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Ephraim Lewis──忘れじの閃光



 イーフレイム・ルイス。

 毎年3月になるといつもこの人のことを書こうかと思うのだが、ずっと機会を逸していた。今年は書きたい。ここ数ヶ月、私はちょっとしたきっかけで彼のことを思い出し、その歌声に繰り返し耳を傾けていた。

 彼の『SKIN』というアルバムを記憶している人はどれくらいいるだろう。儚くも美しい白昼夢のようなこのアルバムは、シャーデー『LOVE DELUXE』と並ぶ'90年代初期のイギリスが生んだ孤高の名作として、私に忘れがたい印象を残している。今年2012年は、彼のこの鮮烈なデビュー作(にして最終作)が世に出てちょうど20周年に当たる。いま一度、イーフレイム・ルイスの不滅の魂に触れてみたい。


THE IMMORTAL SOUL OF EPHRAIM LEWIS
イーフレイム・ルイスの不滅の魂


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SKIN
CD: Elektra 7559-61318-2, 1992 (Germany)

Skin / It Can't Be Forever / Drowning In Your Eyes / Mortal Seed / World Between Us / Captured / Summer Lightning / Rule For Life / Sad Song / Hold On

All tracks produced by Kevin Bacon and Jonathan Quarmby for Manna Productions
All tracks written by Lewis/Quarmby, except "It Can't Be Forever" and "World Between Us" by Bacon/Lewis/Quarmby, "Captured" by Lewis, "Summer Lightning" by Quarmby


 このアルバムの特徴をひとことで言い表すのは難しい。イーフレイム・ルイスは、同じく英国出身で同時期に登場したシールとよく比較される。ハイブリッドな音楽性や内省的な雰囲気は確かにシール作品(特に'94年の2nd『SEAL』)に通じるものがあるが、イーフレイムの楽曲や歌唱はシールほどロック寄りではなく、もっとオーセンティックなソウル志向である。後から振り返ると、時期的にも内容的にもちょうどレトロ・ヌーヴォーとニュー・クラシック・ソウルの狭間に位置するような作品なのだが、風合いはアメリカ産のソウル/R&Bとは明らかに異なる。いかにもイギリス産らしいクールな感触があるが、いわゆるUKソウルの範疇には収まりきらない広がりを持つ作品である。プリズムのように光彩を変えるソウルフルな歌声、空間を重視した研ぎ澄まされたサウンド、思索的でありながら詩的情緒に溢れた歌詞、万人に訴えかける美しいメロディ。作風はやや異なるが、その特異な存在感において、私はやはり同年のシャーデー『LOVE DELUXE』('92年11月発売)を引き合いに出さずにはいられない。

 『SKIN』は'92年前半、『LOVE DELUXE』の半年ほど前に発表された(発売日に関しては4月21日、5月19日、6月2日と諸説ある)。日本盤は'92年7月25日発売。ライナーノーツは毎度お馴染みの松尾潔氏。CD帯の謳い文句は“オーティス・レディング、サム・クック、マービン・ゲイ……そしてまた一人歴史に残るヴォーカリストが現れた。それがイーフレイム・ルイス”。随分と大きく出たものだが、実際に『SKIN』に耳を傾ければ、この謳い文句が決して誇張ではないことが分かる。

 アルバムは冒頭の表題曲「Skin」からただならぬ気配を漂わせる。ダビーなシンセ音をバックに“かくまってくれ……(Shelter me)”とイーフレイムが懇願するイントロに続き、地を這うような重いベース&ドラム、サステインの利いたエレキ・ギターが不穏なムードを醸し出す。ドラムを叩いているのはシャーデーの'93年ツアーに参加するトレヴァー・マレル(デズリー、ヨーヨー・ハニー、シャラ・ネルソンらの同時期の作品でも名前が見られる)。「No Ordinary Love」のトラックに「Smooth Operator」のメロディが乗ったようなこの冒頭曲で、イーフレイムはこう歌い出す──“どうしたらひどい苦痛から抜け出せるのか/何も感じないよりマシということもある/俺はもう一度生きたいんだ/俺は公の顔と私的生活をあわせ持つ(I'm a public face with a private life)”。サビで彼は“この肌は己を世界から守るベールに過ぎないのか?”と自問する。『SKIN』には、常套句を並べた口当たりの良いラヴ・ソングや、日常生活を描いた明快な歌は出てこない。彼は、自分という存在、自分と他者の関係、愛、生や死といった形而上のことを考え、それらを感覚的な表現で紡いでいく。深い陰影を帯びた浮遊感のあるサウンドが、彼のやや観念的な言葉に潤いを与える。聴き手は、まるで夜の海原を小舟で漂うように、イーフレイム・ルイスの精神世界を体験することになる。

