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ガチンコMJショウ──Michael Jackson Japan Tour '87



 『BAD』25周年を機に発売されたマイケル・ジャクソンの奇蹟の'88年ウェンブリー・スタジアム公演映像(詳しくは前回記事“ひたすらヤバい──スーパーバッドなMJ箱『BAD25』”参照)。待望の後期〈BAD〉ツアー映像が登場したところで、改めて見直したいのが、前年の'87年秋に行われた前期〈BAD〉ツアー、お馴染みの来日公演映像である。

 '84年〈VICTORY〉ツアーのレパートリーが大半を占める'87年の日本公演映像は、その内容の素晴らしさにもかかわらず、『BAD』から僅か2曲しか披露されないことで、ファンにとっては長年、物足りなさを感じるものだったと思う。しかし、念願の後期〈BAD〉ツアー映像を手にした今、私たちはこの日本公演映像の真の価値に気付くことになるだろう。'87年秋、マイケルは日本人に最高のショウを見せてくれた。前期〈BAD〉ツアーとは、要するに、〈VICTORY〉ツアーと〈BAD〉ツアーが合体した最強の特別ショウだったのである。


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MICHAEL JACKSON JAPAN TOUR '87
Broadcast: 31 October 1987 (Japan)

Wanna Be Startin' Somethin' / Things I Do For You / Off The Wall / Human Nature / Heartbreak Hotel (a.k.a. This Place Hotel) / She's Out Of My Life / I Want You Back - The Love You Save - I'll Be There / Rock With You / Lovely One / Bad Groove (not broadcast) / Workin' Day And Night / Beat It / Billie Jean / Shake Your Body (Down To The Ground) / Thriller / I Just Can't Stop Loving You / Bad

Live at Yokohama Stadium, Kanagawa, Japan, 26 September 1987

Personnel: Michael Jackson (vocals), Don Boyette (bass), Ricky Lawson (drums), Jennifer Batten, Jon Clark (guitar), Greg Phillinganes, Chris Currell, Rory Kaplan (keyboards), Sheryl Crow, Kevin Dorsey, Dorian Holley, Darryl Phinnessee (backing vocals), LaVelle Smith, Dominic Lucero, Evaldo Garcia, Randy Allaire (dance)



 マイケル初のソロ世界ツアーである〈BAD〉ツアー('87年9月〜'89年1月/計123公演)は、'87年8月31日にアルバム『BAD』が発売された直後、我が国、日本で幕を開けた。'87年秋の日本公演は、9月12日〜10月14日の約1ヶ月間、後楽園球場(東京)、阪急西宮球場(兵庫)、横浜スタジアム(神奈川)、大阪球場(大阪)の4会場で計14公演が行われた。

 8公演目に当たる9月26日、横浜スタジアムでのコンサートの模様は、当時、日本テレビによって撮影され、公演から約1ヶ月後の10月31日に『Michael Jackson Japan Tour '87』のタイトルでテレビ放映された(1年後、'88年12月の再来日公演前に一度だけ再放映されたことがある)。バンドのインスト曲「Bad Groove」を除いてコンサートを完全収録したこのライヴ映像は、ブートレグとしてもさかんに出回り、ファンの間でこれまでずっと定番中の定番として親しまれてきたものである。私自身は'87年秋の来日公演も'88年12月の再来日公演も行かなかったが(私が生MJを見たのは'92年12月の〈DANGEROUS〉ツアーの来日公演のみ)、当時録画した映像はDVDに焼いて今でも大切に保存している。

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 '87年9月12日〜11月29日に日本とオーストラリアで19公演のみ行われた前期〈BAD〉ツアーは、『BAD』楽曲用の新パフォーマンスを準備する時間がなかったため、ジャクソンズとして行った'84年〈VICTORY〉ツアーのレパートリーを使い回した暫定的な内容だった。〈VICTORY〉ツアーのセットリストは以下である。

Wanna Be Startin' Somethin' / Things I Do For You / Off The Wall / Human Nature / Heartbreak Hotel (a.k.a. This Place Hotel) / She's Out Of My Life / Let's Get Serious [feat. Jermaine Jackson] / You Like Me, Don't You? [feat. Jermaine Jackson] / Tell Me I'm Not Dreamin' (Too Good to Be True) [feat. Jermaine Jackson with Michael Jackson] / I Want You Back - The Love You Save - I'll Be There / Rock With You / Lovely One / Interlude / Workin' Day And Night / Beat It / Billie Jean / Shake Your Body (Down To The Ground)

