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Macy Gray @ Billboard Live TOKYO 2012

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 メイシー・グレイとその仲間たちがロサンゼルスから再び東京の街にやって来た(2ヶ月前の話だが……)。“〜とその仲間たち”というより、“メイシー・グレイ一座”とでも書いた方がしっくりくるような一団。座長メイシーの下に様々な個性が結集し、まるでサーカスのような目眩くファンキー・ショウが繰り広げられた。

 このところメイシー・グレイの音楽活動は活発化している。私が前に彼女のショウを観たのは約2年前の'11年2月末、アルバム『THE SELLOUT』を引っ提げたツアーでの来日公演だった(詳しくは過去記事“Macy Gray @ Billboard Live TOKYO 2011”参照)。その後、彼女は2枚の大胆なカヴァー・アルバム──ロック作品中心の『COVERED』('12年3月)、スティーヴィー・ワンダーのアルバム全曲カヴァー『TALKING BOOK』('12年10月)──を発表。同時に、来日も頻繁にするようになった。国立代々木競技場第一体育館で行われた〈Michael Jackson Tribute Live〉への参加('11年12月13〜14日/「The Way You Make Me Feel」を歌う)、ブルーノート東京での単独公演('12年1月3〜4日)、同じくブルーノート東京で行われたデューク・エリントン・オーケストラ公演へのゲスト出演('12年10月16〜19日)という具合に回数を重ね、2度の来日を果たした'11年に続き、'12年は今回でなんと3度目の来日。シンディ・ローパーかと思うくらいの日本びいきと化しているメイシー・グレイなのである(誰かさんにもちょっとは見習って欲しいぜ……)。

 過去3回の来日をすべて見送っていた、というか、単に知らずに見逃していた私も、今回はチケットを入手。『TALKING BOOK』全曲カヴァー集の発表直後ということで、スティーヴィー楽曲中心になるだろうと見込んで行くことにしたのだが、蓋を開けてみたら、『TALKING BOOK』とはあまり関係ない──というか、ある意味『TALKING BOOK』を更新した──メイシー流の最高のごった煮ファンキー・ショウだった。ビルボード・ライブ東京にもかかわらず、なんと1時間47分にも及ぶ熱演。事前の期待と予想を超える強烈なパフォーマンスに、私はまたしてもノックアウトされてしまったのである。


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開演前のステージ(筆者撮影/拡大可)

 ビルボード・ライブ東京/大阪でそれぞれ1日ずつ(計4回)行われた今回の来日公演。私が観たのは'12年12月4日(火)の2ndステージ。会場受付の正面にはフジテレビから寄贈されたスタンド花が置かれていた。実はこの日の1stステージの模様はフジテレビNEXTで生中継されていた(19:00〜20:30。受信環境がないため、誠に残念ながら私は映像未見)。1stステージに行ってテレビに映っておく手もあったが、私が選んだのは、内容が濃くなる可能性が高い2ndステージの方だった。

 ステージ後方には、メイシーの横顔写真と共に“Macy Gray & The Sex Fiends Presents The Crack Set”と書かれた巨大な垂れ幕。彼女のバンドは“ザ・セックス・フィーンズ(ザ・セックス馬鹿たち)”と名付けられている。垂れ幕の上部にはメンバー全員の名前も丁寧に記されていた。天井からはビルボード・ライブ東京で通常は見られない巨大なシャンデリアが3つぶら下がる。フジテレビかビルボード側が用意したテレビ中継用(あるいはクリスマス用)の装飾かとも思ったが、後で他国での公演の写真を確認したところ、このシャンデリアはメイシーが持ち込んだものであることが分かった。いつもよりちょっと豪華な雰囲気のステージ。ドラム、ベース、ギター、キーボードに加え、'11年2月の来日時にはなかったパーカッション・セットが左端に設置されているのを見て、私の期待は更に膨らんだ。客席も満員だ。

 Ladies and gentleman, boys and girls, pimps and whores,
 please give it up for the one and only,
 the amazing Miss MACY GRAY and her band THE SEX FIENDS!


 定刻を10分過ぎた21時40分、メンバーたちがステージに登場。続いて、ピンクのゴージャスなスパンコール・ドレスを着たメイシーがドラマーの紹介で迎え入れられた。メイシー、相変わらずデカい!

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ド〜ン! メイシー・グレイ登場!!

