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Twin Danger @ Billboard Live TOKYO 2013



 シャーデーのスチュアート・マシューマン率いる新バンド、ツイン・デンジャーがニューヨークから遂に初来日。4月半ばにビルボードライブ東京で2日間、計4回の公演を行った。

 ツイン・デンジャーは、スチュアート・マシューマンと、ブルックリンのインディ・ロック・バンド、ビースト・パトロールのヴォーカルとして活動する若い女性シンガー・ソングライター、ヴァネッサ・ブレイ──ジャズ・ピアニスト、ポール・ブレイの娘でもある──の2人によって結成されたジャズ・ポップ・ユニット。マシューマンの渋いテナー・サックスと、ヴァネッサのアンニュイなヴォーカルをフィーチャーしたツイン・デンジャーのサウンドは、'80年代のジャジーな初期シャーデー作品に通じるもので、マシューマンにとっては一種の原点回帰とも言えるユニットだ(ユニットに関して詳しくは過去記事“Twin Danger──俺にサックスを吹かせろ!”参照)。

 ツイン・デンジャーの作品は、チャリティ・コンピ『RED HOT+RIO 2』(2011)に提供された1曲、'12年秋に500枚限定でリリースされた4曲入り自主制作10インチEP以外、過去に全く流通しておらず、一般的にはYouTubeなどのネット媒体を通じて僅かに触れることができる程度だった。ライヴ活動も地元ニューヨークの小さなクラブでしか行われていない。シャーデーのメンバーが結成したユニットとはいえ、まともな作品リリースもなく、ユニットの存在自体ろくに知られていない状況での来日公演の実現は、ほとんど奇蹟と言っていい。ニューヨークの住人を除き、まともにアクセスすることが難しかったその音楽の全貌を知るため、そして、言うまでもなく、来日が実現しなかったシャーデーの'11年ツアーの雪辱を果たすため、私は気合いを入れてビルボードライブ東京へ向かったのである。カモン、ツイン・デンジャー!


APRIL 15th, MONDAY - 2nd STAGE

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これが欲しかったんだよ!

 初日公演の翌朝、4月16日の“号外”でもお伝えした通り、会場のビルボードライブ東京では、ツイン・デンジャーの待望の1stアルバム『POINTLESS SATISFACTION』のCDが販売されていた。来日直前にツイン・デンジャーのFacebookを見たところ、4月10日(水)の投稿で、この自主制作CDの現物写真が“土曜の東京行きに間に合った!!”というコメント付きで紹介されていた。それを見て、私のテンションは一気に上がった。今回の来日公演に合わせて、彼らは遂にアルバムを完成させたのである。会場に行くと、案の定、ロビーの物販コーナーでCDが売られていた。値段は微妙に高かったが(2500円)、もちろん大喜びで購入。今までネットで少ししか聴けなかったツイン・デンジャーの曲が、これでようやく思う存分聴けるのだ。私はずっとこれを待っていた。この出来立てのほやほやの自主制作1stアルバム(後で詳述する)は、現時点では残念ながらどこでも購入することができない。これを入手できただけでもビルボードライブ東京に足を運んだ甲斐があるというものだ。CDを眺め、幸福感に浸りながら開演を待つ。

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開場から間もない場内

 ツイン・デンジャーの公演は4月15日(月)〜16日(火)の2日間。私はもちろん両日とも行った。まずは初日、15日の2ndステージ。

 観客の年齢層は幅広かったが(なぜか家族連れの姿もあった)、残念ながら会場は満員とは程遠かった。1階のフロア席は大体埋まっていたが、上の階はガラガラ。最上階のカジュアルエリアなど、真ん中あたりにちらほら観客がいるだけで、両サイドは完全にがら空き状態である。開演間際にいつもは行列ができるバーカウンターも、全く人が並んでいない。ざっと見渡した感じ、多く見ても6割くらいの入りだろうか。スチュアート・マシューマンが20年ぶりに来日するというのに、日本のシャーデー・ファンは一体どこで何をやっているんだ(悲)。多くのシャーデー・ファンにとって、所詮、シャーデー=シャーデー・アデュに過ぎないということなのか。それとも、みんな単にツイン・デンジャーの来日を知らないだけなのか。いつもより静かな開演前のビルボードライブ東京の場内には、BGMで流れるアサイラム時代のトム・ウェイツの歌声がよく響き、まるで閉店間際の場末の酒場のような雰囲気を生み出していたのだった。