 前期〈BAD〉ツアーの内容は、簡単に言うと、〈VICTORY〉ツアーの中盤にあったジャーメインのソロ・コーナー3曲(マイケル不在。3曲目「Tell Me I'm Not Dreamin'」から再登場してジャーメインと一緒に歌う)を端折り、最後に新レパートリーの「Thriller」「I Just Can't Stop Loving You」「Bad」の3曲を付け加えたものである。〈VICTORY〉ツアーを体験できなかった日本のファンにとって、この“〈VICTORY〉ツアー再演版”とも言うべきショウが観られたことは結果的には非常にラッキーだった。

 但し、旧レパートリーであっても、例えば、「Beat It」にマイケルのクレーン搭乗やダンサーたちとの群舞が加えられるなど、曲によっては演出や振付にかなり違いも見られる。もちろん、衣裳やセットやメンバーも'84年とは異なる。単なる再演ではなく、飽くまで〈BAD〉ツアーの演目としてアップデイトされているところがポイントである。前期〈BAD〉ツアーは、〈VICTORY〉ツアーと〈BAD〉ツアーの内容をミックスした、ある意味、非常に贅沢なものだった('96年7月16日のブルネイ公演のようなものだ、と言えば、頷くMJファンも多いのではないか)。

 また、何より嬉しいのは、後期ツアーから使われるリップシンクがまだなく、マイケルがすべての曲を生で歌っている点である。おまけに、収録が行われた横浜スタジアム公演は、マイケルのコンディションも最高だった。ツアーが始まったばかりだけあって、声も全く枯れていないし、いくら踊っても息が上がらない。ある意味、DVD発売された'88年ウェンブリー公演映像より、こちらの方が興奮度は高い(しかも、これは日本公演なのだ)。過渡期のイレギュラーなショウを鮮やかに記録したこのライヴ映像は、日本のファンだけでなく、世界中のMJファンにとって貴重な財産である。

 放映からちょうど25年経った今、この名作を改めて礼賛することにしたい。


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Wanna Be Startin' Somethin'

 ショウは、後期ツアーと同じく「Wanna Be Startin' Somethin'」で始まる。ステージの床が巨大な蓋のように開いて光の壁を作り、床下からマイケルと4人ダンサーが階段を昇って登場する。後期ツアーとも〈VICTORY〉ツアーとも違う演出である。後期ツアーで見られるステージ後方の電光掲示板はまだない。光の壁を背にしてしばらく仁王立ちした後、いきなり曲がスタートする。

 マイケルのパフォーマンスの素晴らしさはもちろんだが、『Michael Jackson Japan Tour '87』はライヴ映像作品として質が高い点でも特筆される。作りが非常に凝っていて、まさに“力作”と呼ぶに相応しい作品に仕上がっている。この凝り方は人によって好みが分かれるかもしれないが、私はこれを積極的に評価したいのである。

 このライヴ映像の特長のひとつは、まず、カメラの台数が多いこと。上掲の11枚の画像は、いずれも異なるカメラから撮影されたものである。左上の画像から順に1〜11として説明すると……まず、左スタンド席から45度の角度でステージをロングショットで撮る固定カメラが1台(画像1)。スタンド真正面から望遠でステージを狙う固定カメラが2台(画像2と8。1台はロング用、もう1台はマイケルのアップ用)。ステージの縁にへばりついて撮影する手持ちの仰瞰カメラが1台(画像4)。ステージとアリーナ席最前列の間に敷かれたレール上を横移動する仰瞰カメラが1台(画像7)。ステージに覆い被さるほど接近するクレーンカメラが左右2台(画像3と6。左は無人、右は有人)。遠方からステージを俯瞰するクレーンカメラが左右2台(画像5と11)。右真横から撮影するステージ上の手持ちカメラが1台(画像10)。ドラムセットの裏から撮影するカメラが1台(画像9)。

