで、いきなりアリシアの話題が登場。“〈とくダネ!〉、8年と9ヶ月やってます。これまで色々いいことがありました。たとえば、僕の大好きなアメリカのヒット歌手のシャナイア・トゥエインが来たときには、もう涙が出ました。でも、シャナイアはこのスタジオでは歌ってくれなかったんです。で、今日はですね、アリシア・キーズが、なんと!このスタジオで2曲歌ってくれるんです!”。おおお~。

 DVD『UNPLUGGED』の「If I Ain't Got You」の映像が流され、いかにアリシア・キーズがすごい人物であるか、今日この番組でアリシア・キーズの歌を生で聴ける我々はいかにラッキーであるか、が小倉智昭の興奮気味の口調で語られていく。小倉はアリシアの大ファンらしく、今回スタッフから彼女のCDを資料として渡されたものの、実は既に(どこでも聴けるように?)全アルバムを3枚ずつ所有していたのだという。一人で過熱する小倉を共演者たちが温かく見守るかたちでトークは進行。

 もともとアリシアの番組出演は28日の予定だったが、香川殺人事件の犯人逮捕報道のため、番組側は一旦出演を断り、彼女の出演はこの日に延期になっていた。“ホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーだとしたら、プロデューサーは絶対に断らなかったと思う。でも、今、(アリシアは)あの2人より完全に人気は上なんですよ!”と小倉。番組アナウンサーのフォローによって、とりあえず“アリシアさんはいい人だから大丈夫”ということで話はまとまり、“本当にスタジオに来てくれるのか?”という期待を持たせつつ、番組は通常通りその日のメインの話題へと移っていった(アリシアに関するこのオープニング・トークは、たっぷり5分ほど続いた)。

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 じっと待つこと70分。9時11分、アリシアが登場する“特捜エクスプレス”のコーナーが始まった。“世界の歌姫”なるタイトルで、前日に行われた丸ビル・イベントの模様、AIのコメントなどがVTRでざっと紹介された後、遂にアリシア本人がスタジオに登場。おおお~。出てきた~。白いパイピング付きの黒(濃紺?)ジャケット&ジーンズで、品のいいお嬢様といった風情である。
 番組出演者たちと次々に握手を交わし、通訳を介してのトークが始まる。日本でニュース番組に出るのは初めて、昨日のライヴは素晴らしかった、アルバムが日本で発売されて嬉しい、などリラックスした様子で語るアリシア。一方、緊張して言葉数が少なくなってしまう小倉智昭。短いトークに続き、“さあ、それでは歌ってもらいましょう”ということになり、番組は一旦CMへ。

 CM明け。カウントに続いて、スタジオ内の特設セットにて「No One」の生演奏が始まる。なんとドラム込みのフルバンド。わざわざ連れてきてたのか。ピアノを弾きながら、にこやかに歌うアリシア。朝日のように爽やかな歌声である。画面下には日本語の歌詞字幕。2コーラス目からピアノを離れ、ハンドマイクで動き回りながら歌う。ブリッジ部分では再びピアノへ。このあたりはこの曲の定番アクションである。
 メンバーは相変わらず不可解。いつもドラムを叩いている巨漢の黒人がこの日はなぜかベースを持ち、代わりにギターのはずの髭の白人がドラムに座っている。更には、鍵盤のはずのキャップを被った黒人がなぜかテレキャスターを弾き、代わりにちゃらちゃらした感じの胡散臭い白人が鍵盤を担当。メタリカ・ファンのようなおっさん白人ベースはいつも通りだが……って、あれ? ベース2人いるじゃん! しかも、明らかに音出てないし。近くのイシバシ楽器あたりからさっき調達してきたばかりのような赤いショルダー・キーボードも、どう聴いても鳴っていない。結局、生なのはドラムとギターとアリシアの歌だけではないのか? まあ、それは譲るとしても、このいかにも取って付けたような“ロックだぜえ”的なバンドの佇まいは一体何なのか。カメラ目線でそれ風のワイルドなポーズを決めながら歌うアリシア。その後ろで横一列に並び、リズムに合わせていい加減にステップを踏む雇われミュージシャンのような輩。さっぱりイケてない。アリシア、何やってんだよ……。まるでロックに転身したアイドル歌手のようなパフォーマンスではないか。
 終盤の“オオオッオッオ~”のリフレインを大幅に切り詰めた短縮版で演奏終了。“情熱的~!”という番組女子アナのペラペラな感想に再びズッコケそうになる。

