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The Sweetest Taboo [video]

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THE SWEETEST TABOO (1985)
Directed: Brian Ward

 『PROMISE』からの第一弾ヴィデオ。まとめて撮影された「Is It A Crime」にストーリーが繋がる続きものの連作として制作された。わざわざ南スペインでロケが行われ、ビスタ・サイズでかなり本格的な映画風の映像に仕上げるなど、『DIAMOND LIFE』時のヴィデオに較べると手間も金もきちんと掛かっているのが分かる。

 別れた男女2人の現在の想いがニューヨークを舞台に交錯する後編「Is It A Crime」に対し、「The Sweetest Taboo」では、2人がスペインで過ごした幸福な日々の追想が中心に描かれる。現在の場所は同じくマンハッタンのロフト=シャーデーのリハーサル・ルームという設定で、時間帯は「Is It A Crime」よりも早い、同日の夕暮れ時。この時は雨が降っていて、これが“静かな嵐(quiet storm)”という歌詞に呼応している。アデュは「Is It A Crime」とは異なる茶色のボレロ&ジーンズ姿で、スペインの回想シーンでも同じ格好で登場。曲の微熱ムードとスペイン・ロケの美しさがマッチした、シャーデー・アデュ主演の恋愛ドラマ前編である。


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 「Is It A Crime」同様、マンハッタンのロフトで曲をリハーサルするシャーデーの様子と、スペインの回想場面を交互に見せながらヴィデオは進行する。

 後編「Is It A Crime」は大きく分けて3つの場面要素──“現在のアデュ(マンハッタンのロフト)”、“現在の元カレ(マンハッタンの街なか)”、“過去の2人(スペイン)”──によって構成されている。これに対して、前編「The Sweetest Taboo」では、“現在のアデュ”、“過去の2人”の2つしかない。その分退屈かというと、そんなことはなく、「Is It A Crime」よりもスペインの回想場面に力を入れることで釣り合いが取られている。そして、この回想場面がなかなかに素晴らしいのだ。

 「Is It A Crime」では元カレによってスペインの日々が回想されるが、ここでは逆にアデュの側から回想されている。その思い出はいずれも2人が幸せだった時のもので、喧嘩の場面を中心とした男の回想とは大きく趣が異なる。

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 一連の回想場面の中で(あるいは、このヴィデオ全体の中でも)ずば抜けて素晴らしいのは、馬に乗ったアデュと、モーターバイク=鋼鉄の馬に乗った彼氏が荒野で追いかけっこをする場面だ。アデュは赤いハンカチを持って馬を駆り、男がバイクでそれを追う。アデュが闘牛士、男が牛の役を務める闘牛ごっこというわけである。このいかにもスペインらしい情熱的な恋の追いかけっこ場面には、単にヴィデオの短い一場面で終わらせるには惜しいほど魅惑的なものがある。

「ニューヨークのロフトをセットにして、バンドで演奏しながら恋人のことを回想するっている設定。スペインのアルメリアでロケをやったんだけど、馬に乗ってるシーンはマカロニ・ウエスタンをやっているみたいな気分だったわ。このアイデアは仲間のスタッフと相談しながら私が決めたの。レコード会社にまかせっきりだと自分で満足するものが出来ないし、なるべく私自身もかかわるようにしているの」(Dec 1985, Adlib)

 “マカロニ・ウエスタンみたいだった”というのは実にもっともなコメントである。アルメリアはヨーロッパで唯一の砂漠地帯を持つ地方で、実際に無数のマカロニ・ウエスタン映画が撮影されたことで有名な場所だ(『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『パットン大戦車軍団』などの大作ハリウッド映画もここで撮影されている)。馬で疾駆するのにこれほど理想的なロケーションもない。

 馬(あるいはバイク)に跨る若い女のイメージに、エロティックなものを感じるのは私だけではないだろう。それは恐らく、馬やバイクがそもそも男の乗り物であり、それが男性そのもの=ペニスのイメージと繋がりやすいものだからだ。アデュを追う“鋼鉄の馬”(興奮した牛)は、深読みすれば、硬直したペニスとして捉えることもできる。
 ともかく、この場面は非常に官能的で、馬を駆るアデュの姿だけでもずっと見ていたい気にさせられる。そしてそれは、馬に乗るアデュの映像をひたすら全編にわたってフィーチャーする傑作ヴィデオ「Never As Good As The First Time」(『PROMISE』からの第三弾ヴィデオ)で見事に実現されてしまうのである。

 また、トラックの運転席で、アデュが男の所有する拳銃を見つける場面もなかなか印象的だ。銃もしばしばペニスの暗喩として用いられるものだが、ここでは男が隠し持つ激しい気性を暗示する小道具として、後編「Is It A Crime」で描かれる2人の破局への伏線のように登場する。そして、ヴィデオは現在のアデュが曇ったガラス窓にスペイン語の“Temor”(=Fear/恐れ)の文字を書く場面で余韻を残して終わる。

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 これら2本のヴィデオで恋人役を演じている俳優については、残念ながら全く詳細が分からない。チョイ悪オヤジ風のハンサム男で、アデュの恋の相手役としてはかなりハマっているように思う(但し、バイクに乗れなかったため、追いかけっこ場面のみ現地調達のスタントが代役を務めたという)。このスペインの恋人との関係にアデュの私生活を重ね見るファンも少なくないだろう。

 ファンには周知の通り、アデュはこのヴィデオの撮影で訪れたスペインで、映画製作者カルロス・スコラ Carlos Scola と恋仲になり、'89年2月に結婚することになる。

「あの男(ひと)に逢った時、不思議な感じがしたわ。あッ、やっぱり出逢っちゃった、という未来の記憶の蘇りがあったの。セカンド・アルバム『PROMISE』のヴィデオ・クリップを作りに、スペインに行ったわ。スペインには以前から深い結びつきを感じていたので、ワクワクして飛行機から降りたのね。そしたら、飛行機から降りてすぐ、その飛行場で、運命の男に逢ってしまったの。お互いに、一目惚れだったわ。彼は映画のプロデュースをしていた。でも、私には彼が何をしていても大した問題じゃなかった。カルロス・スコラという男がいればよかったの。カルロスが、よく私に言ったことがあるの。君は、この国のひとなんだってね。そう、スペインは私にとって特別な場所だった。あの国では、何でも昔から知っているように、自然にふるまうことができた。でも、やっぱり結婚は別だったわ。それまでもいくつか恋をしてきて、自分が結婚という形式には向かないってことくらい知っていた。でも、カルロスは結婚しようと言って、きかなかった。結婚する前に別れるよりは、誰だって結婚してみることを選ぶはずよ」(『STRONGER THAN PRIDE』再発日本盤ライナー掲載、'92年11月に行われた中川ヨウによるインタヴュー)

 2人はしばらくマドリードで生活したが、この関係は長続きせず、アデュは単身でロンドンに戻ることになる。そして、そこで制作開始されたのがブルージーな傑作『LOVE DELUXE』だった。しかし、奇妙なことに、'92年のアルバム発表時になってもスコラとの婚姻関係だけは続いており(正式離婚は'94年)、当時の複数のインタヴューでもそのことが割とさばさばと語られている。

「彼と別れてロンドンに戻ってから……ううん、離婚はしていないの。このままでいいの。離婚してもしなくても、終わりは終わりだから。私が時間をかけないと何ごともできない人だってことは、アルバム作りのペースからも解るでしょ(笑)」(同上)

──誰と結婚したのですか?
「カルロス・スコラというマドリードの人。映画製作者よ。一目惚れだったわ。結婚する前に4年ほど付き合ってたの。断続的な関係だった。一緒にいるより、会ったり会わなかったりしてる時期のほうが長かったかしらね」
──結婚観について最近は? 以前、あなたは言ってましたよね……
「絶対に結婚はしないだろう、とね。人と一緒になるというのは、相手に自分を奉仕することだと思う。でも、私はいまだ結婚するタイプじゃないわ。結婚前も結婚後と同じくらい私は夫を愛してたし。彼が結婚したがったのよ。で、まあ、彼がそうしたいなら、と。関係も良くなるかもしれないし、彼ももっと安心できるだろうし、とね。でも、この有り様よ」
──というと? あなたたちは結婚したわけですよね……
「スペインでね。それから間もなくして私は去った。離婚はしてないわ。でも、一緒に暮らしてはいない。結婚生活は終わったのよ」(December 1992, Details)

「話ぐらいはするわよ。しても1分程度ね。お互い友人関係になれるとは思わないわ。離婚? いや、それに関してはまだちゃんと話してないの。いずれその時が来れば話し合うことになるとは思うけど」(Autumn 1992, Arena)

 困ったことに、このカルロス・スコラという人物についても詳細がよく分からないのだが、IMDbで検索してみると、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983)、『ピンク・パンサー5/クルーゾーは二度死ぬ』(1983)、『ハンドラ』(1984)、『哀愁のエレーニ』(1985)、『コロンブス/大いなる生涯』(1985/テレビ映画)などで、アシスタント・ディレクターのひとりとしてクレジットされているのが確認できる(Carlos Scola Pliegoとされている場合もあり)。恐らく同一人物だろうと思うが、'80年代前半に活動データが集中しており、その後の消息に関しては全く不明。

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ロフト内に飾られている闘牛の絵画

 当時のアデュのスペインに対する惚れ込みようはかなりのものだったようで、マンハッタンのロフト内にも彼女のスペイン趣味を反映した闘牛の装飾がいくつか見られる。「Is It A Crime」同様、このヴィデオには曲が始まる前にちょっとしたイントロ部分があるのだが、ギタリストのゴードン・ハントが部屋に入ってくる冒頭場面で、同曲シングルのジャケ写真を基にした闘牛の絵画が映るのは中でも印象的だ(この絵は「Is It A Crime」で男がロフトに訪れる場面で、再びちらっと登場する)。このヴィデオには、スペインに対するアデュの恋心がぎっしり詰まっているのである。

 結局、ヴィデオのストーリーを地で行ってしまったアデュ。スペインでの恋と破局を描いたこの連作ヴィデオは、アデュにとってかなりほろ苦いものになっているのではないだろうか。

「別れはとても混乱してバタバタしたものだった。彼との関係自体がそういうものだったのよ。すごくリズ・テイラーとリチャード・バートン的でね。お互い愛しすぎてしまったんだと思うわ。そうなると中毒的で、ゲームのような駆け引きごっこになってしまう。とても深く傷つくことになって残念だし、今ではもうあそこに戻れない気がする。スペインと彼を分けては考えられないだろうから」(Autumn 1992, Arena)

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