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Jessie Ware──ジェシーをさがせ!





 
 突然ですが、クイズです。シャーデーとリナ・ホーンの写真が並んでいる。この中にひとつだけ、ジェシー・ウェアという女性歌手の写真が混じっている。一体どれでしょう(分かるかな〜)。


 このクイズは、1年前なら一般音楽ファン正解率20%くらいの難問だったと思うが、'13年4月の今となっては、恐らく正解率80%を超える易問であるに違いない(んなもん誰でも分かるわ!とか真面目につっこまないでください)。

 '12年8月発表の1stアルバム『DEVOTION』で、幅広い層から支持を受けたイギリスの新たなブルーアイド・ソウル歌姫。'13年からはアメリカ進出も本格化し、着実にその名を世界的なものにしている。記事を書きそびれたまま今日までずるずると来てしまったが、シャーデー(および、アニー・レノックス)のファンとして、ジェシー・ウェアはやはり見逃せない存在だ。'13年の“シャーデーに似ている大賞”が先日紹介したライ(で確定だろう)なら、'12年の大賞はこの人だった。


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DEVOTION
CD: PMR/Island 3700659, 20 August 2012 (UK)

Devotion / Wildest Moments / Running / Still Love Me / No To Love / Night Light / Swan Song / Sweet Talk / 110% (a.k.a. If You're Never Gonna Move) / Taking In Water / Something Inside

Produced by Dave Okumu, Julio Bashmore, Kid Harpoon

 先行曲「Running」('12年2月発表)の音楽ヴィデオで初めて彼女を目にした時の印象は強烈だった。シックな黒いドレスに身を包み、胸の底から沸々と込み上げるような静かで熱い歌唱を聴かせるクール・ビューティー=ジェシー・ウェアは、当初、私の目に“現代版リナ・ホーン”として映った。同じように'40〜50年代の古風なファッションを好むマラ・ルビー Mara Hruby というネオ・ソウル系の美人歌手がいるが、親しみやすい可愛らしさがあるマラ嬢をドロシー・ダンドリッジだとすると、クールでお姉さん的なジェシー・ウェアはまさしくリナ・ホーンである(もっとも、似ているのはメイクのせいで、実際の容姿はそれほどホーン似ではないのだが)

 デヴィッド・リンチの夢の中でリナ・ホーンが歌っているようなヴィデオ「Running」は、ソフィー・ミュラーが手掛けたアニー・レノックス『DIVA』(1992)の一連のコスプレチックな歌姫ヴィデオをすぐに連想させた。監督はイギリスの女性ヴィジュアル・デザイナー、ケイト・モロス Kate Moross(『DEVOTION』からの3本のヴィデオ「Running」「110%」「Wildest Moments」を手掛けた他、アルバムのアート・ディレクションも担当)。私は「Running」でジェシー・ウェアという歌手に遭遇し、その音楽性と同時に、かつてのレノックスとミュラーの黄金タッグ作品を思わせる、非常にクラッシーでエレガントな──同時にどこか擬装めいた──ヴィジュアル・イメージに強く惹きつけられた。
 
 ヴィデオ「Running」に関して、ジェシーはこう語る。

「私はクラッシーで洗練されたルックスに憧れる。〈Running〉のヴィデオでは、ちょっとばかり大胆に主張してみようと思ったの。おふざけをしてるわけじゃないけど、そんなに真面目にやってるわけでもなくて。ただ楽しんでポップ・スターごっこをしてるだけなのよ。最高のパフォーマンスをするために私は必ず別人にならないといけないから、ほとんどお芝居ね。まるで演技してる感じ。まさに誇張された自分だわ。私はごく普通の現実的な人間だけど、ヴィデオは刺激的なものにしたかったから、ちょっとオーバーにいかなきゃと。グレイス・ジョーンズやアニー・レノックスなんかがヴィデオでやっていたことが私はずっと好きで。私はスタイリッシュな人間でも何でもないけど、コスプレしたり、歌手の役を演じることには独特の面白さがあるわね」(30 May 2012, Pitchfork)


EVEN BETTER THAN THE REAL THING

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ジェシー・ウェアのヴィデオ「Running」

 実際、彼女はごく普通の現実的な人間だった。サウス・ロンドンに生まれ育ったジェシー・ウェア('84年生まれ)は、ホイットニー・ヒューストン、デスティニーズ・チャイルド、ローリン・ヒルといったアメリカのR&Bを愛聴する音楽好きの少女だったが、歌手になることを夢見ることはなく、〈Top Of The Pops〉に登場するスターたちを見て、“自分には絶対に無理だ”と思っていたという。大学で英文学を学び、一度はジャーナリストを志したジェシーだったが、彼女の美声を記憶していた学生時代の旧友ジャック・ペニャーテの誘いで、彼のツアーにバック・ヴォーカリストとして参加。その後、サブトラクト、ジョーカーといったUKベース・ミュージックの気鋭たちの楽曲で次々と歌声がフィーチャーされ、彼女はいつの間にかスター歌手になってしまった。このあたり、同じくバック・ヴォーカリストとして誘われたのをきっかけに、服飾デザイナーの卵から行き当たりばったりで歌姫になってしまったシャーデー・アデュとよく似ている。

 “ポップ・スターごっこ”と本人が言う「Running」ヴィデオの擬装感覚は、彼女の音楽からも強く感じられる。もちろん、ブルーアイド・ソウルという時点で既に擬装的なのだが、彼女が歌うソウル/R&Bは、本場アメリカのそれとは大きく趣が異なる。

 イギリスのエクスペリメンタル・ロック・トリオ、ジ・インヴィジブルの中心人物であるデイヴ・オクムと、ブリストルのテックハウス系DJ/プロデューサー、フリオ・バシュモアの主導で制作された『DEVOTION』は、近年のイギリスのエレクトロニック・ミュージック──ポスト・ダブステップ、あるいは、より大雑把に“UKベース”と呼ばれる──のエッセンスを貪欲に吸収したものである。私はその辺りの音楽のあまり熱心なリスナーではないのだが、『DEVOTION』の音楽性には非常に親しみやすさを覚えた。というのも、このアルバムで試みられていることは、ジェシー自身もその影響を公言しているアニー・レノックス(ユーリズミックス)がかつてやっていたことと基本的に全く一緒だからである。サム&デイヴのカヴァー「Wrap It Up」(1983)が例として最も分かりやすいと思うが、ユーリズミックスはアメリカの伝統的なソウル・ミュージックをヨーロッパのエレクトロニック・サウンドで加工することで、独自のソウル・ミュージックを生み出していた。彼らのプラスチック・ソウル(似非ソウル)は本場アメリカでも受け入れられ、やがてアレサ・フランクリン、スティーヴィー・ワンダー、アル・グリーンらと共演を果たすなど、文字通り“本物”と肩を並べるまでになった。

 『DEVOTION』には、実際、「Still Love Me」のようなモロにユーリズミックス的なサウンドの曲(『TOUCH』に入っていそう)も収録されている。冒頭のアルバム表題曲「Devotion」のゆがんだ音像などはいかにも今風だが、聴き進めていくと、このアルバムには、常にアメリカに憧れを抱いてきたイギリスの過去のポピュラー音楽のエッセンスがたくさん含まれていることに気付く。それらが、コンプレックスとしてではなく、ノスタルジーとしてでもなく、自分たちの誇るべき“伝統”として、現代的なポップ感覚でしっかり再生されているところが素晴らしい。『DEVOTION』は、非常にオーセンティックなイギリスのプラスチック・ソウルであると同時に、誰が聴いても楽しめる一級のUKポップ作品でもある。

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そのTシャツはどこに売っているんですか?!

「シャーデーとアニー・レノックス、それが私の青春時代のポップ・スターだった。確かに彼女たちは美しくてグラマラスだったけど、彼女たちはその歌声で支持された。歌姫としてこの上ない最高の存在だったわ。今度は私がスポットライトを浴びる番になった。私もああいうポップ・スターになりたいのよ(笑)」(20 November 2012, Agenda Magazine Blog)

 白人であるジェシーにとって最大のロールモデルはやはりアニー・レノックスではないかと思うが、抑制のきいたクールな歌唱やサウンド・プロダクションは確かにシャーデーの影響も感じさせる。大抵のアーティストは他人と比較されるのをあまり好まないものだが、シャーデーと似ていると言われることを彼女は素直に喜んでいる。

「私はシャーデーを崇拝してるから、彼女と比較されるのはとてつもなく光栄だわ。影響は意識的なものよ。このアルバムを録音してる間も、私はたくさん彼女の音楽を聴いていたし。だから、比較されるのは嬉しい。〈Running〉のヴィデオは完全に〈Smooth Operator〉へのオマージュだしね。だから、ありがたく思う。彼女は英国の音楽やソウル・ミュージックを見事に象徴する素晴らしいアーティストだと思うわ。本当に光栄よ。だから、そう、私にとっては賛辞だわ」(July 2012, HelloGiggles.com)

 「Running」は、'90年代初期のUKソウルの香りを漂わせた、ソウル・II・ソウル「Keep On Movin'」系の実にエレガントなダンス・ナンバーである。この曲は、アニー・レノックス「Money Can't Buy It」、シャーデー「Cherish The Day」という'92年の名曲を同時に彷彿させもする。ほとんど味だけで勝負する寡黙なギター・ソロなど、まるでスチュアート・マシューマンが弾いているようだ。私はこの1曲だけでジェシー・ウェアの虜になってしまった。


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SWEET TALK (2012)
Directed: Joel Wilson

 「Running」の他、ラウドなドラムビートが印象的なロック風バラード「Wildest Moments(ビヨンセ「Halo」、アリシア「Try Sleeping With A Broken Heart」に触発されたそうだが、私の耳にはU2のように聞こえる。あと、ジェシーの声は何気にシニード・オコナーに似ていると思う)、涼やかに疾走するUKベース・ポップ「110%(EBTG『WALKING WOUNDED』に入っていそうな感じ。サンプル使用の許諾で問題が起き、後に「If You're Never Gonna Move」と改題)なども良いが、私の一番のお気に入りは'60年代モータウン調の軽快なシャッフル・ナンバー「Sweet Talk」。'60年代モータウン調と言っても、この曲が想起させるのはオリジナルのそれではなく、スタイル・カウンシルなどがやっていた'80年代イギリスのプラスチックなコピー版の方である。それが現代風にアップデイトされて、尚かつヴォーカルがシャーデー風という、UK度満点のとにかく最高の逸品なのだ(すごくポール・ウェラーくさい曲だと思う。「Speak Like A Child」やディー・C・リー「Hold On」などと聴き較べたい。すごく似ているサウンドの曲があったような気がしてずっと悶々としていたのだが、この記事を書いている途中でやっと思い出した。ティアーズ・フォー・フィアーズ「Everybody Wants To Rule The World」だ!)

 「Sweet Talk」は音楽ヴィデオも最高だ。ジェシー・ウェアとフリオ・バシュモア(プロデューサー)のチビっ子版が登場し、2人がレコーディングやホーム・コンサートをするという超ほのぼのとした内容。チビっ子ジェシーは後半のパフォーマンス場面で「Running」ヴィデオの黒いドレスを着ているが、これは“チビっ子ジェシー”と言うより、もはや完全に“チビっ子シャーデー”である('88年のシャーデーみたい!)。激ラヴリー。可愛すぎる! ジェシー・ウェア本人はチビっ子ジェシーの母親役として出演。こんなラヴリーでスウィートなヴィデオ、見たことない。曲もヴィデオも本当に最高なので、是非チェックして欲しい。

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こちらが本物のジェシー・ウェアとフリオ・バシュモア

 アメリカのアーティストたちと組むのが夢だと語るジェシー。アメリカ進出に伴い、ザ・ルーツやエイサップ・ロッキーとの共演が既に実現している(「Wildest Moments」のテレビ出演リミックス。組んでみたいアーティストとして、カニエ・ウェスト、フランク・オーシャンらの名前も挙げているが、彼女には今後もUKらしさを失うことなく、シャーデーやアニー・レノックスのように独自のソウル道をエレガントに歩んで欲しいと思う。


UK 1992: DEVOTION TO SOUL MUSIC 20 YEARS AGO

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Annie Lennox - DIVA

 ずばり“歌姫”を標榜したアニー・レノックスのこの1stソロ作は、『DEVOTION』の雛型とも言うべきUKブルーアイド・ソウルの名作。当時のUKソウルのフレイヴァーをたっぷり含んだ極上のポップ・アルバムであり、私にとってシャーデー『LOVE DELUXE』、イーフレイム・ルイス『SKIN』などと並ぶ'92年UKの至高の名盤でもある。シャーデー「Cherish The Day」の腹違いの姉妹曲(と私が勝手に思っている)「Money Can't Buy It」収録。ジェシー・ウェアを気に入った若い世代の人たちにも是非聴いて欲しい。ソフィー・ミュラーが監督した同作のヴィデオ・アルバム『TOTALLY DIVA』も必見だ(むしろ、DVDを先に購入することをお勧めしたい)。

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Sade - LOVE DELUXE
Ephraim Lewis - SKIN
Galliano - A JOYFUL NOISE UNTO THE CREATOR
D-Influence - GOOD 4 WE
Soul II Soul - VOLUME III JUST RIGHT
Innocence - BUILD
Yoyo Honey - VOODOO SOUL
Des'ree - MIND ADVENTURES


 その他、'92年産のUKソウル系の名盤いろいろ。最初の4枚は必聴の歴史的名盤。残りの4枚の中ではヨーヨー・ハニーが頭ひとつ抜けている。ジェシー・ウェア(特に「Running」)にハマった人にはどれもお薦めできるアルバムだ。え、もう全部持ってるって?!




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