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イケない恋

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 『PROMISE』(1985)冒頭収録、同アルバムからの2枚目のシングルだった「Is It A Crime」。これは'84年ツアーの時点で既に披露されていた楽曲で、ある程度の期間、ステージで温められた後に発表された(初演は'84年7月30日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール公演。'85年7月13日のライヴ・エイドの舞台でも、同年11月のアルバム発売に先駆けて披露されている)。以降、コンサートでは必ず本編最後、あるいはアンコールで演奏され、彼らにとってステージを締めくくる重要レパートリーにもなっている。

 アデュの情感たっぷりのハスキー・ヴォイスはもちろん、S・マシューマンの泣きのサックス、A・ヘイルの渋いピアノ・ソロ、P・デンマンのよく歌うベースと、各メンバーの見せ場もきちんと用意されている。ブラス隊を伴ったジャジーなスロー・バラードで、スケールのデカさはエンパイア・ステート級。“100万ドルのラヴ・ソング”というベタな形容が思いきりハマってしまうような、ちょっとスゴい曲なのである。


 Is It A Crime
 (Adu/Matthewman/Hale)
 
 It may come, it may come as some surprise
 But I miss you
 I could see through, all of your lies
 But still I miss you
 He takes her love, but it doesn't feel like mine
 He tastes her kiss, her kisses are not wine, they're not mine
 
 こんなこと言ったら驚くかもしれないけれど
 あなたが恋しい
 あなたの嘘はすべてお見通しだったけど
 まだあなたが恋しい
 彼女と愛を交わしても 私と交わすのとは違う
 彼女とキスをしても ワインの味わいとも 私のとも違う
 
 He takes, but surely she can't give what I'm, feeling now
 She takes, but surely she doesn't know how
 
 彼女には私のようにあなたを愛せはしない
 彼女にはあなたの愛は受け止められない
 
 Is it a crime
 Is it a crime
 That I still want you
 And I want you to want me too
 
 いけないことなの?
 いけないことなの?
 まだあなたを求めているなんて
 あなたにも私を求めて欲しいなんて
 
 My love is wider, wider than vitoria lake
 My love is taller, taller than the empire state
 
 私の想いは ヴィクトリア湖よりも広く
 私の想いは エンパイア・ステートも越える
 
 It dives and it jumps and it ripples like the deepest ocean
 I can't give you more than that, surely you want me back
 
 飛び込み 飛び降り この想いは深い海のように波打つ
 これ以上あなたを愛せない あなたも私に戻って欲しいはず
 
 Is it a crime
 Is it a crime
 That I still want you
 And I want you to want me too
 
 いけないことなの?
 いけないことなの?
 まだあなたを求めているなんて
 あなたにも私を求めて欲しいなんて
 
 My love is wider than vitoria lake
 Taller than the empire state
 It dives and it jumps
 I can't give you more than that, surely you want me back
 
 私の想いは ヴィクトリア湖よりも広く
 エンパイア・ステートも越える
 飛び込み 飛び降り
 これ以上あなたを愛せない あなたも私に戻って欲しいはず
 
 Is it a crime
 Is it a crime
 That I still want you
 And I want you to want me too
 
 いけないことなの?
 いけないことなの?
 まだあなたを求めているなんて
 あなたにも私を求めて欲しいなんて
 
 It dives and it jumps
 And it ripples like the deepest ocean
 I can't give you more than that
 Surely you want it back
 
 飛び込み 飛び降り 
 この想いは深い海のように波打つ
 これ以上あなたを愛せない
 あなたも縒りを戻したいはず
 
 Tell me
 Is it a crime
 
 教えて
 いけないことなの?


 初めてこの曲を聴いた時、なんてクサい曲なのかと驚いた。“驚くかもしれないけど”と先に言われても、これは実際、誰でも驚くだろう。一体何が“いけないこと”かと思えば、“まだあなたを求めていること”が、と来る。そりゃないぜ。これが思いきりアナクロなジャズ・バラード調で大真面目に歌われるのだからたまらない。これで赤面しなければ嘘だろう。
 ここで私が連想する光景は、都会の夜……高層ビル……夜景の見えるバーのカウンター席に、一人静かに腰掛けているハンサムな中年男。歳は恐らく40前後。煙草を半分くらい吸ってはもみ消し、またすぐ火をつける。飲んでいるのはドライ・マティーニか、でなけりゃスコッチのロック。そして言うまでもなく、カウンターの向こうではバーテンダーが黙々とグラスを拭いている……。もはやコントの設定でもお目にかかれないような光景である。
 
 '80年代というのは、こうしたある種の幻想や嘘が曲がりなりにも効力を持ちうる最後の時代だったと思う(それは、アイドルが排便もセックスもしなかったような時代である)。シャーデーの表現もそうした時代の空気の中でこそ通用し、もてはやされる部分があったことは間違いない。また、本人たちも幾分意識的にポーズを取っていたであろうことは、この曲や「Smooth Operator」のような曲に感じられるケレン味、あるいはシャーデー・アデュの当時の濃いメイクを見るだけでもよく分かる。鯱張りながら不安定な音程で「Is It A Crime」を歌う昔のアデュの姿などを見ると、少し無理に背伸びをしている様子も窺えるのである。