 グラウンド・ビートでより深く沈み込む2曲目「It Can't Be Forever」。低い地声から官能的なファルセットまで、イーフレイムは様々に声色を使い分ける。ダークで幽玄なサウンドの中で、ベルベットのように艶やかな彼の歌声が重層的に折り重なっていく。“永遠ではあり得ない”と彼がここで歌うのは、恐らく“生”そのもののことだろう。このコーラスと並行して“手遅れになるまで待ってはならない”という啓示が念仏のように唱えられる。得体の知れない緊張感が漂う自己啓発ソング。マーヴィン・ゲイがマッシヴ・アタックと組んだらこんな曲が生まれていたかもしれない。

 1~2曲目を聴く限り、ちょっと変わり種のグラウンド・ビートものという印象も受けるが、『SKIN』はここからどんどん面白くなる。3曲目「Drowning In Your Eyes」は、軽やかでロマンチックなミディアム。浮遊感溢れる幻想的なポップ・サウンドが、“ぼくは君の瞳に溺れていく/海へと漂っていく”という歌詞とも相まって実に気持ちいい。イーフレイムの歌唱は控え目ながらもきめ細やかで、ここでも豊かな表現力を見せる。この曲は当時、ビルボードの総合チャートで72位、R&Bチャートで80位、アダルト・コンテンポラリー・チャートで12位を記録し、彼にとって最大のヒットとなった。

 続く4曲目「Mortal Seed」では、ロック・テイストも盛り込んでスケールの大きな歌唱を聴かせる。ソウル、ポップ、ロックを包括したサウンドはユーリズミックスに近い……と思ったところで、私はこの曲が彼らの「It's Alright (Baby's Coming Back)」にそっくりだということに気付いた(Aメロはそのまま差し替え可能)。実際、『SKIN』というアルバムには、同年に発表されたアニー・レノックスの名作『DIVA』にも通じる、洗練されたブルーアイド的なポップ・ソウル色も強く感じられる。イーフレイムの目指しているのが、人種や性別やジャンルに拘泥しない普遍的なソウル・ミュージックであることが窺い知れる。

 前半を締める「World Between Us」では、心地よいミディアム・テンポのグルーヴに乗って、ホットな──それでいて絶妙に力の抜けた──惚れ惚れとするような歌唱を聴かせる。地声とファルセットを自由に行き来する柔和でグラデーション豊かな歌唱は、まさにマーヴィン・ゲイを彷彿させる。ここまで来れば、イーフレイムが並大抵の歌手でないことは誰の目にも明らかだろう。

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イーフレイム・ルイス(左)、マーヴィン・ゲイ(中)、ナット・キング・コール(右)

 イーフレイム・ルイスは'68年にバーミンガムの信心深い家庭に生まれ、ゴスペルに親しみながら育った。同時に、マーヴィン・ゲイとナット・キング・コールから多大な影響を受けたという(“ぼくが最初にインスピレーションを受けたのが彼ら2人だ”という本人の発言が日本盤ライナーで紹介されている)。音楽好きの父親の下、幼少時に“ルイス・ファイヴ”なる兄弟グループを組んでいたこともあるイーフレイムは、高校卒業後、音楽業界へ進むことを考えて録音スタジオでバッキング・ヴォーカリストの仕事をするようになる。そして、'90年(22歳)、シェフィールドのアクシズ Axis というスタジオで、『SKIN』のプロデューサーとなるケヴィン・ベーコンとジョナサン・クォンビーの2人に見出される。

 アクシズは、シェフィールド出身の4人組ニューウェイヴ・バンド、コムサット・エンジェルズによって設立されたスタジオ。ケヴィン・ベーコンは同バンドのベーシストだった人物である。彼はジョナサン・クォンビーとチームを組み、後にフィンリー・クェイの諸作などを手掛けてプロデューサーとして大成功を収めることになる(マンナ Manna 名義でも活動)。このチームが最初に手掛けたアーティストがイーフレイム・ルイスだった。

