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Thriller Live @ 六本木ブルーシアター 2012



 ヒ〜ヒ〜! 話題のショウ『THRILLER Live』を観て来たホーッ! 歌と踊りでマイケル・ジャクソンの軌跡を辿るイギリス生まれのミュージカル。マイケルの名曲の数々を生で追体験できてしまう夢のような舞台なのダッ。現在、六本木ブルーシアターでロングラン上演中ダッ。ヤ・ノウ・イッ!

 『BAD25』発売(9月)に始まり、この『THRILLER Live』来日公演(9〜12月)、MJの衣裳を集めた〈マイケル・ジャクソン展〉(10〜11月)、そして、まさかのジャクソンズ来日公演(12月)と、2012年の秋冬は再びMJが熱い。完全MJモードの私は、前が見えないくらい目深に帽子を被って六本木ブルーシアターへと向かった。パオッ!

※上の写真の人は『THRILLER Live』出演者ではありません


THIS IS THRILLER Live──これが『THRILLER Live』ダッ!

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エイドリアン・グラント(※この人も出演していません)

 『THRILLER Live(スリラーライブ)』は、イギリスのMJファン、エイドリアン・グラントが'91年に始めた年一回のMJトリビュート・イベントから生まれたミュージカル・ショウ。'06年にロンドンでプレヴュー公演が行われた後、イギリス〜ヨーロッパ・ツアーを経て、'09年1月からウェスト・エンドでの上演が始まった。MJの死後、ショウは大きな注目を集めるようになり、ヨーロッパの他、これまで中国、シンガポール、南アフリカなどでも上演されて、好評を博してきた(アメリカ進出はまだのようだ)。ショウの生みの親であるエイドリアン・グラントは、MJ年代記『Michael Jackson: A Visual Documentary』('94年初版/邦訳書『マイケル・ジャクソン全記録1958-2009』)の著者としても知られる人物。MJファンジン『Off The Wall』を刊行し('88年創刊。ソニーとMJJプロダクションに公認され、47ヶ国のファンに愛読されたという)、マイケル本人とも深い親交を結んだ、いわばイギリスのキング・オブ・MJファンである。

 『THRILLER Live』は演劇ではなく、コンサートと同じようにマイケルの代表曲がひとつひとつ披露されていくレヴュー形式のミュージカル作品。ジャクソン5時代の曲から始まり、基本的に時間軸にそってショウが進行する。単なる再現ショウや物真似ショウだと思っている人もいるかもしれないが、そうではなく、多くの歌手やダンサーによる“カヴァー”、あるいは、“リメイク”によってMJの歴史を振り返り、その芸術的遺産を継承しながら発展させる全くオリジナルなショウだと考えた方がいい。生粋のMJファンが作っただけあり、単なる再現に留まらず、マイケルのクリエイティヴ精神まで受け継いだ非常に新鮮な作品になっている(振付にはラヴェル・スミスも参加)。もう二度と生で観ることができなくなった本物のMJショウの代用物ではなく、仮にMJが存命でコンサート活動を行っていたとしても十分に観る価値のあるショウだ。

 このショウは以前、マイケルの死から8ヶ月後の'10年2月23〜28日に来日公演が予定されていたが、結局中止になり、今回、満を持しての日本初上陸となった。'12年9月29〜12月9日まで東京の六本木ブルーシアター(80公演)、12月18〜28日まで大阪の森ノ宮ピロティホール(16公演)で上演。他界直後の狂騒的なMJフィーバーの最中ではなく、人々が落ち着いてMJの偉業を振り返ることができるようになった3年後のこの時期に来日公演が実現したのは、結果的には非常に良かったと思う(仮に'10年2月に来日していたら、このショウの醍醐味はあまり理解されなかった気がする)。


ACT 1──第1部

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私の席はなぜか最前列のど真ん中だった。イエイ!