 とはいえ、3作目の『STRONGER THAN PRIDE』以降、ナチュラル志向を強め、メイキャップに頼らない、いわば表現の「すっぴん化」を押し進めていったシャーデーは、この「Is It A Crime」のような、ある意味高尚な曲でさえ地でパフォームできるスケールをいつの間にか身に付けてしまったように思う。'01年のライヴで披露された「Is It A Crime」には、既に何十年も前から存在するスタンダード・ナンバーのような風格すら漂っていた。“この想いはヴィクトリア湖よりも広い、エンパイア・ステートも越える”というクサい喩えも、“まだあなたを愛している”という、人類によって天文学的な回数繰り返されたに違いない台詞も、その時、また真実として輝くだろう。

 こうした古典的トーチソング風の「Is It A Crime」だが、実際、ルース・エティングの'31年のヒット曲「Guilty」(ガス・カーン作詞)が似たような歌詞なので紹介しておこう。

 Is it a sin, is it a crime
 Loving you, dear, like I do?
 If it's a crime then I'm guilty
 Guilty of loving you
 Maybe I'm wrong, dreaming of you
 Dreaming the lonely night thru
 If it's a crime then I'm guilty
 Guilty of dreaming of you

 悪いことなの? いけないことなの?
 こんなにもあなたを愛してしまって
 もしいけないことなら 私は有罪
 あなたを愛したかどで
 間違ってるかも あなたに焦がれて
 ひとり寂しく夜通し焦がれて
 もしいけないことなら 私は有罪
 あなたに焦がれたかどで
 
 別にシャーデーがこの曲をパクったとは思わない。要するに、それだけ昔から歌われてきたことを相変わらず歌っているということである。なぜ昔から歌われているかと言えば、やはりそこに不変の真実があるからだろう。
 ルース・エティングは'20~'30年代に活躍したアメリカの歌手/女優で、私はロバート・パーマーが彼女の「Riptide」(1934)を'85年のアルバム表題曲として取り上げていたことでその存在を知った。ニーナ・シモン、ビリー・ホリデイ、リナ・ホーンらの歌唱で有名な「Love Me Or Leave Me」も、もともとはエティングの代表曲である(「Love Me Or Leave Me」は、ドリス・デイが主演した'55年のエティングの伝記映画の表題にもされた)。


 ところで、これは全くの蛇足だが、個人的に「Is It A Crime」と被る曲がもうひとつあるので、ついでに紹介してみたい。ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの'82年のシングル曲「Hope You Love Me Like You Say You Do」(彼らの2作目『PICTURE THIS』収録)である。

 ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースは、'80年代のいわゆる〈ベストヒットUSA〉世代にとっては説明不要のビッグ・ネームだろう。サンフランシスコ、ベイエリア出身の白人6人組ロックンロール・バンドで、ドゥワップ、R&B、サザン・ソウル、スカなどを下地にしたかなり玄人好みの音楽を、分かりやすい白人的メロディ・センスで聴かせ、MTV受けするキャッチーなヴィデオの力も借りて、'80年代半ばに世界的な大ブレイクを果たした。ブルース・スプリングスティーン、ジョン・クーガー・メレンキャンプなどと並ぶ、当時のアメリカン・ロックの顔とも言える存在である。
 実を言うと、私は小~中学生の頃、このヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの大ファンで、一時はその過去に恥ずかしさを覚えていた時期もあったが、今にして思えば、彼らは黒人音楽の素晴らしさを幼少時の自分に教えてくれた恩人のようなバンドなのだった。
 
 「Hope You Love Me Like You Say You Do(邦題:サンフランシスコ・ラヴ・ソング)」は、ウェット・ウィリーに鍵盤で在籍していたマイケル・デュークがバンドに書き下ろした作品で、タワー・オブ・パワーのホーン・セクション(彼らは'80年代のヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのレコーディング及びステージに同伴)をフィーチャーしたミディアム・バラード。“こんな俺でも愛してくれるかい?”的なストレートなラヴ・ソングで、10数年ぶりに聴き返した時、個人的にそのあまりの良さに驚かされた曲でもある。

 「Is It A Crime」との類似点は、曲全体のコード感や哀愁、三連ビート、ホーン・リフのセンス、イントロからAメロに入る瞬間のブレイクなどで、飽くまで偶然の一致、ないし、単なる空耳の域を出ないのだが、両者を並べて面白いのは、なぜこれほどまでに渋いサウンドが、虚栄と強欲の固まりのようなあの'80年代に売れたのか、ということである。シャーデー・アデュはインタヴューで自分の音楽嗜好を表す際に、“タイムレス”という言葉を好んで使う。「Hope You Love Me Like You Say You Do」も、そして「Is It A Crime」も、発表から20年以上を経て時代の文脈から外れた今、当時とはまた別の、時間を超越したその作品本来の魅力的な素顔を見せているように思うわけである。


 最後に、これは本当にどうでもいいことだが、この「Hope You Love Me Like You Say You Do」のホーン・リフが、ボビー・ウォマック『COMMUNICATION』(1971)からのヒット、アレサ・フランクリン、O.V.ライトも取り上げた「That's The Way I Feel About Cha」のギター・リフと瓜二つであることに、私は随分と後になってから気付いた。ピッチも同じで、パクリ(というか、オマージュ)と断定していいほど似ている。小学生の私には知る由もなかったが……そうか、そういうことだったのか……。ありがとう(?)、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース。

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