 そのまま特設セット内で適当に短いトーク(“クラシック・ピアノを学んだことはとても役に立っている”云々)があり、続けて更にもう1曲。改めてピアノに座り、今度はアリシアの弾き語りによる単独パフォーマンスである。始まったイントロは、なんと「If I Ain't Got You」! なあああ! 紹介VTRでも取り上げられていたので、もしや、とは思ったが、『AS I AM』のプロモ出演でまさかこれが来るとは……。
 この「If I Ain't Got You」が凄い。ヴァースまでは普通なのだが、サビ突入と共に、いきなり終盤の高みへ力業で持っていく。そこからの歌い込みは圧巻である。どんどんテンションが上がり、サビ後半で見事にレッドゾーンを振り切ってみせる。アリシア、ぶっちぎり。私はこの放送を徹夜明けにリアルタイムで観ていたが、この瞬間はテレビ画面に完全に目が釘付けになった。そうか、そこまでやるか。やってくれるか。曲は1コーラス分を歌き切ったところでそのまま終了。僅か2分ちょっとの短縮版ではあったが、これは濃い。あまりにも濃い。やったぜ、アリシア。
 “世界の歌姫”の名に恥じないこのパフォーマンスに、スタジオも騒然となる。歌の神がアリシアにほんの束の間降りて去っていったような、何か異様な瞬間を目撃したような感じである。演奏終了後、小倉智昭が“本当はフル・コーラス聴きたかったなあ”とすぐに的確なコメントを入れると、“短縮版でしたが、全力投球しました”というアリシアの答え。妙にケロッとした表情に拍子抜けしてしまう。あんた、何者なんだ。
 ツアーでの再来日を検討中、という話が最後にあり、アリシアの出演時間は無事終了したのだった。
 
 とにかく「If I Ain't Got You」の2分間に尽きる。ピアノと声だけで、濃密な感情のドラマがそこに立ち現れる。旧レパートリーを歌っても、やはり今の彼女は確実にかつてとはスケールが違う。アリシアを知らない全国の茶の間にも、この熱唱はきっと何かを伝えることができたのではないか。学芸会のような「No One」は一体何だったのだ、という感じである。



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MUSIC JAPAN
Broadcast: 22 December 2007
Performance: No One

 NHK総合で金曜真夜中に放映されている30分の音楽番組〈Music Japan〉に出演。日本滞在中に収録されたインタヴュー&パフォーマンスが、来日から3週間ほど経った12月22日(21日深夜)に放映された。場所はNHKのスタジオ。

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 まずは番組ナビゲーターを務める関根勤の娘によるアリシアのインタヴュー。これがかなり良い。関根は英語が堪能な上、アリシアと年齢が近いせいもあり、自然にいい感じのうち解けたムードで会話が進む。アリシアも非常にリラックスしている様子で、飾らないフレンドリーなキャラがここではとても魅力的に映る。日本の印象、食べ物、洋服といった話題で覗く普通の女の子らしい表情は、通訳を介した他のイベント/テレビ出演では見られなかったものだ(グッジョブ、関根麻里)。

 インタヴュー後半に出てくる「No One」誕生秘話がちょっと面白い。
 
「アルバムの最後に出来た曲なの。アルバム制作も良い感じで続いていて、スタジオでピアノを弾いたり、楽器を触ったりしていたら、パーティーみたいになってきて、そしたらメロディーが浮かんできたの("Everything's gonna be alright" と「No One」の一節を歌う)。歌ってみたらすごく良くて、まったく新しいものが出来たわ」

 「No One」がアルバムの中で最後に出来た曲というのは分かる気がする。この曲は彼女のキャリアの中ではもちろん、『AS I AM』の中でも確かに浮いている。逆に言うと、この1曲に『AS I AM』全体が引っ張られているようなところもあって、その辺が今の彼女の方向性を明確に定めてもいる。この曲がない『AS I AM』を想像すると面白い。彼女の現在はきっとかなり違うものになっていたはずだ。アリシアにとって「No One」は、まさしく“運命の1曲”になるのかもしれない。後々この曲をどのように振り返ることができるのか実に楽しみである。

