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The Nicholas Brothers (part 2)

Orchestra Wives
The Nicholas Brothers in the movie "Orchestra Wives" (1942)

 ニコラス兄弟の無敵の黄金期は、何と言っても'40年代前半の20世紀フォックス時代である。太平洋戦争期と被ったため、当時、彼らの出演映画は残念ながら全く日本に入って来なかった。
 彼らは『遥かなるアルゼンチン』(1940)を皮切りに、『ストーミー・ウェザー』(1943)まで全6本の20世紀フォックス作品に出演している。日本ではこの中で僅かに2本、『銀嶺セレナーデ』(1941)が戦後の'46年、『ストーミー・ウェザー』が'88年になって劇場公開されているに過ぎない。最近になってようやくDVDで紹介されるようになってはいるが、日本におけるニコラス兄弟の一般的知名度の低さは、いまだに“戦後”状態を引きずったままと言ってもいいかもしれない。

 これらの映画は、オール黒人キャストの『ストーミー・ウェザー』を除き、すべて通常の白人娯楽映画である。彼らは役者として本筋に絡むわけではなく、“スペシャルティ”というクレジットで、約2時間の劇中においてほんの2~3分のあいだ画面に登場して歌い踊るに過ぎない(こうした措置は、黒人が白人と対等の立場でスクリーンに登場することが許されなかった当時のハリウッドでは慣例的なものだった)。しかし、その2~3分が凄まじい。白人男女の凡庸な恋愛物語の中にいきなり登場し、誰も見たことがないようなSFX級の超人的ダンスを披露する兄弟。はっきり言って、これはショッキングである。その時点で白人主人公たちの恋の行方など、観ている側にとっては全くどうでもいい話になってしまうのだ。

 '30年代、ニコラス兄弟は舞台でショウストッパーとして共演者たちから恐れられていた。“ショウストッパー”というのは、文字通り“ショウを止める人”、つまり、あまりの素晴らしいパフォーマンスに観客の拍手喝采がやまず、ショウが先に進まなくなってしまう状況を生む最高のアクトのことである。同業者たちは誰も彼らの後には出演したがらなかった。20世紀フォックス時代のニコラス兄弟は、スクリーンの中においても、その恐るべきショウストッパーぶりを存分に発揮したのである。


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DOWN ARGENTINE WAY (1940)
Directed: Irving Cummings
Performance: Down Argentina Way

 ベティ・グレイブル、ドン・アメチー主演の映画『遥かなるアルゼンチン(Down Argentine Way)』にスペシャルティで出演。映画中盤、グレイブルが訪れるナイトクラブの場面で、マック・ゴードン&ハリー・ウォレン作の名主題歌を歌い踊る。この年、フェイヤード26歳、ハロルド19歳。芸に磨きがかかっているのはもちろん、何よりハロルドの身体的成長により、パフォーマンスに圧倒的なダイナミズムが加わった('30年代と'40年代の彼らを比較すると、技の切れや爆発力には、それこそパダワンとジェダイ・ナイト級の差がある)。彼らの代名詞であるアクロバット芸もここからいよいよ全開だ。
 フェイヤードがマラカスを振り、ハロルドが歌う導入部を経て、ダンスへ突入。彼らのパフォーマンスは構成がしっかりしていて、最初から派手なネタはやらず、まずは歌で場を温め、次に流麗なタップを披露し、徐々にアクロバティックな技を繰り出して盛り上げていく。ここでもそうした彼らの芸の典型的な流れを見ることができる。時には動きを合わせ、時にはそれぞれが個人技を披露し、また、そこから更に互いが絡んで大技に持っていくなど、そのコンビネーションは非常に複雑で変化に富んでいる。それら一連の動きが怒濤のスピードで流れるように展開するので、見ているこちらは一瞬も目が離せない。ここでは、前宙からスプリットするハロルド(一瞬手を着くので、正確には前方転回と前方宙返りの中間?)、スプリットしながらグルグル回るブレイクダンサーのようなフェイヤード、あるいは開脚して立っているフェイヤードの股の下をハロルドがスプリットでくぐり抜ける等々、彼らの技の見本市のようなパフォーマンスがたっぷり楽しめる。続く作品群で見られるセットを駆使したダンスも良いが、何もないシンプルなフロアで2人がひたすら踊りまくるこの映画のパフォーマンスが私は一番好きだ。彼らのダンスが美しいテクニカラーで堪能できるのも嬉しい。
 また、この映像で特筆したいのは、ハロルドが単独で踊っている時にフェイヤードが見せる一連の所作である。暴れ独楽のように踊る小柄なハロルドを、横にいるフェイヤードがスラリとした長い両手で、まるで奇術師か猛獣使いのように操るのだ。これが感動的に素晴らしい。その優雅で美しい仕草だけでも思わず見とれてしまうほどである。これは染之助の曲芸をわきで盛り立てる染太郎の姿に通じるものがある。派手なアクロバットだけが決して彼らの芸ではないのだ。フェイヤードは踊っている時も常に両腕の動きが指先まで美しいので、よく注意して見て欲しい。優雅という言葉はアステアのためだけにあるのではないということが分かると思う(フェイヤードの“操り芸”は、『気儘時代』の「Change Partners」場面で見られるアステアの動きとよく似ている)。

