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俺だってプレイバック



 川瀬泰雄・著『プレイバック 制作ディレクター回想記 音楽「山口百恵」全軌跡』を紹介したついでに、小ネタをひとつ。カリー・バッズの新曲、その名もズバリ「Playback」。山口百恵「プレイバック Part 2」に対するアメリカからの返答……なわけでは決してないと思うが、聴いてビックリ、これが本当に現代アメリカ版「プレイバック Part 2」だったりするから面白い。私にネタを振っているとしか思えないので、忘れないうちに取り上げておく。


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PLAYBACK EP
MP3: www.CollieBuddz.com, 18 January 2011

 カリー・バッズ Collie Buddz は、ニューオーリンズ生まれ、バミューダ育ちのダンスホール/レゲエ・シンガー。歌声だけ聴くと黒人ジャマイカンのようだが、実はイケメンの白人という変わり種で、“レゲエ界のエミネム”などと呼ばれてもいる。'06年「Come Around」のヒットでブレイク。フル・アルバムとしては現在までに『COLLIE BUDDZ』(2007/Columbia)の1枚が発表されている。

 「Playback」は、'11年1月18日(山口百恵の誕生日の翌日)に彼の公式サイトで発表された最新EPの表題曲。ハープの音を使った清涼感溢れるミディアム・ナンバー。レゲエ色は控え目で、幅広い層にアピールするヒップホップ~R&B寄りのポップで都会的な作品になっている。
 このラヴ・ソングのサビ部分には、実際にプレイバック(録音された音声の再生)を思わせる、ちょっとしたギミックが用意されている。

  girl your love is like, pause, playback rewind pause
  playback, playback, pause
  playback, rewind, play... playback
  your love is like a soundtrack
  
  君の愛はまるで、一時停止、再生、巻き戻し、一時停止
  再生、再生、一時停止
  再生、巻き戻し、再生
  君の愛はまるでサウンドトラックのよう

 この歌詞に添って、短いブレイクや、テープがキュルキュルっと巻き戻るようなスクラッチ音が入ったりする。何度も繰り返し“君”のことを想う主人公の心象が、録音物の再生=プレイバックに喩えられているわけである。'11年3月8日に公開された同曲ヴィデオでは、このサビ部分で、音と連動して実際に映像が静止したり巻き戻るといった視覚効果も見られる(ヴィデオを観てどういう曲か確認してもらえると話が早い)。

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カリー・バッズのヴィデオ「Playback」──“Pause(ちょっと待って)”の場面

 ちょっと待って、これってあの歌と似てない?──「Playback」を聴いて日本人が瞬時にプレイバックするのは、もちろん、山口百恵「プレイバック Part 2」('78年5月1日発売)である。山口百恵のレコーディング・ディレクターだった川瀬泰雄の回想記『プレイバック』によると、「プレイバック Part 2」の制作は以下のように始まっている。

「CBS・ソニーの酒井氏とスタジオのロビーで打ち合わせをしていた時、横にあったテレビの画面から飛び出してくるような映像で“プレイバック”の文字が出てきた。“酒井さん、これカッコいいから曲のタイトルにしましょうよ”という僕に、酒井氏は“いいですね”の一言だけだった。半年くらいたったある時、突然酒井氏から“川瀬さん、あの『プレイバック』のタイトルで曲を作りましょう”という提案があったのだ。“どういう曲にしましょうか?”と質問すると、酒井氏はなんと“ケロケロってテープの音が戻るような曲、あとは金塚さんと考えてください”の一言だった」

 プロデューサーの酒井政利が出したこのアイデアを、川瀬泰雄と金塚晴子(ソニーのディレクター)の2人は悩んだ末、“主人公が以前聞いた言葉がフィード・バックしてくる歌”という企画に纏めた。その企画をもとに阿木燿子+宇崎竜童のコンビが書き上げたのが、世紀の怪作「プレイバック Part 2」である。
 実はこの時、「プレイバック」というタイトルで3パターンほど歌詞が書かれ、曲も宇崎が作った分だけで3パターン(すべて別楽曲)があったという。3つの中から最終的にシングルとして採用されたベスト・ヴァージョン「プレイバック Part 2」は、様々な人間の試行錯誤と、驚くべき突貫工事の末に完成されたものだった(作曲は宇崎の他に馬飼野康二にも依頼されていた。阿木の別パターンの詞に馬飼野が曲を付けたヴァージョンは「プレイバック Part 1」として発表されている。「プレイバック」の鬼の制作過程については回想記『プレイバック』に詳しい)。

 酒井政利が出した当初のアイデアを、現代的な音楽センスでそのまま忠実に作品化したのがカリー・バッズ「Playback」と言えると思う。「Playback」はまさしく“ケロケロってテープの音が戻るような曲”である。つまり、酒井政利と全く同じことを現代のアメリカの若者も考えたのだ。

