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誰でもアーティスト──スリーヴフェイスの世界


John Coltrane - A Love Supreme (1965)

 “スリーヴフェイス(sleeveface)”という言葉をご存じだろうか。アナログ・レコード盤のスリーヴ=ジャケットを使った面白写真のことを英語でそう呼ぶ(“ジャケ仮面”とでも訳したい)。使われるジャケットは主に人物の顔写真が大きく印刷されているもの──いわゆる“顔ジャケ”──で、これをお面のように自分の顔に当てて写真を撮る。上手く位置を合わせると、ジャケットの顔が自分の顔のように見えて大変に面白い。

 昔からあった遊びではあるが、ネット時代になってこの面白写真は秘かなブームとなり、様々なスリーヴフェイス写真があちこちのサイトに投稿されるようになった。当然、写真のレベルは増していき、中には単なる面白写真を超えて、アート写真の域にまで達しているものもある。スリーヴフェイスはもはやひとつの文化と言ってもいい。

 前々回前回のレコード・ネタ記事に続き、今回は世界中の暇人が撮ったスリーヴフェイスの傑作の数々を紹介することにしたい。音楽ファンなら誰でも無条件で楽しめること請け合いだ。これらを参考に、君も憧れのアーティストに変身してみよう!

※コルトレーン『A LOVE SUPREME』(上)のジャケは、自分の顔に重なるように斜めに持つとタイトルが水平になるように出来ている。スリーヴフェイス用に作られたとしか思えない至上の1枚だ。


STEP 1──とりあえず顔に当ててみよう

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John Lennon - The John Lennon Collection (1982)

 ジョン・レノンです。イエイ。まずはこれが基本。このベスト盤はレノンの入門にも、スリーヴフェイスの入門にもピッタリだ。黒いセーターやTシャツも簡単に用意できるだろう。初心者はこの辺りから初めてみよう。


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John Lennon - The John Lennon Collection (1982)

 主夫ジョン・レノン。掃除する姿も自然です。ジャケが顔に馴染んできたら、このように独自の演出も加えてみよう。


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Elvis Presley - Elvis' Golden Records Volume 2 (1970)

 これもスリーヴフェイス初心者には打ってつけの盤。背景との色合いもきちんと考えたい。このLPは『50,000,000 ELVIS FANS CAN'T BE WRONG』(1959)に2曲を追加収録した'70年の新装盤。


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Elvis Presley - Elvis' Golden Records Volume 2 (1970)

 ……やばい、このレコード、欲しくなってきた。


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David Bowie - "Heroes" (1977)

 これは恐らく誰もが通る道だろう。大勢がやっているネタだが、この作品はジャケと身体全体のバランスが絶妙。このようにジャケを友達に持ってもらうのも基本技のひとつ。モノクロ・ジャケの場合、写真自体もモノクロにすると調和が取れる。


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Peter Gabriel - Peter Gabriel (1978)

 グッド・チョイス。膝を曲げて力が入っているところがいい。ガリガリ感がよく出ている。スリーヴフェイスはネタ選びと、ジャケ心を汲んだ演出力が大事だ。


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Set Fire To Flames - Telegraphs in Negative / Mouths Trapped in Static (2003)

 ああ、そんな感じ、そんな感じ。


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Jimi Hendrix - Audaz Como El Amor (1972)

 『AXIS』のウルグアイ盤らしい。盤もレアだが、そのシャツもよく持ってたな!


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Lisa Stansfield - Affection (1989)

 完璧。見開きジャケットみたい。配色も綺麗だ。レベルの高いモノクロ・ジャケ使い。



STEP 2──外で撮ってみよう

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Joni Mitchell - Clouds (1969)

 ジャケに合った背景を求めて屋外に出てみよう。これは秋の風景が美しい逸品。このままポスターにして部屋に飾ってもいいくらい。


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David Bowie - Low (1977)

 この普通っぽさがいいね。すっかり地球の暮らしに馴染んでます。


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Art Garfunkel - Angel Clare (1973)

 何、この自然さ。“君も食べる?”とかいう声が聞こえてきそう。シャツの色も完璧だが、ここに赤いコップを合わせたセンスが素晴らしい。ソフトフォーカスな感じもジャケとマッチ。


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Thelonious Monk - Monk's Dream (1963)

 お見事。淡いグリーンできちんと色調もまとまっている。このようにアーティストに合った楽器を持つのも良い。



STEP 3──面白い顔ジャケを探そう

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Friedrich Gulda - As You Like It (1970)

 表情や顔自体が面白いジャケは、それだけで魅力的な写真になる。やはり、いいネタを探すことが肝心だ。これは個人的に好きな1枚。どんな仏頂面の人でも、これさえあればニコニコに。


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Henri Salvador - Mr Boum-Boum (1963)

 7インチ使い。顔のサイズが合わなくてもいい写真は撮れる。


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Bernie Green with The Stereo Mad Men - Musically Mad (1959)

 ハハ、お面みたい。蝶ネクタイがいいね。


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Various Artists - Overload (1982)

 うまい、うまい。


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The Notorious B.I.G. - Duets: The Final Chapter (2005)

 こわい、こわい。



STEP 4──演技力を磨こう

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Tracy Chapman - Tracy Chapman (1988)

 静かに読書する時はトレイシー・チャップマンがお薦め。


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Bob Dylan - "Mister" Bob Dylan (1965)

 ちょっと難しい本を読む時はボブ・ディランがいい。


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Deodato - Artistry (1974)

 鼻をほじってみたり。


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Sam Cooke - The Best Of Sam Cooke (1962)

 トイレで喜んでみたり。


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Madonna - La Isla Bonita (1987)

 風呂に入ってみたり。


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Victor Borge - Caught In The Act (1966)

 いやっ! いやっ!


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Tina Turner - Private Dancer (1984)

 これであなたも美脚に!


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Ike & Tina Turner - Outta Season (1968)

 これは2枚用意して男女ペアでやっても面白い(裏ジャケではティナがスイカを喰っている)。



STEP 5──複数人数ネタに挑戦しよう

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Original Soundtrack - Two Of A Kind (1983)

 2人以上の人物が写っているジャケを使うとまた幅が出て面白い。これはジョン・トラヴォルタ&オリヴィア・ニュートン=ジョン主演『セカンド・チャンス』のサントラ盤。オリヴィア役が着ている青いジャケットをスリーヴに重ねて上手く馴染ませている。見習いたい技だ。


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John Farnham - Whispering Jack (1986)

 モノトーンの服と背景、2人の髪型、角度をつけたジャケ使い……すべてが素晴らしい。まるで通過する光をモノクロに変える不思議なフレームを持っているような錯覚を与える。名作。


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John Lennon & Yoko Ono - Double Fantasy (1980)

 カップル・ネタの定番。顔のサイズが合うよう、ジャケをちょっと画面前方に持ってくるのがコツ。この作品はモノクロと赤の対比が綺麗。ジャケの古ぼけた感じもまたロマンチック。ノイズの入った粗いサンプリング音に独特の味があるのと一緒だ。ジャケはボロくても全然構わない。


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Paul McCartney - McCartney II (1980)

 ツッコミを入れる時はポールで。


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The Rolling Stones - Black And Blue (1976)

 ミック役は絶対に目を瞑ってはいけない。


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Ramones - End Of The Century (1980)

 ジョニー・ラモーンの体型がやばい。顔と身体のアンバランスさも絶妙。これぞスリーヴフェイス・マジック!



STEP 6──遠近感を利用しよう

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Richard "Groove" Holmes - Six Million Dollar Man (1975)

 顔のサイズが小さいジャケでも、自分が遠くに立てば同化できる。これはスリーヴフェイスの最も重要なテクニックと言えるだろう。これさえマスターすれば、君も一人前のスリーヴフェイサーだ!


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Lionel Richie - Dancing On The Ceiling (1986)

 ライオネル・リッチーにも楽勝で変身。


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Inxs - Kick (1987)

 「Need You Tonight」のクリップみたい!


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Elvis Costello - The Very Best Of Elvis Costello (1999)

 小さなCDジャケットでも、遠近感を上手く使えば自分の顔にできるのだ。


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Badly Drawn Boy - About A Boy (2002)

 難易度高いな……。


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Phil Collins - Both Sides (1993)

 これ、反則じゃね?


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The The - Mind Bomb (1989)

 自然すぎる……。ちゃんと糸で釣ってるのがいい。デジタル時代だからと言って、画像ソフトではめ込んだりするのはもちろんNG。スリーヴフェイスはアナログ感が大切なのだ。加工なしの一発撮りで頑張ろう。



STEP 7──とにかく色々やってみよう

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Bob Marley and The Wailers - Rasta Revolution (1974)

 ザイオンを目指すのだ!


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Jhelisa - Galactica Rush (1994)

 自然との一体感。ジャケとの一体感。


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Elton John - Blue Moves (1976)

 いいね、いいね。体毛の濃さとかもそれっぽい。


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Elton John - Blue Moves (1976)

 このエルトン・ネタ、鉄板かも。


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Jimi Hendrix - Electric Ladyland (1968)

 おおおおお……ジミヘンの魂が俺に!


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Eric Clapton - Slowhand (1977)

 一瞬、顔の方を見ちゃうんだけど、実は左手がスローハンド。


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Japan - Tin Drum (1981)

 完全に生活の一部。


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Al Jarreau - Jarreau (1983)

 ある朝、妹がアル・ジャロウになっていた。


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Marvin Gaye - Midnight Love (1982)

 トイレから戻ると、友人がマーヴィン・ゲイになっていた。


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Smokey Robinson - Pure Smokey (1974)

 スモーキーが家に遊びに来ました。


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Bill Withers - The Best Of Bill Withers (1980)

 私が代表取締役のビル・ウィザーズです(竹中直人ではありません)。


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Michael Jackson - Thriller (1982)

 俺もマイケル。


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George Michael - Faith (1987)

 俺だってマイケル。これ、頑張ってるなあ。


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Prince - When Doves Cry (1984)
Pink Floyd - The Wall (1979)

 ………。


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Frank Sinatra - Have Yourself A Merry Little Christmas (1968)
Doris Day - The Doris Day Christmas Album (1964)
Dean Martin - The Dean Martin Christmas Album (1966)

 3枚使い。完成度、高っ。人選の統一感、各ジャケと背景のマッチング、衣裳、小道具の細かさと言い……。しかも、すべてクリスマス・アルバム。全く隙が見当たらない。完全にプロ・レベル。


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Ivan Rebroff - A Festive Christmas with Ivan Rebroff (1971)

 これ、本人じゃねえの?


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Fats Waller & His Rhythm - One Never Knows, Do One? (1957)

 I'm lovin' it!


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Boz Scaggs - Silk Degrees (1976)

 ちょうどいい所にちょうどいいベンチが!


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Nancy Sinatra & Lee Hazlewood - Nancy & Lee (1968)

 レベル高いなあ〜。


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Kraftwerk - Computer World (1981)

 あ〜、座布団5枚!


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DJ Shadow - Endtroducing..... (1996)

 うお〜、素晴らしい! これはよく考えたなー。サンプリングもスリーヴフェイスも、素材選び、そして、それを最終的にどう調理するかが肝だ。掘り師たちへの敬意も込めて、最優秀作品はこのシャドウ・ネタに決定!


 今回紹介した作品の多くは、世界中から投稿を募っているスリーヴフェイス専門ブログ、Sleeveface.comに掲載されたものである。'08年1月に開設され、『Sleeveface: Be the Vinyl』(2008)という書籍版も出してしまったスリーヴフェイス・ブームの草分け的サイトなので、興味のある人は是非訪れてみよう(見始めると止まらなくなるので、暇な時にした方がいい)。ここに紹介したのはほんの一部で、面白い作品は他にもまだまだ無数に存在する。Flickrにも専用のグループプールがあるし、“sleeveface”で検索すれば、傑作、名作、珍作をいくらでも見つけることができるだろう。

 既存のレコードを使って新たな作品を生み出すスリーヴフェイスには、DJプレイやサンプリングから音楽を作るヒップホップの写真版といった趣もある。カメラとレコードさえあれば誰にでも出来るという手軽さも良い。ジャケに写っているアーティストになるだけでなく、実際、スリーヴフェイスを通して人はちょっとしたアーティストになれるのである。スリーヴフェイサーになると、使えるブレイクを常に意識しながらレコードを聴くDJのように、レコード・ジャケットを見る目が変わりそうだ。重要なのは、ひたすらディグること、あとは閃きとセンスである。

 日本人がやる場合、当然、ジャケに日本人が写っている和モノのレコードを使うのが有利だろう。この記事を最後まで読んでしまった暇なあなた、まだあまり掘られていない邦楽ネタで是非とも世界に挑戦してください。


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Sade - Stronger Than Pride (1988)

 最後にシャーデー・ネタ。おでこ広すぎだろ!



Archimede - Vilaine Canaille (2009)
Ozi Batla - Put It On Wax (2010)
 スリーヴフェイスを演出に取り入れた音楽ヴィデオ2本(いずれもSleeveface.comの記事で知った)。音楽ファンなら誰でも知っているジャケがたくさん登場。Archimedeはフランスのロック・バンド、Ozi Batlaはオーストラリアの白人ラッパー。特に前者のヴィデオがよく出来ている(フレンチ・ネタが多く使われているのも良い)。

スリーブフェイス:レコードになれ!
PingMagによるSleeveface.com創始者へのインタヴュー('08年11月)。

アマゾンのフォト検索に挑戦する
 スリーヴフェイスとはちょっと違うが、思い出したのでついでに紹介。ご存じの方も多いだろう、キング・クリムゾン『IN THE COURT OF THE CRIMSON KING(クリムゾン・キングの宮殿)』(1969)のジャケに自ら変身し、アマゾンのフォト検索に挑戦したある日本人男性の感動的ドキュメント('10年6月)。約3年ぶりに再見したが、クリムゾンの1st同様、やはり破壊的なインパクトがある(笑)。自らジャケになる、という点ではスリーヴフェイスと似た試みと言えるだろう。色んなことを思いつく人がいるものだ。人間ってすごいなあ。

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