 定刻の21時半を8分ほど過ぎた頃、客電が落ち、遂に開演。静かで緊張感に満ちたクール・ジャズ調のBGM──『タクシードライバー』サントラの「Thank God For The Rain」(!)──が流れる中、薄暗いステージにメンバーたちが次々と上がってきた。テナー・サックスを抱えたマシューマンの姿を見た瞬間、私はいきなり恍惚となった。ほんとに来た〜、生マシューマン! ずっと映像や写真で目にしていたあの男が、ラスベガスでは豆粒ほどにしか見えなかったあの男が、すぐ目の前の超至近距離にサックスを持って立っている! 信じられない! もう一人の主役、ヴァネッサ・ブレイはギターを抱えて登場。思った通り、背が高くてスラッとしている。

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'12年初頭に公開された「Pointless Satisfaction」の音楽ヴィデオ

 1曲目は、アルバムでも冒頭を飾った「Pointless Satisfaction」。音楽ヴィデオも制作され、彼らの曲の中では比較的知られたものだ。マシューマンの柔らかで艶のあるテナーがいきなり場内に響き渡る。ヴァネッサによるギターの単音弾きがマシューマンのフレーズと戯れるように絡み合った後、心地良いミドル・テンポの4ビートに乗ってヴァネッサがガイコツ・マイクでクールに歌い出した。ステージにはまるで'50年代のニューヨークの酒場のようなモノクロのジャジーでスモーキーな世界が広がる。バーボンかスコッチのグラスでも片手にフィンガースナップで合わせたくなるようなサウンドだ。

 メンバーは、ステージ中央にヴァネッサとドラム、左側に鍵盤とギター、右側にテナーのマシューマン、そして、アップライト・ベース、トランペット。総勢7名のオーソドックスなジャズ・コンボ編成だ。ヴァネッサはスパンコールできらきら輝く黒いワンピースのミニスカート・ドレス、頭には黒いハットを被っていた。細身の長身にグレッチのギターがよく似合う。マシューマンは黒い革ジャン、黒シャツに細身の白タイという出で立ちで、頭にはキャスケットではなくハットを浅めに被っていた。無茶苦茶にカッコいい。まるで『LET'S GET LOST』(1988)ジャケのチェット・ベイカーみたいな格好なのだが、ボトムスがタータン・チェック柄のパンツというのがいかにも英国人らしくて、これまたクール。サックス用マイクの横にはもう1本マイクが立てられていて、そこで彼はバック・ヴォーカルもこなす。斜め上を鋭く見上げながらハーモニーを歌う顔がまたまた最高にカッコいい。自分の好きなことを全力でやっている男の顔だ。この激烈にカッコいい生マシューマンを見逃した日本のシャーデー・ファンは一生後悔してもいいだろう。

 今回の来日メンバーの中で、アンソニー・マルケージ(キーボード)とロバート・グラナタ(ギター)は、ヴァネッサ率いるロック・トリオ、ビースト・パトロールのメンバーでもある(ビルボードライブ東京の告知ではギタリストの名前が“ロバート・コリアー”となっていたが、本当はロバート・グラナタというらしい。メンバー紹介の際にもそう呼ばれていた)。つまり、ライヴこそ行わなかったが、ツイン・デンジャーのメンバーとしてビースト・パトロールも何気に初来日を果たしていたことになる。アンソニー・マルケージはそこらへんのおっさんみたいな雰囲気だったが、ギターのロバートは白シャツ&黒ベストという格好でグレッチの黒いギターを弾く姿がロカビリー野郎っぽく、ヴァネッサ&マシューマンと並んでヴィジュアル的にも光っていた。7人の中ではトランペットのオマー・リトルのみが黒人(顔が小っちゃい!)。ロック・バンドのメンバーが紛れていることからも分かる通り、ツイン・デンジャーは生粋のジャズマンたちによるオーセンティックなジャズ・ユニットではない。決して下手ではないが、シャーデーと同様、それほど高い演奏技術を持っているようにも思えない。バンドの編成や基本的な音楽スタイルはジャズだが、そこにリズム&ブルース、ロック、ポップスなどの要素をさり気なく取り込んだスタイリッシュなサウンドがこのバンドの持ち味である。開演前のBGMで(アイランド時代ではなく)アサイラム時代のトム・ウェイツが流されていたのは大いに頷ける。

 1曲目を終えて“アリガトウ、コンバンハ”とヴァネッサが日本語で軽く挨拶。ギターを置いて2曲目へ。彼女は数曲でギター、またはピアノを弾いたが、ツイン・デンジャーのライヴでは基本的に楽器を演奏しないで歌に専念する。シャーデー「Sally」のような雰囲気を持ったマイナー調の切々としたバラード「In Many Ways」、カントリーにちょっとニューオーリンズ風味が混じったようなレイドバック感満点の和み系スロー「Past Yet Untold(YouTubeにニューヨークでのライヴ映像が投稿されていた)という具合に、次々とオリジナル楽曲が披露されていく。私は事前にネットで予習していたので大体の曲に聞き覚えがあったが、多くの観客にとってはどれも初めて耳にする新曲に違いない。バンドにとっても初めて接する日本の観客。曲が終わって一瞬置いてから起こる行儀のいい拍手に、メンバーたちはさすがに緊張しているように見えた。2曲目が終わった後、客席から“Yeah!”と声が上がるのを聞いて、マシューマンが少しホッとしたように頷いた場面が強く印象に残っている。