 メイシー・グレイの最高のショウは、その名もズバリ「Greatest Show On Earth」で幕を開けた。メイシー自身も歌手役で出演したアウトキャスト主演映画のサントラ盤『IDLEWILD』(2006)の客演曲である。黒人ドラマーの入れる“Step right up, Step right up(寄ってらっしゃい、見てらっしゃい)”という口上と、悶えるような女性バック・ヴォーカルが猥雑な場末感を醸し出す。オリジナル版以上にヘヴィさを増した演奏は、『TALKING BOOK』収録のスティーヴィー・ワンダー「Maybe Your Baby」(プリンスもライヴで取り上げていたことがある)的なムードも感じさせて、迫力満点。意表を付く選曲だったが、これは素晴らしい幕開けだ。

 間髪入れずに「Help Me」(『THE SELLOUT』収録)、「Relating To A Psychopath」(『THE ID』収録)を繰り出す。いずれもグッと重心を落として鋭さを増したボディブロウのような演奏。リズムをガラリと変え、変速ギアのうねるようなグルーヴで襲いかかる後者が特に凄まじい。完全にオリジナル版を超えている。ロックだかファンクだか分からない、ひたすらハード・エッジなサウンドはやはりプリンス的である。いつもながら強烈な存在感を醸し出すメイシーのハスキー・ヴォイス。地面をのたうち回るような彼女のブルース歌唱と、それとは対照的な女性バック・ヴォーカル2人による天に突き抜けるようなゴスペル歌唱が見事なアンサンブルを生み出す。

 バンド編成は、ステージ向かって左から、パーカッション、ギター、ドラム、ベース、キーボード。更にメイシーの両脇にバック・ヴォーカル2名。メイシーを含めて総勢8名。パーカッション、ギター、ベース、キーボードが白人なので、ちょうど白黒半々ということになる。メイシーの音楽性そのまんまという感じの顔ぶれだ(ギターは白人だか黒人だかよく分からないルックスだった)。前回のビルボード・ライブ公演時にもいた鍵盤のズー Zoux──メンバー紹介やステージの垂れ幕では“Zoux Love”とされていた──は、ハル・ウィルナーと共に最近作2枚をプロデュースしたメイシーの右腕的人物。女性パーカッション奏者のマリーナ・バンビーノは、メイシーの初期バンドにもいた古株だ。個人的には、前回メイシーと名コンビぶりを見せたバック・ヴォーカルのシェミカ・シークレスト嬢が引き続き参加しているのが嬉しかった。もう1人のヴォーカリスト、マイヤ・サイクスとお揃いの衣裳を着て今回もメイシーを好サポート。バックのミュージシャンたちが全員、発光するLEDネックレスを首から下げているのも印象的だった。今回のショウはヴィジュアル的にも凝っている(?)。

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メイシーのバックをシェミカ(右)&マイヤ(左)の2人がガッチリ固める。強烈!

 “これはみんな知ってるんじゃないかしら。良かったら一緒に歌って”という前振りで始まった4曲目はユーリズミックスのカヴァー「Here Comes The Rain Again」。『COVERED』収録のスタジオ版では、シンセをバックにメイシーが歌うだけのシンプルすぎるサウンドにひどく中途半端な印象を受けたが(ユーリズミックスのオリジナル版に強い思い入れがある私にとっては、メイシーのヴォーカルも残念ながらミスマッチにしか思えなかった)、ライヴではレゲエの香りもするフル・バンドのアレンジになっていて、遙かに聴き応えが増していた。これならいい。

 演奏はいきなりテンポ・アップし、今度はワウワウが掛かったクラヴィネットのファンキーな高速リフが始まった。怒濤のファンク・グルーヴに乗ってメイシーが歌い出したのは「Kissed It」(『THE SELLOUT』収録)。オリジナル版はシャッフル・ビートのメイシー流グラム・ロック。前回のビルボード・ライブ公演でも大いに会場を沸かせた曲だが、今回は全くアレンジを変えてきた。まるでスティーヴィー「Keep On Running」のようなサウンドなのだ。これは熱い。