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Down Argentina Way (finale)

 ニコラス兄弟はこの映画の大団円でも再びほんの少し登場してダンスを披露する(曲は同じく「Down Argentina Way」)。映画自体は、競争馬の売買を通じて知り合ったアルゼンチンの牧場主の息子(アメチー)とアメリカ人女性(グレイブル)の恋愛コメディ。カルメン・ミランダのハリウッド進出第一弾作品でもあり、本人役で登場して「South American Way」などを披露しているが(ニコラス兄弟は'39年に彼女の南米ツアーにも同行)、とにかくニコラス兄弟のインパクトで他がすべて吹っ飛んでしまう。
 実は当初、監督カミングスは彼らのダンス場面を編集で刈り込むつもりでいたらしい。しかし、振付師のニック・キャッスルがノーカットで使うよう主張し、意見が分かれた。試写会を行ったところ、観客はニコラス兄弟のパフォーマンスに拍手喝采でアンコールを要求。そのあまりの盛り上がりに、劇場で急遽フィルムが巻き戻され、彼らの登場場面が再映写される事態にまでなった。彼らの場面がノーカットで採用されたことは言うまでもない。また、ニューヨークでは、スクリーンに兄弟が登場する時間帯を劇場に問い合わせ、この場面を観るためだけに足を運ぶ客までいたという(もちろんテレビもヴィデオもDVDもなかった時代の話だ)。こうした当時の観客の異様な興奮ぶりは、実際に彼らのパフォーマンスを見れば今でも容易に理解できる。この大好評に気を良くした20世紀フォックスは、ニコラス兄弟と5年契約を結んだ(……とフェイヤードが'92年のTVドキュメンタリーで語っているが、“5本”契約の間違いかもしれない)。


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TIN PAN ALLEY (1940)
Directed: Walter Lang
Performance: The Sheik Of Araby