 3ヶ月に及ぶ長期公演も半ばに入った11月初旬、ブルーシアターはたくさんの観客で溢れていた。中高年のカップル、若者から子供まで、色んな人が観に来ていた。ロビーではムーンウォークを練習する小学生のチビッ子を見かけた。2000円のパンフレットを購入して席へ向かう。私の席は最前列のど真ん中だった(80公演もあるので楽勝で取れた)。最前列とステージの間の距離は1メートルくらい。それほど大きな会場ではないので、後方の席でもステージはかなり近く感じられると思う(全901席)。開演前と休憩中には、ステージ後方のLEDスクリーンに“THRILLER Live”というタイトルが表示されていた。場内BGMでソウル・クラシックが流れているのもいい感じだ(私が場内にいた時はカーティス・メイフィールド「Pusherman」、JB「Get Up Offa That Thing」、ボビー・バード「I Know You Got Soul」などが流れていた)

 ショウは途中に15分の休憩が入る2部構成。第1部ではジャクソン5時代から『TRIUMPH』時代まで、第2部では『THRILLER』以降のスーパースター時代の曲が披露される。事前に私が最も楽しみにしていたのが第1部。とにかくあり得ない、夢のようなセットリストなのである。

※以下、個人的な備忘録を兼ねるので、完全にネタバレです。これからショウを観る人は自己責任でお読みください。

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オープニングのJ5パートはこんな感じ(私が観た公演のMJ役はこの写真の子ではない)

 MJの業績をざっと紹介するイントロ映像がステージ後方のスクリーンに映し出された後、ショウは「ABC」でスタート。5人の役者が登場してジャクソン5のパフォーマンスを再現する。J5時代のマイケル役は子役の少年が担当。佇まいだけでなく、声までマイケルそっくりで驚いた。あまりにも安定した歌唱なので、最初は“リップシンクの上手い子だな”と思いながら見ていたのだが、しばらく観察しているうちに、どうやら生で歌っているらしいことが分かった(笑)。なんだ、この子供は……。バックのオケも実に安定した綺麗なサウンドで、ずっと事前録音のカラオケだと思っていたのだが、これも後で生演奏だということが分かった(ステージ後方のLEDスクリーンの後ろにバンドが隠れている。ショウの途中でスクリーンが開き、バンドが観客の前に姿を見せる。ティト役とジャーメイン役が持っているギターとベースは振りだけで、実際に弾いているわけではない)。『THRILLER Live』は、歌も演奏も基本的にライヴ・パフォーマンス。もちろん、MJのオリジナル音源を使い回したりはしない。通常のコンサートと同様、生の音楽と踊りで観客を楽しませる本格的なエンターテインメントである。

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J5時代のマイケル(左)、ブレイズ・エリス・ポーター(右)

 私が観た公演の少年MJ役は、ブレイズ・エリス・ポーターという子だった(現在は上の写真よりも少し大きくなっている)。顔の骨格やスリムな体型がマイケルに近く、アフロのウィグをつけると本当にそれっぽい。歌声も似ているし、踊りも結構頑張っていた。変声期までは十分にマイケル役で行けるだろう。パンフレットを見ると、少年MJ役は全部で5人紹介されているので、時期によって別の子が出演するのかもしれない。他の子のパフォーマンスは知らないが、パンフで写真を見比べる限り、私はこのブレイズ君で当たりだったと思っている。女性客からは“可愛い〜!”という声が上がっていた。

 パンフに掲載されているセットリストでは、J5パートが「ABC」「The Love You Save」「I Want You Back」「I'll Be There」になっているが、私が観た公演では「The Love You Save」がなかった(日によって変わるわけではなく、そのように変更されたようだ)。「The Love You Save」を演るのであれば、最後に「I Want You Back」で盛り上げるこの曲順でも良いと思うが、省略したのであれば、素直に「I Want You Back」〜「ABC」のメドレーにした方が良いのではないだろうか(「ABC」で始まるというのも悪くはないが……)。

 2曲目「I Want You Back」で盛り上がったところでJ5たちは一旦退場。左の袖からMC役の男性が登場し、“スリラーライブへようこそ! これから皆さんをキング・オブ・ポップ、マイケル・ジャクソンの歴史を辿る旅にお連れします。みんなパーティーの準備はいいか〜!”といった調子で観客を煽る。J5は最初の4枚のシングルを連続1位にして……云々という口上(私は最前列だったので気付かなかったが、会場の両脇にMCの日本語字幕が表示されるらしい)の後、“では、4枚目のナンバー1「I'll Be There」をお聴き頂きましょう。再び拍手でお迎えください、ブレイズ・エリス・ポーターです!”という流れで3曲目「I'll Be There」が始まる。ショウの最中には時折こういうMCが入る。『THRILLER Live』は、数十年間にわたるMJの歴史を凝縮した夢のMJレヴューなのである。

