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Daniel Cloud Campos──出没! 笑撃の踊るゾンビ



 ダニエル・クラウド・カンポスがまたやった。笑撃のMJトリビュート『Like Mike』以来、約1年ぶりとなる彼の新作ショート・フィルム『The Dancing Dead』('12年11月1日公開)の話だ。

 “踊るゾンビ”と言えばマイケル・ジャクソン「Thriller」(1983/ジョン・ランディス監督)だが、あれから約30年の時を経て、クラウドは全く新たなゾンビ・ダンスを生み出すことに成功した。人は一体どうすればゾンビを上手く踊らせることができるのか? これはもはや発明である。さあ、人類の新たな一歩を君も見逃すな!


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THE DANCING DEAD (2012)
Written/Directed/Edited: Daniel Cloud Campos
Camera Operator: Richie "Abstrak" Soto
Hair & Make Up: Tamara Levinson-Campos
Music: "So Addicted To You" performed by Mr. Capone-E feat. Angie B, "Bangarang" performed by Skrillex feat. Sirah, "Hound Dog" performed by Elvis Presley, "Gangnam Style" performed by PSY, "Break Dance - Electric Boogie" performed by West Street Mob, "Darkseeker Dogs" from "I Am Legend" soundtrack
Starring: Oscar Orosco, Jaime "Venum" Burgos, Tamara Levinson-Campos, Spee-d, Daniel Cloud Campos

 本格的な短編作品としては『Like Mike』('11年11月23日公開)以来、実に1年ぶりとなる待望の新作。'12年春に制作予定が伝えられていた作品とは違うが、またしてもこちらの期待と予想を超える傑作ミュージカル・コメディを届けてくれた。

 6分の短編『The Dancing Dead(踊る死人)』は、クラウド初のゾンビもの。これまでホラー・サスペンス調の作品をいくつも撮ってきたクラウドのキャリアを鑑みれば、遂に出た(笑)という感じもする。“ゾンビ+ミュージカル”というテーマは、MJトリビュートの前作『Like Mike』からの繋がりを確実に感じさせるが、作品はこれまで以上に独創的で、彼の作家性をより開かれた形で強烈に印象づけるものになっている。

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 舞台はイースト・ロサンゼルスの白昼の路上。銃を持ったヒスパニック系のストリート・ギャングたちが、“ここは俺たちのシマだ。立ち入る奴はぶっ飛ばす”と息巻いている。そこへゾンビ・クラウドが出現。ふらふらと縄張り内に入ってくる。“誰の回し者だ!”と銃を向けて威嚇するギャング。どんどん近づいてくる奇怪な乱入者に銃弾がヒットする。が、怪物は倒れない。ゾンビを撃ちまくるうちに、ギャングはあることに気付く。こいつ、面白くね?──彼らは、着弾の衝撃でゾンビを踊らせることができるということを発見してしまうのである。

 色んな銃器が取り出され、ゾンビ・クラウドが一斉射撃を受ける様子はとにかく爆笑である。銃弾を全身に浴びながら、痙攣状態の見事なゾンビ・ダンスが繰り広げられる。足を撃ってエルヴィス・ダンスを踊らせたり、サングラスを掛けさせてスティーヴィー・ワンダーの物真似をさせたりするギャングたちの悪乗りぶりが最高だ。ゾンビ・ダンスはどんどんエスカレートする。PSY「Gangnam Style(江南スタイル)」に乗って“馬ダンス”が飛び出す場面──ちょっとMJ風にアレンジされている(笑)──は笑撃以外の何ものでもない。ムーンウォークをしながら銃を乱射するギャングも傑作だ。これぞまさしく“死体と遊ぶな子供たち”である。遊ばれているうちに変なスイッチが入ってしまったゾンビは、しまいに勝手にブレイクダンスを踊り始める(笑)。但し、不死身のゾンビにもひとつ弱点がある。最後に、ギャングはうっかりいけないところを撃ってしまうのだった……。

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『俺たちに明日はない』──“ダンス”の後

 弾丸でゾンビを踊らせるというアイデアがとにかく秀逸だ。動画に添えられた解説文で、クラウドはインスピレーションとしてゾンビ映画『ウォーキング・デッド(The Walking Dead)』(2010〜/テレビ作品)を挙げているが、『The Dancing Dead』の親としてより重要な映画作品はアーサー・ペン監督『俺たちに明日はない(Bonnie And Clyde)』(1967)だろう。主人公のボニーとクライドが167発の銃弾(撮影では87発だったらしい)を浴びながら痙攣し、宙を舞う最終場面は“死のダンス(死のバレエ)”と称され、後続の映画の暴力描写に莫大な影響を与えた。撃たれるのが普通の人間だとすぐに倒れてしまうが、クラウドは標的をゾンビに変え、文字通りダンスを踊らせることに成功した。これまで思いつきそうで誰も思いつかなかった、まさに“コロンブスの卵”的な発想の作品である。確実に笑いのツボを突いてくるテンポの良い演出も相変わらず見事だ。

 ギャングを演じた3人の男たち──Oscar "Double O" Orosco、Jaime "Venum" Burgos、Philip "Spee-d" Albuquerque──は、いずれもグルーヴァルーズ Groovaloos というLAのダンス・グループ(クラウド自身も在籍)のメンバー。ムーンウォークしながら銃を撃つ馬鹿キャラを演じたBurgosは、クラウドの過去の短編『Welcome Home』(2010)にもルームメイト役で出演していた。女性ギャングは毎度お馴染みのクラウドのパートナー、タマラ・レヴィンソンだが、今回の作品からクレジットが“Tamara Levinson-Campos”になっている。どうやら遂に結婚したようだ。

 これまでのクラウド作品はいずれも過去の映画作品のパロディ(あるいは、オマージュ)的な性格が強いものだったが、今回はかなり独創性が高く、一皮剥けた印象を受ける。これは普通のゾンビ映画ではないし、もちろんマイケル・ジャクソン「Thriller」の模倣でもない。“DON'T IMITATE... ORIGINATE(模倣するべからず……創造せよ)”という前作『Like Mike』のメッセージの実践と言っていいだろう。人はこうやって過去の偉人を超えていくのだ。

 その面白さにもかかわらず、『Like Mike』はやはり視聴者をMJファンに限定してしまうらしく、意外と再生数が伸びなかった。しかし、公開1ヶ月でやっと再生数10万回だった『Like Mike』('12年11月現在でも40万弱)に対し、今回の『The Dancing Dead』は公開2日でいきなり10万回を超えた。より幅広い層にアピールするこの作品で、クラウドは大いに知名度を上げるに違いない。

クラウドによる作品解説「自分たちの縄張りを守るイースト・ロサンゼルスのギャングが、おかしな乱入者に遭遇する。僕はテレビ映画『ウォーキング・デッド』の大ファン。それでこれを思いついたんだ」


最近のクラウド関連作品

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ブラックな即興短編『Trailer Park Thrash』

 最近のクラウドの主な短編作品としては、他に『Trailer Park Thrash』('12年10月18日公開)がある。クラウドが自分の親類4人を使って即興で撮った2分40秒の小品。4人で道を歩いている最中、青年(画像中央後ろ/クラウドの姉の長男)がふざけて従兄弟の少年(中央前/クラウドの兄の子供)の足を引っかけて転ばせる。少年が仕返しに青年をボコボコにすると、今度はそれを見た青年の母親(左/クラウドの姉)が少年に逆襲。次に少年の父親(右/クラウドの兄)が姉に逆襲して……という具合に、喧嘩がどんどん連鎖的にエスカレートしていく。クラウドらしいナンセンス・コメディだが、暴力描写が過激で、今までとは一味違うブラックな作品になっている。『The Dancing Dead』と同じく、クラウドの新生面が窺えるバイオレンス・コメディだ。

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ボブ・ディランの音楽ヴィデオ「Duquesne Whistle」に主演

 ボブ・ディランの音楽ヴィデオ「Duquesne Whistle」('12年8月29日公開)では、役者としてのクラウドの活躍が見られる。女の子を追いかけ回して猛烈なアタックを繰り返す恋に憑かれた青年役を好演。往年のミュージカル映画を思わせる夢想的な恋愛劇──MJ「The Way You Make Me Feel」に似ている(ニーヨ「One In A Million」も参照)──は、花屋からバラの花をくすねたクラウドが警官に追われるあたりから徐々にリアリズムに侵食され、最終的に主人公の青年は酷い目に遭うことになる。女性の気を引くために花屋からバラを一輪くすねても咎められないのがミュージカル映画の常識だが、現実世界でそんなことをしたら単なる犯罪者だし、女性にしつこく付きまとう青年はストーカーということになってしまう。いかにも“夢なき時代のミュージカル”という感じだが、ミュージカル映画に対する批評というよりは、“もし映画と同じことを実際にやったら?”というシンプルな発想のジョーク的な作品として見るのが正しいと思う。ミュージカル馬鹿のクラウドが主人公を演じているところが実に面白い。監督はオーストラリアの映画監督/スタントマンのナッシュ・エドガートン Nash Edgerton。意味不明な取り巻きを引き連れ、狂言回し的な役で登場する御大ディランの姿も見ものだ。個人的には、女の子を出待ちしているクラウドがトランプの札を缶に投げ入れて時間を潰している冒頭場面がお気に入り(普通、この遊びは帽子を使ってやる。トム・ウェイツのライヴ映画『ビッグ・タイム』の「Telephone Call From Istanbul」参照。トム・ウェイツと同じように、クラウド演じる主人公の青年も“愛してる/愛してない”の占いをやっているのかもしれない)

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クラウド監督「Heart Skips A Beat」(左)、クラウド主演のマイクロソフトCF(右)

 過去にエミリー・オスメント「Lovesick」(2010)を手掛け、音楽ヴィデオ監督としても活躍するクラウド。上記「Duquesne Whistle」に出演後、彼は全く同じ設定を使ってオリー・マーズのヴィデオ「Heart Skips A Beat」を撮っている('12年9月26日公開。同曲の3本目のヴィデオ)。通りで見かけた女性に一目惚れしたオリー・マーズが猛烈にアタックするという物語。オリー・マーズも花屋からバラの花を一輪パクるが、こちらはお咎めなし。純粋にミュージカル調のハッピーな作品だが、最後に妄想オチがあり、現実世界に引き戻される点は「Duquesne Whistle」と共通する。現代の観客は、昔と違って簡単に夢を見ない。登場人物が劇中でいきなり歌い出したり踊り出したりすると、“そんなのあり得ない”とすぐに文句をつける輩が出てくる。そういう人はそもそも映画など見てはいけないのだが、彼らの気持ちも分からなくはない。いかに現実と折り合いをつけ、観客が納得する形で上手く夢を見せられるか、というのがここ40年くらいのミュージカル映画の大きな課題である。「Heart Skips A Beat」の妄想オチ(月並みではあるが)からは、かつてのような純粋なミュージカル映画を撮ることの難しさをクラウドがよく理解していることが窺い知れる。後半にストリート・ダンサーのブレイキング場面が出てくるのも見所だ(クラウド自身は出演していない)。

 クラウドの姿をもっと見たい人には、マイクロソフト社のタブレット端末“Surface”のCF('12年10月15日公開)がお薦め。監督は、映画『ステップ・アップ3』や『The LXD』でも手を組んだジョン・M・チュ。このコンビらしいハッピーなミュージカル調のCFなので、ファンは要チェックだ。


TODAY'S THE DAY──夢の長編作品に向かって

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 以前にもちょっと書いたが、ダニエル・クラウド・カンポスには『Today's The Day』というタイトルの新作が控えている。これはクラウド初の長編作品だが、制作に漕ぎ着けるため、まず、プレゼン用の叩き台としてその短編版が撮られる予定。彼はこの短編をメジャーな映画祭に出品するなどして、自分に長編を撮らせてくれる映画会社やプロデューサーを見つけようとしている(この短編作品のタイトルが『Today's The Day』で、長編版が実現した場合、別タイトルになる可能性もある)。

 『Today's The Day』の構想は'12年3月21日にKickstarterで発表され、資金援助が世界中に呼びかけられた(支援を呼びかける動画もクラウドのYouTubeチャンネルで同時公開。クラウドのバイオグラフィ映像としても秀逸)。1ヶ月の募金期間で、最終的にクラウドの希望額25,000ドルの倍以上の51,148ドル(提供者344人)のカンパが集まった。彼はこの資金を基に短編『Today's The Day』を撮ることになる。

 クラウド自身の説明によると、『Today's The Day』は、芸能事務所で下働きをする冴えない青年──フレッド・アステアに憧れている──が弱気な自分を克服し、ダンサーになる夢に向かって立ち上がるという物語らしい。

 クラウドはこうも言う。

「『Today's The Day』は爽やかで心温まる映画です。こういう作品こそ今の世の中に必要だと僕は感じます。歌と踊りは皆に愛されています。それなのにミュージカルは一体どこへ行ってしまったのでしょう? 僕にミュージカルを取り戻させてください!」

 今、一番面白いミュージカル映画を撮れる人間は、間違いなくこの男である。ミュージカルこそ“映画の中の映画”であることを再び証明できるのは彼しかいない。ダニエル・クラウド・カンポスはきっとやるだろう。『The Dancing Dead』を観て、私の確信は一層揺るぎないものになった。



Daniel Cloud Campos──ヒップホップ時代のジーン・ケリー?
Daniel Cloud Campos──渾身のマイケル・トリビュート

| Dance to Jazz and All That Jazz | 06:17 | TOP↑

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