 続けざまに始まったワン・コードのファンキー&ブルージーなシャッフルのインスト曲に乗って、メイシーがバンドの面々を紹介し始めた。以前のショウでは「Kissed It」の次にメドレーでJB's「Doing It To Death」が演奏され、そこでメンバー紹介があった。今回も同じパターンである(半音で反復するギター・リフがないため、もはや「Doing It To Death」とは呼びがたい曲になっていたが、一応、そう呼んでおきたい)。パーカッション、ギター、バック・ヴォーカル(シェミカ)、ベース、キーボード、ドラム、バック・ヴォーカル(マイヤ)の順に紹介され、各人の個人芸が次々とフィーチャーされていく。同時にメイシーは“Turn it up now!”、“Oh my god!”などと指示を出し、JBやプリンスのようにバンド全体の演奏を仕切る。シェミカは今回も「Doing It To Death」の“We're gonna have a funky good time... we're gonna take you higher!”のフレーズを歌って観客を盛り上げた。もう1人のバック・ヴォーカリストのマイヤは、メンバーたちが順番に2小節ずつアドリブで披露するフレーズをすべてスキャットで再現するという技を見せ、これまた会場を沸かせた。一通りメンバー紹介が終わったところで、観客に向かって“今度はみんながバンドに参加する番よ”とメイシー。“2 times!”、“5 times!”などと指示を出し、バンドのヒット音と一緒に観客に回数通り手を叩かせる。白熱のメンバー紹介曲は“1 time!”の指示で今回も見事に締め括られた。いや〜、気持ちいい。

 ここまでが第1部。
 今回のメイシーのショウは、実は4部構成(!)になっていた。

 「Doing It To Death」終了と共にメイシーはいきなり退場。残されたバンドがニュー・ソウル風の謎のインスト曲を演奏し始めると、ギタリストのマーティン・エストラーダが詩集のような本を片手にステージ前方へ出てきてラップ──ポエトリー・リーディングと言った方がいいかもしれない──を始めた。バック・ヴォーカル2人も“Ahhhh...”というコーラスでバックアップ。この正体不明ナンバーは、ステージ上に貼られていたセットリストの紙には「I Do」と示されていた(セットリストは終演後にメンバーから貰った。“OSAKA, JAPAN//3rd DECEMBER 2012”と書かれているので、前日の大阪公演も同内容だったと思われる)

 これが終わると、今度はメンバーたちがぞろぞろと退場。ステージに残ったのは、ベースのマイク・トーレスとドラムのレジー・ジョンソンの2人だけ。“トーキョー、調子はどうだ〜!”。マイク・トーレスが観客に呼びかける。“みんな行っちまったけど、俺はここにいたいね。君もかい?”、“ああ、俺もだ”と2人の会話。なんじゃ、この展開(笑)。で、この2人が呑気にジャム・セッションを始める。あんまり時間がないんだから、もっとメイシーの歌を聴かせてくれよ……と最初は思っていたのだが、このセッションがなかなか熱い。パッドを叩いて小気味良いエレクトロ・ビートを叩き出すドラムに、ベースがファンキーなチョッパー演奏で合わせる。キーボードも加わって熱気を増してきたところへ、ピンクのワンピース・ドレスから黒いパーカー&サングラスでヒップホップ・モードに切り替わったシェミカ&マイヤが登場。ハイテンションの双頭ラップで観客を煽る、煽る! そこでようやくメイシー登場。これまたピンクのスパンコール・ドレスから赤と黒のまだら模様のドレスに衣裳が替わっている。ギタリストの意味不明なラップ・コーナーとドラム&ベースのジャム・セッションは、要するに彼女たちの衣裳替えのための時間稼ぎだったのだ。

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衣裳替えした第2部は『TALKING BOOK』楽曲をフィーチャー

 長らく続いてきたドラム&ベースのジャムに他の楽器が加わり、これがそのままスティーヴィー・ワンダー「You And I」へ繋がった。うお〜、そういうことかー(感動)。メイシーの『TALKING BOOK』は基本的にオリジナルの雰囲気に忠実な素直なカヴァー集だが(変化球はジャジーなスローに仕立て直した「Superstition」くらい)、今回披露されたライヴ版「You And I」はビートの立ち具合が現代的で、スタジオ版とはまた違う面白さがあった。

 『TALKING BOOK』から続けてもう1曲「Tuesday Heartbreak」。公演が行われた12月4日は火曜日だったこともあり、会場に向かう途中、私の頭の中ではずっとこの曲がリピート再生されていた。火曜日という点に関しては何の言及もなかったが、期待通りこの曲が披露されたのは嬉しかった。サビ部分の晴れやかな雰囲気など本当にメイシーにピッタリだ。『TALKING BOOK』の中では「Maybe Your Baby」「Tuesday Heartbreak」「You've Got It Bad Girl」あたりが特にハマっていると思う(まあ、どれも普通に良いのだが)。もう少し生で聴いてみたい気もしたが、『TALKING BOOK』から披露されたのは、結局、「You And I」「Tuesday Heartbreak」の2曲だけだった。

 お次は『COVERED』から「Smoke Two Joints」。アメリカのレゲエ・バンド、ザ・トイズの'83年発表作だが、メイシーが下地にしたのは、サブライムによる'92年のロック〜ヒップホップ風味のカヴァー版。スタジオ録音はかなりサブライム版に近いサウンドだったが、ライヴではややテンポを落とし、よりブルース〜レゲエ色の強い独自のテイストで披露された。スタジオ版にはなかったキーボードのうらぶれた音色がいい味。どのレパートリーにも言えることだが、ライヴで曲がきちんと成長しているのが分かる。

 ここでステージの照明が落ち、ぞろぞろとメンバー全員退場。え〜、もう終わり? 時計を見ると、まだ47分しか経っていない。アンコールを求める拍手が起きたが、すぐにマイヤ・サイクスが1人で登場し、おもむろにアカペラで歌い始めた。なんと、メタリカ「Nothing Else Matters」。以前からメイシーがレパートリーにしていた曲で、『COVERED』でも取り上げられていた。過去のショウではバンド演奏でシェミカ・シークレストが歌うこともあったようだが、この日はマイヤがアカペラで歌った(記憶が曖昧なのだが、シェミカではなく確かマイヤだったと思う。違っていたらごめんなさい)。これがオリジナルとは劇的に印象の異なる見事なゴスペル+ブルース解釈になっていて度肝を抜かれた。これは思わぬ聴きものだった。

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またまた衣裳が替わった圧巻の第3部

 「Nothing Else Matters」のアカペラ・ソロが終わると、今度は入れ替わりでベースのマイク・トーレスが1人で現れ、ポロンポロンと静かにソロを弾き始めた。しばらくしてメイシー登場。なんと、またしても衣裳が替わっている! 今度はクラシックな釣り鐘型スカートのモノトーン・ドレス。ゴージャスでエレガントな衣裳に観客も大喝采。

 ドラム・セットの段に腰掛け、ベースの伴奏だけでしっとりと「Sweet Baby」を歌った後、今度はオルガンの伴奏だけで「The Sellout」、続けてアコギの伴奏だけで「Let You Win」(『THE SELLOUT』収録)と、伴奏楽器を変えながらアンプラグドな落ち着いた雰囲気で次々と名曲を披露。ドラム・ビートのみをバックに歌い出された「Happiness」は途中からフルバンドの演奏になり、インティメイトなアンプラグド・コーナーを程良い熱気で締め括った。「Happiness」は、1stの路線を引っ張り続けて行き詰まった感のある3rd『THE TROUBLE WITH BEING MYSELF』に収録されていた曲。このアルバムの楽曲はあまり最近のステージで取り上げられることがないが、簡素なアレンジで披露されたのを聴いて、こんな良い曲もあったんだな、と驚かされた。

 ここでムードは一変。生ドラムの4つ打ちアップビートにワウ・ギターとシンセが絡むエレクトロニックな曲が始まり、メイシーが捲し立てるようなヴォーカルで攻め始めた。'08年に彼女が“Nemesis Jaxson”名義で発表したエレクトロ・ナンバー「Slap A Bitch」。全く雰囲気が異なるアグレッシヴなアレンジだ。クラブ乗りの勢いを保ったまま、そこからメドレーでエイウォルネイション「Sail」へ突入。『COVERED』では原曲とは大きく異なるロッカ・バラード調アレンジだったが、ここではまたまた違う人力エレクトロ・ハウス・ヴァージョン。「Lately」(『THE SELLOUT』収録)のサビを挿入しながら演奏はどんどん勢いを増し、エレクトロ・アフロ・ファンクとでも言うべき怒濤のグルーヴへ発展。目眩がするようなシンセ音が異次元空間の扉を開くと、メイシーが“You may find yourself...”で始まるやけに聞き覚えのあるフレーズを連呼し始めた。なんと、トーキング・ヘッズ「Once In A Lifetime」。ぬお〜、マジかっ。なんだ、この展開!