 「I'll Be There」は、まずブレイズ君が1人でステージに登場して歌う。ジャーメインのパートはどうするのかと思って見ていたら、ステージの左袖からさっきのMC役の男性が出てきて歌い始めた。あんた、歌も歌うのか(笑)。歌唱はMJ風。演奏が転調すると、今度は黒人女性歌手が現れて歌を引き継いだ。この女性は特にMJ風というわけでもなく、より自由なゴスペル解釈でMJクラシックを新鮮に聴かせてくれる。ステージ後方には女性バック・ヴォーカル隊も現れて曲を盛り上げる。最後にアジア系の男性歌手が登場し、これまたMJ風の歌唱を聴かせた。曲はどんどんゴスペル的な高まりを見せ、ブレイズ君が最後の一節を素朴に歌い上げて締め括られた。はっきり言って、本物のMJショウの「I'll Be There」よりも聴き応えがある。『THRILLER Live』では、このように複数のリード・ヴォーカリストが登場してリレー式に歌うパフォーマンスが多く見られる。単なる再現ではなく、演出に様々な工夫を凝らし、出演者たちが自分なりの解釈を加えながらMJ作品を蘇らせるところが『THRILLER Live』の面白さである。彼らの歌を聴きながら、「I'll Be There」っていい曲だなあ、と私はしみじみと思った。

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「Shake Your Body」──場内総立ちでコール&レスポンスが繰り広げられる

 4曲目からは、待望のジャクソンズ〜『OFF THE WALL』の部。「Show You The Way To Go」のイントロが流れ、ステージ後方に5人のジャクソンズのシルエットが浮かび上がったところで、私はもう恍惚となってしまった。信じられない。「Show You The Way To Go」を生で聴けるなんて!!! ここでは初登場の黒人男性がリード・ヴォーカルを担当。これまたマイケルっぽい歌唱。お馴染みの振付も見られる「Heartbreak Hotel」の後、「Shake Your Body」でショウは更にヒートアップ。この曲ではステージ後方のスクリーンが開いてバンドが姿を現し、本当のライヴ・コンサートのような雰囲気になる。私が行った公演に関しては、観客は観劇モードで最初からずっと座ったままショウを観ていた。「Show You The Way To Go」が始まったあたりから私は立ちたくてムズムズしていたのだが(……後ろの観客を気にして大人しく座っていた)、嬉しいことに「Shake Your Body」で出演者から観客に立ち上がるよう呼びかけがあり、ようやく解放された。『THRILLER Live』は立って盛り上がった方が絶対に楽しい。「Shake Your Body」は演奏を長く引っ張り、客席を左右に分けてコール&レスポンス合戦が繰り広げられた。和気藹々とした出演者同士の掛け合いもジャクソンズらしくて実に楽しい。

 そして、「Blame It On The Boogie」! たまらない。前期〈DESTINY〉ツアー以来、マイケルは他人が書いたこの奇蹟の名曲を一度もコンサートで取り上げなかった。この曲は個人的に「Billie Jean」の次に好きなMJナンバーである(これほどマイケルにピッタリの曲はないと思う)。『THRILLER Live』はこういう曲が生で聴けてしまうから素晴らしい。「Show You The Way To Go」「Heartbreak Hotel」「Shake Your Body」の3曲は複数の男性歌手が交替でMJパートを歌うジャクソンズ風のパフォーマンスだが、「Blame It On The Boogie」は女性歌手がダンサーを従えて歌い、また違った面白さがあった。

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「Rock With You」──J・ブロック(中央)のソフトな歌唱が魅力的

 ひとしきり盛り上がったところで、「I'll Be There」でも登場したアジア系の男性歌手が「She's Out Of My Life」をソロで熱唱。『OFF THE WALL』ナンバーを中心にした第1部後半は、ディスコ・ソウル時代のMJファンにとっては本当に至福の時である。ホットドッグ屋、ウェイトレス、警察官、ホームレス、OLなどに扮したダンサーたちが入り乱れてストリートの喧騒が表現される「Off The Wall」、メドレーでなだれ込む「Get On The Floor」(!)、そして、椅子を使った独自のダンスも盛り込まれた「Rock With You」。天井から下りてきたLEDスクリーンにミラーボールが映し出され、華やかなディスコ・ムードも演出される。全部で4人いた成人の男性リード・ヴォーカリストの中では、「Rock With You」を担当したジェイソン・ブロック(MC役の男性)の歌唱がソフト&スウィートで、個人的には一番しっくり来た。男性歌手は全員MJ風の歌唱を聴かせるが、ブロックは声質自体が(特に若い頃の)MJ作品と相性が良いように感じた。

 「Rock With You」の次に披露されたのは、なんとなんと「Never Can Say Goodbye」! 痒いところに手が届くこういう選曲が、いかにもイギリスのマニアックなファンが作ったショウだなという気がする(アメリカ人が作るともっと大雑把な選曲になると思う)。このJ5ナンバーでは、天井から下ろされたスクリーンにスタジオ54の化粧室で鏡に向かってメイク中の女性3人の様子が映し出され、その前で同じく女性3人がパフォーマンスを行う。女性ヴォーカル+ディスコ演出で見事に生まれ変わった「Never Can Say Goodbye」。素晴らしい。

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第1部を締め括る「Can You Feel It」

 そして、遂に出た「Don't Stop 'Til You Get Enough」! 白スーツ、赤シャツというディスコテックな衣裳で黒人男性歌手がファルセットでセクシーに歌う。第1部を締め括ったのは「Can You Feel It」。サングラスを掛けた出演者たちがジャクソンズ風に仁王立ちし、最後に銀色の紙吹雪が舞って華々しく前半終了。いや〜、最高!!!

 『THRILLER Live』にリード・ヴォーカリストは全部で6人登場する。まず、上の「Can You Feel It」画像でステージ前方に立っている4人。左から、ジェイソン・ブロック Jason Brock(MC役兼任。ショウの最中、共演者たちから“ブラザー・ジェイ”と呼ばれていた)、シャカ・カーンみたいなビッグ・ヘアのサマンサ・ジョンソン Samantha Johnson、妙に足が短いアジア系のアレックス・コー Alex Ko(主にロック系楽曲を担当)、がっしりしたアフリカ系のオギー Oggie。各人のソロ歌唱曲もあるが、歌がメインになるパフォーマンスでは、この4人が組んでリレー式に歌うパターンが多い。リード・ヴォーカリストの中では、紅一点のサマンサ・ジョンソンが特に光っていた。キーが高いマイケルの曲は女性が歌っても違和感がない上、女性であることでMJ作品をより自由な解釈で歌うことができる。声量ではオギーが一番だと思うが、MJ作品との相性という点ではちょっと微妙かもしれない。男性歌手はどうしてもMJ風に歌うことを強いられてしまうので、女性よりも分が悪い(もっと自由に歌ってもいいと思うが、観客はMJを聴きに来ているので、個性の出し方が難しいところだ)。

 この4人の他に、MJスタイルで歌とダンスをどちらもこなす主役的なショーン・クリストファー Sean Christopher(「Smooth Criminal」「Dangerous」「Billie Jean」「Thriller」などでMJ役担当。「Shake Your Body」の際に真ん中にいたのがクリストファーだと思う)、先述した少年MJ役のブレイズ・エリス・ポーター Blaze Ellis Porter の2人がいる。パンフレットでは、成人のリード・ヴォーカリストとして他に2名(アンダースタディとして更に2名)が紹介されている。これも時期によって別人が出演するのかもしれないが、私が観た公演に関しては、リード・ヴォーカリストは以上の6人だった。その他に、ダンサーが10人(男女5人ずつ。パンフではアンダースタディを入れて計13名が紹介されている)、更に、日本人を中心にした6人編成のバンドがいる。総勢22名。頻繁な衣裳替えと8面のLEDスクリーンで視覚的にも魅せる実に賑やかなショウである。


ACT 2──第2部

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「P.Y.T.」──S・ジョンソンと観客がコール&レスポンス

 後半はスーパースター時代のMJナンバーがこれでもかというくらい連発される。バスケットボールがゴールに入る「Jam」風の映像がスクリーンに映し出された後、第2部は「Wanna Be Startin' Somethin'」でスタート。途中からメドレーで「Workin' Day And Night」へ突入し(演奏部分のみ。横一列に並んでキツツキのように首を動かすお馴染みの振付も登場)、そこから今度は「Dancing Machine」(こんなところで!)へなだれ込んだ。最高。演奏は基本的にオリジナルのサウンドに忠実だが、曲の構成が巧みにアレンジされていて、非常に新鮮な感動がある。セットリストも実によく練られている。