 インタヴューに続き、その「No One」のパフォーマンス。観客なしのスタジオ・ライヴである。
 バンドは、髭の白人ギター、スキンヘッド(というか、ハゲ)のおっさん白人ベース、巨漢の黒人ドラム、キャップの黒人キーボード、以上4名。海外のテレビ出演を色々と見る限り、これが基本的に現在の彼女のバンド構成員で、各人の担当楽器もこれが正しい(本来はここに更にバック・ヴォーカルが3人加わる)。ベースがSteve Mostyn、ドラムがPaul John、キーボードがOnree Gillで多分間違いないと思う。しかし、となると、〈とくダネ!〉の時にいたショルダー・キーボードのやる気のなさそうな白人は誰だったのか? また、担当楽器が違っていたのはなぜなのか? 単にふざけていたのか? 謎は深まるばかりである。
 〈とくダネ!〉の時とは違い、今回は全員の楽器の音がきちんと出ている。ゆえに、ライヴ感は確実に向上。ギターのミュート・カッティングが前面に出て、ロック色が強調されている点は同じである。アリシアは例によって途中からピアノを離れて動き回り、シンセに行ったりピアノに戻ったりしながら歌う。頑張るアリシア。その後ろで、これまた例によって“ロックだぜえ”といった風情で演奏する、どこか曖昧なキャラのギター&ベース。ガニマタでコードを弾くギターのアクションのわざとらしさがたまらない。これはやはり“今回はロックでワイルドな感じでいくのよ!”というアリシア嬢の強い指示が出ているのだろうか。ようやく日本でまともな生バンド演奏による「No One」が披露されたのは嬉しいが、やはりこれはちょっと……微妙なところではある。

 バンドの演奏自体は並としか言いようがない。何より“ロックってこんな感じぃ?”的なアティチュードがNGだ(お前ら、全然気合い入ってないじゃん。やる気あんのか?)。一応、生バンドなのだが、有機的にアリシアと絡むわけではないので、日本の往年の歌謡番組のバック・バンドの類と変わらず、結局ほとんどカラオケ同然のような状態なのだ。これだと全てがアリシアの気合いひとつに掛かってしまうわけで、ステージだとやはりどうしても限界がある。はっきり言って、あまりロック的なサウンドに拘らないほうが良いと思うのだが。
 MTVヴィデオ・ミュージック・アウォード('07年9月9日)やアメリカン・ミュージック・アウォード('07年11月18日)で聴かせてくれた大胆なメドレーが素晴らしかっただけに、こうした無理やりなロック・モードを見せられてしまうと、どうにも歯痒くなる。もっとロックを手前に引き寄せる感じで何とかならないものだろうか。これでは“ロックごっこ”と揶揄されても仕方ない。アリシアの気持ちは分からないでもないが、あんまり無理すんなよ、というのが私の正直な感想である。



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〈音時間〉に出演。“テレポーテーションで着地”の瞬間

 私の知る限り、今回のプロモ来日におけるアリシアのテレビ出演には、他に、フジテレビ〈笑っていいとも!〉〈めざましテレビ〉、テレビ東京で火曜深夜に放映されている30分の音楽情報番組〈音時間〉がある。
 〈笑っていいとも!〉は29日のエンディングに登場、12月2日放映の〈笑っていいとも! 増刊号〉では「No One」をアカペラで歌う様子が紹介されたらしい。これはどっちも見逃したので詳細不明。
 〈めざましテレビ〉は30日の放送の中で、前日の丸ビル・イベントの模様と、番組独自のごく短いインタヴュー(京都で和式トイレを見て驚いた、と語る。丸ビル・イベントと同じ格好をしているので、同日のライヴ直前に収録されたものだろう)が紹介された。
 〈音時間〉は12月12日(11日深夜)、19日(18日深夜)の2週に分けて、番組司会の宇野実彩子、西島隆弘によるインタヴューが放映された。“昨日着いたばかりでまだ時差ボケ”と言っているので、27日あたりに収録されたものと思われる。よく分からない今風の若者2人による割とバラエティ乗りのインタヴュー。基本的には、宇野という子が英語で質問をし、それにアリシアが答える一問一答式のやりとり。アリシアの答えに対して、西島という少年と日本語で感想を言い合い、それを画面の外にいる通訳がアリシアに伝えている。質問内容は、日本の印象、日本での人気について、影響を受けたアーティスト、シンガーソングライターにとって大切なこと、『AS I AM』のテーマ、レコーディングで心がけていること、チャリティ活動について、歌手としての目標、といった実に真っ当で平凡なもの。アリシアの答えも予想範囲内で、単なるいい人の印象しか残らない。全部で15分ほどの長さがあり、2週目には'07年〈Black Ball〉コンサートでの「No One」、丸ビル・イベントでの「Superwoman」の映像も少し紹介された。よほどのファンでない限り観る必要はないだろう。


 何はともあれ、アリシアには頑張って欲しい。バンドがもう少し良ければ、とつくづく思うが(較べてはいけないが、プリンスを考えると特にそう思う。アリシアは人が良すぎるのではないか? 私ならギターとベースを即クビにするぞ)、ただ、バック・ヴォーカル隊が入れば確実に熱くはなるだろう。ともかく、ツアーでの来日を楽しみに待ちたい。

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