 『SKIN』が発表された'92年は、アメリカでメアリー・J・ブライジの1st『WHAT'S THE 411?』が出た年でもある。ヒップホップとソウルの境界線が急速に消失しつつあった時代に、ベーコン&クォンビーはヒップホップの代わりにダブやアンビエントの要素を積極的に取り入れ、全くイギリス的としか言いようがない刺激的なR&Bサウンドを作り上げた。ソロ楽器にソプラノ・サックス、ミュート・トランペット、フルートなどを用い、随所にさり気なく上品なジャズの意匠が加えられている点もイギリスらしい。きめ細かな空間的なサウンドが、イーフレイムの洗練されたスピリチュアルなヴォーカルと完璧に合致し、実に濃密な世界が生まれている。アルバムに収録された10曲は、いずれもイーフレイム、ベーコン、クォンビーによって共作されたオリジナル曲。『SKIN』は彼らの一枚岩の結束が生み出したアルバムだった。

 イーフレイムはアルバム制作をこう振り返る──“ぼくは音楽にソウルやゴスペルの要素を入れた。ジョン(ジョナサン・クォンビー)はもっぱらジャズの人だから。彼のヒーローといったら、マイルス・デイヴィスにビル・エヴァンスなんだ。ぼくたちの間には、音楽の趣味を寄せ集めたポプリがあるのさ。レゲエのリズムを刻むベース・ギター、ジャズのコード、ソウル・ヴォーカルといった具合にね。特に計算したわけじゃないけれど、ただ自然にそうなったんだ”(『SKIN』日本盤ライナーノーツ)。

 アルバムは後半、更に深みを増していく。「Captured」はイーフレイムが単独で書いた作品。ベースが怪しくうねるダビーでひんやりとした空間に、イーフレイムの赤裸々な歌声が響く。真夜中の寝室での告白を聞かされるようなこの異様なまでにインティメイトな感覚は、ジョージ・マイケル『FAITH』やプリンス『SIGN "O" THE TIMES』の世界に近いものがある。感情の起伏をそのままなぞっていくようなソウルフルなメロディも美しく、彼がソングライターとしても非凡な才能を持っていることがよく分かる。私の一番のお気に入り曲だ。

 シンプルなサウンドで聴かせる穏やかなスロー「Summer Lightning」も素晴らしい。揺れ動く心模様を瑞々しい自然の情景に重ねた歌詞が秀逸で、イーフレイムの情感豊かな歌唱と相まって、何とも不思議な感動を喚起する名曲になっている。ゴスペル的な高まりを見せる終盤の展開も素晴らしい。ジョナサン・クォンビーが単独で書いた作品だが、リリカルでスピリチュアルな世界は見事にイーフレイムの個性にハマっている。彼はアルバムのほぼ全曲をイーフレイムと共作し、抜群の相性の良さを見せている。

 アンビエント・ダブ・ソウルとでも言うべき「Sad Song」は、アルバムの中で唯一三人称体で書かれた曲。ブルーにこんがらがった孤独な男女の姿を描いたメランコリックで美しいスロー・ナンバーだ。

 これらスロー/ダウナー系の合間に登場するアッパー系の2曲──クールなファンキー・ソウル「Rule For Life」、アルバムを締めるゴスペル・ソウル「Hold On」──も実にカッコよくキマっている。ポップ~ロック・フィールドも視野に入れたこのフレッシュなクラシック・ソウル感覚は、当時、間違いなくテレンス・トレント・ダービー以来の衝撃だった。この非凡なアルバムを“捨て曲なし”という常套句で褒めるのは歯痒いが、『SKIN』はまさしくそれである。どの曲も聴けば聴くほど素晴らしく、何度聴いても新鮮な感動を覚える。