 「Dancing Machine」の次に始まったのは、なんと「P.Y.T.」! サマンサ・ジョンソンが女性ダンサーを従えてカッコよく歌う。中盤の“Na-Na-Na”のコール&レスポンス(オリジナル版ではジャネットが歌っている)を3回繰り返して引っ張り、女性客に歌わせる場面が特に良かった。マイケルがステージで一度も歌わなかった名曲まで聴けるからたまらない。これは最高すぎる(「Baby Be Mine」も演ってくれ〜!)。

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「The Way You Make Me Feel」──S・ジョンソンによる見事な男女逆転版

 「P.Y.T.」終了と同時にお馴染みのゴング音が鳴り響き、「Beat It」が始まる。ここからの場内の盛り上がりはさすがに凄かった。アレックス・コーによる「Beat It」も悪くなかったが、私はその次に披露されたサマンサ・ジョンソンの「The Way You Make Me Feel」に魅了された。黒いレザー・ジャケットを着たサマンサが、MJルック(青シャツ&黒パンツ)の男性ダンサー4人と絡みながら歌う男女逆転版。MJ風のヴォーカルとダンスで男勝りのパフォーマンスを見せるサマンサがとにかくカッコいい。終盤では群舞も披露。まるで『CONTROL』時代のジャネットみたいだ。第2部の中では、サマンサ・ジョンソンによる「P.Y.T.」「The Way You Make Me Feel」が私の一番のお気に入り。

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「Smooth Criminal」──反重力傾斜も再現

 ジェイソン・ブロックとサマンサ・ジョンソンがデュエットする「I Just Can't Stop Loving You」(普通すぎてあまり面白くない。代わりに「The Lady In My Life」を演って欲しい)が終わったところで、「Dirty Diana」の“ギュオ〜ン”(表記不能)というイントロが流れたが、これはフェイントで、次に始まったのは「Smooth Criminal」。白スーツ姿のショーン・クリストファーがスポットライトに照らされてステージ左上から登場し、ヴィデオの群舞が再現される(クリストファーはダンスのみ。ジェイソン・ブロックがステージ右端で生で歌うという反則技の分担制が面白い)。パフォーマンスは実際のMJショウよりもヴィデオを忠実に再現していて見応えがある。途中で曲が中断され、ダンサーたちが呻く場面まで再現されるのが嬉しい。もちろん目玉の反重力傾斜も披露される。ショーン・クリストファーはダンス自体はまあまあだが、あまり背が高くないので、パッと見た感じ“ずんぐりしたマイケル”といった間抜けな印象も受ける。マイケルと言うよりは、むしろプリンスっぽい感じの人だ。もうちょい背が高くて、手足の長いスタイルのいい人に踊って欲しいのだが……まあ、贅沢な望みかもしれない。

 「Smooth Criminal」よりも、私はむしろその次の「Dirty Diana」に感銘を受けた。〈BAD〉ツアーのロッキッシュなパフォーマンスの再現ではなく、ランジェリー風の黒い衣裳を着た悪魔的な女性ダンサーが2人登場して悩殺ダンスを披露するという全く独自の演出が見られた。バンドのギタリストもステージに登場。ダークで退廃的な雰囲気のステージでアレックス・コーが苦悶しながら歌う。ロック・スターの主人公がグルーピーの女に陥れられる「Dirty Diana」の歌世界が上手く舞台化されていたと思う。私は本家のパフォーマンスよりこちらの方が面白いとさえ思った。

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「Dangerous」──バックの女性ダンサーがカッコいい

 そして、遂に来た、「Dangerous」! これはとにかく元の振付が最強にカッコいいので、再現版でも十分に楽しめる。MJ役の衣裳は白スーツに変更されていた。バック・ダンサーの中に女性が男装して混じっているのがクール(この人ばかり見てしまった)。「Dangerous」のパフォーマンスにはジュディ・ガーランドの「Get Happy」が引用されている。この曲は思い切って女性をプリンシパルにしても面白いかもしれない。

 「Dangerous」の後、「Man In The Mirror」「They Don't Care About Us」「Heal The World」というメッセージ性の強い曲が3曲続く。これらの曲では複数の歌手がリレー式にリード・ヴォーカルを担当。歌手たちの熱い生歌と分厚いサウンドが迫力満点の「They Don't Care About Us」が特に印象に残った。「Heal The World」では少年MJ役のブレイズ・エリス・ポーターが再登場して大人たちに加わり、冒頭の語りに続けて、出だし部分を歌った。少年マイケルの純朴な声で歌われる「Heal The World」は格別である。これは最高の反則技だ。出演者が揃ってお辞儀し、ショウはここで一旦締め括られる。