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カヴァー版「I'm Shakin'」収録──ジャック・ホワイトとウィリー・ムーンのアルバム

 ミディアム〜スローの渋めのオリジナル曲が続いた後、4曲目で変化球が来た。アップ・テンポの乗りのいいR&Bナンバー。イントロのリフを聴いた瞬間、“あっ!”と思った。リトル・ウィリー・ジョンの「I'm Shakin'」(1960)だ。昨年、ジャック・ホワイトのソロ・アルバムでカヴァーされ、シングルにも切られた曲である音楽ヴィデオが素晴らしかった)。この古典曲は、ジャック・ホワイトも目を掛けているニュージーランド出身の話題のエレクトロ・ロックンローラー、ウィリー・ムーンのデビュー盤『HERE'S WILLY MOON』でも取り上げられている。でもって、そのデビュー盤というのがツイン・デンジャー来日のほんの数日前に発売されたばかりで、個人的にちょうどそれにハマっていたところだったので(オーソン・ウェルズ『上海から来た女』の引用を含む彼の音楽ヴィデオ「She Loves Me」を4月7日の記事で紹介したりもしていた)、この曲が披露されたことに私は余計に驚いた。サックスとトランペットがリフを奏でるツイン・デンジャー版は、リトル・ウィリーのオリジナル版をそのまま加速させたようなストレート極まりないものだったが、現在の音楽シーンとは何の関わりもないように思われたツイン・デンジャーに、ここで私は意外なヒップさを感じてしまった。シャーデーとツイン・デンジャーの違いもここではっきりした。これはアデュには歌えない。初めて披露された馴染みのある曲、しかも、乗りのいい明快な曲に観客も盛り上がる。

 再び落ち着いたムードに戻って、マシューマンのテナー・サックスが歌いまくるクールなバラード「When It Counts」。今回の来日でよく分かったが、ツイン・デンジャーの曲は本当にどれも名曲である。この曲はマシューマンの吹くテナーが曲を牽引しているが、そのままインスト曲にしてしまっても十分に通用するくらいメロディアスで魅力的なプレイをしている。そこに更にヴァネッサが素晴らしい歌メロを添えているからたまらない。マシューマンは本当にスタン・ゲッツ直系といった感じのテナー奏者で、アドリブで無闇に吹きまくるようなことはせず、いつでもメロディや音色の美しさを大切にした歌心溢れるプレイを聴かせる。アドリブをすることはあっても、飽くまで一定の範囲内で、必ず曲全体を引き立てるような形でソロをとる。スポーツで言うと、彼は選手と監督を兼任している。自己主張のための個人プレイはせず、常にチームが勝てるような適切なプレイをするのだ。

 美しいテナーの響きにうっとりとしていると、マシューマン先生、今度はなんとギターを手にした。1曲目でヴァネッサが弾いたグレッチだ。シンプルな歌メロのしっとりしたスロー「Coldest Kind Of Heart」。「Pointless Satisfaction」と一緒に音楽ヴィデオも公開された、割とお馴染みの曲である。イントロでポロンポロンと渋いソロを弾いた後、歌が始まるとヴァイオリン奏法でこれまた渋いオブリガートを入れ始めた。「Cherish The Day」のライヴの最後でいつもやる、あの“フオオ〜ン”というやつだ。このプレイを間近で見られるとは! マシューマンのギター演奏は1コーラス目だけで、再びサックスに持ち替えた2コーラス目以降は、同じ演奏をギタリストのロバート・グラナタが引き継いだ。マシューマンがギターを弾いている間、ロバートは何もしていなかったので、最初から彼に全部任せてしまっても何も問題はないはずなのだが……わざわざギターを手にしたのはファン・サービスだったのかもしれない。結局、マシューマンがギターを弾いたのはこの曲の序盤だけ。終盤のサックス・ソロでは、スタジオ録音版以上に情熱的なプレイでまたまた魅了してくれた。

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Gretsch Electromatic G5191TMS

 ちなみに、ヴァネッサとマシューマンが共用したギターは、グレッチの廉価シリーズ、エレクトロマチックのG5191TMSというギターである(はず)。最初はマシューマンが昔から愛用しているホワイト・ファルコンかと思ったのだが、会場で撮った写真を後でよく見たら全然違った(ピックガードもないし、つまみの数もヘッドの形も違う)。ボディの色は会場では白に見えたが、実際には薄いピンク色らしい。ランシドのティム・アームストロングのシグネイチャー・モデルだそうだ。ヴァネッサの黒いスパンコール・ドレスにこのギターがよく映えていた(黒地に白い水玉模様の入ったストラップも女の子っぽくて良かった)。