 テープを耳にしたElektraレコードの上層部は、直ちにイーフレイムと契約を決めた。周囲の期待や批評家たちの評価は高かったものの、『SKIN』は当時、セールス面であまり大した成績を残せなかった。理由はよく分からない。ヒップホップに敢えて依拠しない野心的なサウンドが時代の流れや嗜好と合わなかったのかもしれないし、あるいは、アルバムに漂う内向的・観念的なムードが一般のリスナーには取っつきにくかったのかもしれない(シングル曲「It Can't Be Forever」の奇妙なヴィデオを見ると、確かにあまり売れるような気はしない)。しかし、『SKIN』はどう聴いても傑作なのである。登場する時期がもう少し早ければ、彼はテレンス・トレント・ダービーやレニー・クラヴィッツ、あるいはオマー並の成功を収めたかもしれない。もう少し遅ければ、ひょっとすると“イギリスのディアンジェロ(またはマックスウェル)”にもなれたかもしれない。イーフレイムはそれくらい強烈な個性と高いポテンシャルを持ったアーティストである。時代という足枷から解放された時、このアルバムの素晴らしさはより明白になるだろう。『SKIN』には、マイケル・ジャクソン『DANGEROUS』の後半部分にも通じる、時代やジャンルを超越した普遍的なソウル・ミュージックが詰まっている。不遇のネオ・ソウル歌手=イーフレイム・ルイスを、デビューから20年経った今、多くの音楽ファンに発見して欲しい。


MARCH 18, 1994, LOS ANGELES

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 '94年3月18日、ロサンゼルス。朝の7時頃、ロス市警に“裸で奇行をしている男がいる”という通報が入った。場所はハリウッド、フラー・アベニュー1710番地にある小さな4階建てアパート。“裸の男”はイーフレイム・ルイスで、アパートは当時、彼がアメリカで住まいにしていた場所だった。

 現場に警察が到着すると、イーフレイムは取り乱した様子でアパートの外壁を登り始めた。バルコニーを飛び移りながら横や上に移動し、どんどん建物をよじ登っていった。彼は歌を歌い、眼下の警官たちに“黙れ!”と叫んでいた。最上階のバルコニーに辿り着くと、彼はアパートの一室のガラス戸を割り、その破片で自分の腿を何度も突き刺した。それから間もなく、イーフレイムはバルコニーから転落、あるいは、飛び降り、4階下の地面に頭部を強く叩きつけられた。彼は現地の病院に搬送され、脳死状態でしばらく延命したが、同日の午後11時55分、帰らぬ人となった。まだ20代半ばという若さだった(誕生日が不明のため享年は特定できないが、'68年生まれなので25~26歳ということになる)。

 イーフレイムが奇行に及んだ理由は分からない。家族や友人によると、彼は薬物に対して否定的だったそうだが、死の数日前からメタンフェタミン(覚醒剤)を常用していたことが後に判明している。実際、検死ではイーフレイムの体内から微量のアンフェタミンが検出された。但し、奇行の裏付けになるほどの量ではなかったという。
 また、その死が事故だったのか自殺だったのかも明らかでない。警察によると、アパートのガラス戸を割った際、イーフレイムは室内に潜入したという。ガラスの破片で住人を傷つける恐れがあるため、警官はスタン・ガンで2度にわたり射撃を行ったが、イーフレイムに影響はなかった。その後、彼は室内からバルコニーへ戻り、勝手に転落したというのが警察側の主張である。一方、彼は室内に入らなかったという目撃証言もあり、警官の射撃が原因でバルコニーから転落した疑いも残されている。結局、彼が転落に至った直接の原因は不明のままである。真相が明らかになることは、恐らく永遠にないだろう。

 死の6週間ほど前から、イーフレイムはElektraの計らいにより、グレン・バラード(!)と曲を書くためにイギリスを離れてロサンゼルスへ来ていた。彼の音楽人生はまだ始まったばかりだった。

 また、私生活においてもイーフレイムの人生は大きく開かれようとしていた。死の1年前、彼は長く付き合っていた女性と別れ、男性の恋人と交際を始めた。ロサンゼルスでも彼はゲイの集まるスポットに通い、自分の新たなセクシュアリティを謳歌していたようだ。彼はパートナーの男性に“ぼくはやっと完全な人間になれた”と言い、黒人コミュニティで前向きな黒人ゲイとしてのロールモデルになりたい、とも話していたという。