 鬼のエレクトロ・アフロ・ファンク・ビートはとどまるところを知らない。“みんなの叫び声を聞くために遙々ロサンゼルスからやって来たのよ!”というMCで観客を煽るメイシー。“来る途中、私たちは人生で一番大切なものは何かという議論をした。それは愛だ、という意見があった。それは金だ、という意見もあった。(自分を指差して)それはセックスだ、という意見もあった”。メイシーが“セックス”と言う箇所で演奏がブレイクし、会場は大盛り上がり。“最後に私たちは同意した。人生で一番大切なものは自由だ、と”。自分の生きたいように生き、言いたいことを言い、踊りたい時に踊り、叫びたい時に叫び、好きな人を愛することのできる自由の尊さが訴えられた後、“Freedom!”コールと共に、怒濤のメドレーは最後に「Sexual Revolution」へ突入。しかも、アフロ・ファンク乗りでオリジナル版よりも遙かに闘争的なサウンドに変わっている。すげえ……。やっぱ、メイシー・グレイはすごいぜ!

 「Sexual Revolution」は以前のショウでは「Do Ya Think I'm Sexy」(ロッド・スチュワート)と「Groove Is In The Heart」(ディー・ライト)とメドレーにされていた。それも最高に素晴らしかったのだが、今回もまたまた素晴らしかった。トーキング・ヘッズからエイウォルネイションまで何でもかんでも飲み込んでしまう雑食性には恐れ入る。10分以上にも及んだこの「Sexual Revolution」メドレー(セットリスト紙面上では単に“Club Remix Band”と記されている)は、今回のショウの最大のハイライトと言ってもいいだろう。

 曲が終わると、“皆さん、ここでマリーナ・バンビーノさんからお話があります”というメイシーの前振りで、今度はパーカッションのマリーナが前に出てきてトークを始めた。今回は出し物が色々あるなあ(笑)。“Good evening! コンニチハ、トーキョー”と挨拶し、観客に軽く謝辞を述べた後、彼女は愛の大切さについて語り始めた。“私たちは互いに愛し合わなければいけません。どこの出身、どんな人種だろうと、たとえ脚が3本あろうと、目が5つあろうと、私たちは愛し合わなければいけません。特に今という時は。いいわね? さあ、ラヴ&ピース・サインを!”と会場にピース・サインを促す。“みんなも手拍子で参加してちょうだい。今夜はみんなロック・スターよ!”という彼女の振りで始まったのは、前回もコンサート終盤に披露された「Beauty In The World」。マリーナの話はちょっと取って付けたような感じもあり、客席からは笑いもこぼれていたが、それもまた良し。メイシー版「Give Peace A Chance」とでも言うべきこの曲は、どんどん存在感を増している。発表されてまだほんの数年だが、「I Try」と並ぶメイシーの代表曲と言ってもいいくらい大きな歌になっている。今回も会場中にソウル・クラップが鳴り響き、観客とバンドが素晴らしい一体感で包まれた。


 ここで終わっても文句はなかったが、メンバーたちが退場しても客電は点かなかった。そう言えば、1stの曲をまだひとつも演っていない。しばらしくして、大拍手に応えてアンコールが始まった。まず、鍵盤のズーが1人でステージに現れ、クラシック調のピアノ独奏曲を披露(やけに聞き覚えのある曲だったが、曲名不明。セットリストには“Zoux Piano Solo”としか書かれていない)。その後、他のメンバーも登場。バンドの軽快な前奏に乗ってステージに戻ってきたメイシーは、驚いたことに、またまた着替えていた。今度は第2部で着ていた赤と黒のドレスを再び着用。ワンステージで3回も衣裳替えするとは!

 アンコールでは1stの必殺曲「Why Didn't You Call Me」「Do Something」「Caligula」を連発。くは〜、最高。そして、遂に出た「I Try」。もちろん「Sukiyaki」「No Woman, No Cry」やシェミカ嬢のソロ・パートを挿入したいつもの最強ロング・ヴァージョンだ。'11年2月来日時の名演にはやや及ばなかったが、今回もやはり素晴らしかった。これはいつ聴いても圧巻だ。「I Try」でさすがに終演かと思いきや、最後の最後にもう1曲、1stの最終曲だった清々しい別れ(旅立ち)の歌「The Letter」が披露された。最高すぎる。メイシー退場後、バンドの各メンバーが1人ずつ演奏をやめて去っていき、最後に「Soul Man」調のリフを弾くギターだけが残って見事に曲を締め括った。これ以上ない完璧な幕引き。いや〜、素晴らしかった!