 マイナー調のバラードが続いたところで、小気味よくスウィングするお馴染みのピアノ・リフが始まった。「My Baby Just Cares For Me」だ。どういう曲がレパートリーに入っているのか事前に全く知らなかったので驚いたが、これは意外でも何でもない実に手堅い選曲。ニーナ・シモンのこの定番曲は、'12年7月に行われたエステルのビルボードライブ東京公演でも取り上げられていた。ちょっとしたパーティ・ソングのような趣でシンプルに演奏され、会場の空気を和ませた。なんだか本当に酒場とかホテルのレギュラー・バンドみたいだが、彼らのオリジナル曲は観客に全く知られていないので、こうして有名曲を取り上げるのはやはり大事だ。コケティッシュで可愛らしいヴァネッサの歌声は、こういう陽性の曲にもよく合う。シャーデーもヴァネッサもどちらもチェット・ベイカー系の囁きヴォーカルだが、スモーキーで大人っぽいシャーデーをジュリー・ロンドン型だとすると、ヴァネッサはブロッサム・ディアリー型として区別できるかもしれない。

 ニーナ・シモンが終わると、今度はヴァネッサがステージ左端で穏やかにピアノを弾き、マシューマンがクラリネット(!)でノスタルジックなメロディを吹き始めた。ドラムがブラシで静かにビートを添える。他のメンバーたちは全員ステージの脇に捌け、ヴァネッサのピアノ&ヴォーカル、マシューマンのクラリネット、ドラムによる3ピースの演奏。イントロでマシューマンが吹いたメロディがそのまま歌メロだった。スタンダード風情のとても美しいメロディの小曲だ(「Ev'ry Time We Say Goodbye」とかに近い)。セットリストには「Everything」と記されていて、歌詞は“You are everything that I want to love. You make me complete”と結ばれる。その場では正体不明だったが、後日、これはヴァネッサが書いたオリジナル曲だということが判明した(現時点では未発表曲)。名曲と断言しておきたい。

 続いて、淡々としたベース&フィンガースナップの魅力的なイントロからスタンダード「The Way You Look Tonight」。大勢の歌手に歌われているが、元々は『有頂天時代(Swing Time)』(1936)のためにジェローム・カーンとドロシー・フィールズが書き下ろし、劇中でフレッド・アステアが歌った曲である。海原を漂うようなゆったりとしたテンポで穏やかに演奏された。マレットを使ったドラムも含め、ちょっと「Love Is Stronger Than Pride」っぽい雰囲気のサウンド。ヴァネッサのヴォーカルとデュエットするかのようなマシューマンの情感豊かなサックスが素晴らしすぎる。歌メロとは異なる2小節分のリフ的なメロディを添えていて、それがとても印象的だ。この秀逸なサックスのフックラインは、驚いたことに、もともとヴァネッサが(ベースラインと一緒に)ギターで考えたものだという。それをマシューマンがサックスに置き換えたのだそうだ。こんなロマンチックな「The Way You Look Tonight」、聴いたことない。前曲「Everything」からの流れも実にスムーズ。今回披露されたカヴァー曲の中ではこれが一番良かった。

 今度はオリジナル曲「Sailor」。彼らにしては珍しいアップテンポのダンサブルなジャイヴ・ナンバー。'12年10月にリリースされた500枚限定EPの冒頭に収録されていた曲で、彼らの曲の中では最も新しいもののひとつだ。この曲ではヴァネッサがグレッチのギターを再び手にし、アームを使ったロカビリー風のコード弾きをしながら歌った。終盤ではスタジオ録音版と同じく、ミュート・トランペットのソロを長めにフィーチャー。普通ならサックスかギターがノリノリのソロをかましそうな曲だが、ここでミュート・トランペットというのが渋い。この絶妙のクールネスがまさしくツイン・デンジャーなのだが、ただ、ここはせっかくの盛り上げどころなので、ライヴでは各メンバーでソロを回しても良かったと思う。ツイン・デンジャーではソロは基本的にサックスかトランペットが担当し、他の楽器はバッキングに徹している。今回のライヴでは、鍵盤は「My Baby Just Cares For Me」、ギターはアンコール曲でソロ・パートがあったが、ベースとドラムには全くなかった。

 “スチュアートと私が初めて一緒に作った曲です”というヴァネッサの紹介で披露されたのは「Just Because」。マシューマンが使い道も考えずに作った変なコードの曲にヴァネッサが歌詞とメロディをつけて完成させ、ユニット結成のきっかけにもなったという曲だ(アルバムにも収録)。インタヴューで曲名だけは分かっていたが、実際の作品は今回のライヴで初めて聴いた。なるほど、確かに変な曲だ。帰着感のない、ふわふわと宙を漂うようなコード進行。ヴァネッサはそこに「Coldest Kind Of Heart」によく似た歌メロを乗せている。ビートルズ「Because」(1969)とデヴィッド・ボウイ「Win」(1975)を混ぜたような曲、と言えばちょっと雰囲気が伝わるだろうか。掴みどころのない曲なので観客の反応は薄かったが、面白い曲だと思う。ツイン・デンジャーの楽曲は基本的にどれもメロディアスで分かりやすいが、よく聴くと変わった構造の曲が多い。

 次に披露された「I Love Loving You」もまたツイン・デンジャーの面白さをよく示す曲だ。サウンド自体はジャジーだが、曲想はドゥワップである。ヴァネッサは過去のインタヴュー(9 April 2011, usblog.denon.com)で自分のお気に入り10曲を訊かれ、フラミンゴズ「I Only Have Eyes For You」(1959)を挙げていたが、これはまさにその趣味が反映された曲だろう。彼らの作品には色んな音楽の要素が詰まっている。夢見心地なホーンのリフも実に気持ちいい。

 「Take It From My Eyes」では再びヴァネッサがステージ左端でピアノを弾きながらパフォーマンス(鍵盤奏者のアンソニー・マルケージはマシューマンたちがいる右側へ移動し、バック・ヴォーカルに専念)。ピアノとユニゾンの歌メロが印象深い激クールなスロー・ナンバー。真っ暗なステージを左横からライトが照らし、ノワールな曲の雰囲気にマッチした光と影の世界を作り出していた。一般的なポピュラー・ソングの構造を逸脱した奇抜な曲だが、実に美しい。先述の「When It Counts」同様、これはやはりジャズを基盤にしているからこそ可能な楽曲だろう。ツイン・デンジャーの真骨頂と言うべき傑作だと思う。この曲は'12年4月にニューヨークのバーで行われたライヴ・パフォーマンスの秀逸なワンカメ映像(必見)がYouTubeに投稿されている。その動画のせいで私はこの曲が好きになっていたのだが、今回生で聴いて、本当に素晴らしいと思った。繊細なスタジオ録音版も最高だが、ライヴでは緊張感溢れるダイナミックな演奏を聴かせてくれた。私は静かに打ちのめされた。

 あまりの素晴らしさに溜息をついていると、“次の曲は皆さんご存じだと思います。(マシューマンを指して)この人と関係ある曲です”とヴァネッサのMC。えっ、もしかして……。ドラムが三連でスネアを叩き始めた瞬間、私は何の曲だかすぐ分かった。1小節のドラムのイントロに続き、今まで何度聴いたか知らないあの直情的なサックスのフレーズをマシューマンが吹き始めた。「Is It A Crime」!!! なあ〜、やっぱり演るか〜! ビルボードライブ東京のサイトに掲載された来日前のインタヴューで、マシューマンは“もしかしたらあのレディの名曲も披露するかもね”とシャーデー作品を演ることを仄めかしていた。テナーとトランペットの2管コンボであるツイン・デンジャーにとって「Is It A Crime」はまさにおあつらえ向きだが、言うまでもなく、この曲はシャーデーの宝刀である。アデュ以外の人間に歌うことは許されないのではないかという思いが私にはあり、シャーデー楽曲を取り上げるなら、同じ『PROMISE』収録で、ヴァネッサのヴォーカルとも合いそうな「Mr. Wrong」あたりにしてくれないかなと思っていた。が、マシューマンは必殺の切り札を出した。もう、私はどう反応していいか分からなくなった。

 「Is It A Crime」はオリジナルに忠実なアレンジで披露された。結論から言うと、(この曲に関しては)ヴァネッサのヴォーカルはシャーデー・アデュとは較べものにならない。較べてはいけないと思いつつ、聴いている最中、当然ながら私は何度もアデュのヴォーカルを思い浮かべ、ヴァネッサのヴォーカルと比較していた。ヴァネッサは独自の解釈を加えることもなく、アデュの節回しをなぞるように歌っていたが、もちろんアデュ独特のあのヴォーカル表現の深みはない。声質も違うし、年季も違う。ルックスも違うし、動きも違う。“ごめんね 去年の人と又比べている”という「イミテイション・ゴールド」の主人公のようなジレンマに陥った私だったが、しかし、それでも私はツイン・デンジャーの「Is It A Crime」に感動した。今まで繰り返し聴いてきたシャーデーのオリジナル録音版、何度も観たライヴ映像、ラスベガスで実際に体験したライヴ・パフォーマンス、最後まで来日が実現しなかった'11年ツアー……様々な記憶が私の脳裡に去来していた。そして今、自分のすぐ目の前に、右手で天を指差しながらサックスを吹くあのマシューマンがいる。自然と目頭が熱くなった。感動したのはシャーデー・ファンとしての私の個人的な感傷のせいだけではない。実際、ツイン・デンジャーの「Is It A Crime」は熱演だったし、何より私は曲そのものが持つ力に圧倒されたのだった。

 近年のシャーデーのライヴ版でライアン・ウォーターズがギター・ソロを弾く終盤のパートは、オリジナル版通り、ミュート・トランペットのソロがフィーチャーされた(演奏自体は独自のアドリブ・ソロだった)。マシューマンのサックス・ソロはいつも通りだったが、トランペット・ソロの後に8小節、シャーデー版にはないアドリブ・ソロが挿入されていたのが新鮮で面白かった。いつもより若干、マシューマンが前面に出た特別版「Is It A Crime」。今回のツイン・デンジャー来日は、飽くまで“シャーデーのスチュアート・マシューマン”というネーム・ヴァリューによって実現したものであり、観客も当然、シャーデー的なものを期待して会場に足を運んでいる。「Is It A Crime」はそれに応えるパフォーマンスだったわけだが(公演契約を結ぶ際、ビルボードライブ側が“シャーデー作品を必ず1曲は演奏する”という要求を出した……というのは考え過ぎか)、マシューマンは決してシャーデーにあやかっているわけではなく、この曲が披露されたことに、私は日本のシャーデー・ファンに対する彼なりの誠意のようなものを感じた。ツイン・デンジャーは十分に素晴らしいバンドだし、本来、シャーデー作品を演る必要など全くない。都合のいい解釈かもしれないが、シャーデーの'11年世界ツアーで日本に行かなかったことにマシューマンは後ろめたさのようなものを感じていて、「Is It A Crime」を演ることで、その埋め合わせを彼なりにしようと思ったのではないか。“俺にはこれくらいしかできないけど……”という彼の思いを、私はその熱いブロウから感じ取った。シャーデーには及ばない、と言われることを百も承知でこの曲を歌ってくれたヴァネッサにも、私はありがとうと言いたい。20年ぶりに東京で披露された「Is It A Crime」。日本の観客にとって、それは本当に特別なパフォーマンスだった。この日最高の喝采が送られたことは言うまでもない。

 「Is It A Crime」が終わると、マシューマンが“ヴァネッサ・ブレイ!”と彼女を紹介し、それからヴァネッサが一通りメンバーを紹介した。本編最後を飾ったのは、ピアノが軽やかに弾むポップ・テイストのオリジナル曲「Save It」。スタジオ録音版よりも幾分ロッキッシュに演奏され、爽やかな熱気と共にステージを締め括った。

 一旦退場した後、喝采に応えてすぐにアンコールが始まった。“飲んでる人には分かるわ”と白ワインのグラスを手にしたヴァネッサのMCで始まったのは、アルバート・コリンズのカヴァー版でも知られるジミー・リギンズの「I Ain't Drunk」(1953)。“飲まれちゃいない、飲んでるだけだ!”というロックンロール調の陽気な酒飲みソング。ツイン・デンジャーFacebookの'13年2月の投稿で、“これは演るしかない!”というコメント付きでこの曲のYouTube動画が紹介されていたことがあったのだが、まさか本当にレパートリーにしているとは思わなかった。「I'm Shakin'」と同じくストレートな演奏。ジャンプ・ブルース〜ロックンロール調のノリノリのソロを吹くマシューマンというのも結構レアだが、これがまたイカしている。シャーデーではできない好きな音楽を目一杯楽しんでやっている感じだ。ヴァネッサの豪快なヴォーカルも良い。この曲ではロバート・グラナタによるパンキッシュなギター・ソロもあった。このあたりの音楽性がオリジナル曲に反映されれば、ツイン・デンジャーはシャーデーとは違った方向へ進み、今後ますます面白くなっていくと思う(「Sailor」にはその萌芽が見られる)。大騒ぎの「I Ain't Drunk」を終えると、ヴァネッサが観客に謝辞を述べ、バンドは大きな拍手に包まれてステージを後にした。終演は22時50分。全16曲、約72分の素晴らしいショウだった。


APRIL 16th, TUESDAY - 2nd STAGE

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 前日に会場で購入したアルバムを聴いてから臨んだ2日目、4月16日の2ndステージ。彼らにとっては4公演目、日本での最後のショウだ。セットリストは前日と同じで、内容は基本的に同じだったので詳述はしない。私は前日よりも落ち着いた気分で、じっくりと彼らの演奏を楽しませてもらった。

 細かい違いを書いておくと、まずヴァネッサの衣裳が違った。前日は黒いスパンコール・ドレスだったが、16日の2ndステージはヒラヒラした白いワンピース・ドレスで登場(上の写真参照)。頭にはやはり黒いハットを被っていた。ギターのロバート・グラナタは白シャツ&黒ベストではなく、普通に黒シャツ姿。マシューマンのファッションは前日と同じ。衣裳に関しては前日の方がシックで、サウンドのイメージに合っていたかもしれない。2日目はバンドもかなりリラックスした様子で、初日よりも更に切れのある熱い演奏を聴かせてくれた。「Just Because」前のMCでは、“スチュアートと私が初めて一緒に作った曲です”と言った後、“……今朝ね。なんてちゃって”と軽く冗談を飛ばす余裕も見られた。最終公演ということもあり、観客の数は前日より若干多く、反応もかなり良かった。

 特筆すべきは、「Is It A Crime」終盤のマシューマンの8小節のアドリブ・ソロ。前日とは全く違うプレイをしたのだが、これが素晴らしかった。意表を付く美しいフレーズに私は息が止まりそうになった。また、初日は「Is It A Crime」終盤の長いブレイク部分で客席の一部から拍手が起きたが(別に騒いでいけないことはないのだが)、最終公演では会場の誰ひとりとして物音を立てなかった。曲がそこで終わりでないことをみんな知っているからだ。演奏終了と同時に、ドッと大歓声が沸いた。最終公演はさすがディープなファンが集まったようで、どんな音も聴き逃すまいという静かな熱気のようなものが感じられた。この日の「Is It A Crime」は本当に感動的だった。

 アンコールの「I Ain't Drunk」では、気合いが入りすぎてギターのロバートがソロの際に帽子を飛ばしてしまい、ロングヘアを振り乱しながら演奏していたのが印象的。「I Ain't Drunk」は終盤に初日にはなかったちょっとしたブレイク・パートがあり、演奏自体も明らかに良くなっていた。演奏終了後、ヴァネッサとマシューマンが観客に感謝。前日はヴァネッサが謝辞を言うだけだったが、最終公演ではマシューマンもマイクを通して“Thank you!”と満面の笑みで言っていた。大きな拍手と歓声に包まれ、メンバーたちは観客とハイタッチをしながら退場。ツイン・デンジャーの初来日公演は晴れやかに終了した。

 終演後の場内に流れたのは、トム・ウェイツ「Red Shoes By The Drugstore」(1978)。それを耳にした時、もしかすると自分は'77年1月のトム・ウェイツ来日公演のような“伝説”を目撃したのかもしれないとちょっと思った。もちろん、単なる思い過ごしであって欲しい。これがもしツイン・デンジャーの最初で最後の来日公演だったとしたら、それはあまりにも寂しいし、もったいないことだ。彼らの音楽はもっと多くの人の耳に届くべきだし、実際、公演に参加した観客の多くは、新たなお気に入りバンドを発見した充実感と共に会場を後にしたはずである。ニューヨークからやって来て素晴らしい音楽を聴かせてくれた彼らに、私は今、とにかく感謝の気持ちで一杯である。是非、また日本にやって来て欲しい。


00. Intro: Thank God For The Rain (from the "Taxi Driver" soundtrack)
01. Pointless Satisfaction
02. In Many Ways
03. Past Yet Untold
04. I'm Shakin'
05. When It Counts
06. Coldest Kind Of Heart
07. My Baby Just Cares For Me
08. Everything
09. The Way You Look Tonight
10. Sailor
11. Just Because
12. I Love Loving You
13. Take It From My Eyes
14. Is It A Crime
15. Save It
-encore-
16. I Ain't Drunk

Live at Billboard Live Tokyo, Japan, 15-16 April 2013

Personnel: Vanessa Bley (vocals, guitar on "Pointless Satisfaction" and "Sailor", keyboards on "Everything" and "Take It From My Eyes"), Stuart Matthewman (tenor sax, clarinet on "Everything", guitar on "Coldest Kind Of Heart", backing vocals), Robert Granata (guitar, keyboards on "When It Counts"), Anthony Marchesi (keyboards, backing vocals), Jamie Alegre (drums), Matt Basile (bass), Omar Little (trumpet)

Twin Danger: Japan Tour 2013
April 15 - Billboard Live Tokyo (2 shows)
April 16 - Billboard Live Tokyo (2 shows)


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POINTLESS SATISFACTION
CD: Thank Frank Records, April 2013 (US)

Pointless Satisfaction / Just Because / Save It / When It Counts / I Love Loving You / Coldest Kind Of Heart / Sailor / In Many Ways / Past Yet Untold / Take It From My Eyes

Written by Vanessa Bley and Stuart Matthewman
Produced by Stuart Matthewman and Vanessa Bley
Mixed by Stuart Matthewman
Musicians: Vanessa Bley (vocals, piano, guitar), Stuart Matthewman (saxophone, guitar, rhodes), Michael Leonhart (trumpet, mellophone), Joe Bonadio (drums), Larry Grenadier (bass), Zev Katz (bass on "Sailor"), Gil Goldstein (piano on "When It Counts", "In Many Ways", and "Past Yet Untold")


 さて、会場で販売されていたツイン・デンジャーの1stアルバム『POINTLESS SATISFACTION』だが、これがもう、とんでもない傑作である。'12年10月に500枚限定EPを出した彼らのインディ・レーベル、Thank Frank Recordsからのリリース(型番なし)。CDRではなく、きちんとしたプレスCD。印刷もしっかりした二つ折りの紙スリーヴにCDが収納されている。これまで地味に公開されてきた彼らのオリジナル作品10曲を一挙収録。'11年末に作られたBlue NoteのプロモEPに収録されていた5曲もすべて収録されている。どういう理由かは知らないが、Blue Noteとの契約はどうやら完全に流れてしまったようだ。

 参加ミュージシャンは来日メンバーとは全く異なる。スタジオ録音の方がより繊細なジャズ・テイストが感じられるものの、アレンジや演奏のニュアンスは来日公演と基本的に一緒である。10曲すべて来日公演で披露されたので、各曲についてここで繰り返しの言及は避ける。CDでじっくり鑑賞してみて、楽曲の素晴らしさ、マシューマンの叙情的なテナー、ヴァネッサのクールなヴォーカルのみならず、私はそのきめ細かなサウンド・メイキングにとにかく感動した。彼らのサウンドには一発録りのライヴ録音のような生っぽさがあるが、よく聴くとアレンジやミックスは緻密に練られていて、ホーンやバック・ヴォーカルなどのオーヴァーダブも織り込みながら、ジャズともポップスとも言える実に豊潤で奥深い音世界を作り出している。ジャズのエッセンスをたっぷり吸収した、さり気なく冒険心に溢れる珠玉のポップ・ナンバーたち。そこには、チェット・ベイカー、スタン・ゲッツ、ギル・エヴァンスといったクール・ジャズの巨匠たちの影がちらつく。ジャジー・ポップと言ってしまえばそれまでだが、この形容には“ジャズの真似事をしたお洒落音楽”という否定的なニュアンスが伴うように思うので、できればそう呼びたくない。ツイン・デンジャーが演っているのは、ジャズとポップスを折衷した、カテゴライズ不要の純粋な“グッド・ミュージック”に他ならない。さすが筋金入りの音楽マニア、スチュアート・マシューマンと言うべきクオリティの高さである。口当たりは飽くまで滑らかだが、よく味わうと色んな出汁が利いているのが分かる。

 過去記事“Twin Danger──俺にサックスを吹かせろ!”で、私はこのユニットに関して、“正直、シャーデー作品のように正対して聴き込もうとはあまり思わない”とか、“シャーデー作品のような深みはない”とか、“一種の雰囲気モノ”とか、さり気なく酷いことを書いていたのだが、ここで撤回させてもらう。ツイン・デンジャーは本気で素晴らしいバンドだ。BGMとして聞き流すこともできるが、CDを入手して以来、深夜にこれを少し大きめの音量で再生し、じっくりと彼らのサウンドを味わうのが音楽ファンとしての私の無上の楽しみになっている。聴けば聴くほど素晴らしさが分かるアルバムだ。このCDは私の宝物である。これが一般的に入手できないという現状は、どう考えても狂っている。どういう形でもいい、この傑作が世界中の音楽ファンの耳に届くことを願ってやまない。

 スチュアート・マシューマンには、シャーデーと並行したパーマネントなバンドとして、今後もツイン・デンジャーを継続して欲しい。脇役に徹する激渋なギターも良いが、今回の来日とアルバムで、この人はやはりもっとサックスを吹くべきだと私は強く感じた。ツイン・デンジャーでの活動が、シャーデーの次回作にどのようにフィードバックされるのかもまた気になるところである。

 来日中、ツイン・デンジャーのFacebookやInstagramには東京で撮影された写真が連日のようにアップされた。メンバーたちは東京の街を十分に満喫したようだ。最後に、彼らが東京滞在中に覚えたらしい日本語でこの来日公演鑑賞記を締め括ることにしたい。
 
 Twin Danger すげえ!



Twin Danger──俺にサックスを吹かせろ!
【号外】Twin Dangerのアルバム完成!
THANK TWIN DANGER
Twin Danger - Is It a Crime?
Twin Danger Plays
Twin Danger 遂にメジャー・デビュー!
紐育ストーリー──Twin Danger meets 山口百恵!!!?

| Pride/Sweetback/Twin Danger/solos | 23:55 | TOP↑

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