 イーフレイムの変死や私生活を巡るこれらの話は、英タブロイド紙、The Mail On Sundayの'95年1月8日号に掲載された詳細なルポタージュ記事を参照している。“黒いジョージ・マイケル”──この記事を読むと、そんなフレーズも思い浮かぶ。但し、自分のアイデンティティを模索するような『SKIN』の歌世界を、彼の潜在的なセクシュアリティと結びつけて理解するのは短絡だろう。自分の心の淵を深く覗き込み、精神を開放して前進しようとするポジティヴな姿勢こそ、イーフレイムの歌を感動的なものにしているということを忘れてはいけない。カミングアウトした後も、彼はきっと同じように普遍的な素晴らしい歌を歌ったと思う。あまりにも多くの可能性を残したまま彼は去ってしまった。


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Ephraim Lewis on the Late Show 1992
Performance: It Can't Be Forever / Summer Lightning

 最後に、イーフレイム・ルイスの貴重なライヴ映像を紹介しておきたい。『SKIN』発表当時、テレビ番組に出演した時のパフォーマンスである。バンドを従え、完全生演奏で「It Can't Be Forever」「Summer Lightning」の2曲を披露している。YouTubeでこの映像を初めて見た時、私は言葉を失った。そこに記録されているのは、紛れもなく“天才”の姿だった。ファンはもちろん必見だが、この映像は彼を知らない人にこそ見て欲しい(この記事を読んでイーフレイム作品を聴いてみようかと思っている人は、まず上の2つのリンクをクリックして彼の生歌唱を聴いて欲しい)。

 マッシヴ・アタック以上に重く妖しい「It Can't Be Forever」も強烈だが、凄いのはこれに続いて歌われる「Summer Lightning」だ。この剥き出しの歌声。何という表現力だろう。人は声だけでここまで多くを表現できるのかと感嘆する。とにかく天才としか言いようがない歌唱である。彼が類い希な歌手だったことがはっきりと分かる。

 「Summer Lightning」で主人公の“ぼく”は、街角に佇み、空を見上げている。雨雲が通り過ぎていく大空の下、“ぼく”は夏の稲妻を掌に握りとめる。“夏の稲妻”が何を暗喩しているのかは分からない。恐らくそれは、天啓、閃き、インスピレーションのようなものだろう。失意や混乱の中で、“ぼく”は自分が信じることのできる何かを掴む。それは“真実”と換言することができるかもしれない。上手く説明することができないのだが、私はとにかくこの歌が大好きだ。最後にイーフレイムはこう歌う。

 “ぼくは夏の光を握りしめる 1日だけ この掌の中に”
 
 この歌を聴く時、私は“夏の稲妻”という言葉にいつもイーフレイムという歌手の存在を重ねてしまう。彼は私の心を稲妻のように打ち、消えた。イーフレイム・ルイスは、まさしく刹那の閃光だった。



EPHRAIM LEWIS: NON-ALBUM TRACKS

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 おまけ。“イーフレイム・ルイスが足りない!”という熱い人のために、『SKIN』以外で聴けるイーフレイム音源のデータをまとめておく。彼はアルバム1枚しか残していないが、シングル盤等でアルバムのアウトテイクやリミックスを聴くことができる。中にはマニア以外も必聴の名作もあるので要注目だ。アルバム未収トラックは全部で10曲ある(エディット版を除く)。私はこれらを1枚のCDにまとめ(計51分)、『SKIN』とあわせて愛聴している。さあ、君も全部集めよう!


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SKIN
CD5": Elektra EKR163CD 7559-66321-2, 1992 (Germany)
Skin (3:50) / Skin [Shiny Black Boots Mix] (5:46)* / Skin [Undaya Mix] (5:16)* / World Between Us [Monasterial Mix] (4:34)

* Remixed by The Tu Bees for Manna Productions


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IT CAN'T BE FOREVER
CD5": Elektra EKR146CD 7559-66426-2, 1992 (Germany)
It Can't Be Forever [Edit] (4:30) / It Can't Be Forever [Remix] (4:42) / Best Of Every Year (4:26)* / It Can't Be Forever [Medici Mix] (6:01)

* Produced by Kevin Bacon and Jonathan Quarmby; written by Lewis/Quarmby


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DROWNING IN YOUR EYES
CD5": Elektra EKR151CD 7559-66397-2, 1992 (Germany)
Drowning In Your Eyes (4:12) / Drowning In Your Eyes [Flotation Mix] (5:24)* / Dreams From The Trees (4:36)**

