2017 06123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 08

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Elle Varner @ Billboard Live TOKYO 2013



 エル・ヴァーナーのコンサートを観た(1ヶ月前の話だが……)
 
 '12年8月発表のデビュー作『PERFECTLY IMPERFECT』で評判になったロサンゼルス出身のR&B/ソウル歌手。'89年2月12日生まれ(って、今日が誕生日じゃないか。24歳おめでとう!)。ヴォーカルや音楽性がアリシア・キーズに似ている上、レコード会社や事務所も同じということで、“ポスト・アリシア”との呼び声も高い新人だ。おまけに、バイ・オール・ミーンズ──'80年代末〜'90年代初頭にかけて活躍したアーバン・ソウル・トリオ──のヴォーカルだったジミー・ヴァーナーとリン・ロデリックの愛娘という血統書まで付いていたりする。

 で、そういうことを何も知らず、たまたま耳にした彼女のデビュー曲「Only Wanna Give It To You」(feat. J・コール/'11年8月発表)。今時珍しいストレートなぶっといブレイクビーツとグルーヴィーなベースに、ハスキーでエモーショナルな彼女の歌声がジャストフィットしたこの曲は、ど真ん中ストライクで瞬時に私の心を掴んだ。くっ、最高じゃないか。決して新しいタイプの声やサウンドではない。人の好みを見透かしたようなあまりにもど真ん中すぎる曲は、同時に猛烈な既聴感を喚起するものだった。このサビのメロディを俺は確かに知っている……。「Only Wanna Give It To You」は、グルーヴ・セオリー「Tell Me」(1995)にそっくりだった。畜生、そういうことか!

 “ヒップホップ・ソウル”という死語がどんぴしゃでハマるような曲調とヴォーカル。但し、その懐かしい'90年代サウンドには妙な風通しの良さがあった。時代が一回りしたのだろうか、私の耳にはちょっと新鮮に聞こえたのである。アルバムを聴いてみると、親しみやすい佳曲が次々に出てくる。これ、結構いいかも……。

 というわけで、'13年の新年早々に実現した初来日公演を観に行った。


Elle_Varner2.jpg
※エル嬢、実際はもっとオバちゃんくさいルックスです……良い意味で(?)

 ビルボード・ライブ東京/大阪で1日ずつ(計4回)行われた今回の初来日公演。私が観たのは'13年1月7日(月)の2ndステージ。話題の新人、しかも、チケット代もリーズナブルとあって(サービスエリア6,500円/カジュアルエリア4,500円)、会場は満席だった。開演前にステージを眺めると、キーボード(左)、CDJ2台&ラップトップ(中央)、ギター(右)しかセッティングされていない。がっくし。

 場内BGMで流れていたジョン・レジェンド「Again」がフェイドアウトして客電が落ちると、まず白人DJが1人で登場。なぜか、いきなりニーヨ「Because Of You」をかけ始めた。CDJで時折ショボいスクラッチを入れる。で、次にかけたのが、なんとアリシア・キーズの最新曲「Girl On Fire」。おいおい、いい度胸だな。別に大したDJスキルを見せるわけでもなく、ただ普通に流しているだけ。観客も正直、どう反応していいか分からない。ニーヨやアリシア・キーズの代表曲が大音量で流れる中、DJと観客が黙って睨めっこしている。私は耐えられなくなり、途中から下を向いてしまった。最後に、これまたなぜかSWV「Right Here / Human Nature」が流されたが、MJ印のイントロのみで、歌に入ったところで唐突にフェイドアウト。そこでようやく他のバック・メンバーたちがステージに現れた。オープニングのこの意味不明なDJコーナーは実際には5分程度だったのだが、私には50分くらいに感じられた。あれはパフォーマンスだったのか、それとも開演前の単なるBGMだったのか。

 ショウの幕開けは、'12年1月、1stアルバムに先駆けて発表されたミックステープ『CONVERSATIONAL LUSH』の収録曲「EV」。自分のイニシャルをタイトルにして、パパとママに見守られてきた自分の音楽人生を綴った自己紹介的な歌だ。この曲は、ジャクソン5「I Want You Back」をネタ使いしたジェイ・Z「Izzo (H.O.V.A.)」のトラックにヴォーカルを乗せたものである。オープニングで流されたSWV「Right Here / Human Nature」やニーヨは、恐らくMJ繋がりの選曲だったのだろう。まず、サビのヴォーカル音源が流れ、メンバーが観客を煽る中、ヴァースのラップ・パートを生で歌いながらエル・ヴァーナー登場。黒地に白の水玉模様が入ったミニのワンピース、頭にピンクのリボンをつけた可愛らしい衣裳──いかにも血統書付きワンちゃんといった感じ──で威勢良くライムを繰り出す。アルバムでも少し聴けたが、彼女はラップもやる。予想以上にヒップホップ乗りでショウは始まった。

Elle_Varner3.jpg
エル嬢とアノインテッド・S(ビート・ボックス)、その奥にギタリスト

 メンバーは、ステージ右側に日本人みたいな体格の白人青年ギタリスト(ジャネル・モネイの仲間のような蝶ネクタイ姿でストラトを弾く)と、ヒューマン・ビート・ボックスの白人青年。中央にさっきの白人DJ。そして、左側にどっかり腰を下ろして鍵盤を弾くサングラスをかけた巨漢の黒人のおっさん。スティーヴィー・ワンダーみたいな風体のこのおっさんが、アルバム制作にも携わっているエル嬢のパパ、ジミー・ヴァーナーである(スティーヴィーと全く同じ太り方をしている。バイ・オール・ミーンズ時代の写真とは随分印象が違う)。以上、エル嬢を入れて全5名だが、DJは音源を再生する以外ほとんど何もしていなかったので(出演者というより、単なる裏方と考えた方がいい)、実質的には4人+機械。かなり厳しい編成である。

 “みんな、来てくれてありがとう。今夜はほんと興奮してる。だって初めての日本だもん!”──1曲目が終わると、日本に来られて嬉しくて仕方ないといった感じで満面の笑みを浮かべ、女の子らしく愛嬌たっぷりに挨拶した。2曲目は、ギター、鍵盤、ヒューマン・ビート・ボックスだけの完全生演奏でデビュー盤収録のレゲエ風味のヒップホップ・ソウル「So Fly」。ここまではごく普通の盛り上がりだったが、その後、観客は度肝を抜かれることに。

 エルがヒューマン・ビート・ボックスのアノインテッド・Sを紹介する。“スネアを鳴らしてみてくれる?”と彼女が振ると、口で見事なスネア音を再現。“キックは?”、“ハイハットは?”という要求に次々と完璧に応えた後、“いっぺんに叩いて!”というエルの合図で、アノインテッドがものすごい再現力でヒップホップ・ビートを鳴らし始めた。彼は1曲目からステージにいて同じようにビートを添えていたのだが、最初が音源を併用したパフォーマンスだったため、観客はどこまで彼が生でビートを再現しているのかよく分かっていなかった。2曲目の後、彼のビート・ボクシングがアカペラで披露された時、ようやくそのスキルの凄さに気付いたわけである。ロボ声や効果音までリアルに再現したのに続き、ビートと上モノのロボ声を1人で同時に鳴らす超絶技が飛び出した時には耳を疑った。すんげ〜。それまでビート・ボクシングを生で聴いたことがなかった私は、いっこく堂の腹話術でも見るように、ただただ呆気にとられてしまった。おまえの口は一体どうなってるんだ。アノインテッドのこのビート・ボクシング・ソロは、間違いなく会場の観客を一人残らずノックアウトしたはずである。

 アノインテッド・Sのビート・ボクシングに乗ってエルがジェイ・Z「I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)」のフックを歌い出すと、会場は更に大盛り上がり。そこからなだれ込むようにして、ヒット曲「Only Wanna Give It To You」が始まった。“Give it 2 me”から“Give it to you”へ繋いだわけだ。この目玉曲を序盤でいきなり演ってしまったのにはちょっとビックリ。エルは歌いながら途中で客席フロアに下り、観客たちと触れ合いながら1列目と2列目のテーブルの間を左から右へ横断して会場を沸かせた。J・コールによる中盤のラップ・パートも頑張って自分で歌う。ひとつ残念だったのは、アノインテッドのビート・ボクシングが全く活かされていなかった点。彼の人力ビートから繋げられたにもかかわらず、この曲のパフォーマンスは、ビートも含めて完全にシーケンスのカラオケ音源に頼ったものだった(ギターと鍵盤は一応演奏している様子だったが)。アノインテッドはラップ・パートで合いの手を入れる以外、ずっと突っ立って身体を揺らしていただけ。盛り上がったことは確かだが、直前に披露されたアノインテッドのビート・ボクシングがあまりにも強烈だったため、せっかくの目玉曲がちょっと霞んでしまった感がある。ここは是非とも引き続き人力ビートでライヴ感を強調して欲しかった。

 ここでスロー・ダウンし、エレピとギターだけの生演奏でバラード曲「Leaf」を披露(これ、いい曲!)。エルのヴォーカルはライヴでも安定感があり、安心して聴いていられる。確かにアリシアを彷彿させるところもあるが、エルはよりハスキーな声で、アリシアよりも粘っこくて(良い意味で)泥臭い歌い方をする。

 「Leaf」が終わった後、ちょっとしたハプニングがあった。“バイ・オール・ミーンズ、知ってる人いる? ママとパパなんだけど……”とエルが観客に語りかける。彼女がアカペラで両親の'92年のヒット「The Feeling I Get」(2番の母親のパート)を歌い出し、ステージ後方にいる父親のところへ行ってマイクを向けると、彼が即興で自分のパートをワンフレーズ歌って応じるというサービスを見せた。“こいつ、いきなり振りやがって!”という感じのかなり苦しそうな歌唱だったが、それがまた笑いを誘って場内を沸かせた。ジミー・ヴァーナーが前面に出たのはこの一瞬だけ。ショウの最中、彼は単なるバック・ミュージシャンとして寡黙に娘のサポート役に徹していた。まだ無邪気さが残る娘を、プロフェッショナルとして厳しく遠くから静観する父親という印象。いい感じの親子だ(ちなみに、エルは母親の歌唱を完璧にコピーしていた。彼女が両親の作品をよく聴き込んでいることが分かる)。

 アルバムから3rdシングルに切られたアリシア風の珠玉のミディアム「I Don't Care」は、父親のエレピをバックにしっとりと歌う導入部つき。大部分をオケに頼ったパフォーマンスだったが、終盤ではエレピ、ギター、ヒューマン・ビート・ボックスだけの生演奏になり、リズムを変えたライヴ版アレンジで新鮮に聴かせた。

 その後、“ギターを弾いてもいいかしら。ジミ・ヘンドリックスみたいにはいかないけど……”と言いながらアコギを手にしてスツールに腰掛け、エルちゃんの弾き語りコーナーが始まった。「Damn Good Friends」「Welcome Home」、そして、“アルバムに収録されなかった曲”という紹介で「Wanderer」という曲を披露。父親のエレピを伴った「Welcome Home」では、始める前にギターを試し弾きしながら何度もコードを確認(父親に助けを求めて無視されていたのが可笑しかった)。その場の思いつきで演ることにしたと思しき「Wanderer」も、久しぶりに歌うのか、始める前にギターを弾きながら鼻歌でしばらく練習タイム。あのさ、俺たちみんな君の家に遊びに来た友達じゃないんだから(笑)。どう考えてもリラックスしすぎな彼女の様子に、客席からは笑いがこぼれていた。今はネットを通じて世界の誰とでもお隣さんという時代である。こういう気負いのない自然体がいかにも現代っ子らしい。

Elle_Varner4.jpg
父親ジミー・ヴァーナーの伴奏で歌うエル嬢

 アコギを置いて、今度は父親のピアノ伴奏でアリシア+ジョン・レジェンド風情のメロディアスなバラード「Not Tonight」を披露。力のこもったハスキーな地声と、フッと脱力するようなファルセットのコンビネーションが絶妙だ。この日一番とも言える熱唱で観客に歌唱力を十分アピールした。後半ではギタリストのソロもフィーチャー。

 本編ラストを飾ったのは、アルバムからの2ndシングルで、現時点で彼女の最大のヒット曲でもある「Refill」(全米R&Bチャート10位)。エルの伸びやかなファルセットがブルーグラス・フィドルのループに気持ちよく乗るノスタルジックでロマンチックなミディアム・スロー。この曲で彼女はグラミー賞の最優秀R&Bソング部門にもノミネートされた(授賞はミゲル「Adorn」)。「I Don't Care」と同様、エレピをバックにしっとり歌う導入部の後、シーケンスのオケ音源をバックにしたパフォーマンス、そして、終盤でキーボード、ギター、ビート・ボクシングによる完全生演奏という構成でたっぷり聴かせる。ライヴではレコードとは比較にならないほど彼女のファルセットが光っていた。特に生演奏で音数が減った終盤の歌唱が素晴らしい。もう、どこまで伸びるんだというくらい声が伸びる。まるで星空を気持ちよく飛翔するような歌声。私がエル・ヴァーナーに惹かれたきっかけは「Only Wanna Give It To You」のハスキーで粘っこい地声ヴォーカルだったのだが、今回ライヴ・パフォーマンスを体験して、彼女の一番の武器はしなやかに伸びるこのファルセットではないかと思った。音域の広さを自慢するような技巧的な感じが全くしないのも良い。本当に嫌味のない真っ直ぐな歌い方をする。声よりも気持ちの方が前に出てしまっているような掠れ気味の地声ハイトーン──アリシア・キーズによく似ている──や、粘りのある中低音──クリセット・ミシェルによく似ている──もグッと来るのだが、このファルセットは彼女ならではの魅力だと思う。このヴォーカルを活かした「Refill」は、名実ともに彼女の決定的な代表曲と言っていいだろう。

 アンコールはDJと2人だけで登場し、カラオケで「Stop The Clock」。パフォーマンスの終盤、“Stop the clock”というリフレインを歌っている最中、突然オケが途切れて無音になってしまうという致命的なアクシデントがあったのだが(このDJは一体何をやっているんだ?)、“Stop the song?!”とおどけてみせると、全く動じることなくそのまま残りをアカペラで歌って逆に一層会場を沸かせた。機材トラブルのせいで、図らずもライヴ・パフォーマーとしての彼女の底力が発揮される結果となったわけだ。偶然には違いなかったが、これは素晴らしい幕切れだった。


 約60分のショウケース的な内容。冒頭5分の謎のDJコーナーは、単純に時間を埋めるためのものだったのだろう。音源に多くを頼った簡易的なバンド演奏には何の聴き応えもなかったが、その分、エルのヴォーカルが全面的にフィーチャーされたショウだった。彼女の歌声をたっぷり聴けたのは良かったが、半面、それだけで1時間引っ張るには、パフォーマーとしてまだまだ力不足という印象を強く持った。せっかくの熱唱も、変化に欠ける薄味なバンド演奏のせいで、後半はちょっと一本調子に感じられる部分もあった。中盤の弾き語りコーナーの緩すぎる展開も良くなかったと思う。デビュー間もない新人ゆえ、レパートリーが少ないのは仕方ないが、それならそれで、有名曲のカヴァーを演るなどして観客を楽しませる手もあっただろう。YouTubeを見ると、エルは過去にギターの弾き語りでミゲル「Sure Thing」をカヴァーしている。なぜこれを演らなかったのか(怒)。エルのギター弾き語りとアノインテッド・Sの組み合わせがなかったのも残念。アノインテッドのビート・ボクシング芸は、今回のショウでエルのヴォーカルと並ぶ最大の目玉だったにもかかわらず、使い方がいまいち上手くなかった。例えば、ビートなしのバラード系の曲からショウを始め、途中からアノインテッドを参加させれば、彼の存在ももっと引き立ったのではないか。ジミー・ヴァーナーがラップトップ操作を兼任し、役立たずのDJをクビにしてベース奏者を加えれば、遙かに自由度の高い面白いパフォーマンスができると思うのだが……。ショウの構成、見せ方、聴かせ方に関しては多くの課題が残されていると思う。

 正直、別に観なくても良かったかな、という感じの微妙なショウだったのだが(おいおい)、原石のような彼女のヴォーカルに生で触れられたのは、やはり貴重な体験だったと言うべきかもしれない。彼女はソウルとヒップホップの間に橋を架け直していくようなアーティストだと思う。ジャンルの折衷が進み、ポピュラー音楽全体が均質化していく中にあって、彼女の音楽は一種の“揺り戻し”と捉えることもできる。ソングライターとしての素質も十分にあるし、アリシア・キーズほどのスケールは望めないにせよ、舵取り次第では、今後かなり強力なアーティストになっていくのではないだろうか。彼女の真っ直ぐな歌心と、親しみやすい庶民的な魅力が伝わってくる、初々しい爽やかなステージだった、と好意的に結んでおきたい。目指せ、下町のアリシア(?)。


-DJ set-
01. Ne-Yo: Because Of You
02. Alicia Keys: Girl On Fire
03. SWV: Right Here (Human Nature mix)

01. EV
02. So Fly
03. I Just Wanna Love U (Give It 2 Me) feat. Anointed-S
04. Only Wanna Give It To You
05. Leaf
06. The Feeling I Get (snippet acappella with Jimmy Varner)
07. I Don't Care
08. Damn Good Friends
09. Welcome Home
10. Wanderer
11. Not Tonight
12. Refill
-encore-
13. Stop The Clock

Live at Billboard Live Tokyo, January 7, 2013 (2nd show)
Elle Varner (vocals), Jimmy Varner (keyboards), Anointed-S (human beat box), Victor Song (guitar), unkown (DJ)

Elle Varner: Japan Tour 2013
January 7 - Billboard Live Tokyo (2 shows)
January 9 - Billboard Live Osaka (2 shows)

| Diva Legends | 00:00 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT