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まだ恋しくて



 シャーデーによるシン・リジィのカヴァー「Still In Love With You」。ベスト盤『THE ULTIMATE COLLECTION』(2011)収録の3つの新曲の中で一番最初に発表されたのが、フィル・ライノットが書いたこの名バラードだった('11年4月5日。一応、シングルということになっている)。シャーデーにとって「Why Can't We Live Together」(1984)、「Please Send Me Someone To Love」(1994)に続く3曲目のカヴァー作品になるが、ロック・バンドの楽曲を取り上げるのは初めてのこと。

 意外な選曲ではあるが、シャーデーは原曲のフィーリングを残しつつ、ごく自然に自分たちの色に染め上げている。歌詞は、失恋の経験がある人間なら誰でも共感できる“これっきりですか?”な心情をストレートに綴ったもの。哀切で惨めな男泣きバラードを、アデュは独自のブルース感覚で、気怠く淡々と、行間に感情を滲ませるように歌い上げる。後年のシャーデー作品特有の枯淡な趣の中に、往年の艶っぽさが感じられるのが嬉しい。シャーデーの絶好調ぶりを示す名カヴァーだ。


 Still In Love With You
 (Lynott)
 
 I think I'll fall to pieces
 If I don't find something else to do
 This sadness never ceases
 Oh, I'm still in love with you
 My head, it keeps on reeling
 It's got me in a crazy spin
 Darling, darling, is this the end?
 
 何かしていないと
 こわれてしまいそう
 この悲しみは決してやまない
 ああ まだあなたが恋しい
 頭がぐらぐらする
 目が回っておかしくなる
 ねえ もうお終いなの?
 
 Still in love with you
 
 まだあなたが恋しい
 
 They say time has a way of healing
 Dries all the tears from your eyes
 But darling it's this this empty feeling
 That my heart can't disguise
 After all that we've been through
 I try all my best but it's no use
 I guess I just keep loving
 Is this the end?
 
 時が癒してくれると言う
 そのうち涙も乾くと言う
 でも この淋しさだけは
 どうすることもできない
 これまで一緒だったのに
 こんなに想っているのに 駄目なのね
 私はあなたを想い続けるでしょう
 もうお終いなの?
 
 Still in love with you
 
 まだあなたが恋しい
 
 Now it's all over, boy
 There's something I think you should know
 Baby, baby, think it over
 Just one more time before you go
 Call on me, baby
 If there's anything I can do for you
 Please call on me, baby
 Help me see it through
 
 最後にひとつ
 あなたに知っておいてほしい
 行ってしまう前にもう一度
 よく考えて頂だい
 何か私にできることがあれば
 いつでも当てにしてほしい
 いつでも私を思い出してほしい
 あなたの力にならせて

 Still in love with you
 Still in love with you
 Still in love with you
 
 まだあなたが恋しい
 まだあなたが恋しい
 まだあなたが恋しい


 「Still In Love With You」は、『SOLDIER OF LOVE』で使用したイギリスのリアル・ワールド・スタジオにて、'11年ツアーのリハーサル期間中にツアー・メンバーをそのまま起用して録音された。ブルース色の強さも含め、'93年に同じくツアー・メンバーを使って録音されたパーシー・メイフィールドのカヴァー「Please Send Me Someone To Love」とよく似ている。'11年4~5月の欧州ツアーのレパートリーにもなり、コンサート中盤、全く同じ失恋の思いが歌われた「Is It A Crime」を引き継いで見事な流れを作った(6月からの北米ツアーでは残念ながらセットリストから落ちてしまった。ちなみに、「Still In Love With You」の代わりに取り上げられた「Love Is Stronger Than Pride」もまた失った恋人を思い続ける歌である)。ステージでのパフォーマンスを参照する限り、アコギはリロイ・オズボーン、リード・ギターはライアン・ウォーターズ、バッキング・ギターはスチュアート・マシューマンが担当している。