 「Playback」は確かによく出来ているし、実際にプレイバックを思わせるサビのフックも耳を引く。面白い曲を作ったなあ、と人は思うに違いない。但し、それは「プレイバック Part 2」を知らない聴き手に限られるだろう。
 アナログ盤を手で擦るなどまだ考えられなかった時代に“ケロケロってテープの音が戻るような曲”を発想した酒井政利、そこから“主人公が過去を反芻する歌”へと解釈を広げた川瀬泰雄と金塚晴子、更に、ポルシェの運転席で記憶を再生する女の短編ドラマを書き上げた阿木燿子、言葉と連動してメロディが再生される曲を付けた宇崎竜童、ポルシェの加速度やテープが巻き戻る音まで譜面に起こした編曲の萩田光雄、そして、最後にこの難曲を歌いこなし、見事に主人公を演じきった山口百恵──これら百恵制作チームの想像力、表現力、結束力、創意工夫の数々は、どう考えても常軌を逸している。「プレイバック」というタイトルと“ケロケロってテープの音が戻るような曲”というアイデアから、よくぞあの水準にまで持っていったと思う。全く同じタイトルとアイデアで作られた「Playback」を聴くと、「プレイバック Part 2」という作品の規格外の完成度が改めて浮き彫りになる。「Playback」は十分に佳作だと思うが、残念ながら「プレイバック Part 2」には遠く及ばない。結局、カリー・バッズ君に足りなかったものは何か。機材? 制作費? 人員? 時間?──違う。足らぬ足らぬは工夫が足らぬ!

 ……ちょっと待った。
 今の言葉をプレイバックしてみよう。
 
 足らぬ足らぬは工夫が足らぬ!

 これは戦時中の日本のスローガンじゃまいか。これに続けて、“「プレイバック Part 2」のような作品を作れる日本人はやっぱり凄い。日本を馬鹿にしないでよ!”と話をまとめれば、私はこれを読んでいる日本人のあなたにさり気なく愛国心を植え付けることができるかもしれない。しかし、その結論はあまりにも安易じゃまいか。もう少し一緒に考えてみようじゃまいか(レゲエだけにね……)。

 「プレイバック Part 2」が歴史的傑作であることは間違いない。しかし、たった1曲のために費やされるその異常なまでの情熱と労力と集中力は、音楽(あるいは“歌”)が現在よりメディアとして遙かに大きな力を持っていた'70年代だからこそあり得たものではないのか。また、'70年代と現在では、音楽を作る方法論も流通形態も大きく変わっている。受け手にとっても作り手にとっても、ひとつのレコード(録音)作品の持つ重みがまるで違う。そして、'78年の日本と'11年のアメリカでは、当然ながら、受け手の求めているものも全く違う。同じタイトルとアイデアの作品であっても、「Playback」と「プレイバック Part 2」を単純に比較するのは、やはりどう考えてもフェアではない。むしろ、現代の若い聴き手の多くは、「プレイバック Part 2」より「Playback」の方が遥かにイケてると感じるだろう。それでいいのだ。

 このよく似た2曲を並べてはっきりするのは、作品の水準の差でも、山口百恵とカリー・バッズの才能の差でもない。単純に'78年と'11年という2つの時代の差である。'78年には'78年の、'11年には'11年のプレイバックの仕方がある──それだけのことなのだ。
 「プレイバック Part 2」のようなヘンテコな歌が生まれることはもう二度とないだろうし、また、その必要もない。同時に、誰もが認めるような“歴史的傑作”が生まれる可能性もますます減っていくだろう。カリー・バッズ「Playback」は、私にそんなことを考えさせ、結局、遠い目で過去をプレイバックさせてしまう大変面白い曲である。

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EP『PLAYBACK』の裏ジャケ

 カリー・バッズは'81年生まれの現在29歳。ちょうど山口百恵の子供世代に当たる若者だ。彼は現役時代の山口百恵を知らないし、そもそも、山口百恵という日本人歌手の存在自体、バミューダ育ちのアメリカ人が知っているとは思えない。当然、「プレイバック Part 2」も聴いたことがないだろう(ノーランズの英語カヴァーをYouTubeで聴いた可能性はあるかもしれない)。もし何も知らずにうっかりプレイバックしてしまったのなら、ちょっと気の毒な気もする。知らないことは幸せだが、同時にやはり恐いことでもある。私は一度、彼に英訳つきで「プレイバック Part 2」を聴かせてあげたい(そして、彼を洗脳して百恵ファンにしたい)。

 EP『PLAYBACK』は、カリー・バッズの公式サイトにて丸ごと無料で(!)ダウンロードできる。他の収録曲は表題曲よりもストレートにレゲエ色が反映され、彼本来の持ち味が楽しめる。全体的にいかにも白人レゲエ・シンガーらしいあっさり風味の聴きやすい作品に仕上がっているので、普通のポップス・ファンにもお薦めだ。リアーナが好きな人なんかはかなり気に入るんじゃまいか(しつこい)。個人的には、開放感溢れる労働者のぼやきソング「Holiday」がお気に入り。持ってけ泥棒の無料EPなので、百恵ファンの人も貰っておくといいんじゃまいか……。


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