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Love Is Found [video]


LOVE IS FOUND (2011)
Directed: Sophie Muller

 ベスト盤『THE ULTIMATE COLLECTION』で発表された「Love Is Found」。この新曲のために特別に音楽ヴィデオが制作された。'11年ツアーでの同曲のライヴ・パフォーマンスを編集したもので、ステージで使われているスクリーン映像を織り交ぜながら、全編モノクロの非常にスタイリッシュな映像作品に仕上げられている。特にシングル扱いされているわけでもないこの重要な新曲が、こうした形でプッシュされるのはファンとして非常に嬉しい。ヴィデオは北米ツアー真っ最中の'11年7月7日にVEVOで初公開された。


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 「Love Is Found」は'11年ツアーで5曲目に披露される。コンサートは4部構成になっており、「Love Is Found」が登場する第1部(全6曲)は、新曲を中心に多彩な演出で魅せる“幕の内シャーデー弁当”的な内容が特徴。中でも、モノクロのスクリーン映像と照明によって眩惑的な光と影の世界が広がる「Love Is Found」は、第1部の中でもとりわけエッジーで鮮烈なパフォーマンスになっている。

 ステージ後方の巨大スクリーンには、シャーデー・アデュと男性ダンサーの踊る姿がモノクロのシルエットで映し出される。男性ダンサーはジャズ・ヒップホップ調の激しい踊りを披露していて、男女ペアのダンスでありながら、官能的、ロマンチックと言うよりは、むしろ非常に闘争的な印象を与える。「Love Is Found」という曲をヒップホップと「Espana Cani」の合いの子と考えるなら、男性が主役になったこの闘争的な男女ペアのダンスは、一種の“現代版パソドブレ”と捉えることもできる(詳しくは過去記事“愛の訪れ”を参照)。

 無彩色の照明は、ステージ上のメンバーたち(全員黒ずくめ)を、スクリーン映像と同じようにシルエットで浮かび上がらせる。正面から見ると、メンバーたちの影とスクリーン映像内の踊る人影が混じり合い、まるでメンバーたちがスクリーンの中に溶け込むような──あるいは、スクリーン内の人影が本物の人影であるかのような──錯覚を受ける。ライヴ・パフォーマンスとスクリーン映像の境を混乱させている点で、この演出は、ビヨンセ「Run The World (Girls)」('11年5月22日、ビルボード・ミュージック・アワード)でも話題になったトリッキーな映像同期型のパフォーマンスと通じるものがある。生演奏と映像を同期させる演出は'90年代から多くのアーティストが取り入れているが、ここへ来て映像の使い方はより高度になり、ライヴ・パフォーマンスと映像の融合はますます“騙し絵”的な様相を強めている。

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エア・ウォーキング(その場歩き)するクラウド

 スクリーン映像でアデュと踊っている男性は、マドンナのバック・ダンサーとして有名なダニエル・クラウド・カンポス Daniel Cloud Campos。アグレッシヴなヒップホップ・スタイルのダンスで見事に曲を盛り上げる。淀みのないシャープで軽やかな動きが素晴らしい。「Love Is Found」の真の主役は彼だと言っても過言ではない(この曲のスクリーン映像の編集も彼の手による)。ダニエル・クラウド・カンポスはダンサーであるだけでなく、映像作品の監督も手掛ける多才な人物である。そして、マイケル・ジャクソン同様、往年のミュージカル映画の愛好家でもある。非常に面白い人物なので、彼については別の記事で詳述することにしたい。

 ヴィデオでは、実際のライヴ映像と、スクリーンに使われているアデュ&クラウドのダンス映像(両脇と下部に黒みが付けられているのが面白い)が編集で上手くミックスされている。曲に合わせていつもより激しい動きを見せるステージ上のアデュも見ものだ。ライヴ映像もスクリーン映像と同じくモノクロで処理されているため、イメージには実際にコンサート会場で見る以上に統一感がある。音声はライヴ音源ではなく、オリジナルのスタジオ版。但し、観客の歓声が重ねられているため、いわゆる擬似ライヴ・サウンドになっている。単なるライヴ映像ではなく、飽くまでライヴ映像を基にしたひとつの音楽ヴィデオ作品として完成されているところが素晴らしい。'11年ツアーのライヴ映像がソフト化される際には、このヴィデオを是非ボーナス収録してもらいたいものだ。


踊るモノクロ・シルエットの系譜

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 一見、斬新な感じがしないでもない「Love Is Found」のパフォーマンスだが、ここで見られるモノクロームの踊る人物シルエットのイメージは、決して新しいものではない。むしろ、非常に古いものだ。せっかく素晴らしいヴィデオが作られたので、ここでこの映像イメージのルーツを簡単に説明しておくことにしたい(これは私が以前から温めている連載企画のネタバレになるので、本当は言及したくないのだが……)


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イヴ・サンローラン「Jazz」(1988)

 まず、私が一番近いと感じるのは、ジャン=バプティスト・モンディーノが監督した“Jazz”('88年発売のサンローランの男性用フレグランス)の最初のテレビCF。'80年代風にアレンジされた軽快な「C'est Si Bon」に乗って、歌手役の若い黒人女性と男性モデルたちが白無地の空間に登場する。コントラストの強いモノクロ映像で、人物像は基本的にシルエットで処理され、画面内に遠近感を強調した構図で配置される。画面上下に黒みを足し、わざわざノイズを加えて古い白黒フィルムの質感が再現されてもいる。歌手役の女性は当時18歳のナオミ・キャンベル(!)、実際に歌っているのはジル・ジョーンズ(!!)、音の制作はトレヴァー・ホーン(!!!)。あらゆる意味でスゴいCFである。全長版は60秒。この激クールな光と影の世界はどうだろう。モンディーノは数多くの傑作音楽ヴィデオを手掛けているが、映像作品における彼の最高傑作はこれしかないと私は思っている。


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ポーラ・アブドゥル「Straight Up」(1988)

 そして、このモンディーノのCFを速攻でパクってデヴィッド・フィンチャーが撮ったのが、ご存じ、ポーラ・アブドゥルの名作ヴィデオ「Straight Up」である。いかにも“頂きました”という感じなのだが、フィンチャーは独自のアレンジを加えて、また一味違うジャジーな傑作を作り上げた。冒頭に登場するポーラのタップ、20世紀前半の黒人フラッシュ・アクトたちを偲ばせる共演ダンサーたちのパフォーマンスも死ぬほどクール。私が愛してやまないヴィデオである。

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シャーデー「Turn My Back On You」(1988)

 白無地の背景にミュージシャンやダンサーがシルエット、もしくは、それに近い形で登場する音楽ヴィデオ──特に'80年代末~90年代初頭の作品──を見たら、大体がモンディーノ「Jazz」の影響だと思って間違いない(確かにあまりにもカッコいいので、パクるなと言う方が無理かもしれない)。シャーデーのシングル「Turn My Back On You」(1988/マシュー・ロルストン撮影)のジャケにしても、モンディーノのCFがなければ絶対に生まれていなかったはずだ。モンディーノが当時のポピュラー音楽の視覚イメージに与えた影響にはとにかく計り知れないものがある。


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『Jammin' The Blues』(1944)

 但し、画期的だったモンディーノの「Jazz」CFにも、実はきちんと元ネタがある。溯ること約半世紀、'44年に写真家のジョン・ミリがレスター・ヤングらをフィーチャーして撮った1巻もの(10分)の短編音楽映画『Jammin' The Blues』がそれだ。その中に、2人のダンサー──メアリー・ブライアント(彼女は映画内で歌も歌っている)とアーチー・サヴェイジ──がリンディ・ホップを踊る場面がある(画像下段中央・右)。踊る男女2人とトランペッターのシルエットが、白無地の空間に遠近感を強調した構図で配置される。モンディーノのCFは、このイメージをデフォルメしたものである。

 『Jammin' The Blues』はジャズ音楽の視覚イメージのスタンダードを設定したばかりでなく、ミュージシャンの撮り方、構図、編集、その他、様々な視覚演出において、現代の音楽ヴィデオにも莫大な影響を与えている歴史的超傑作である。シャーデーの'11年ツアーの「Jezebel」では、楽器を演奏するメンバーたちの様子を捉えた陰影の強いモノクロ映像がスクリーンに映し出されるが(イントロ部分ではサックスを吹くマシューマンのシルエットも見られる)、それも『Jammin' The Blues』の演奏場面(画像上段)の引用に他ならない。


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アステア「Bojangles Of Harlem」(1936/左)、マイケル「Smooth Criminal」(1996/右)

 20世紀前半の作品でもうひとつ特筆すべきは、『有頂天時代(Swing Time)』に登場するフレッド・アステアのソロ・ナンバー「Bojangles Of Harlem」だろう。踊るアステアとその巨大な影が映る壁面の関係は、「Love Is Found」におけるステージ上のメンバーとスクリーンのそれに極めて近い。アステアのシルエットは同一のものが大きさを変えて3体並んでいるが、「Love Is Found」でも同様に、シルエットの分身がスクリーン内に複数登場する場面が見られる。

 以前にも書いたが、このアステアのミュージカル場面は、マイケル・ジャクソンが'96~97年ツアーの「Smooth Criminal」で引用している。ステージ前方に下ろされた巨大な垂れ幕に、マイケルと2人のダンサーの“生シルエット”が投影される。マイケルはライヴ・ステージで「Bojangles Of Harlem」を再現してしまったのだ。