 このシン・リジィ作品は昔からアデュとマシューマンのお気に入りだったという。アデュはこう説明する。

「昔からずっと大好きな曲なの。スチュアートも大好きで。シン・リジィの素晴らしいライヴ版があるんだけど。ツアーのリハーサルをやってる時、レコーディングすることに決めたの。スタジオで2~3回演奏してみて、それで録った。苦もなく仕上がったわ。バンドの皆が参加してるところもいいのよね」(6 July 2011, The Indianapolis Star)

 シン・リジィのオリジナル・スタジオ録音版はアルバム『NIGHTLIFE』(1974)に収録されているが、シャーデーが手本にしたのは、アデュが言及している通り、シン・リジィの後のライヴ版である。スタジオ版と違い、シン・リジィのライヴ版では、シャーデー版と同じくブレイク部分に表題フレーズが入り、より曲の完成度が増している。恐らくシン・リジィのファンが聴いても、シャーデー版にそれほど違和感は覚えないだろう。アデュの歌唱のニュアンスもライノットにそっくりだ。“シン・リジィ版と聴き較べると、フィル・ライノットの歌唱はあなたと似ている気がします。彼から影響は受けましたか?”という質問に、アデュはこんな風に答えている。

「そうでもないわ。彼らの曲はイギリスでもいくつかヒットした。〈Whiskey In The Jar〉とか好きだったわ。彼がやってたのは基本的にはブルースだったでしょう? それがすごく私に合うのよね。フレーズをきつく歌ったりするところとか。私はブルース歌手ではないけれど、似てる感じがするのはそのせいだと思うわ」(同上)

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'11年ツアーで披露された「Still In Love With You」

 シン・リジィはアイルランド、ダブリン出身のバンドだが、実はアデュもアイルランドとは縁がある。'11年5月25日のダブリン公演のMCで明かされたことだが、彼女の母方の先祖(アデュの6代前)はアイルランド人だった。“私の祖父の高祖父はジャガイモ飢饉(19世紀半ば)の際、豚だけ連れて着の身着のままアイルランドから出た。だからこの国は私のルーツなの”という話をしてアデュはダブリンの観客を沸かせている。「Still In Love With You」に対する愛着には、彼女自身のそんなルーツも微妙に関係しているかもしれない。

 シン・リジィをカヴァーするに至った経緯については、スチュアート・マシューマンが更に詳しく説明してくれている。

「イギリスでガキだった頃、僕はずっとシン・リジィのファンで、あの曲が大好きだったんだ。僕らはいつも一緒に音楽を聴いていて、一度あれをシャーデーに聴かせたことがあった。彼女もすごく気に入ってね。で、ツアーのリハーサルをしてる時、ベスト盤にいくつか新曲を入れた方がいいとマネージャーから言われて、シャーデーが“私たちが好きだったシン・リジィの曲、あれ何だっけ?”と。そこで僕らはYouTubeであの曲を見つけて、“こりゃすごい、なんて素晴らしい曲なんだ!”と思ってさ。ツアーのリハーサル中、僕らはあれをスタジオで完全に生で演奏してみた。そしたら、自分たちのレパートリーにできるという手応えがあったんだ。彼女も曲を自分のものにしていたしね」(27 July 2011, The Oakland Press)

 YouTubeで“Still In Love With You Thin Lizzy”と検索すると、'78年3月29日にロンドンのレインボー・シアターで収録された有名なライヴ映像('07年に『Live And Dangerous』としてDVD化)がトップに出てくる。シャーデーのメンバーたちがチェックしたYouTube映像はこれではないだろうか。

 シャーデーの過去のカヴァー曲には、レコード・デビュー前にレパートリーにしていた「Cry Me A River」(ジュリー・ロンドン)、「Be Thankful For What You Got」(ウィリアム・デヴォーン)を含め、いずれも彼らと近い音楽性を持つアーティストの作品が選ばれている。その流れで行くと、シン・リジィとシャーデーというのはあまりにも意外な取り合わせなのだが、これが“ブルース”という共通項ですんなり繋がってしまっているところに私は強く感銘を受けた。“ブルースは絆”──そんなフレーズを思い出させる名カヴァーである。

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