2017 081234567891011121314151617181920212223242526272829302017 10

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

憎みきれない女たらし

Sade_Operator.jpg

 '84年9月発売の3枚目のシングル曲「Smooth Operator」。『DIAMOND LIFE』(1984)冒頭に収録された初期シャーデーを代表する作品。そのアルバム名はこの歌詞の冒頭の一節から取られた。実はこの曲自体もともと「Diamond Life」というタイトルだったが、発売までに「Smooth Operator」と改題されている。最も有名なシャーデー楽曲のひとつであるだけでなく、初期の彼らの特徴が分かりやすく表れている点でも、この曲はシャーデー屈指の代表曲に数えられる。

 ラテン調のリズムに、煙草で煙った安酒場を想起させずにはおかない物憂げなお色気サックス。どこまでもクサい哀愁のメロディ。それを歌うボサノヴァ風のヘタウマ脱力ヴォーカル。かつての日本のムード歌謡にも通じるこの曲のフックは、歌詞に耳を傾けるとより明快になる。


 Smooth Operator
 (Adu/St. John)
 
 He's laughing with another girl
 And playing with another heart
 Placing high stakes, making hearts ache
 He's loved in seven languages
 Jewel box life diamond nights and ruby lights, high in the sky
 Heaven help him, when he falls
 
 女といちゃつく彼
 また別の娘を玩んでいる
 火遊びをして 女心を傷つける彼は
 七ヶ国語で愛されている
 宝石箱の生活 ダイヤの夜 ルビーの輝き 天にきらめく
 神さま 墜ちる彼に救いの手を
 
 Diamond life, lover boy
 He move in space with minimum waste and maximum joy
 City lights and business nights
 When you require streetcar desire for higher heights
 
 ダイヤの生活 不埒な男
 彼は最小限の労力で最大限の悦楽を得る
 街の灯 お仕事の夜
 欲望という名の電車で更なる頂上を目指すなら
 
 No place for beginners or sensitive hearts
 When sentiment is left to chance
 No place to be ending but somewhere to start
 
 初心者 純情なハートはお断り
 運まかせの感情に
 終点はなし またひとりでに走り出す

 No need to ask
 He's a smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator
 
 問答無用
 彼は女たらし
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし
 
 Coast to coast, LA to Chicago, western male
 Across the north and south, to Key Largo, love for sale
 
 大陸を横断 LAからシカゴへ 西の男
 南北を縦断 キー・ラーゴへ 愛の大売り出し
 
 Face to face, each classic case
 We shadow box and double cross
 Yet need the chase
 
 男と女の大一番 またいつものゲーム
 牽制し合い 裏切り合い
 それでも懲りずに追っかけ合う
 
 A license to love, insurance to hold
 Melts all your memories and change into gold
 His eyes are like angels but his heart is cold
 
 恋のライセンス やり直しは自由
 過去の記憶は解き放たれ 黄金へと変わる 
 彼の瞳は天使のよう けれど心は冷たい
 
 No need to ask
 He's a smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator
 
 問答無用
 彼は女たらし
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし
 
 Coast to coast, LA to Chicago, western male
 Across the north and south, to Key Largo, love for sale
 
 大陸を横断 LAからシカゴへ 西の男
 南北を縦断 キー・ラーゴへ 愛の大売り出し
 
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 Smooth operator, smooth operator
 
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし
 口説き上手の女たらし


 ご覧の通り(No need to ask)、手の早いスケこまし、男女の恋の駆け引きを綴ったとても分かりやすい歌である。話者の女の感情は詞の中に直接表現されてはいないが、他の女と同様、この遊び人に捨てられたことは間違いない。

 "Smooth Operator" というのは、「(手際よく目的を果たす)ヤリ手」のことで、文脈によって「詐欺師、薬の売人、にわか成金」など、いけ好かない要領のいい輩を意味する表現。ここでは言うまでもなく「狡猾なプレイボーイ」のこと。

 ちなみに、“今までであなたが出会った一番のヤリ手男(smoothest operator)は?”というインタヴュアーの問いに対し、かつてシャーデー・アデュは“私の盲腸を取った人”と答えて質問をかわしたことがあった("operator" にはもちろん「執刀医」の意味もある)。ということは、アデュの右下腹部にはやはり手術跡があるのだろうか……などと、ヘソ出し衣装のアデュを見る目が微妙に変わるような話である。

streetcarkey_largo 閑話休題。
 ここには“君の瞳に乾杯”的な、気障でクサいクリシェの数々が狙いすましたように折り込まれている。"City Lights" はチャップリンの恋愛悲喜劇、"Streetcar Desire" は『欲望という名の電車』の救いがない肉欲を想起させる。“七カ国語で愛される”“大陸を股にかける西の男”というくだりは、どことなく往年のスパイ映画のような香りをふりまくし、"Key Largo"(フロリダ半島突端の島)という地名に関して言えば、そこを舞台にした'48年の同名フィルム・ノワールもあった(ハンフリー・ボガート&ローレン・バコール主演作のひとつ。キー・ラーゴ島がギャングの取引場所という設定。ちなみに、バコールはシャーデー系?の美人で、私はあの低いハスキーな声が大好きだ)。そして、"Love for Sale" は言うまでもなくコール・ポーター作のスタンダード、皮肉な売春ソングのタイトルである。

