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Twin Danger──俺にサックスを吹かせろ!



 シャーデー・アデュが冬眠に入ると、シャーデーの他のメンバー3人は暇を持て余すことになる。バンドの活動休止中、彼らは3人でスウィートバックというユニットを組んでみたり、単独で他のアーティスト作品のプロデュースやリミックス、映画音楽の制作といった課外活動をしながら、アデュが起きるのを気長に待つわけである。

 シャーデーの参謀的な存在であるスチュアート・マシューマン。“コットンベリー”の名でも知られる彼がこのところ力を注いでいる課外活動は、ツイン・デンジャーという女性ジャズ・ヴォーカル・ユニットである。彼はそこでジャズ小僧のようにテナー・サックスを伸び伸びと吹いている。

 このツイン・デンジャー、実は'80年代の初期シャーデーにかなりサウンドの雰囲気が近い。まるでヴォーカルに代役を立てて、マシューマン自らかつてのジャジーなシャーデーを再現したようなユニットなのだ。過去に女性歌手のプロデュースを手掛けたことはあったが、彼がアデュ以外の女性歌手とバンドを組むのは初めてのこと。これは、アデュの長すぎる冬眠に対するマシューマンの新対策なのか、あるいは、サックスを入れる余地がほとんどなくなったここ十数年のシャーデー・サウンドに対する反動なのか。初期シャーデーを彷彿させると聞けば、じっとしていられない人も多いだろう。“遂にやっちまいました”的な感もあるマシューマンのこの新プロジェクト、シャーデー・ファンは要注目だ。


THE SOUND OF TWIN DANGER

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 ツイン・デンジャーは、テナー・サックスとトランペットの2管を擁した、非常にオーソドックスなコンボ編成のジャズ・ユニットである。エレクトロニックな要素は全くない。落ち着いたムーディーな生演奏は、驚くほどオールドファッション。アンニュイな女性ヴォーカルとマシューマンの渋いブロウをフィーチャーしたツイン・デンジャーのスモーキーなサウンドには、まさしく夜の酒場がよく似合う。というか、それ以外にリスニング環境が思い浮かばない、本当に絵に描いたような酒場音楽を聴かせるユニットである。

 ロビン・ミラーがプロデュースした初期のシャーデー作品、とりわけ、マシューマンのテナーにトランペットとトロンボーンを加えてジャズ色を強めた2nd『PROMISE』(1985)期の音をツイン・デンジャーは想起させる。と言っても、彼らの音楽にシャーデーのようなソウル色はない。シャーデーの音楽は“ジャズ”というよりは“ジャズっぽいソウル”だったが、ツイン・デンジャーの音はもっと純粋にジャズ的である。雰囲気的に最も近いシャーデー作品をひとつ挙げるとしたら、映画『ビギナーズ』(1986)に提供され、劇中でアデュがクラブ歌手に扮して歌ったクール・ジャズ「Killer Blow」だろうか。ワーキング・ウィーク(サイモン・ブースとラリー・スタビンズ)とのコラボ曲だった「Killer Blow」は、当時のシャーデー作品の中でも特にストレートにジャズ色が反映された作品だった。ツイン・デンジャーの音楽性は、'80年代半ばに登場したワーキング・ウィークやカリマといったイギリスのジャジー・ポップ勢のそれとよく似ている。オーセンティックなジャズではなく、ジャズを再発見したニュー・ウェイヴ世代の若者たちが我流で演奏していた、どこか嘘っぽくて素人くさい、あの小粋な“フェイク・ジャズ(擬似ジャズ)”の世界だ。


WHO IS THIS CHICK, ANYWAY?

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 スチュアート・マシューマンとコンビを組んだのは、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するヴァネッサ・ブレイ Vanessa Bley という若い女性シンガー・ソングライター。マシューマンはイギリスを離れてずっとニューヨークで暮らしており(マンハッタン29丁目のオフィス・ビル6階に“コットンベリー・スタジオ”という15平方メートルほどのこぢんまりした仕事場を持っている)、そこで共通の知人を介して彼女と知り合ったようだ。

 ややバルバラを彷彿させる短髪ブルネットのこのヴァネッサ・ブレイという女性、ブレイ(Bley)という名字で何となくピンと来る人もいるかもしれないが、実はジャズ・ピアニストのポール・ブレイの娘である。と言っても、カーラ・ブレイの娘ではない。ポール・ブレイはカーラと'67年に離婚した後、アーネット・ピーコックと再婚しているのだが、その娘でもない。ヴァネッサ・ブレイは、ポール・ブレイがアーネットとも別れた後、'80年──48歳の時──に結婚したキャロル・ゴス Carol Goss という映像作家との間に生まれた子供なのである。生年は不明。写真や映像で見る限り、20代前半〜半ばくらいに見えるので、恐らく'80年代後半あたりの生まれと思われる。彼女は自分が21歳の時にマシューマンと知り合ったと言う。

 ヴァネッサ・ブレイは作詞作曲とヴォーカルの他、ギターやピアノの演奏もこなす。ツイン・デンジャーの音楽性、ポール・ブレイの娘という出自からすると、ジャズ畑の女性という感じもするが、実は彼女の本業はバリバリのロック・ミュージシャンだったりする。

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ヴァネッサのデビューEP(左)、ビースト・パトロールのデビューEP(右)

 '12年1月、彼女はヴァネッサ・ブレイというソロ名義で6曲入りデビューEP『BEAST PATROL』を発表。その後、このEPの表題は彼女が率いる3人組バンドの名称になり、'12年9月、今度はビースト・パトロール名義で4曲入りEP『FIERCE & GRATEFUL』が発表されている(混同を避けるためだろう、ビースト・パトロールのデビューと同時に、彼女のデビューEPの表題は『BEAST PATROL』から単に『VANESSA BLEY』に変更された。いずれもiTunesで販売中。バンド名義の後者はBandcampで無料配信も)

 彼女が演っているのは、ギターを軸にしたポップなオルタナティヴ・ロック。個人的にあまり好んで聴くタイプの音楽でないのでよく分からないが、ざっと聴いた感じ、ソニック・ユースやピクシーズあたりに近い感覚の音である。現在、ヴァネッサはこのビースト・パトロールというロック・バンドのリード・シンガーとして主に活動している。ツイン・デンジャーというユニットは、マシューマン同様、ヴァネッサ・ブレイにとっても、自分のメイン・プロジェクトを離れた“課外活動”なのである。

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ヴァネッサのギグにギターで参加したマシューマン(右)

 ツイン・デンジャーで歌う時、彼女はロック・バンドで歌う時とは声色を変えている。ちょっと鼻にかかったようなウィスパー系のコケティッシュな歌声は、かつてマシューマンのプロデュースで『DELIRIUM』(2000)というアルバムを出したサンテッサを思い出させる。近年の歌手で言うと、コリーヌ・ベイリー・レイ、ダブステップ歌姫のデライラ、マレーシア出身のシンガーソングライター、ユナなどに近い声質だ(もっと他にも似た声の歌手がいたような気がするが……)。シャーデー・アデュとはまるで異なるタイプの声。但し、器楽的な歌い方をせず、飽くまで声質や味で聴かせるという点では、ヴァネッサのヴォーカルはアデュのヘタウマ・ヴォーカルと似ていないこともない。“ジャズ”と言うよりは、“ジャズっぽい雰囲気”を大事にしたヴォーカルと言ったらいいだろうか。囁くような気怠い歌は、チェット・ベイカーの世界にも通じるものがある。いつもはエレキ・ギターを弾きながらシャウトしている彼女の猫かぶりな歌声もまた、ツイン・デンジャーのフェイク・ジャズ感を高めているように思う。

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 スチュアート・マシューマンと知り合いになったロック少女は、自分の作った曲を彼に聴かせるようになった。彼女にとってマシューマンは師匠のような存在になり、コンプレッサーのかけ方、プラグインの使い方といったスタジオワークのイロハも教わるようになった。両者は次第に意気投合し、それが自然とユニットの結成に繋がったようだ。ヴァネッサは事の経緯をこう説明する。

「スチュアートがすごく変なコードを使ったバッキング・トラックを、使い道も何も考えずに作っていたの。“これに歌を乗せられるもんなら乗せてみろ”とか思いながら私にそれを送ってきたわけ。挑戦するような感じでね。数時間後、私は歌詞と歌メロを付けて彼にトラックを送り返した。そういうやり取りをやっていくうちに、どんどん曲が出来上がっていったの。16曲出来たところで私たちはサンク・フランクになり、今ではレコード契約のオファーもある。人生は面白いものよね」(December 2010, Theme, Issue 24)

 Themeという雑誌の'10年12月号に掲載されたインタヴュー記事で、ヴァネッサはマシューマンとのユニットのことを“サンク・フランク(Thank Frank)”と呼んでいる。音響機器メーカーのデノンの米サイトに'11年4月9日付けで掲載されたインタヴュー記事でも、彼女はやはり“サンク・フランク”という名称を用いている。ユニット名は、その後すぐに“ツイン・デンジャー”と改められることになる。彼らに契約を持ちかけてきたレコード・レーベルは、なんとBlue Noteだった。


TWIN DANGER: DISCOGRAPHY 2011-2012

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RED HOT+RIO 2
3LP: eOne Music EOM-LP-2369, 28 June 2011 (US)
2CD: eOne Music EOM-CD-5137, 28 June 2011 (US)


Side F / Disc 2: Twin Danger - Show Me Love (4:28)

Written by Vanessa Bley and Stuart Matthewman
Produced by Stuart Matthewman and Vanessa Bley
Recorded and Mixed by Stuart Matthewman at Cottonbelly Studios, NY
Musicians: Vanessa Bley (vocals, guitar), Stuart Matthewman (sax, guitar, bass), Joe Bonadio (percussion), Michaael Leonhart (flugel horn)


 ツイン・デンジャーは'11年6月にひっそりとレコード・デビューを果たした。HIV/エイズ撲滅チャリティ・コンピ“RED HOT”シリーズの第17弾『RED HOT+RIO 2(アロー・ブラックやジョン・レジェンドも参加)に、彼らは「Show Me Love」というオリジナルのボッサ・ジャズ・ナンバーを提供している。これがツイン・デンジャー名義で発表された初めての作品となった。

 『RED HOT+RIO 2』が発売された'11年6月末はシャーデーの世界ツアーの真っ最中で、彼らがちょうど北米を廻っている頃だった。マシューマンは、シャーデーの世界ツアーと同時進行でこの新プロジェクトを始動させていたのである。しかし、ファンはシャーデーの10年ぶりのツアーに夢中であり、ツイン・デンジャーのこの地味なデビューは、当時、日本ではもちろん、海外のシャーデー・ファンの間でも全く話題にならなかった(私も気付いていなかった)。

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ツイン・デンジャーはアルファベット順でも収録順でも最後から2番目に

 で、実は、'13年2月現在までまともに音盤化されているツイン・デンジャー作品は、結局、この「Show Me Love」1曲だけだったりする(おいおい)。もちろん、曲は他にもあるのだが、あとは基本的にYouTube、VEVO、SoundCloudなどを通して、ネット上で恐ろしく地味に公開されているだけなのである(本記事末のリンク集を参照)。現時点で、彼らは地元のクラブで時たまギグを行う数多のローカル・バンドのうちのひとつに過ぎず、ニューヨークに住んでいない限り、その音楽に触れることは難しいと言える。


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TWIN DANGER
CD (Promo): Blue Note 509990 97489 2 7, 2011 (US)

Pointless Satisfaction (5:16) / I Love (Loving You) (4:44) / Coldest Kind Of Heart (4:40) / Past Yet (2:49) / When It Counts (4:18)

Produced by Stuart Matthewman and Vanessa Bley
Written by Vanessa Bley and Stuart Matthewman
Art direction & design: Hayden Miller


 とはいえ、彼らは別にコソコソと隠れて活動しているわけではない。ツイン・デンジャーは'11年に老舗のBlue Noteと契約を交わした。同レーベルからの彼らの本格的なデビュー盤が、この5曲入りEP『TWIN DANGER』である。ところが、このEPは残念ながらどこにも売っていない。プロモ盤が'11年末頃に作られており、恐らく'12年初頭に発売される予定だったと思われるが、どういうわけかお蔵入り(?)してしまい、いまだ陽の目を見ていないのである。

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プロモCDの裏ジャケ

 収録された5曲はいずれも彼らのオリジナル楽曲。このうち、冒頭3曲はYouTubeなどで公開済みの作品。「Pointless Satisfaction」「Coldest Kind Of Heart」の2曲は'11年10月初頭に音楽ヴィデオが撮影され、'12年初頭にVEVOを通して映像が公開されている。この2本のヴィデオによって、ツイン・デンジャーはようやくその存在を──ごく一部のシャーデー・ファンの間に過ぎないが──知られるようになった。
 
 デザインを手掛けたヘイデン・ミラー(最近ではホセ・ジェイムズ『NO BEGINNING NO END』を担当)サイトで、このデビューEPのアートワークを一通り見ることができる。ヴァネッサ・ブレイの公式ブログの'11年12月13日付け記事には、このプロモ盤の現物の写真も掲載されている。プロモ盤までは確かに作られた。が、なぜか発売には至っていない。Blue Noteとの契約は一体どうなってしまったのか?


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TWIN DANGER
10" (Limited 500 copies): Thank Frank Records, October 2012 (US)

Side A: Sailor / When It Counts
Side B: Save It / In Many Ways

All tracks written by Vanessa Bley and Stuart Matthewman
Produced by Stuart Matthewman and Vanessa Bley
Mixed by Stuart Matthewman


 で、次に出たのがこれだ。500枚限定の4曲入り10インチEP『TWIN DANGER』。発売されたのは'12年10月初頭。驚いたことに、契約していたはずのBlue Noteではなく、Thank Frankというインディ・レーベルからのリリース。この名称は当初、彼らのユニット名に使われていたものだ。つまり、全くの自主制作である。何やってんだよ、マシューマン……。「When It Counts」はBlue NoteのプロモEPにも収録されていた曲。ロカビリー風味のダンサブルな新曲「Sailor」がカッコいい。徐々に音楽性の幅を広げてきているのが分かる。

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お求めはニューヨークのレコード・ショップでどうぞ

 この10インチEP、500枚プレスされたのは間違いないのだが、どこで売っているのかさっぱり分からない。ひとつ分かっているのは、マンハッタンのブリーカー通りにあるRebel Rebel Recordsというレコード屋に行って、“フランクから聞いて来た(Frank sent me)”と店員に言うと、無料でこのEPが貰えるらしいということである。


TWIN DANGER IS COMING TO JAPAN!!!!

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 スチュアート・マシューマンがツイン・デンジャーという新ユニットで活動していることを私が知ったのは、'12年春頃、海外のシャーデー・ファンの間でこのユニットが話題に上った時だった。Blue Noteと契約済みという話だったので、いずれ正式にデビュー盤が発売されるだろうと思っていたのだが、一向に何のリリースもない。ユニットの存在すら忘れかけていたところへ、寝耳に水の衝撃的なニュースが届いた。

 既にご存じの方も多いと思うが、このツイン・デンジャー、なんと'13年4月に日本にやって来る。アルバムはおろか、EPすらまともに発売されていないニューヨークのローカル・バンドの来日公演が実現するのは、もちろん、サックス奏者がシャーデーという世界的バンドのメンバーだからに違いない。来日公演は'13年4月15日(月)〜16日(火)の2日間(各日2公演)、ビルボードライブ東京で行われる。

Stuart Matthewman from Sade presents Twin Danger
April 15, 2013 - Billboard Live Tokyo (2 shows)
April 16, 2013 - Billboard Live Tokyo (2 shows)

サービスエリア 7,800円
カジュアルエリア 5,800円

スチュアート・マシューマン/Stuart Matthewman (Saxophone)
ヴァネッサ・ブレイ/Vanessa Bley (Vocals, Guitar)
ロバート・コリアー/Robert Collier (Guitar, Keyboards)
アンソニー・マルケージ/Anthony Marchesi (Keyboards)
ジェイミー・アレグレ/Jamie Alegre (Drums)
マット・バジル/Matt Basile (Bass)
オマー・リトル/Omar Little (Trumpet)

※シャーデー・ファンはツイン・デンジャー来日公演への参加が義務づけられています


 来日メンバーは、スチュアート・マシューマンとヴァネッサ・ブレイの2人にサポート・メンバーを加えた全7名。フルバンドでの堂々の来日だ。チケットの一般予約受付は'13年2月15日から既に始まっている。チケット購入や公演詳細についてはビルボードライブ東京のサイトで確認して欲しい(残念ながら大阪公演はないようだ)。

 シャーデーの1/4の来日である。マシューマンが日本にやってくるのは、多分、'93年6〜7月にシャーデーの世界ツアーで来日した時以来、丸20年ぶりのことだ。日本中のファンが死ぬほど待っても来日が実現しなかったシャーデーの世界ツアーの2年後、誰も待っていなかったツイン・デンジャーが日本にやって来る(笑)。なんでシャーデーで来てくれないんだよ……と誰もが言いたいところだろうが、それは口にしてはいけない。日本のファンは、4大陸、29ヶ国も廻ったシャーデーの'11年ツアーを体験できなかった代わりに、まだほとんどニューヨークでしか行われていないツイン・デンジャーのギグを生で観られるのである。'84年のシャーデー初来日公演並みの快挙と言っていい。ここはこの幸運を素直に喜んでおくべきだろう。

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 数少ない音源や映像から判断する限り、ツイン・デンジャーの音楽はシャーデーほど万人向けではない。むしろ、かなりマニアックな部類に入る音楽だと思う。シャーデーを含む'80年代のイギリスのジャズ・ムーヴメント(ダンス・ミュージックとしてのジャズを復権させる動き)は、後に“アシッド・ジャズ”と呼ばれ、'90年代のポピュラー・ミュージックの発展に繋がる有意義なものだったが、'13年現在、当時と似たようなことをそのままやっているツイン・デンジャーに、今のところ、これと言った新鮮味やポテンシャルは感じられない。基本的に彼らが演っているのは、ある一定の時代の、一定の文化を愛する人だけにアピールするような“スタイル(型)”の音楽である。同じ趣味や美意識を共有しない人にとっては、かなり退屈な音楽に違いないだろう。

 私自身は決して彼らのサウンドが嫌いではない。むしろ、好きなタイプのサウンドだ。“スタイリッシュ”という言葉で愛でることもできるが、正直、シャーデー作品のように正対して聴き込もうとはあまり思わない。ただ、ふと訪れたバーで彼らが演奏していたり、深夜、自室でBGMとして軽く流しておく分には最高だと思う。で、恐らくマシューマン自身もそういう聴かれ方を意図して、軽い気持ちでツイン・デンジャーの音楽を作っているような気がするのである。ある特定の状況や場面で聞かれることを想定して作られた音楽──これは要するに、ムード音楽やサントラ音楽と同じ類の音楽ではないだろうか。毛色はやや異なるが、ツイン・デンジャーを聴いて、私はデヴィッド・リンチがプロデュースしたクリスタ・ベルをちょっと思い出した。また、一種の“雰囲気モノ”という点では、彼らの音楽には、その耳触りの良さも含め、クワイエット・ストームにも通じるものがあると思う。サウンド・スタイリスト=スチュアート・マシューマンの個性が全開のツイン・デンジャー。シャーデー作品のような深みはないが、むしろ、そこがこのプロジェクトの面白いところだという気がする。

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ヴォーカリスト交代?!('11年7月2日、シャーデーのアトランティック・シティ公演会場にて)

 それにしても、なぜ今、このサウンドなのか。
 
 シャーデーというバンドは作品を重ねるごとに成長し、デビュー当初のジャジーなサウンドから離れていった。それと同時に、マシューマンがサックスを吹く機会も減っていった。『LOVERS ROCK』(2000)では遂に全くサックスを入れる余地がなくなってしまい、『SOLDIER OF LOVE』(2010)では唯一「In Another Time」で辛うじて彼のサックスがフィーチャーされたものの、カントリー風情の曲調を考えると、無理やりサックスを持ち出した感じがしないでもなかった。マシューマンがシャーデーでサックスを吹ける機会は、今やツアーで昔のレパートリーを演る時に限られていると言っていい。

 このツイン・デンジャー、結局のところ、単にマシューマンがサックスを吹きたいだけのプロジェクトなのではないだろうか。それ以外に全く理由が考えられない。

 スチュアート・マシューマンが趣味でやっているイカすバンド、ツイン・デンジャー。'13年4月、シャーデー・ファンは東京で温かく迎えることにしたい(是非ともソールドアウトで迎えたい。そして、日本の観客はやっぱグレイトだ、リアル・ミュージック・ラヴァーだ、という印象を持ってもらい、遠い将来に再び行われるかもしれないシャーデーの世界ツアーでの来日実現に繋げたい)


TWIN DANGER: LINKS

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 まともな音盤リリースも音源配信もないまま来日公演が決まってしまったツイン・デンジャー。どういうユニットなのか分からずに困っている人も多いと思うので、最後に、彼らの作品を視聴できるリンクをまとめておく。これでちょっと予習しておこう。

twindanger -Official YouTube channel-
Twin Danger [teaser video]
"Coldest Kind Of Heart" & "I Love" [teaser video]
Sailor [audio]
※「Twin Danger」はユニットのティーザー映像(曲名ではない)。「"Coldest Kind Of Heart" & "I Love"」は「Coldest Kind Of Heart」「I Love (Loving You)」の2曲をまとめたティーザー映像(動画と写真のミックス。編集はヴァネッサ自身による)。音源のみの「Sailor」はなぜか10インチEPからの盤起こし(高音質版が他のユーザーによって投稿されている)。

TwinDangerVEVO -Official YouTube channel-
Pointless Satisfaction [music video]
Coldest Kind Of Heart [music video]
※'12年1月に公開された音楽ヴィデオ2本。'11年10月初頭、シャーデーの北米ツアーと南米ツアーの合間に撮影された。監督はiO Tillett Wright。2本とも同じような作品で、クラブで演奏するバンドの様子が陰影を強調したジャジーなモノクロ映像で捉えられている(上の画像がそれ)。一応リンクを張っておくが、現在、この2本のヴィデオは残念ながら視聴できなくなっている。VEVOやDailymotionでも公開されているが、地域別視聴制限のため、やはり見ることができない。どうにかしろ!

Twin Danger @ Otto's Shrunken Head April 5th, 2012 [live video]
※'12年4月5日、マンハッタンのイースト・ヴィレッジにあるバーでのライヴ映像。「Take It From My Eyes」という曲を披露。ワンカメだが、凄まじく良く撮れている。必見。

Twin Danger @ Otto's Shrunken Head in New York [live video]
※'12年10月23日、同じバーでのワンカメ・ライヴ映像。これまた素晴らしい。

Twin Danger
※収録場所・日付不明のライヴ映像('12年11月7日投稿)。曲は「Take It From My Eyes」。ずっとヴァネッサのアップを撮っている。

TwinDanger -Official SoundCloud account-
Pointless Satisfaction
Coldest Kind Of Heart
※音楽ヴィデオが見られなくなったこの2曲は、SoundCloudでとりあえず音だけ聴ける。

SPACE CAMP RADIO -Vanessa Bley's weekly online radio show-
Coldest Kind Of Heart
I Love (Loving You)
Pointless Satisfaction
Sailor
Save It
Take It From My Eyes
When It Counts
※ヴァネッサ・ブレイはSpace Camp Radioというネット・ラジオ放送を毎週やっている。ホストは彼女と、ビースト・パトロールのベーシストのAnthony Marchesi(今回のツイン・デンジャー来日公演にもキーボードで参加)の2人。Mixcloudにアップされている過去の放送音源アーカイヴで、ツイン・デンジャーの曲を色々と聴くことができる。まず、上の曲名をクリックすると、その曲が放送された回のリストが出てくる。適当な放送回を選んでクリックすると、約2時間の番組が丸ごと聴けるページへ進む。番組内でオンエアされた曲目のリストが掲載されているので、それを参照しながら探していくと、ツイン・デンジャーの曲を聴くことができる(単に2人のお喋りのBGMとして流されている場合もある)。

TWIN DANGER
Official Site
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VANESSA BLEY
Official Site
Official Site (Beast Patrol)

 というわけで、肝心の作品にやたらアクセスしづらいツイン・デンジャー。彼らのクールなサウンドは、'13年4月、ビルボードライブ東京で生で確認するしかないのだ!


追記('13年3月7日):
ビルボードライブのサイト内の“Billboard Live Style”という連載のVol.186に、スチュアート・マシューマンのインタヴューが登場した。ツイン・デンジャーの結成秘話をはじめとする大変充実した内容なので、要チェックだ(いつアップされたのか不明だが、ビルボードライブから届くメールマガジンを見直したら、3月1日付けの号にインタヴュー掲載のお知らせが載っていた)。4月の来日公演ではいくつかカヴァーもプレイする予定だそうで、“もしかしたらあのレディの名曲も披露するかもね!”などと聞き捨てならないことを言っている。“あのレディ”って、あのレディだよな。ビリー・ホリディじゃないよな。なんか、複雑な思いが……(「Mr. Wrong」でお願いします)。

追記2('15年7月11日):
'15年6月30日、ツイン・デンジャーの1stアルバム『TWIN DANGER』がDecca/Universalからメジャー・リリースされた(詳しくは下記の関連記事リンクから)。本記事末の音源リンク集は既にほとんど用をなさないが、'13年の来日前の時点でいかにツイン・デンジャー作品に触れることが難しかったかがよく分かるので、投稿時のまま放置しておく。当時は本当にこれくらいしか聴けなかったのだ。




【号外】Twin Dangerのアルバム完成!
THANK TWIN DANGER
Twin Danger - Is It a Crime?
Twin Danger @ Billboard Live TOKYO 2013
Twin Danger Plays
Twin Danger 遂にメジャー・デビュー!
紐育ストーリー──Twin Danger meets 山口百恵!!!?

| Pride/Sweetback/Twin Danger/solos | 00:05 | TOP↑

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