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MJの代名詞「Billie Jean」

 「Heal The World」終了後、スーツケースから黒いフェドラ帽や白手袋を取り出すマイケルの映像がスクリーンに映し出される。8ビートのドラムに乗って始まるのは、もちろん「Billie Jean」。帽子を目深に被ってMJに扮したショーン・クリストファーの一人舞台(残念ながら歌は事前録音を使ったリップシンク。これは生で歌わなきゃダメだろ)。私は最前列でまじまじと彼の一挙一動を見ていたが、正直、非常に微妙な印象を受けた。確かに似ていることは似ているのだが……。群舞ならごまかしも利くが、「Billie Jean」のようにあまりにもMJ色の強いソロ・パフォーマンスはどうしても本家と較べてしまうし、いくら頑張って再現しても、結局、ただの物真似になってしまう。飽くまで個人的な意見だが、別に再現に拘る必要はないし、MJが実際にやらなかったようなダンス・ムーヴも、演じるダンサーのセンスで私はどんどん加えていいと思う。衣裳にしても、忠実にMJを再現する必要はない。ドリフの母ちゃんコントみたいなカツラも被らなくていい。最低限の約束事(衣裳は上下黒、必ずムーンウォークをやる、最後に帽子を投げる等)だけ決めて、演じる役者それぞれが自分にしかできない「Billie Jean」をやるべきだと私は強く思う。丁寧に再現することもひとつのトリビュートには違いないし、「Billie Jean」はMJの宝刀だから手を加えるべきでない、という意見もあるかもしれないが、私はMJのコピーはもう見飽きた。

 軽いイントロ映像の後に披露される「Thriller」は、ショーン・クリストファーがオーラ役の女性ダンサーを伴って歌った後、ゾンビ集団が登場して群舞に入るという構成。ステージ上にはスモークも焚かれ、それっぽい雰囲気を演出して観客を沸かせた。

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大団円の「Black Or White」──皆で“Yeah, Yeah, Yeah!”

 再現を重視した「Billie Jean」「Thriller」よりも、単純に皆で歌ってワイワイ盛り上がる最後の「Bad」「Black Or White」の方が個人的には遥かに楽しめた。「Bad」ではまずブレイズ君が1人でステージに登場。彼が携帯から送信する日本語メッセージ(“もっと聞きたい?”など)がスクリーンに表示されて観客を煽った後、スクリーンにスプレーで“BAD”の赤いグラフィティが書かれて曲がスタート。ファン・イベントから始まったショウだけあって、観客の盛り上げ方が実に巧い。4人の歌手がダンサーと一緒に歌う「Bad」では、ヴィデオの振付も部分的に取り入れられていた。キャスト総出演の「Black Or White」では、中盤でブレイズ君が舌足らずのラップを聴かせるところが最高。最後に「Smooth Criminal」「Thriller」の短いリプライズ演奏に乗って群舞が再び披露され、『THRILLER Live』は大盛り上がりのうちに終了した。あっという間の2時間強。満腹!


 『THRILLER Live』の一番の面白さは、MJの歴史を丁寧に辿り、彼の業績を讃えながら、MJとはまた違ったものを生み出しているところである。なので、純粋にMJを観たい/聴きたいという人は、実際のMJショウとは異なる演出や、ちっともMJに似ていない出演者たちに不満を覚えるかもしれない。が、それは無い物ねだりというものだ。マイケルが亡くなってから3年──その間に私たちが嫌というほど学んだことは、マイケルのような人間は他にいないということである。誰にも彼の代わりを務めることはできない。残された人間は、彼が遺したものを自分なりに咀嚼し、そこから何か新しいものを創るべきなのである(彼が生きていても同じことだが)。『THRILLER Live』はきちんとそれを実践している。

 出演者の中で唯一MJスタイルを忠実に再現するショーン・クリストファーのナンバーが個人的には引っ掛かるが、観客の中にはMJと同じパフォーマンスを期待してショウを観に来る人もたくさんいるだろう(MJとは違うものを観たい、という私のような観客はむしろ少数派に違いない)。じっくり歌だけ聴かせる曲、全く新たな演出を加えた曲、忠実にオリジナル・パフォーマンスを再現する曲……色々なタイプの見せ方/聴かせ方をバランス良く織り交ぜ、あらゆる観客が楽める内容になっているところが、このショウの最も優れた点だと思う。

 ファンは皆それぞれ自分の好きなMJ像というものを持っているので、当然、それによってショウのお気に入りナンバーも違ってくる。私の場合、お気に入りは第1部の「Show You The Way To Go」から「Can You Feel It」まで全部(笑)、第2部では「P.Y.T.」と「The Way You Make Me Feel」の2曲を特に楽しんだ。大半の観客は第1部で観劇モード、第2部(「Beat It」以降)で積極的に立ち上がってコンサート・モードになっていたが、私のテンションの上がりどころは全く逆だった。

 ファンの一人として強く提案したいのだが、『THRILLER Live』は将来的にショウを“ABC”の3パターン用意したら良いのではないか。セットAは、キャリア全体を網羅した現行のベスト・オブ・MJショウ。セットBは、ジャクソン5〜『THRILLER』時代に絞ったヤングMJショウ。セットCは、『THRILLER』〜『INVINCIBLE』時代に絞ったアダルトMJショウ。私が最も観たいのはセットBだが、一般的なニーズとしてはA、C、Bの順だと思うので、それに応じて公演数に差をつける。一般の人はセットAだけ観ればいい。ファンはABCのすべてを観に行くだろう。時代を分ければ、『DANGEROUS』『HISTORY』『INVINCIBLE』の曲もたくさん取り上げることができる。ツアーが行われなかった『INVINCIBLE』作品は特にやりがいがあるだろう。マイケルに課題を与えられたと思って、色々と演出を考えれば良いのではないか。これ、本気でお願いしたい。

 なんかバッタもん臭えなあ、などと思って『THRILLER Live』を見逃しかけているファンは、今すぐチケットをゲットした方がいい。MJファンはこのショウを絶対に見逃してはいけない。MJが好きな人ならとにかく楽しめること請け合いである。私は全力でこのショウを推薦する。セットリストやキャストを変えながら、是非、毎年来て欲しい。


ACT 1
00. Overture
01. ABC
02. I Want You Back
03. I'll Be There
04. Show You The Way To Go
05. Heartbreak Hotel (a.k.a. This Place Hotel)
06. Shake Your Body (Down To The Ground)
07. Blame It On The Boogie
08. She's Out Of My Life
09. Off The Wall
10. Get On The Floor
11. Rock With You
12. Never Can Say Goodbye
13. Don't Stop 'Til You Get Enough
14. Can You Feel It

ACT 2
01. Wanna Be Startin' Somethin'
02. Workin' Day And Night
03. Dancing Machine
04. P.Y.T. (Pretty Young Thing)
05. Beat It
06. The Way You Make Me Feel
07. I Just Can't Stop Loving You
08. Smooth Criminal
09. Dirty Diana
10. Dangerous
11. Man In The Mirror
12. They Don't Care About Us
13. Heal The World
14. Billie Jean
15. Thriller
16. Bad
17. Black Or White
18. Smooth Criminal [reprise]
19. Thriller [reprise]

"THRILLER Live" in Japan 2012
September 29 - December 9, Roppongi Blue Theater, Tokyo (80 shows)
December 18 - 28, Morinomiya Piloti Hall, Osaka (16 shows)

※上記は私が観た公演のセットリスト。過去の海外公演のオーディエンス動画へのリンクが張ってある。これらの動画でショウの様子は大方把握できるが、観客参加型のショウなので、実際に会場で体験しないと本当の面白さは分からないと思う(動画のキャストは今回の来日と違うものが多い。演出も異なる場合がある)。

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Blaze Ellis Porter: ABC / I Want You Back / Black Or White
※私が観た公演で少年MJ役を務めていたブレイズ・エリス・ポーターのウェスト・エンド公演映像('11年)。YouTubeで他の少年MJ役の子の映像をいくつか見たが、可愛らしさに関してはブレイズ君が一番だと思う。

※MJ役を演じたショーン・クリストファーは、11月12日の公演を最後にイギリスへ帰国。以後、同役はマイケル・デューク Michael Duke という役者が務める。この交代は最初から決まっていたそうだ。




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