 時計を見ると、23時27分。1時間47分の大熱演だ。ビルボード・ライブでこんな長時間のショウを観られるとは思わなかった。観客の中には終電を逃してしまった人もいたかもしれない。私が前に観た'11年2月のビルボード・ライブ公演は僅か67分だったにもかかわらず、ショウの密度の濃さのせいで1時間半くらいに感じたのだが、今回は逆に実際よりも短く感じた。メイシー・グレイ一座との楽しいひとときは、あっという間に過ぎてしまった。


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 今回のショウはバンドの各人にスポットを当てる場面が多く、前回よりも集合体としてのバンドの魅力が前面に出ていた。メイシーの衣裳替えのための時間稼ぎと言えばそれまでだが、これはむしろ、ひとつのショウの中に様々な出し物を詰め込んだ“レヴュー”の形式に倣ったものと捉えたい。かつてジェイムズ・ブラウンも自分の一座を率いて、このようなレヴュー形式のショウをやっていた。要するに、メイシーも同じことをやっているわけである。中にはちょっと微妙な出し物もあったが、バラエティに富んだショウは、ジャンルに囚われないメイシーの音楽性を一層強く印象づけるものでもあった。セットの中心になると思われた『TALKING BOOK』楽曲は僅か2曲だったが(「Maybe Your Baby」が披露されなかったのは実に意外)、自由度の高いスティーヴィー的な豊潤なサウンドは至るところに聴き取ることができ、メイシーの中できちんと彼の音楽が消化されているのを確認できたのは何よりの収穫である。

 メイシー・グレイは快調に飛ばしている。彼女はどんどん良くなっていると思う。良い意味で力の抜けたカヴァー作を2枚出したところで、そろそろオリジナルの新作も期待されるが、同時に、私はここらで是非ともライヴ盤の発売をお願いしたい(ライヴDVDだと更に嬉しい)。キャラはセサミ・ストリートのモンスターみたいだが、この人は本当に素晴らしいライヴ・パフォーマー、そして、素晴らしいショウマンだ。メイシー・グレイ一座があなたの街にやって来たら、絶対に見逃してはいけない。


01. Greatest Show On Earth
02. Help Me
03. Relating To A Psychopath
04. Here Comes The Rain Again
05. Kissed It
06. Doing It To Death
07. I Do feat. Martin Estrada (rap)
08. Instrumental Jam - You And I
09. Tuesday Heartbreak
10. Smoke Two Joints
11. Nothing Else Matters feat. Maiya Sykes (acappella solo)
12. Sweet Baby
13. The Sellout
14. Let You Win
15. Happiness
16. Slap A Bitch - Sail - Lately - Once In A Lifetime - Sexual Revolution
17. Beauty In The World
-encore-
18. Piano solo feat. Zoux
19. Why Didn't You Call Me
20. Do Something
21. Caligula
22. I Try incl. Sukiyaki / No Woman, No Cry
23. The Letter

Billboard Live Tokyo, December 4, 2012 (2nd show)
Macy Gray (vocals), Zoux Love a.k.a. Jeffrey Bluestein (keyboards), Mike Torres (bass), Reggie Johnson (drums), Martin Estrada (guitar), Marina Bambino (percussion), Shemika Secrest, Maiya Sykes (backing vocals)

Macy Gray & The Sex Fiends: Japan Tour December 2012
December 3 - Billboard Live Osaka (2 shows)
December 4 - Billboard Live Tokyo (2 shows)


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01. Greatest Show On Earth
02. Help Me
03. Relating To A Psychopath
04. Here Comes The Rain Again
05. Kissed It
06. Doing It To Death
07. You And I
08. Tuesday Heartbreak
09. Sweet Baby
10. The Sellout
11. Let You Win
12. Happiness
13. Beauty In The World
-encore-
14. Piano solo feat. Zoux
15. Why Didn't You Call Me
16. Do Something
17. Caligula
18. I Try
19. The Letter

Billboard Live Tokyo, December 4, 2012 (1st show, broadcast live on Fuji TV Next)
Listen to the full 83 minute show on Mixcloud

※テレビで生中継された1stステージのセットリスト。Mixcloudで音だけ聴くことができた(映像も見たい!)。メンバーたちがフィーチャーされる2曲の他、「Smoke Two Joints」と長尺の「Sexual Revolution」メドレーが外されている。「You And I」冒頭のジャム・セッションもカット。但し、テレビで生中継されていることに関するメイシーの言及もあったりして、これはこれで楽しそうだ。終演後のBGMでジョン・メイヤー「Waiting On The World To Change」が流れているのも確認できる(2ndステージ終了後は、時間が遅かったせいかBGMは何もなかった)。




Macy Gray @ Billboard Live TOKYO 2011

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