 アリス・フェイ、ベティ・グレイブル、ジョン・ペイン、ジャック・オーキー主演の映画『Tin Pan Alley』にスペシャルティで出演。映画終盤、フェイとグレイブルが出演する劇中ミュージカル舞台〈The Sheik Of Araby〉の一部として、ニコラス兄弟のダンスがフィーチャーされる。
 大勢の美女が侍る宮殿セットで、退屈しているシークを楽しませるために兄弟が踊るという設定。裸に近い奴隷衣裳というのがいまいちで(その格好にタップ・シューズというのもかなりミスマッチ)、演出には若干の不満も残るが、タップはいつも通り切れ味抜群で凄まじい。おまけに、この映画の兄弟のタップ音は異様に迫力がある。
 まず2人が順にシークの前で軽く踊って反応を窺うが、てんで無関心。何とかシークの気を引こうと、本格的に兄弟のダンスが始まる。最初の見せ場は、やや高い壇上でそれぞれが個人技を見せる場面。フェイヤードは、両手を鳥の翼のように動かしながら足下を素早く横に払うステップ(“ウィングス”と呼ばれる技。『遥かなるアルゼンチン』では片脚だったが、ここでは両脚でやっている)や左右開脚スライド、ハロルドは見事な4回転半のスピンを見せる。その後、なだらかな階段を踊りながら上り、シークが鎮座している東屋のある宮殿セットの天辺に到着。相変わらず兄弟に無関心で、つまらなさそうにバナナを頬ばるシーク。よし、それなら、と最後に大技が飛び出す。一度下がって助走をつけ、シークのいる高い壇上から大ジャンプする兄弟。着地は言うまでもなくスプリット。高さ1m強、飛距離3mくらいだろうか(ジャンプそのものの高低差は1.5m以上はあるはず。ロー・アングルゆえ迫力満点)。実は、彼らのライバル格だったベリー兄弟がこれを凌ぐウルトラ大ジャンプを『Panama Hattie』(1942)でやったため、比較するといまいちインパクトが薄れてしまうのだが、それでもこのクライマックスには度肝を抜かれる。これぞフラッシュ・アクトといったパフォーマンスだ。ちなみに、このミュージカル場面は、兄弟の退場後にフェイとグレイブルが登場して歌い踊り、シークもご満悦という展開で終わる。
 映画は、姉妹歌手デュオ(フェイ、グレイブル)とティン・パン・アレーの作曲家コンビ(ペイン、オーキー)の4人を中心とした恋愛コメディ。後半では第一次世界大戦が背景となり、愛国心を助長するような展開になっている。フェイヤードが基礎を教えたというグレイブルのタップも楽しめる(なかなか様になっている。彼女は翌年の20世紀フォックス映画『マイアミの月』でも、白人超絶タップ・コンビのコンドス兄弟と組んで大健闘している)。

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The Sheik Of Araby (alternate & outtakes)

 20世紀フォックス作品の貴重な発掘未公開シーンを集めたDVD『Hidden Hollywood II』では、この〈The Sheik Of Araby〉場面で、公開当時カットされた踊り子たちの群舞場面、ニコラス兄弟のダンス場面の貴重な別テイクを見ることができる。兄弟のダンスは、別テイクとはいえ、同じルーティンゆえにほとんど採用テイクと変わらないのだが、細かいミスが発見できたり、場面によってアングルの異なるカットが挿入されているなど、微妙な違いが面白い。細切れではあるが、2人のNG場面も見られる。


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THE GREAT AMERICAN BROADCAST (1941)
Directed: Archie Mayo
Performance: Alabama Bound

 アリス・フェイ、ジョン・ペイン、ジャック・オーキー主演の映画『The Great American Broadcast』にスペシャルティで出演。映画序盤、ジェス・ウィラード対ジャック・デンプシーの世界ヘヴィ級タイトル・マッチ('19年7月4日。“トレドの惨劇”として歴史に残る)をラジオ放送するため、主人公たちが仮送信所のトレド駅で機材準備をしている場面でニコラス兄弟が登場。
 この駅場面では、インク・スポッツとニコラス兄弟が駅員に扮して芸を披露する。まず、インク・スポッツの4人による「Alabama Bound」のゴキゲンなパフォーマンスが駅員室であり、外の駅構内にいるハロルドがそれをスキャットで引き継ぎ、兄弟のダンス場面へなだれ込む。4つの旅行カバンを横に倒し、これを上手く使いながらスピーディなタップを展開(カバンの上で馬跳びまでする)。柵をスプリットで飛び越え、更には壁の上にスプリットで飛び乗り、停車している列車の小さな窓に頭からダイビングして乗車。2人が窓から顔を出す画で終わる。カバンを使ったタップがメインで、他の20世紀フォックス出演作と較べると決定的なインパクトには欠けるものの、広い駅構内のセットをあちこち目まぐるしく動き回るので、映像的には変化があってそれなりに見応えはある。その後、再び駅員室内に場面が戻り、アリス・フェイとジョン・ペインによる「Where You Are」のパフォーマンスが続く(インク・スポッツもバック・ヴォーカルで絡む)。
 ラジオ商業放送の黎明期をモチーフにした映画で、『Tin Pan Alley』からベティ・グレイブルを抜いた3人が主演。『Tin Pan Alley』が第一次大戦終結で終わる物語だったので、時間軸的には続編とも言える作品だ。スペシャルティにはインク・スポッツ、ニコラス兄弟、Wiere兄弟(ドイツ出身の白人ボードビル芸人トリオ。名前の発音がよく分からない)らが登場。インク・スポッツは映画のクライマックスとなるラジオ全国放送の場面でも登場して大活躍。Wiere兄弟も2回登場。彼らは多芸で、コミカルな歌やヴァイオリン演奏、アクロバティックなダンスで楽しませてくれる。スペシャルティだけでも一見の価値がある映画だ。
 ちなみに、このニコラス兄弟のダンス場面の演出は、ダン・デイリー主演の20世紀フォックス映画『You're My Everything』(1949)で、デイリーとベリー兄弟が共演した「Chattanooga Choo-Choo」場面で焼き直されている(駅舞台、小道具の旅行カバン、窓に飛び込むフィニッシュなど。ベリー兄弟は駅員役で登場)。演出/振付を担当したのは、同じくニック・キャッスルである。
 また、'43年のユニヴァーサル映画『Honeymoon Lodge』では、ボビー・ブルックス・カルテットとティップ・タップ&トウの二組の黒人スペシャルティが、駅の待合室を舞台に、インク・スポッツとニコラス兄弟のパフォーマンスによく似た演出で芸を披露している(曲は「Do I Worry」)。ティップ・タップ&トウは駅員役で、やはり横に倒した旅行カバンの上で踊る。演出担当者は不明だが、これはどう見ても『The Great American Broadcast』のパクリだ。


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SUN VALLEY SERENADE (1941)
Directed: H. Bruce Humberstone
Performance: Chattanooga Choo-Choo

 ソニア・ヘニー、ジョン・ペイン、グレン・ミラー楽団主演の映画『銀嶺セレナーデ(Sun Valley Serenade)』にスペシャルティで出演。映画中盤、雪山のロッジで楽団が「Chattanooga Choo-Choo」のリハーサルをするミュージカル調の場面があり、テックス・ベネキー、ポーラ・ケリー&モダネアーズの歌がフィーチャーされた後、汽車の書き割りセットへカメラが移動し、ドロシー・ダンドリッジとニコラス兄弟が登場。3人による「Chattanooga Choo-Choo」のパフォーマンスが始まる。
 ダンドリッジとの掛け合いで歌を披露した後、一緒に軽やかにタップ。控え目ながらもキレのある動きで彼女をサポートする兄弟。ダンドリッジが書き割りの汽車に乗って退場した後、兄弟の粋なタップが始まる。本領発揮はカンカン帽を脱ぎ捨ててからの終盤で、短いながらも爆発的なアクロバットが展開される。ここでは特にハロルドの動きが活発で、スピーディなバック転や、フェイヤードの補助でド派手な宙返りなどを次々と決める。恋人ダンドリッジとの共演ということもあり、いかにもいいところを見せようと張り切っている感じだ。ここでは、高くジャンプした状態で水平開脚する“フライング・スプリット”と呼ばれる技も登場する。デビュー当時のテレンス・トレント・ダービーがしきりにやっていたのを思い出すが、これももともとはニコラス兄弟が開発した技らしい。最後は2人揃って汽車の手すりを飛び越え、スプリットで着地して乗車。汽車から出てきたダンドリッジと再び3人揃ったところで終わる。
 ダンドリッジとのバランスを考慮してか、他の出演作と較べるとかなり抑え気味のパフォーマンスだが、華麗で紳士的な動きが光っていて、彼らのダンス芸の懐の深さが逆によく分かる。ダンドリッジとの相性も抜群で、このトリオを使ってミュージカル映画を撮ったら、さぞかし素晴らしい作品ができただろうと思うが、悲しいことに当時のハリウッドではこの数分が限界だった(ニコラス兄弟が女性と一緒に踊った作品も残念ながらこれだけ)。ちなみに、彼らの出演場面のみ映画の流れから奇妙に浮いているが、これは黒人差別が酷いアメリカ南部での上映時にカットできるよう、あらかじめ編集しやすく考慮されているせいである。これも当時のハリウッドでは日常茶飯事だった(次の『オーケストラの妻たち』の出演場面も、あってもなくても展開に影響がないような流れで処理されている)。
 この「Chattanooga Choo-Choo」という曲に関しては、フェイヤードがひとつ面白い逸話を残してくれている。ニューヨークから撮影現場に新曲として譜面が届き、ミラー楽団ピアニストのチャミー・マグレガーが楽団員とニコラス兄弟の前で試しに弾いてみせた時のこと。フェイヤードがミラーに“こんな曲、いいと思うかい?”と訊いたところ、ミラーの答えも“いいや、こりゃサイテーだ”だったそうだ。しかし、曲は彼らの予想に反して大当たり。ミラー楽団の代表レパートリーのひとつにもなった。また、そもそもダンドリッジの参加自体、この“サイテー”な曲を取り繕うため、彼らが会社側を説得して実現したものであるというから驚きだ。ダンドリッジが現場に合流して初めて曲を聴いた時も、困惑した表情を浮かべたという。“みんな同じように思ったんだ。なんじゃこの曲は?!ってね”(フェイヤード)。もしも曲が希代の大名作であれば、兄弟2人だけのパフォーマンスになっていたかもしれないのだから恐ろしい。ほどほどの佳作を書いてくれたハリー・ウォレンとマック・ゴードンの2人に感謝したい。
 映画は、楽団ピアニスト(ペイン)、ノルウェーから渡米してきた少女(ヘニー)、楽団歌手(リン・バリ)の三角関係の恋愛コメディ。ソニア・ヘニーはオスロ生まれのフィギュア・スケート選手で、オリンピック3大会連続制覇の後、スケートの腕前を生かして女優に転身した人。スポーツ選手らしい溌剌としたキャラが魅力的な、なかなかのコメディエンヌである。ミラー楽団の演奏あり、歌あり、踊りあり、スケートあり、スキーあり、といったてんこ盛りの内容で、この映画は普通に面白い。


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ORCHESTRA WIVES (1942)
Directed: Archie Mayo
Performance: I've Got A Gal In Kalamazoo

 ジョージ・モンゴメリー、アン・ラザフォード、グレン・ミラー楽団主演の映画『オーケストラの妻たち(Orchestra Wives)』にスペシャルティで出演。クライマックスとなる楽団の演奏会場面で映画全体のトリのように登場し、おいしいところを見事に持っていってしまう。曲は映画の目玉のひとつでもある「I've Got A Gal In Kalamazoo」。テックス・ベネキー、マリオン・ハットン&モダネアーズの歌をフィーチャーした演奏場面の後、ニコラス兄弟が颯爽と登場し、そこから映画は完全に彼らの独擅場と化す。
 まずは、ハロルドがリード、フェイヤードが合いの手で絡む歌のパフォーマンス。テンポ・アップしてタップで魅せた後、しばしスロー・ダウンして注意を引きつける。その後、再びリズムに乗ってからは、もう誰にも止められない踊るジェットコースター状態である。フェイヤードに放り投げられたハロルドがスプリット。2人が次々に空中スピン&スプリット。伴奏が更に速くなると、いよいよ最大の見せ場がやってくる。まずフェイヤードが走り出し、場内にある大きな柱を蹴って跳ね返り、床でスプリットを決める。次にハロルドが反対側の柱に走り、今度はなんとそのまま柱を駆け上がって宙返りし、スプリットで着地する。壁を蹴って宙返りする同様のアクロバットは、『雨に唄えば』(1952)でドナルド・オコナーがやっているのを見たことがある人も多いと思う。今でこそ珍しくない曲芸だが、これを世界で初めてやったのも実はニコラス兄弟である(振付師のキャッスルがダメもとで提案したアイデアを実現。安全ロープで吊って訓練し、数日でマスターしたそうだ。ちなみに、壁を蹴って跳ね返るだけなら、同じ'42年公開『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』でジェイムズ・キャグニーもやっている。IMDbによると、『ヤンキー~』が5月29日公開、『オーケストラ~』が9月4日公開なので、キャグニーのアクションが参照された可能性もある)。最後は2人揃って高い壇上から飛び降り、トランポリンの弾みを利用した豪快なフライング・スプリットでフィニッシュ。圧巻。涙が出るほどカッコいい(その後、拍手の中を2人が退場するのだが、去り際のフェイヤードの動きがまたエレガントで素晴らしい。最後の最後まで目が離せない)。
 同じくグレン・ミラー楽団をフィーチャーした『銀嶺セレナーデ』の姉妹作とも言える映画で、ニコラス兄弟の他、モダネアーズ、リン・バリ、作詞作曲チームのゴードン&ウォレンといった面々が引き続き脇をがっちり固めている(ちなみに、この映画で準主題歌のように使われている名曲「At Last」は、もともと『銀嶺~』のために用意され、結局こちらに回されたらしい)。物語も基本的には『銀嶺~』の設定を変えただけで、楽団の花形トランペッター(モンゴメリー)、彼と結婚した田舎娘(ラザフォード)、楽団歌手(バリ)の三角関係の恋愛コメディ。但し、楽団の巡業が話のメインになっている分、音楽ファンには『銀嶺~』よりアピールする点がずっと多い。脚本もなかなか良く、映画自体かなりの佳作なのだが、しかし、それにしてもニコラス兄弟。最高のスペシャルティ出演で、スクリーンを完全に乗っ取ってしまう。恐るべき映画荒しぶりである。


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STORMY WEATHER (1943)
Directed: Andrew Stone
Performance: The Jumpin' Jive / My My, Ain't That Somethin'

 栄光の20世紀フォックス時代の最後を飾る伝説の名演。リナ・ホーン、ビル・ロビンソン主演の映画『ストーミー・ウェザー』に出演。ほとんどスペシャルティだけで成立しているようなこのオール黒人キャスト・ミュージカル映画の最高傑作に、ニコラス兄弟はトリとして登場し、ここでも見事においしいところを持っていく。映画のクライマックスとなる出征兵士のための壮行音楽会の場面で、キャブ・キャロウェイが歌うキラー・ナンバー「The Jumpin' Jive」に飛び入り参加する形でダンスを披露。この曲の覇気に満ちたイントロを聴くだけで、私はもう震えが止まらない(映画館の大音量・大画面で観てみたい)。
 客席にいた兄弟がキャブのスキャットに応えて登場。'30年代にコットン・クラブを連日沸かせた両者の黄金共演がスクリーンで復活である。キャブにバトンタッチされた兄弟、ここでは歌わず、おもむろにタップを始める。最初の見せ場は、2人がビッグ・バンドのボックス型譜面台の上を飛び移りながらタップを踏む場面(映画中盤でロビンソンが太鼓の上を飛び移りながらタップする場面の演出を引き継いでいる)。オーケストラ・ピットからステージへ駆け上がり、畳みかけるようにスピン&スプリットを見せた後、今度はピアノの上に飛び移り、タップでピアニストと掛け合い。そこからスプリットで豪快に飛び降りると、彼らのために特別に用意された巨大な階段セットへ移動していく。ここまでだけでも悲鳴を上げたくなるほど凄まじいのだが、この階段セットを使って2人は驚愕のクライマックスへ突入する。フロアで2人揃ってゴキゲンな連続スプリットを決めた後、階段を一段一段、優雅に跳躍しながら上がると(フェイヤードの両腕の素晴らしいこと!)、遂に最大の山場が。なんと2人はその巨大な階段を、それぞれの頭上を交互にフライング・スプリットで飛び越えながら降りるのである。再び天辺に上ると、今度は駄目押しで階段セットの滑り台部分をスプリットで滑降してフィニッシュ。完璧。開いた口が塞がらないとはこのことだ(兄弟は「The Jumpin' Jive」後、出演者が揃う大団円場面でもキャブと並んでほんの少し登場する)。
 よく練られた演出、絶叫マシーンに乗っているような予測不能のスリリングな展開、それを的確に盛り上げる楽団の演奏/アレンジも素晴らしい。この一連の場面の凄さは、とにかく実際に見て驚いてもらうしかない。アステアをして“こんな素晴らしいミュージカル場面は見たことがない”と言わしめた、彼らのダンス芸の集大成とも言うべき圧巻のパフォーマンスである。
 更に驚くべきことに、クライマックスの名高い階段スプリット場面は、ぶっつけ本番のワン・テイクで決められたという。“一度もリハをしなかった。でも、どうやればいいのかはっきり頭で分かっていた。で、それをやったんだ。互いの頭上を越えながら飛んでね。ダンス監督のニック・キャッスルが「カット! それで決まりだ!」と言ったよ”(フェイヤード)。確かに、この場面の完璧さ、瑞々しさ、ダイナミズムは、リハを繰り返すことで人為的に得られるレベルを超えている気がする。一心同体の兄弟だからこそ為しえた神業。まるで富士山でも見るようだ。
 映画の筋は、ホーン演じる美人歌手とロビンソン演じるダンサーの、二つの世界大戦を股にかけたくっついたり離れたりの恋愛ロマンス。但し、それは映画としての体裁を整えるための口実のようなもので、見ものはもちろん、リナ・ホーン、ビル・ロビンソン、キャブ・キャロウェイ、ファッツ・ウォーラー、キャサリン・ダナム、ニコラス兄弟らによる珠玉のパフォーマンス場面。ホーンは当時MGMの専属“歌手”だったが、20世紀フォックスに貸し出されてこの映画に主演女優として出演。ここでも歌手役だが、同年に出演したMGMのオール黒人キャスト映画『キャビン・イン・ザ・スカイ』(エセル・ウォーターズ、エディ・アンダーソン、ルイ・アームストロング、デューク・エリントン、バック&バブルズ、ビル・ベイリー出演/ヴィンセント・ミネリ初監督作)よりずっと魅力的で、とにかくその瑞々しい美貌に圧倒される。主題曲「Stormy Weather」は彼女の代表レパートリーにもなった。ロビンソンは当時65歳で、この最後の出演作で有終の美を飾っている。ホーンの恋人役としてはさすがに無理があるが、それでも十分に若い。ニコラス兄弟による最後の階段場面は、ロビンソンに対するトリビュートのはずで(ロビンソンは階段で踊るのを得意とした)、そのパフォーマンスに新旧黒人ダンサーの世代交代を思うとなかなか感慨深いものがある。また、ウォーラーは、この映画の撮影から間もない'43年12月、肺炎のため急逝。当時の黒人芸能の至宝たちが最高のタイミングで集結したこの映画は、あらゆる意味でハリウッドの奇跡と言っていい。
 ちなみに、翌年公開の映画『Song Of The Open Road』(1944)におけるコンドス兄弟のダンス場面では、バンドスタンド内で踊る「The Jumpin' Jive」の演出が早速パクられている。また、エレノア・パウエル主演『ニューヨークの饗宴(Sensations Of 1945)』(1944)には、大勢の女性ダンサーたちによって大階段(というか、巨大な雛壇)でスプリットが連発される凄まじいミュージカル場面が登場する(スプリットで下降するだけでなく、上昇までする)。それらを見ると、ニコラス兄弟のダンス場面が、当時のミュージカル映画界にいかに衝撃を与えていたかが分かる。


Stormy Weather
『ストーミー・ウェザー』でコットン・クラブ時代の盟友キャブ・キャロウェイと共演
約半世紀後、両者はジャネット・ジャクソンのPV「Alright」に再び揃って出演する


 これら20世紀フォックス時代の全6本の出演作中、『Tin Pan Alley』『銀嶺セレナーデ』を除く4本ではニック・キャッスル Nick Castle(1910~1968)が振付/演出を担当している。キャッスルは'30~'60年代に活躍したハリウッドの振付師で、シャーリー・テンプル、フレッド・アステア、ジーン・ケリー、ジュディ・ガーランドなど多くのスターとも組んだ人物。彼が関わった4作品のダンス場面は、いずれもニコラス兄弟の超人的な運動能力を最大限に活かしたもので、両者は最高の相性を見せている。ニコラス兄弟、と言って誰もが思い出す圧倒的なダンス場面の数々は、キャッスルとのコラボレーションの賜物でもあるのだ(キャッスルの演出センスには、どことなく〈風雲!たけし城〉〈SASUKE〉といったアスレチック系娯楽番組の障害物チャレンジを彷彿とさせるものがある。その最たる例が『ストーミー・ウェザー』の大階段だ)。ちなみに、彼の息子であるニック・キャッスルJr.は映画監督で、グレゴリー・ハインズ主演『タップ』(1989/ハロルドも出演)を撮った男である。
 ついでに、『Tin Pan Alley』の振付師はセイモア・フェリックス(『巨星ジーグフェルド』『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』『百万ドル小僧』)。『銀嶺セレナーデ』は、なんとRKO時代のアステア&ロジャース全9作品他を振り付けたアステアの分身、ハーミズ・パン。納得である(もっとも、彼の振付は前半部分のみだと思うが)。

 ところで、これら数々の輝かしいダンス場面の中で、当の兄弟2人のフェイヴァリットはどれなのか。
 “どれも大好きだ! というのも、それぞれを見ていくと進歩の過程が分かるから。我々は常に前作を越えるものを目指していたからね”。'99年のTVドキュメンタリーの取材陣に向かってそう豪語するフェイヤードに、ハロルドが横からボソリと突っ込みを入れる。“それ、俺もさっき彼らに話したよ”。“えっ、そうだったの?!”。どれもマスト、というのが兄弟の共通意見のようだ。

 ベリー兄弟、ステップ兄弟、ティップ・タップ&トウといった同時代の代表的な黒人フラッシュ・アクトの出演作を何本も観ると、どの映画でもだいたい同じような得意ルーティンを披露しているのだが、ニコラス兄弟の場合は作品ごとに見せるものが全く違う。芸の幅の広さ、創造性、キャラの魅力など、あらゆる点で彼らは他を圧倒している。どのダンス・アクトも素晴らしいが、中でもニコラス兄弟だけはさすがに格が違うのである。


The Nicholas Brothers (part 1)──'30年代(子供スター時代)
The Nicholas Brothers (part 2)──'40~43年(20世紀フォックス時代)
The Nicholas Brothers (part 3)──'44~56年(アメリカ~ヨーロッパ時代)
The Nicholas Brothers (part 4)──'50~70年代(テレビスター時代)
The Nicholas Brothers (part 5)──'80年代以降(再評価時代)
The Nicholas Brothers (part 6)──'90年代TVドキュメンタリー
The Nicholas Sisters

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