※ちなみに、巨大な垂れ幕にシルエットを投影するマイケルのこの演出は、『Lady Be Good』(1941)に登場する、エレノア・パウエル、ベリー兄弟、コニー・ラッセルをフィーチャーしたプロダクション・ナンバー「Fascinating Rhythm」にもよく似ている。バズビー・バークレーが撮ったこの大傑作ナンバーに関しては、いつかベリー兄弟かバークレーのことを書く時に取り上げたいと思っている(残念ながら、YouTubeには冒頭のコニー・ラッセルの歌唱部分──そこに登場するシルエットが重要なのだが──を端折った不完全な低画質動画しか見当たらない)。


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iPod“シルエット・キャンペーン”のCFシリーズ(2003~)

 ざっと古典的な類似作品を挙げたが、「Love Is Found」の踊るシルエットに最も近いのは、結局、'00年代に放映された一連のiPodのCFかもしれない。iPodを手にしたシルエットの人物像が、カラフルな無地を背景に様々な曲に合わせて踊るお馴染みのあれだ。アメリカの広告代理店、TBWA/CHIAT/DAYが手掛けた一連のシルエットCFは、'03年10月に第一弾(曲はブラック・アイド・ピーズ「Hey Mama」)が公開され、以後、無数のヴァリエーションが作られた。画面内にシルエットの分身が複数登場する点も含め、「Love Is Found」のダンス映像はこれにそっくりだと思う。

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iPodのCF~ボブ・ディラン篇(2006)

 iPodのシルエットCFは背景が鮮やかなカラーであるのが特徴だが、'06年の“ボブ・ディラン篇”では白黒版も作られた(アルバム『MODERN TIMES』とのタイアップ広告)。スツールに座ってギターを弾きながら「Someday Baby」を歌うディランのシルエットと、踊る黒人女性のシルエットが登場する。これはいよいよ「Love Is Found」っぽい。

 しかし、斬新なように見えた一連のiPod CFも、元を辿れば、結局、モンディーノの「Jazz」であり、ジョン・ミリの『Jammin' The Blues』ということになる。シルエットの踊る人物像、コントラストの利いたモノクロ(単色)映像、遠近感を強調した大胆な構図。画面内に人物の分身を複数登場させる映像処理にしても、ミリは『Jammin' The Blues』で既にやっているのである。iPodのCFは、20世紀前半、ジャズに触発されて生まれた光と影の映像美学を、現代的な技術と感覚でアップデイトしたものである。ゆえに、私はiPodのCFを──実際に使われている音楽が何であれ──非常に“ジャジー”だと感じる。


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 「Love Is Found」のパフォーマンスは、上に挙げた作品群をすべて混合したものだと思う。「Jezebel」の演出も踏まえ、それはまず、ミリ『Jammin' The Blues』~モンディーノ「Jazz」という、ジャズ音楽をモチーフにした視覚イメージの系譜で捉えることができる(ジャズはシャーデーの音楽の重要なバックグランドであるし、実際、「Love Is Found」という曲にもその要素は含まれている)。スクリーン映像に関して、特に技術的な点から見た場合、それはiPodのCFに近い。そして、ステージでのライヴ・パフォーマンスという点では、マイケル・ジャクソンにも通じるものがある(ダニエル・クラウド・カンポス自体、完全にアステア~マイケルの系譜に連なるダンサーなので、尚更その印象は強まる。クラウド&アデュのシルエットは、微妙に「In The Closet」のマイケル&ナオミを思わせたりもする)。

 シャーデーは、現代的な映像・舞台技術を使いながら、古典的な踊るモノクロ・シルエットのイメージに新たな生命を吹き込んだ。「Love Is Found」という曲には、ヒップホップ、スペイン音楽、ジャズ、ダブ、ロックといった様々な音楽要素が含まれている。複雑なテクスチュアの曲ゆえ、ヴィジュアルは逆にこのくらいシンプルで正解という気もするし、あるいは、何色にも染まることのできる雑食音楽=ジャズのモノクロームの視覚イメージがこの曲に伴うのは必然なのだ、などと強引に結論付けてみても、あながち的外れではないかもしれない。新しくもなく古くもない、時代を超越した洗練を感じさせる実にシャーデーらしいパフォーマンス。最後は結局、“クール!”のひとことに尽きるのである。


※VEVOの「Love Is Found」ヴィデオには地域別視聴制限がかけられているため、残念ながら日本からは観ることができない。本記事のトップ画像にSadeVEVO(YouTube)の「Love Is Found」への直リンクが張ってあるので、URLをコピーし、適当なダウンローダーで落として鑑賞して欲しい。

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