 そもそも "Diamond Life" というフレーズからしてかなりベタだ。英語のボキャブラリーが少ない日本人中学生が、お洒落で高級なフレーズを考えようとして無理やり捻り出した表現のようでもある。冒頭の語り演出もこの曲のクサさを助長している。こうした語りの挿入は昔のポピュラー・ソングには珍しくないが、'80年代になってこれをやるというのはなかなか度胸の要ることかもしれない。
 
 シャーデーは、誰も恥ずかしくて口に出せないようなクサい台詞、使い古された必殺フレーズを臆面もなく持ち出し、いつの世も変わらない普遍的な男女の感情をさらりと歌にしていた。そして、シャーデー・アデュの声とルックスには、それを再び輝かせるだけの格が備わっていたように思う。もっとも、そのキマりすぎのイメージが先行し、'80年代、彼らはバブル前夜の日本で単なるお洒落もの/雰囲気ものとして消費されることにもなる。しかし、彼らが「本物」だったことは後の作品の質の高さが証明し続ける。

 この曲が書かれたのはデビューの数年前。共作者のレイ・セントジョン Ray St. John は、シャーデーの前身(母体)バンド、プライド Pride のギタリストで、この曲はそのプライド時代からのレパートリーだった。シャーデーのアルバム収録曲中、セントジョンとの共作曲はこの「Smooth Operator」1曲のみで(他にはシングルB面作品にセントジョン共作曲がある)、メロディのセンスはよく聴くと他と異なるのが分かる。歌詞にも言えることだが、この曲はシャーデー作品にしてはかなりあざとく作り込まれているきらいがある。狙いすぎ、と言ってもいいかもしれない(アデュの書く詞は通常もっと感情的である)。

 この曲がシャーデー作品としてやや異質である理由は、アデュ本人がインタヴューでも明かしている。

──あなたが一番最初に書いた曲は?
「〈Smooth Operator〉ね。レイ・セントジョンと書いた曲よ。私はメロディをレイと一緒に固めて、出だしの歌詞を書いた。今まで作った中で、歌詞を全部自分で書いてない唯一の曲ね。なんかこれが一番有名になっちゃったんだけど!
 レイは散々よ。ヨーロッパのインタヴューで彼の名前を出すと、いつも "Racing John" って書き留められてしまうんだから。……ちょっとカッコいいステージ・ネームみたいよね」(26 Oct 1985, No.1)

 フックは強烈でヒット性は高く、長年温めていたことも頷ける曲だが、ギミックを駆使したこの手の作品は、キャリアを重ねるごとにアデュにとっては少々歌いづらいものになっている気がしないでもない。しかし、シャーデーというのは、そもそもこうしたポップスのスタンダード/王道を目指し、そこに自らを順応させながら成長してきたバンドでもあるだろう。「Smooth Operator」は、そんな彼らにとって進むべき方向性を明確に定めた道標的な楽曲と言えるかもしれない。

 ある意味、シャーデーというのは「型」の音楽である。そこには聴き手が気持ちよくハマれるある種の滑らかさが常にある。その情緒はどこか演歌の世界にも通じるものだ。演歌とソウルの類似性はよく指摘されるが、シャーデーもまた例外ではないだろう。

 もちろん、シャーデーの歌は演歌というにはクールだし、また、彼女は演歌歌手ほどに歌も上手くない。しかし、そこには常套句にまみれた男女の物語を非常にオーセンティックな歌として息づかせる、特定の歌手にしか為しえない、ある音楽的なマジックが確かに働いているのである。この「Smooth Operator」を訳出しながら、"Face to face, each classic case" の部分で私の脳裡に浮かんだ日本語フレーズは“男と女のラブゲーム”だったりもするのだが……(この曲に登場する遊び人の男の名前は、日本人だったら間違いなくヒロシだろう。この曲もまた、そんなヒロシに騙された女の歌なのである)。実際、海外でシャーデーはKARAOKEの定番としても絶大な人気を誇っている……という話を私は聞いたことがないが、そうであっても何も不思議はない。

 女のコテコテ情念をスマートに歌い上げる歌姫、シャーデー・アデュ。
 シャーデーはイギリスが生んだ演歌歌謡なのか?!

| Songs | 00:19 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT