2017 07123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 09

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Bring Me Home | Live 2011


BRING ME HOME | LIVE 2011
DVD+CD: Epic 88691977329, 22 May 2012 (US)
BD: Epic 88691977369, 22 May 2012 (US)


DVD/BD: Soldier Of Love / Your Love Is King / Skin / Kiss Of Life / Love Is Found / In Another Time / Smooth Operator / Jezebel / Bring Me Home / Is It A Crime / Love Is Stronger Than Pride / All About Our Love / Paradise / Nothing Can Come Between Us / Morning Bird / King Of Sorrow / The Sweetest Taboo / The Moon And The Sky / Pearls / No Ordinary Love / By Your Side / Cherish The Day | Extras - How Do You Say Thank You? / In The Trenches / 3 Seconds

CD: Soldier Of Love / Skin / Kiss Of Life / Love Is Found / In Another Time / Jezebel / All About Our Love / Paradise - Nothing Can Come Between Us / Morning Bird / The Moon And The Sky / No Ordinary Love / By Your Side / Cherish The Day

Directed: Sophie Muller
Film produced: Grant Jue, Roger Davis, Sophie Muller
DVD audio mix engineer: Mike Pela
Mastering: Mazen Murad at Metropolis
Director of photography: Steven Chivers
Colourist: Tom Russel for Prime Focus
Editors: Sophie Muller, Sade Adu, Steve Rees
Head of post effects: Ross McDowell
Package design: Jeri Heiden for Smog Design Inc.



 '11年4月29日~12月16日に世界中で全106公演を行ったシャーデーの10年ぶりのコンサート・ツアーを記録したライヴ映像作品。彼らにとって『SADE LIVE』(1994)、『LOVERS LIVE』(2002)に続く3本目のライヴ映像作品になる。コンサートの22曲を全て収録したDVD+14曲を抜粋したCDの2枚組セットと、CDが付属しないブルーレイ版の2種類が発売された。北米では'12年5月22日、その他の地域では6月11日発売(日本盤は6月13日発売。ブルーレイ版は発売なし)。

 北米版のDVD(リージョン0)+CDセットは、スリップケース付きのトールケース大デジパック仕様。オンステージ/オフステージの写真、クレジット、アデュの謝辞が掲載された10ページの美麗なブックレット(127mm×178mm)が封入されている。映像には、コンサート本編、特典の舞台裏ドキュメンタリー共に、歌詞部分を除いて7カ国語(英、仏、伊、葡、独、波)の字幕が付く。私はBDプレイヤーを持っていないのでDVD+CD版を購入したが、再生環境のある人は、照明や舞台美術の美しさがより精細・鮮明に再現される北米発売のBD版を迷わず購入するべきである(そこそこの英語力さえあれば、MCや会話部分も英語字幕を頼りに十分理解できるだろう)。

 監督は、コンサートの演出(舞台監督)も務めたシャーデーの長年の盟友、ソフィ・ミュラー。ミックスもいつも通りマイク・ペラが手掛けている。実際にショウを観た人も、観られなかった人も必見の作品であることは言うまでもない。ファンにとってまたひとつ大きな宝物が増えた。


BMHL1.jpg
「Soldier Of Love」

 コンサートではシャーデーの長いキャリアから精選された22曲が披露される。最新曲を中心にした第1部(「Soldier Of Love」~「In Another Time」)、'80年代の作品を中心にした第2部(「Smooth Operator」~「Nothing Can Come Between Us」)、'90年代以降の作品を中心にした第3部(「Morning Bird」~「By Your Side」)、そして、アンコール「Cherish The Day」まで、約2時間の中にバンドの27年間の歩みが凝縮されている。巨大なLEDスクリーンや透過スクリーンが用いられ、何もないステージ空間が曲ごとにガラリと様相を変えていくところがショウの大きな見所である。'01年ツアー以上に凝った視覚演出はもちろん、力強さを増したアデュのヴォーカル、不動のメンバーたちによる完成度の高い生演奏も素晴らしい。シャーデーの魅力が満載された、まさに集大成と呼ぶに相応しい究極のステージである。

 ショウ自体の内容については、私が実際にラスベガスで観た時の体験記や、過去のツアー関連記事などでさんざん書いているので、ここでは繰り返さない。今回は、実際のコンサート体験や前作『LOVERS LIVE』との比較も交えながら、飽くまで『BRING ME HOME』というライヴ映像作品について書くことにしたい(特典収録の舞台裏ドキュメンタリーについては別記事を設ける)。


WHERE DID THEY FILM IT?

BMHL2.jpg
「Love Is Stronger Than Pride」

 まず、収録場所について。エンドロールには“Filmed at”として“Citizens Bank Arena, Ontario, California”、続けて、“Special Thanks to”として“MGM Grand Garden Arena, Las Vegas, Nevada”と“Honda Center, Anaheim, California”という計3会場がクレジットされている。オンタリオ公演は'11年9月4日、ラスベガス公演はその前日の9月3日、ホンダ・センターでのアナヘイム公演は8月30日と31日の2日間行われた。このクレジットから察するに、ライヴ映像はオンタリオ公演を中心に、所々にラスベガス公演とアナヘイム公演(30日と31日の両日、もしくは片方のみ)のショットを混ぜて編集されたものと思われる。

 これらの公演では、「Love Is Stronger Than Pride」でスクリーンに登場するビルボードの表示が、通常の“TONIGHT IN 公演地名”ではなく、上の画像のように“TONIGHT IN CONCERT”に変更されていた。複数の公演を編集素材にするため収録場所が匿名にされたのだが、世界各地の観客を喜ばせた公演地名入りビルボードの演出がDVDで十分に味わえないのはやはり残念だ。会場の観客にとって、このビルボードの場面は大きな盛り上がりどころのひとつだったのである。運悪くと言うべきか、運良くと言うべきか、私が観たのは、ちょうどライヴ映像の撮影が行われた9月3日ラスベガス公演だった。“TONIGHT IN LAS VEGAS”というビルボードが見られるものだと思っていた私は、会場で“TONIGHT IN CONCERT”の表示を目にして激しく動揺したのだった(その時はショウが撮影されているなどとは思いもしなかった)。

 実際に自分が参加した公演の映像が使われる可能性があることを知っていたので、私はDVDの入手前から収録場所が気になっていた。クレジットの通り、私が観たラスベガス公演の映像は確かに使われている。

sade_mgm164.jpg
「Nothing Can Come Between Us」(ラスベガス、MGMグランドにて筆者撮影。拡大可)

 これはラスベガス公演(MGMグランド・ガーデン・アリーナ)で私が撮った写真である。コンサート中盤の「Nothing Can Come Between Us」では、スクリーンに観客席の様子が映し出される。私がシャッターを押した時、スクリーンにはスタンド席のおばちゃんたちが映っていた。みんないい感じで盛り上がっている。

BMHL3.jpg
「Nothing Can Come Between Us」(『BRING ME HOME』より)

 これは『BRING ME HOME』の「Nothing Can Come Between Us」の一場面である。DVDを最初に観た時、私にはこのショットがラスベガス公演のものだとすぐに分かった。スクリーンに全く同じおばちゃんたちが映っている。他の会場と違い、ステージの真横方面に観客席がないのもMGMグランド・ガーデン・アリーナの特徴である。この瞬間、私は右側スタンド席でものすごい熱気に包まれ、ステージに向かって興奮しながらカメラのシャッターを押していた。私が写真を撮っていた数秒間の場面が偶然にも使われたのである。実際に自分の参加した公演が、部分的にであれ、こうして公式ライヴ映像の素材にされたのは嬉しい。“オレ、この時会場にいたんだもんね~”と自慢できるからだ(フフフ……)。たとえ嫌な奴だと思われようと、私はこれを全力で永遠に自慢したい。

 ライヴ映像が複数の公演を混ぜ合わせたものだということは、ちょっと注意して見れば誰でもすぐに分かるだろう。最も分かりやすいのは「Soldier Of Love」と「King Of Sorrow」である。この2曲は、カットによってアンドリュー・ヘイルがサングラスを掛けている時とそうでない時がある。「Soldier Of Love」の場合、サングラスなしのヘイルが映っているショットは恐らくオンタリオ公演、サングラスありのヘイルが映っているショットはラスベガスかアナヘイムのいずれかの公演である(ベガスとアナヘイム1日目の「Soldier」でヘイルがサングラスを着用していることは、私が自分で撮った写真とYouTubeのオーディエンス動画で確認できた)。ヘイルのサングラスについては、当然、編集段階でソフィ・ミュラーも気付いただろう。“なんでこの日はサングラスかけてるのよー”とヘイルの気まぐれを恨めしく思ったはずである。

BMHL4.jpg
「King Of Sorrow」──透過スクリーン越しの移動撮影が美しい

 複数の公演のショットが混ざっていることは、カットの繋がりの不自然さからも察しがつく。メンバーたちはどの公演でも基本的に同じ立ち回りで同じ演奏をしたが、ロボットではないので、日によって微妙に動きや表情が違ってくる。例えば「In Another Time」の場合、アデュがステージを去った後のマイクスタンドの揺れ方がカットによって明らかに違う。「King Of Sorrow」では、間奏に入った瞬間に別公演のショットに切り替わっていることがアデュの目線や表情の違いですぐに分かる。「The Sweetest Taboo」終了後、アデュが拳銃のアクションを見せる場面はかなり強引な編集で、いかにも複数の公演の寄せ集め的な映像になっている(いい表情がたくさん見られるので、あれはあれで悪くはないが……)。

 前作『LOVERS LIVE』でも同じように複数公演(ツアー最後の2公演)が素材にされていたが、とてもそのようには思えない見事な編集が施されていた。『LOVERS LIVE』が複数公演を素材にしていることは、例えば、至近距離でメンバーを捉えたショットから、同じメンバーが映っているロングショット──直前のショットを撮っていたカメラが、いるはずの場所に映っていない──へ切り替わる場面などで分かるが、各カメラの動きや編集を意識しながら鑑賞しない限り、映像からはまるで単一公演の記録であるかのような印象を受ける。細かいことではあるが、特にコンサート映像の場合、こうした編集の配慮は非常に大切である。カットの繋がりが不自然で、パフォーマンスに一貫した流れがないと、それだけライヴ感が損なわれ、受け手がショウの世界に没入しづらくなるからである。『BRING ME HOME』の場合も、複数公演から良いショットを選び、編集で単一公演の映像のように仕上げるという同じ方法で作られているが、『LOVERS LIVE』に較べると編集にはやや詰めの甘さが感じられる(飽くまで、『LOVERS LIVE』の神編集に較べると、である。決して『BRING ME HOME』の編集が酷いというわけではない。私はあら探しをしているに過ぎない)。

BMHL5.jpg
「No Ordinary Love」──私もラスベガスで似たような場所からこの場面を目撃した

 メイン素材になった9月4日オンタリオ公演は、ツアー初日から数えて71公演目。北米ツアー終盤で、バンドのパフォーマンスにも脂が乗っている最高の時期だった。私が観た前日のラスベガス公演はアデュの喉の調子がイマイチだったが、DVDでは好調である。音源に関しては基本的にオンタリオ公演(もしくはアナヘイム公演)のものが使われていると思われる。

 「Soldier Of Love」後のアデュの挨拶MCはオンタリオかアナヘイムか不明だが(ベガスではない)、メンバー紹介部分はオンタリオ公演のものであることがYouTubeのオーディエンス動画で確認できた。どの公演でもアデュは大体同じようなコメントでメンバーたちを紹介したが、公演によってはリロイ・オズボーンの紹介時、“彼は以前、私の結婚式で「A Song For You」を歌ってくれたの。みんな聴きたくない?”という振りで、オズボーンが実際に同曲をアカペラでワンコーラス歌うこともあった。DVDにこれが収録されなかったのはちょっと残念である(オズボーンのアカペラ・コーナーはベガス公演でもなかったが、代わりにアデュは彼のことを“I'm so glad you were born, Leroy Osbourne!”と韻を踏みながら紹介してくれた)。

BMHL6.jpg
「The Sweetest Taboo」──映像では緑が強調されている(スポットライトは鮮やかな青だった)

 『BRING ME HOME』はコンサートの22曲をすべて収録しているが、実は微妙にカットされている部分が2箇所ある。ひとつは「Love Is Found」のイントロ。映像ではスタジオ録音版と同じく冒頭のストリングスのトレモロ部分が1回しかないが、実際のライヴではこのトレモロ部分が3回繰り返された。クラウド&アデュのシルエットがスクリーンに映し出されるのは3回目である(『BRING ME HOME』ではここから収録されている)。最初の2回の繰り返し部分で、ステージは完全に暗転している。真っ暗な場内にストリングスのトレモロ音だけが響き渡るこの数秒間の間が、前の曲「Kiss Of Life」の余韻を断ち切ると同時に、パフォーマンスの緊張感を劇的に高めていた。この部分を収録すると画面が数秒間真っ暗になってしまうため割愛したのだろうが、これは収録すべきだったと思う。

 もうひとつカットされたのは「Nothing Can Come Between Us」の中盤である。MC役のトニー・モムレルはここで毎回必ず公演地名を言って観客に挨拶したが、彼のMC部分は大幅にカットされている。公演地を匿名にするためのやむを得ない処置ではあるが、ショウの中で最もライヴ感に溢れたこのパフォーマンスが完全収録されなかったのはやはり寂しい。「Love Is Stronger Than Pride」の公演地名入りビルボードと同様、この場面の感動は実際に会場でショウを体験した観客だけのものである。

 その他、『BRING ME HOME』では各曲間の暗転部分、メンバー紹介とアンコールの間の数分間──ラスベガス公演では3分間──がカットされてもいる。ラスベガス公演の場合、客電が落ちて開演してから終演後に客電が点くまできっかり130分だった。『BRING ME HOME』は119分(エンドロール部分を除く)なので、実際のコンサートが計10分ほどカットされていることになる。


THERE'S NOTHING LIKE BEING THERE?

BMHL7.jpg
「Love Is Found」──ダイナミックなクレーンカメラ映像

 発売前、私は『BRING ME HOME』という作品に大いなる期待を寄せていた。実際のコンサート体験の代用にはならないとしても、それを補って余りあるような、映像作品ならではのアプローチや解釈が見られるものと思っていた。『BRING ME HOME』は確かに素晴らしい作品だが、正直に言うと、決して私の期待を上回るものではなかった。『LOVERS LIVE』を100点とすると、『BRING ME HOME』はどう贔屓目に見ても80点くらいの出来である。私の期待はあまりにも高すぎた。

 もちろん、ショウ自体は文句なしに素晴らしい。'11年ツアーは'01年ツアーと同じくらい、あるいは、(特に視覚演出の点では)それ以上に充実したものだった。ショウ自体の完成度の高さが、逆にカメラや編集の自由を制限し、映像表現の質を下げてしまったような気がしてならない。

BMHL8.jpg
「Your Love Is King」──バンドを間近で撮れるのはステージ前のカメラしかない

 『LOVERS LIVE』と『BRING ME HOME』の大きな違いのひとつは、カメラとステージの距離である。カメラの台数や基本的な配置はどちらもさほど変わらないと思うが、ステージの捉え方は大きく異なる。『LOVERS LIVE』ではクレーンカメラが時にステージに覆い被さるほど接近し、メンバーたちを頭上からダイナミックに捉えていた。クレーンカメラは『BRING ME HOME』でも使われているが、アリーナ席の前方までは侵入しない。また、『LOVERS LIVE』ではステージの両袖にカメラがいて、メンバーたちの表情を至近距離から丹念に捉えていたが、『BRING ME HOME』ではこれもない(一応、ステージ真横にもカメラはいるが、メンバーたちとはかなり距離がある。しかも、このショットは「Paradise」「Nothing Can Come Between Us」でしか使われない)。共通しているのは、アリーナ席最前列とステージの間に敷かれたレール上を左右に移動しながらメンバーたちをローアングルで捉えるカメラである。クレーンカメラとステージ脇のカメラが迫らない分、望遠ショットを除いて、メンバーたちのミディアム~アップショットは基本的にこのステージ前のカメラがすべて担当している。アップショットのバリエーションが少ないのを補うため、一応、パーカッションとドラムセットにそれぞれカール・ヴァンデン・ボッシュとピート・ルウィンソンの姿を撮る小型カメラが仕掛けられているが、明らかに役不足である(ボッシュのショットは悪くないが、「Is It A Crime」のみで登場するルウィンソンのアップショットには大きな違和感を覚える)。

 つまり、『BRING ME HOME』は圧倒的にロングショットの比率が高い。メンバーたちの表情をつぶさに見せることよりも、引いた場所からステージ全体を捉えることに重点が置かれているのである。

 これは当然と言えば当然の措置だと思う。'11年ツアーでは、ステージ後方の全面を占める巨大スクリーンと、正方形のステージを囲うように下りる透過スクリーンに映し出される映像イメージが演出の要になっている。次々と様相を変えるステージの美術もショウの大きな見所だ。これらをしっかり記録しないと話にならない。カメラは必然的に遠方からステージを捉えるしかなくなる。

 また、ステージ上の両脇にカメラがいないことは、ステージ自体の構造も関係しているように思われる。'01年ツアーのステージではカメラが袖の暗がりに隠れることができたが、'11年のステージには左右に袖がない。ステージ上で撮影を行った場合、身を隠す場所が全くないため、他のショットにカメラが映り込む危険性が高くなる。クレーンカメラをあまり前方へ持っていかなかったのも、(特にスタンド席からの)ロングショットの時にクレーンが映り込むのを避けるためかもしれない。撮れる映像の種類は'01年ツアーよりも明らかに限られている。

BMHL9.jpg
「Pearls」──驚きのワンショット映像(実際より彩度が強まっている)

 ショウの性質は撮影だけでなく、編集にも影響を与えている。『BRING ME HOME』で私がまず驚いたのは、オープニングのバンドの登場場面である。私は当初、床からメンバーたちが現れる場面は、絶対に複数のアングルのショットを編集したものになると思っていた。ところが、実際に観てみると、それはステージの全景を真正面から淡々と捉え続ける何の変哲もない固定アングルのロングショット映像だった。しばらく全くアングルが切り替わらないので、最初は編集ミスじゃないかと思ったほどだ。複数のアングルを混ぜるより、同じアングルからひたすらステージの全体像を見せる方が、恐らく記録としてよりリアルだと考えられたのだろう。

 極めつけは「Pearls」だ。なんと、最初から最後まで一切編集なしのワンショット映像である。オープニング場面と同様、クレーンカメラが真正面から淡々とステージ全景を捉え続ける。一応、ゆっくり寄ったり引いたりするのだが、ほとんどオーディエンス撮りのような映像である。ステージで歌うアデュの表情は一切アップで映らない。「Pearls」は、スクリーンに映し出される太陽の巨大さと、それを背負うアデュの小ささの対比が肝である。この視覚演出とアデュの熱唱からは、歌の主人公(ソマリアの女性)の孤立感や無力感、同時に、小さな人間の持つ尊厳の大きさが強く伝わってくる。真正面からのロングショットは確かにこのパフォーマンスの情感を最も鮮やかに捉えるものだと思うが……それにしても、ワンショットで処理するとは随分と思い切ったものである(クレジットを見ると、『BRING ME HOME』の編集にはアデュ自身も関わっている。「Pearls」がワンショット映像になったことには、彼女の意志が働いている可能性も考えられる)。

BMHL10.jpg
「Morning Bird」──透過スクリーンに映し出される幻想的イメージ

 ステージを長回しのロングショットで捉えると、映像は実際の会場にいる観客の視線に近づいていくことになる。私は『BRING ME HOME』を観ながら、“オーディエンス撮りとあんま画が変わらんな”と度々思った。もちろん、カメラの安定感、画質、色彩はオーディエンス動画より遙かに立派だし、マルチアングルできちんと編集もされているが、個々のショット/アングル自体は、オーディエンス動画でさんざん目にしていたものと大差のないようなものが多い。結局のところ、ショウを最も的確に捉えることができるのは“観客の目”なのだろうか?

 そんなわけはない。そもそも、観客の視線で捉えられた映像に“その場にいること”を超えることは絶対にできないし、観客の視線を超えることができなければ、わざわざライヴ映像作品を撮る意味などあるはずもないのだ。何を撮っても実際の体験(現実)に及ばないのだとしたら、映画という芸術の存在意義はなくなってしまうだろう。人間の視線を超えてこそ映画である。

 もう一度、名作『LOVERS LIVE』を観てみよう。「Cherish The Day」のアウトロ部分でステージ横からマシューマンとアデュを捉えながらギターのチョーキング音と共に滑らかに移動していくショットの官能、「Smooth Operator」のサックス・ソロ4小節目の2拍目で瞬間的にズームイン/アウトするアデュのシルエット映像のパンチ力、「Kiss Of Life」のギター・ソロ部分での劇的なスロー・モーション、「By Your Side」終盤で身を寄せ合うカップルを捉えながらステージへ寄っていく奇跡的なクレーンショット、あるいは、随所に挿入される幸福感に満ちた観客たちの無数の表情……。これらの感動的なイメージの数々は、いずれも観客の視線を超えた、いわば“神の視線”で捉えられたものである。フィルム撮りによる独特の陰影、質感、発色も、『LOVERS LIVE』に現実離れした趣を強く与えている(フィルム/ハイビジョンというのも『LOVERS LIVE』と『BRING ME HOME』の決定的な違いのひとつである)。それは実際に会場にいる観客たちの目に映っていた光景とは大きく異なるだろう。しかし、これこそ映画だ、と私は思う。

BMHL11.jpg
「Jezebel」──生演奏と同期したジャジーなスクリーン映像

 私がソフィ・ミュラーの立場だったとしても、結局はロングショットを中心にした似たような画作りをしたように思う。スクリーン映像やステージの美術をきちんと見せたいからである。『BRING ME HOME』に観客たちの様子がほとんど映っていないのも、ステージ自体に常に撮るべき要素が多いためだろう。観客を映している暇などないのである。結果的にカメラはショウに対してひどく受け身になった。『LOVERS LIVE』のように、もっと能動的にイメージを掴み取るような撮り方はできなかったのだろうか。

 解決策としてひとつ思い浮かぶのは、特典としてスクリーン映像をDVDに収録することだったと思う。特典でスクリーン映像をフルで見られるようにするという考えが最初からあれば、“常にスクリーンを画面内に収めなくてはいけない”という呪縛から解放され、もっと他の要素を加えることもできただろうからだ。カメラの自由度も増していただろう。ショウの性格上、ロングショットの重要性は変わらないにしても、スクリーン映像を思い切って諦めてしまえば、もう少し映像作品ならではの大胆なアプローチができたのではないか。観客が実際に会場で観るのと同じようなイメージでショウを記録することに専念するあまり、ソフィ・ミュラーはあまりにも多くの感動的な瞬間を取り逃がしたように思う。


SOMETIMES GREAT MOMENTS ARE BEST CAPTURED IN A MEMORY

BMHL12.jpg
「Is It A Crime」

 誤解のないよう改めて言っておきたいが、『BRING ME HOME』は素晴らしい作品である。いいショットもたくさんある。このDVDは私の宝物だ。にもかかわらず、私はどうして文句ばかり付けているのだろう。なぜあら探しをしてしまうのだろう。

 それは結局、私がこのショウについてあまりにも知りすぎてしまっているからだと思う。私はYouTubeのオーディエンス動画でこのショウをあらゆる角度から見ている。'11年ツアーには感動的な場面がいくらでもあった。『BRING ME HOME』ではそのほんの一部が見られるに過ぎない。私は記憶の中に集積された無数の名場面を勝手にマルチアングルで編集し、自分なりの映像イメージを無意識のうちに頭の中で作ってしまっている。自分の思うようにカメラが動かなかったり、カットが切り替わらなかったりするともどかしくなるわけである。

 そして何より、私はこのショウを生で体験してしまっている。メンバーたちが床から姿を現した瞬間の興奮、津波のように押し寄せる立体的な爆音サウンド(そう、シャーデーは爆音で演奏するのである)、圧倒的なスケールと鮮明度のLEDスクリーン映像、透明感溢れる美しい照明、そして、会場全体を包み込む凄まじい熱気……。『BRING ME HOME』を観ながら、私は“こんなもんじゃない”という違和感を最後の最後まで拭い去ることができなかった。'11年ツアーの感動を永遠のものにしてくれると思っていた『BRING ME HOME』は、結局、私にラスベガスで体験したショウの10分の1の感動も与えてくれなかったのである。

BMHL13.jpg
「Cherish The Day」

 『BRING ME HOME』のブックレットの最後のページには、アデュによる以下のコメントが掲載されている。

「ツアーを記録に残すことに私は気乗りがしませんでした。素晴らしいひとときは、時に、とても伝えることのできない本当のフィーリングが刻まれる記憶の中に最も鮮やかに捉えられるものです」

 ショウを撮影することにもともとアデュが消極的だったことは、DVD発売時のインタヴューでも語られている。ライヴ映像作品を作らないとは何事だ、と最初は思ったが、実際に『BRING ME HOME』を鑑賞した今、私は彼女のこの言葉に100%共感できる。どれだけ素晴らしい映像作品が作られようと、実際のコンサート体験が蘇ることはない。コンサートは生で体験するのが一番──全く当たり前のことなのだが、この当たり前の事実を私は今回ほど強く思い知らされたことはない。

 ツアー終了から半年が経ち、待望のライヴ映像作品を手にした今、私はラスベガスまで彼らのショウを観に行って本当に良かったと改めて思う。もし実際に観ていなかったら、私は適当な美辞麗句を並べて『BRING ME HOME』を絶賛していたかもしれない。観られなかった人には単なる自慢にしか聞こえないかもしれないが(まあ、自慢しているのだが)、実際に会場でショウを体験し、想像を遙かに超える深い感動を味わってしまった以上、私にはそうとしか書けないのである。海外のファンサイトの掲示板などを見ていても、『BRING ME HOME』に関して“もっと良く出来たとは思うが、それでも素晴らしい作品には違いない”といった意見が目立つ(彼らはもちろん実際にショウを観ている)。私も全く同意見だ。

 シャーデーの'11年ツアーは本当に最高だった。この“最高”の意味は、実際にショウを観た人にしか理解することはできない。結局、自分の経験や思い出が何よりの宝物であるということを、『BRING ME HOME』ははっきりと証明したのである。


追記('12年6月15日):
 『BRING ME HOME | LIVE 2011』日本盤(6月13日発売)を入手した。日本盤はCD用プラケースにDVDとCDが収納されている。EU盤(NTSC/リージョン0)も同じ仕様で発売された。ブックレットはUS盤と同内容だが、サイズが異なるため掲載写真のトリミングに違いがある。
 解説は、村上ひさし、新谷洋子の両氏。前者は'11年ツアーに関する概説、後者はシャーデーのキャリアに関する基本情報(村上氏が私と同じラスベガス公演を観ていたことを知って驚いた)。日本盤の最大の利点は、DVDに7カ国語字幕+日本語字幕が付いている点だろう。MCやドキュメンタリー映像の会話部分に加え、歌詞部分にも字幕が付く(英語歌詞と対訳が同時に表示される。過去の日本盤に掲載された対訳が字幕用にアレンジされている)。私は『SOLDIER OF LOVE』日本盤を持っていないので、他の人の訳を興味深く眺めた。シャーデーが表現していることを歌詞字幕で理解しながらショウを楽しめるというのは、日本のファンにとっては大きな利点だろう。首を傾げてしまう部分もないことはないが、日本語字幕は総じて悪くない出来だと思う。パッケージ・デザインや価格の面では圧倒的にUS盤が買いだが、英語が苦手な人は日本盤の購入を考えても良いのではないか。




Bring Me Home | Live 2011 - Extras

シャーデー、ライヴDVD『BRING ME HOME』発売!!!
シャーデー 大いに語る──ライヴDVD発売記念インタヴュー

Soldier Of Love Tour [2011]
Soldier Of Love Tour on YouTube
Aspects of Love's Soldiers
Sade World Tour 2011 Audience Video Awards
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011

| VHS/DVDs | 04:10 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT