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Kendra Morris──やさしく殴って


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 まともなプロフィール写真は他にいくらでもあったのだが、前回のモハメド・アリの写真から繋げるため、こんなことになってしまった。せっかく美人なのに、ごめんなさい。記事にしようと思った理由は、単に前の記事と繋ぎたかったから……ではなくて、もちろん彼女が素晴らしい歌手だからである。白人のように見えるが(まあ、白人なのだが)、彼女の歌声には黒人歌手にも負けないくらいソウルがある。簡単に紹介するので、一発殴られてみたい方はどうぞ。


KILLING ME SOFLY WITH HER SONG

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 ケンドラ・モリスはニューヨークを拠点に活動するアメリカの女性シンガー・ソングライター。フロリダ出身、'81年4月10日生まれ。3枚のEP『THIS WON'T HURT A BIT』(2007)、『MILK AND COOKIES NEVER LIE』(2008)、『KENDRA MORRIS』(2010)を経て、31歳で1stアルバム『BANSHEE』(2012)の発表に漕ぎ着けた。やや遅咲きの人だ。

 マーヴィン・ゲイ、スピナーズ、ウォー、 スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5、テンプテーションズなどを聴いて育ったというケンドラ姉さん。ハスキーでブルージーな歌声や、アナログ・テイスト溢れるサウンドからは、猛烈に'60年代末〜'70年代初頭の(サイケデリックな)ソウル/ファンクやロックの匂いがするピンク・フロイドのカヴァーなんかもやっていたりする)。ルックスからも容易に想像がつくと思うが、彼女はジャニス・ジョプリンの(何度目か分からない)再来といった感じの歌手である。ローライド・ジーンズをはいた彼女の姿をYouTubeで初めて見た時は、10年ほど前、マーク・ロンソンが関与していた『EVERYBODY GOT THEIR SOMETHING』(2001)で颯爽とシーンに躍り出た時のニッカ・コスタを思い出した。いかにもアメリカンな佇まいのケンドラ姉さんだが、彼女の音楽性が、その後に登場して一時代を築いたジョス・ストーン、エイミー・ワインハウス、アリス・ラッセル、アデル、ダフィーといった、“今時のダスティ・スプリングフィールド”的なイギリスの女性ブルーアイド・ソウル歌手たちと強い繋がりを感じさせるものであることは意外でも何でもないだろう。

 なんだ、またレトロ・ソウルものかよ……と思う人もいるかもしれないが、スルーするのは早い。イギリスのモサッとした女性ブルーアイド・ソウル歌手たちに較べ、ケンドラ姉さんはナイスバディでルックスも良い……というのも大切なポイントなのだが、彼女の作品にはちょっと一筋縄ではいなかい変なクセがあるのだ。例えば、アデルの繰り出すパンチが顔面を真っ向から捉える右ストレートだとすると、ケンドラ姉さんのパンチはボディブロウである。弱ったところへ、いきなり鋭い左フックが飛んでくる。意味不明な例えだが(自分でも書いていてよく分からない)、何と言うか、彼女のヴィンテージ・ソウル・サウンドには、どこか奇妙な重さや屈折のようなものが感じられるのである。

 じわじわと効いてくるこのヘヴィーでイルな感じは、ポーティスヘッドによく似ている。例えば、「All Mine」(1997)──'90年代の「I Put A Spell On You」だと個人的には思っている──のような呪いめいたソウル・ナンバーを思い出して欲しい。あるいは、漆黒サイケ・ロック「Half Day Closing」でもいい。類似作品としては、トム・ジョーンズを迎えてキャスリーン・エメリーの'70年産傑作レア・グルーヴ曲の魂を蘇らせた「Motherless Child」(1999)が決定的か。ポーティスヘッドとケンドラ・モリスのレトロ・サウンドからは、いずれも死臭がする。ソウル度を増してアメリカで化けたポーティスヘッド、というのがケンドラ・モリスに対する私の印象で、これが個人的に彼女に惹かれる大きな理由にもなっている。ベス・ギボンズがフロリダに生まれ育っていたら、ケンドラ・モリスのようになっていたかもしれない(ルックスもまさにそんな感じなのだが)。ヒップホップを通過した生音志向のリッチなサウンド、倦怠感や退廃ムードがそこはかとなく漂う絶妙なオルタナティヴ感覚──ラナ・デル・レイにも通じるものがある──には、単なる懐古的なヴィンテージ・ソウルでは終わらない魔力のようなものを感じる。甘美で不気味なソウルだ。


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BANSHEE
CD: Wax Poetics Records WPR016, 28 August 2012 (US)

Waiting / Pow / If You Didn't Go / Concrete Waves / Right Now / The Plunge / Here / Today / Just One More / Old Photos / How You Want It / Banshee

Produced and Mixed by Jeremy Page
Japanese edition (Beat Records BRC-364, 26 January 2013) bonus tracks: These Eyes / Spring Teeth / Concrete Waves [DJ Premier 320 Remix]


 最初はエイミー・ワインハウスのエピゴーネンのような印象を受けるかもしれないが、彼女のヴォーカルはかなり引き出しが多く、いくつか曲を聴いていくうちにその表情の豊かさに驚かされることになる。'11年末に先行シングルとして発表されたポーティスヘッド風情の強烈な挨拶状「Concrete Waves」、秋の青空のように澄み切った歌声がたまらなく切ないフィリー・ソウル風ミディアム・スロー「If You Didn't Go」(絶品)の2曲をまず始めに聴くことをお勧めしておく。'10年のEPの段階ではまだ想定内のレトロ・ソウルという感じだったのだが、2年後のこのデビュー・アルバムでは表現が明らかにスケールアップしている。ここで“過去”との間合いの取り方をうまく掴んだという気がする。今後、一体どうなるんだろう。

 日本でもお馴染みの米黒人音楽専門誌Wax Poeticsが運営するレーベルから'12年8月に出たアルバム『BANSHEE』は、'13年1月末にめでたく日本盤も発売された。別ジャケで登場した日本盤には、独自ボーナス・トラックとして、DJプレミアが手掛けて話題になった「Concrete Waves」リミックスやシングルB面曲も収録されているので(計3曲/いずれも初CD化)、これからCDで購入する場合は日本盤が買いだろう。詳しいキャリアについては、日本盤を扱っているBeat Recordsのサイトに、ケンドラ・モリス公式サイト内に掲載されているバイオグラフィの和訳があるので、そちらをどうぞ。

 ちなみに、ケンドラ姉さん、『BANSHEE』のカヴァー写真にも1体写っているが、子供の頃から動物の剥製を集めるのが趣味らしい。

「一人でこもりがちな子供だったわね。動物の剥製を集めてベッドの上に飾り、動物たちに向かってよく歌ってたわ」(20 July 2012, Blackbooking.com)

 あんた、やっぱちょっとおかしいよ(笑)。



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剥製で思い出したが、こんなアルバムもあったよなあ……。
スウェーデンのポーティスヘッド・フォロワーによるサイコな'00年作(3rd)。
タイポグラフィはもちろんポーティスヘッドの2ndを意識している。
“ポーティスヘッド+チェット・ベイカー”という甘美でデカダンな世界が堪能できる。
ケンドラ・モリスが気に入った人にもお薦め。コワいです。



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Anthony Perkins
Psycho (1960)
Directed by Alfred Hitchcock

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