 以上は「Wanna Be Startin' Somethin'」で登場する主なカメラ・アングルである。この他にも、ステージ中央後方から客席方向を撮影する固定カメラ1台、天井からステージを垂直に俯瞰する固定カメラ1台。更には、観客の表情や、観客目線でステージを撮影するアリーナ席内のカメラ(台数不明。2〜4台くらい?)がある。ざっと見た限り、最低でも15台は使われている。このカメラ台数だけでも、日本テレビが相当な気合いを入れてマイケルのショウの撮影に臨んだことが窺い知れる。担当ディレクターは棚次隆。'90年に同じく日本テレビで放映されたローリング・ストーンズの初来日公演映像を手掛けた人物である。

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「Wanna Be Startin' Somethin'」でのスピン──5台のカメラがマイケルを狙う

 カメラの台数は多ければ良いというわけでもないが、アングルが豊富なだけあって、並のコンサート映像では見られないような瞬間が随所に見られる。例えば、「Wanna Be Startin' Somethin'」の場合、“Mama-se, Mama-sa, Mama-coo-sa”のコーラスに突入する箇所。“Help me sing it!”と言ってマイケルが得意のスピンを披露するのだが、これを5通りのアングルで見せている。回転し始めるマイケルが画像1(ステージ寄りのクレーンカメラ左)。回転中のマイケルが画像2(ステージ縁の仰瞰カメラ)、画像3(ステージ右真横のカメラ)、画像4(スタンド真正面の望遠カメラ/アップ)。回転終わりのマイケルが画像5(スタンド真正面の望遠カメラ/ロング)。マイケルが回っている2秒ほどの間に1〜5の順に矢継ぎ早にカットが切り替わる。これが実に気持ちいい。この編集によって回転のスピード感と回転数の多さが強調され、ワンカットで見せるよりもマイケルのダンスの凄さが明快にダイナミックに伝わる。私は見る度にここで“うお〜!”と仰け反ってしまう。マイケルの動きと同期したこのような鋭い編集は他にも多くの場面で見られる。


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Human Nature

 4曲目の「Human Nature」。歌の世界を表現するマイケルのマイム風の身振りが大きな見所である。この映像にはひとつ面白い場面がある。1箇所、マイケルの手の動きに「Blame It On The Boogie」ヴィデオのような残像がつけられているのだ(画像上段)。こういうエフェクトは無闇に使うとダサくなるが、ここでは1カットの数秒のみ、ちょうどいい匙加減で使われ、マイケルのアクションの華麗さを視聴者に印象づける。こうした視覚効果もこのライヴ映像の特長のひとつだ。

 「Human Nature」で映像的にもうひとつ注目したいのは、マイケルが右手を水平に伸ばして静止する場面(画像下段)。ここでは、全身だけでなく、伸ばされた右手がアップで撮影され、指先を使ったマイケルの繊細な表現がきちんと捉えられている。もちろん、ぶっつけ本番でこんな高度な撮影はできない。どのカメラがどの曲で何をどのように撮るか、しっかり決まっているのである(マイケルが垂直に右手を伸ばして静止する場面でも同様に右手のアップが見られるが、撮影しているのは同じカメラである)。日本テレビの撮影班が事前にショウの演出や振付を細かくチェックし、きちんと撮影台本を作って本番に臨んだことが分かる。


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Heartbreak Hotel (a.k.a. This Place Hotel)

 5曲目「Heartbreak Hotel」は冒頭の映像が素晴らしい。ステージ中央に下ろされた縦長の幕に、裏手からの照明でマイケルの巨大なシルエットが投影される。この演出は後期ツアーで「Smooth Criminal」に転用され、更に2人のダンサーのシルエットを左右に配置してヴァージョン・アップしているが、ここではまだマイケル1人である。普通に見せるだけでも十分に魅力的な画だが、映像制作スタッフは、3台のカメラ映像──正面ロング、正面アップ、左ミドル──をひとつの画面内に合成し、この場面を映像的によりインパクトのあるものにした(画像上段右)。左方向からのミドルショットは映像を反転させ、きちんと構図を整えている。実に美しい画だと思う。

 マイケルのシルエットが投影される前、“HOTEL”という赤いネオンサインが暗闇の中に現れる。ネオンサインは様々な角度からアップで撮影され、明滅するごとに別角度からの画にカットが切り替わっていく(画像下段)。これがまるで夜のネオン街を歩いているような印象を視聴者に与え、この導入部をよりドラマチックなものにしている。


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Thriller

 最も大胆な映像処理が見られるのは、コンサート終盤の「Thriller」である。この曲では編集に一貫してディゾルヴ(連続する2つのカットを徐々に切り替える手法。前のカットがフェイドアウトすると同時に次のカットがフェイドインしてくる。クロスフェイドとも言う)が使われているのだが、これが非常に特殊だ。上の4つの画像は、マイケルのアップからロングショットへカットが切り替わっていく過程を示している。画面の天辺から血がダラダラと流れ落ちるようにして次のカットがフェイドインしてくる。もちろん、「Thriller」だからこその映像処理である。中にはこういう視覚効果を“ウザい”と感じるファンもいるかもしれないが、私は遊び心があって面白いと思うし、実際、この特殊ディゾルヴは確実にこの曲の怪奇ムードを盛り上げている(マイケルも喜んだのではないだろうか)。

 ちなみに、前期〈BAD〉ツアーの「Thriller」には、後期ツアーで見られる狼男マスクと“M”ロゴ入りの黄色いジャンパーはまだない。赤ジャンパーの電飾も後期とはデザインが違う(赤ジャンパーの電飾は前期の方が私は好き)。


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双眼鏡や3D眼鏡でステージを眺める観客

 “遊び心”という点ではこんな場面もある。「Lovely One」の最中、双眼鏡でステージを眺める女性客のカットが挿入される。それだけなら普通だが、次のカットがその女性の主観をイメージした映像──双眼鏡の形で切り抜かれたマイケルの望遠ショット──になっている(画像上段)。遠くの観客にはマイケルがこんな風に見えました、というわけだ。「Shake Your Body」では、赤と青の3D眼鏡をかけた観客の姿が同様に見られる(画像下段)。3D映画『キャプテンEO』の影響と思われるが、いくらなんでも3D眼鏡をかけてコンサートを観る酔狂なファンはいないだろう。この観客は仕込みに違いないが、演出としては面白いと思う。もちろん、この手の映像的な“遊び”はたまに出てくる程度である。前期〈BAD〉ツアーのステージは視覚的にそれほど大きな変化があるわけでもないので、こういう見せ方は視聴者を引きつけるアクセントとしてアリだと思う。


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クロス・フィルターで十字状に輝く照明

 様々な工夫が凝らされている横浜公演映像だが、中でも特筆しておきたいのが、フィルターを使用した撮影である。このライヴ映像は、数曲で一部のカメラにクロス・フィルターが取り付けられている。クロス・フィルターは、レンズに装着すると照明などの強い点光源に光条(放射状の光の筋)を発生させることができる。照明の光を美しく見せることができるので、音楽番組やコンサートの撮影によく使われる(格闘技のテレビ中継などにも)。音楽番組では、かつてアメリカの〈ソウル・トレイン〉、日本では〈夜のヒットスタジオ〉がこのクロス・フィルターを非常に効果的に使っていた(これについては過去に“山口百恵の魔法陣──『夜のヒットスタジオ』を観る (part 1½)”で詳述したことがある)。

 最初にクロス・フィルターを使った映像が登場するのは、コンサート中盤の「Rock With You」。この曲では、仰瞰で撮影するステージ前のレールカメラにフィルターが取り付けられている(画像上段)。フィルターによって十字状にキラキラ輝く照明の光が、ディスコ調の曲をより華やかで魅力的なものにしている。コンサート後半、「Workin' Day And Night」(画像下段左)から「Shake Your Body」にかけては、ステージ寄りの右の有人クレーンカメラにクロス・フィルターが取り付けられている。「Beat It」でクレーンに乗ったマイケルをクロス・フィルターで撮った映像(画像下段右)は、まるで格闘家の登場場面みたいだ。照明に光条があることで、クレーンに乗ったマイケルがより勇ましく、より英雄的に見えるのである。

 光条ができるのは必ずしも照明だけとは限らない。強く光を発するものなら、クロス・フィルターは何でもキラキラと輝かせることができる。実は、このフィルターが「Billie Jean」でとんでもなく素晴らしい効果を発揮することになるのである。


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Billie Jean

 フレッド・アステア、ボブ・フォッシー、ジュディ・ガーランド、サミー・デイヴィス・Jr、ジェイムズ・ブラウン、ジャッキー・ウィルソン、エルヴィス・プレスリー、ジョン・トラヴォルタ……そして、ムーンウォーク。様々なダンス美学とスタイルを統合したマイケルの代名詞的パフォーマンス「Billie Jean」。この映像には、これまで説明してきた日本テレビの映像制作スタッフの技術と知恵がすべて注ぎ込まれている。

 まず、冒頭の“遊び”が秀逸だ。この横浜公演映像は各曲の頭で必ず曲タイトルが画面右下に表示される。他の曲では普通に消えるだけだが、「Billie Jean」ではタイトルがマイケルの振り上げた足に蹴飛ばされるように画面の外へ消える(画像1段目)。この時点で座布団1枚だ(“BILLIE”の綴りが間違っているのが惜しい!)。被写体を(時に反転させて)画面内に合成する視覚効果は他の曲でも見られるが、ここでは終盤でマイケルの姿が2人→3人と増える場面が「Don't Stop 'Til You Get Enough」ヴィデオみたいで面白い(画像5段目右)。3方向から撮影したマイケルを「Billie Jean」ヴィデオ風のフレーム処理で同一画面内に並べるというアイデアも洒落ている(画像3段目中央)。マイケルの過去の映像作品の演出を取り入れ、少しでも魅力的な映像にしようという制作スタッフの熱意が伝わってくる。

 編集に関しては、間奏のムーンウォーク場面が素晴らしい(画像4段目)。左方向へムーンウォークするマイケルの全身ショット(スタンド真正面の望遠カメラ)→トウ・スタンドするマイケルの足もとのアップ(ステージ際のカメラ)→再び歌い始めるマイケルの全身ショット(ステージ寄りのクレーンカメラ左)というカット割りは、「Billie Jean」のムーンウォーク映像の模範とも言うべきものだ。トウ・スタンド部分で足もとをアップにする編集は、後年の「Billie Jean」ライヴ映像で半ばお約束化するが、これを最初にやったのは日本テレビのスタッフである。

 素晴らしいのはこれだけではない。最高の瞬間は、ドラム・ビートだけになる終盤のダンス部分で訪れる。

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美しく光輝くマイケルの白手袋

 マイケルが再びフェドラ帽を被り、暗転したステージにピンスポットで浮かび上がる瞬間。ステージ真横、右方向からマイケルを狙うカメラのレンズには、クロス・フィルターが取り付けられていた。ピンスポットに照らされ、スパンコールを散りばめたマイケルの白手袋が十字状の光条を発生させて連続的に眩しく光り輝く。クロス・フィルターによってスパンコールの反射光が見事に強調されている。この場面を見る度、私は感動に打ち震える。“shoot(撮影する)”という英単語のそもそもの意味は“撃つ”である。これぞまさしく“狙い撃ち”というやつだ。カメラはクロス・フィルターを装着し、ステージ右隅の暗がりに潜んでスナイパーの如くこの瞬間を狙っていたのである。撮影する、とはこういうことを言う。この決定的瞬間を見事に撃ち抜いた日本テレビの撮影班は永遠に讃えられるべきだ。『Michael Jackson Japan Tour '87』の白眉の場面と言っていいだろう。

 この白手袋の輝きは、DVD発売された'88年ウェンブリー公演では見ることができない。なぜなら、終盤のダンス部分に入る前に、マイケルは白手袋を脱ぎ捨ててしまうからである(捨てた瞬間、私はビックリしてしまった)。マイケルが「Billie Jean」の途中で白手袋を脱ぎ捨てることは、実はそれほど珍しいことではない。白手袋を右手ではなく、左手にはめる時もあった。終盤のダンス同様、白手袋はその時のマイケルの気分によってどうなるか分からないのである。

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圧巻のダンス場面(ムーンウォークの際、ピンスポットはまだマイケルを追わない)

 ダンス場面はスタンド正面の2台の望遠カメラ映像を中心に編集されている。最後のサークル・グライドに入る直前、両足を揃えるマイケルの足もとのアップ(画像下段左)が挿入されるのが効いている。フレームを使って3つのカメラ映像を同一画面内に構成したサークル・グライド場面(画像下段右)は圧巻。まるで妖術使いのようだ。最後をサークル・グライドで締めるルーティンは、'84年〈VICTORY〉ツアーの「Billie Jean」と一緒である。その後、マイケルのダンスは更新を重ね、この技は後年の「Billie Jean」では見られなくなってしまう。

 パフォーマンス、カメラ、編集、すべてがハイレベルなこの映像は、数ある「Billie Jean」のライヴ映像の中でも屈指のものである。これだけでも『Michael Jackson Japan Tour '87』は“名作”の名に値する。


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マイケルがひたすら歌って踊って諸肌を脱ぐ前期〈BAD〉ツアー。ガオ〜!

 以上、もっぱら映像作品としての魅力について語ってきたが、この横浜公演映像はもちろんパフォーマンス自体も最高である。後期〈BAD〉ツアー映像が発売された今、そこでセットリストから外れた4曲──「Things I Do For You」(画像上段左)、「Off The Wall」(画像上段右)、「Lovely One」(画像中段左)、「Shake Your Body」(画像下段左右)──がこのライヴ映像の最大の目玉と言えるかもしれない。

 4曲のうち「Off The Wall」以外はすべてジャクソンズの曲。ダンサーやミュージシャンたちとの絡みを中心にしたパフォーマンスも、ジャクソンズ時代の名残を強く感じさせるものだ。マイケルはどの曲でも踊りまくっているが、ダンスのルーティン自体は決して後年のように緻密に作り込まれた激しいものではない(ジャッキー、マーロン、ランディでもついていけるレベル)。古くささは否めないものの、生で歌いながら踊ることを前提にした、適度に緩い──つまり、マイケルの自由度が高い──ルーティンである分、これらの曲からは後年のショウよりもライヴ・パフォーマーとしてのマイケルの魅力がストレートに伝わってくる。中でも、マイケルが様々なヴァリエーションのムーンウォークを連発し、シャツを破って諸肌で吠える「Shake Your Body」の熱さはただごとではない。観客とのコール&レスポンスやバック・ダンサーとのバトルも交えたこの長尺ナンバーはとにかく必見だ。〈VICTORY〉ツアーの焼き直しでありながら、「Lovely One」の間奏部分に「Smooth Criminal」の振付が使われているあたりも見逃せない。


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「I Just Can't Stop Loving You」(上)、「Bad」(下)

 コンサートの最後に披露される『BAD』ナンバー2曲「I Just Can't Stop Loving You」「Bad」にも、やはり前期〈BAD〉ツアーならではの魅力がある。後期ツアーの「I Just Can't Stop Loving You」は、「She's Out Of My Life」へ繋げるために曲の終盤で唐突に断ち切られてしまうが、ここではきちんと完奏版で楽しむことができる。エンディングでのマイケルとシェリル・クロウの掛け合いが聴きものだ。

 後期ツアーでリップシンクになってしまった「Bad」は、もちろんガチンコの生ヴォーカルである。最高。マイケルが生で歌う「Bad」はここでしか聴けない。この曲のパフォーマンスで注目したいのは、マイケルがいつも以上にJB風のダンス・ムーヴを連発している点。「Bad」はやはりどう考えてもマイケル版「Super Bad」である(叩きつけるような直線的なグルーヴにしても「Super Bad」的だ。間奏にオルガンを使ったのもJBを意識していたからだろう。プリンスとの“どっちがバッドだ?”対決が頓挫したのはやはり残念。プリンス版「Super Bad」である「Sexy M.F.」は、マイケルに対する5年遅れの返答とも取れる)。この曲は絶対にガチでシャウトしなければいけない。私はリップシンクの「Bad」を意地でも認めない。

 「Bad」でもうひとつ見逃せないのは、最初のブリッジ部分(“They say the sky's the limit...”)でマイケルが櫛でリーゼントを整えるアクション──「Billie Jean」冒頭のあれ──を見せるところ('88年ウェンブリー公演映像では見られない)。『グリース』のジョン・トラヴォルタである。ウェンブリー公演では革ジャンが別タイプのものに変わっているが、この横浜公演のマイケルはファッションまでトラヴォルタそっくりだ。マイケルが彼から受けた影響の大きさがよく分かるという点でも、この映像は貴重である(マイケルと『グリース』のトラヴォルタについては、過去記事“マイケルの最強ショート・フィルム10選【第4位】”参照)。

 尚、これら2曲は'88年ウェンブリー公演DVDに特典収録されている(メンバー紹介がある「Bad」終盤のリプリーズ部分はカット)。


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マイケルを一目見ようとやってきた人々

 というわけで見所は尽きないのだが、最後にもうひとつ。この横浜公演映像は、観客の姿がしっかり映っている点も素晴らしい。私はコンサート映像で観客たちが楽しんでいる様子を見るのが好きだ。純粋にマイケルのパフォーマンスだけを見たいというファンもいるかもしれないが、観客はコンサートの重要な構成要素である。場合にもよるが、イベントの全体像を捉える上で、観客席の様子を見せることは基本的には大事なことである。

 バブル期の恥ずかしい日本人がたくさん見られるわけだが、まあ、とにかく色んな人がいる。若者、スーツ姿のサラリーマン、よく分からないおっさんやおばさん、肩車された幼児などなど。この客層は上野動物園にパンダを見に来る客層とそれほど変わらないのではないか。当時は本当に猫も杓子もマイケル・ジャクソンという感じだった。かまやつひろしと西城秀樹の姿も見られる(画像最下段右)。肩車をされている坊や(画像最下段左)は、現在30歳くらいになっているだろう。当時50歳だった人は75歳になっている。みんな元気なのだろうか。彼らは今でもマイケル・ジャクソンを聴いているのだろうか。

 この日本公演の約1年後、〈BAD〉ツアー最末期の'88年12月にマイケルは再来日を果たし、真新しい東京ドームでグレードアップしたショウを披露した(12月9日〜26日、計9公演)。前期〈BAD〉ツアーと後期〈BAD〉ツアーの両方を体験できた日本人は本当に恵まれていた。

 日本テレビは名作『Michael Jackson Japan Tour '87』をノーカットで再放映するべきだ。今となってはすべてが貴重な記録である。


WHAT'S COMING UP NEXT?

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〈VICTORY〉ツアーの神MJを高画質で拝める日はやって来るか……?!

 次にDVD発売されるべきは、'84年7月ダラス公演、もしくは、'96年7月ブルネイ公演だろう。「Beat It」でエディ・ヴァン・ヘイレンが飛び入りする前者は、存在が知られている完全収録ものの中では〈VICTORY〉ツアー映像の決定版と言えるもの。〈VICTORY〉ツアーのMJは〈BAD〉ツアーとは次元が違う。最初から最後まで、とにかく神である。同ツアー、'84年11月ヒューストン公演の「Billie Jean」映像も是非ソフト化してもらいたい。ジャーメインのぶっといベースが地面を揺らす〈VICTORY〉ツアーの「Billie Jean」は別格である(他のツアーの「Billie Jean」は根本的にベースのサウンドがダメだ)。終盤のダンスがどれほど進化しようと、'84年の神パフォーマンスだけは超えられない。

 '96年7月ブルネイ公演は、ブルネイ国王の50歳の誕生日を祝うために行われた一夜限りの特別無料コンサート。同年9月に始まる〈HISTORY〉ツアーの前哨戦的なショウだが、内容はむしろ〈DANGEROUS〉ツアーに近く、そこに新曲「You're Not Alone」「Earth Song」、〈DANGEROUS〉ツアー終盤にやっていた「Dangerous」、レアな「The Way You Make Me Feel」を加えた極めて変則的なものだった。しかも、このショウでマイケルは、〈DANGEROUS〉ツアーと同様、かなりの曲を生で歌ってもいる。〈DANGEROUS〉ツアーと〈HISTORY〉ツアーのおいしいところをミックスしたこの公演は、'90年代MJのライヴ映像の中で群を抜く面白さである。中でも、最後の生歌パフォーマンスとなったこの公演の「Billie Jean」は必見(マイケルも熱いが、カメラが最高)。「Billie Jean」のライヴ映像に関しては、'84年11月ヒューストン公演、'87年9月横浜公演、'96年7月ブルネイ公演がトップ3だと私は思っている。

VICTORY TOUR
Live in Kansas City, July 1984
Live in Dallas, July 1984
Billie Jean (Live in Houston, November 1984)

BAD TOUR
Live in Yokohama, 26 September 1987

Pre-HISTORY TOUR
Live in Brunei, 16 July 1996




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