* Remixed by The Tu Bees for Manna Productions
** Produced by Kevin Bacon and Jonathan Quarmby; written by Lewis/Quarmby


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WORLD BETWEEN US
CD5": Elektra 7559-66384-2, 1992 (Germany)
World Between Us (4:49) / World Between Us [Monasterial Mix] (4:34) / World Between Us [De Isaac Mix] (4:59)* / Dreams From The Trees (4:36)**

* Remixed by The Tu Bees for Manna Productions
** Produced by Kevin Bacon and Jonathan Quarmby; written by Lewis/Quarmby


 『SKIN』からは計4曲がシングル・カットされ、それぞれの盤にアルバム未収トラックが収録されている(掲載順序は単にアルバムの曲順に倣ったもので、必ずしも発売順ではないことを断っておく。型番を見ても順序はよく分からない)。
 リミックス群は、ビートを強調してクラブ色を強めたものと、ビートレスでアンビエント風にしたものの2パターンがある。ファンならどれも楽しめるだろう。熱い展開を見せるアシッド・ジャズ調の「Skin (Shiny Black Roots Mix)」が特に聴き応えあり。
 目玉は何と言っても2曲のアルバム・アウトテイク。いずれもイーフレイムとクォンビーの共作によるオリジナル曲だ。2枚に収録されている「Dreams From The Trees」は、エッジ(U2)風のディレイ・ギターが印象的なニューウェイヴ調の作品。「Best Of Every Year」は爽快感溢れるポップなアップ・ナンバー。アルバムに収録された10曲に較べるとやや落ちるが、いずれも質は高く、イーフレイムのポテンシャルの高さが窺い知れる。2曲ともロック色が強く、シールとかなり作風が被っているが、ルイス/クォンビーの書く楽曲はシールよりずっと明快である。どうして売れなかったんだ?!


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MADE IN AMERICA
CD: Elektra 61498-2, 1993 (US)
I Know I Don't Walk On Water

Performed by Laura Satterfield and Ephraim Lewis
Produced by Peter Asher; written by Laura Satterfield and Ira Walker


 ウーピー・ゴールドバーグ主演『メイド・イン・アメリカ』のサントラ盤。アルバム未収曲の中で最大の聴きものが、ここに提供された「I Know I Don't Walk On Water」である。一緒に歌っているローラ・サターフィールドはリタ・クーリッジの姪っ子(リタの姉、プリシラ・クーリッジの娘)で、曲も彼女自身がアイラ・ウォーカーという黒人ソングライターと共作したものだ。ここで聴けるイーフレイムの歌唱は絶品である。ゴスペル調の楽曲、静謐で温もりのあるルーツ・ミュージック風のサウンドも実に深みがある。あまり知られていない作品だと思うが、これはほとんど奇蹟の名曲である。一人でも多くの音楽ファンに聴いて欲しい。発表されている中では、この曲がイーフレイム・ルイスの最後の録音ということになるだろう。悲劇が起こらなければ、彼はその後、一体どんなアルバムを作っていただろうか?



追記('12年6月28日):
 この記事を書いた少し後、英Blues & Soul誌、'92年7月28日号(617号/エリック・B&ラキム表紙)を入手した。そこにはイーフレイム・ルイスの素晴らしいインタヴュー記事が掲載されている。『SKIN』日本盤のライナーで紹介されているイーフレイムの発言の出典は、すべてこのBlues & Soul誌の記事である。そこでイーフレイムは『SKIN』収録曲についてひとつひとつコメントもしている。わずか1ページ半の短い記事ではあるが、バイオ情報も含め、彼に関する決定的なテキストと言っていいと思う。そこから新たに得た情報を拙記事に反映させることをしばらく考えていたが、文章の流れが破綻してしまうため、結局、加筆は断念した(書く前に入手すべきだった)。
 その代わり、というわけでもないが、ハムダン・アル・アブリという素晴らしいソウル歌手に関する記事を書いた。私にイーフレイム・ルイスを思い出させ、この追悼記事を書くきっかけを与えた歌手である。イーフレイムが好きな人は絶対に気に入ると思う。是非、チェックして欲しい。


Hamdan Al-Abri──中東より魂(ソウル)をこめて

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