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時の記念日──エターナル・タイム



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 そう、時間は流れつづけている。
 あなたがネット・サーフィンをしている間も。
 そして、『ドラえもん』(第34巻)を読んでいる今も。
 
 6月10日は“時の記念日”です。1920年に東京天文台と生活改善同盟会によって制定された。日本国民に“時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう”と呼びかけ、時間の大切さを尊重する意識を広めるために設けられた。この日に日本で初めて時計が鐘を打ったとする『日本書紀』の記録に因む(ウィキペディアより)。

 上に引用した藤子不二雄『ドラえもん』の“「時」はゴウゴウと流れる”(1983)の一場面は、私たちに時間の大切さというものを嫌というほど分かりやすく教えてくれる。子供の頃にこの場面を見て、私は言いようのない恐怖感に襲われたものだ。今、改めて見ても恐ろしい。全く、何たる無情さだろうか。


 ところで、ここでドラえもんが出した“タイムライト”という22世紀の道具。人に時間の流れを体感させる道具だが、実はこれと同じような秘密道具を、2世紀も早い1965年の時点でオノ・ヨーコが発明していることをご存じだろうか。

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 オノ・ヨーコが発明したその道具の名前は、“エターナル・タイム(永遠の時間)”。一見、普通の時計だが、よく見ると違う。この時計には長針と短針がない。あるのは秒針だけだ。もちろん、何時何分だか分からない。ひたすら回り続ける秒針を見ながら、時間の流れゆく様を実感するという時計である。

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エターナル・タイムを使用する発明者のオノ・ヨーコ

 エターナル・タイムは、透明なプラスチックの箱に時計が収納されている。プラスチックの箱も含めてひとつの道具になっているのである。使用者は付属の聴診器を箱に当て、中にある時計のゼンマイの音を聴く。すると、より一層、時間の流れをリアルに感じることができるという仕組みである。

 この時計には“過去”も“未来”もない。エターナル・タイムは永遠に“今”だけを刻み続ける。この道具は、考えようによっては、日々時計と睨めっこし、スケジュールに追われながらあくせく生きている人間たちをからかっているようにも取れる。時計がなかった太古の昔、人々はシンプルに“今”という永遠の時間の中で生きていたはずである。彼らの時間感覚は、恐らく私たちが子供の頃に持っていたそれと似ているだろう。

「米の文豪フォークナーが“時計が止まるとき、時間はよみがえる”という意味のことを述べていた。考えてみれば、私たちは時計なしの時間を知らない。時を見た人はいないのに、時計に時を見せられて、いつも小走りに急ぎがちだ▼おそらくは文豪と同じ含みで、“ちっこい機械が悠久の時間を支配すべきだろうか”と書いたのは絵本作家の故・佐野洋子さんだった。あすは時の記念日である。きょうはひとつ、ちっこい機械の文字盤を、しばし忘れてみるのもいい。できればスマホもOFFにして。」('13年6月9日付、朝日新聞「天声人語」)

 ドラえもんとオノ・ヨーコを私に思い出させたのは、昨日読んだ天声人語のこの一文だった。エターナル・タイムに込められているメッセージも、これと同じことではないだろうか。“きちんと時間を守って合理的な生活を送ろう”という“時の記念日”の趣旨とは、むしろ正反対の発想から生まれた道具のような気がする。エターナル・タイムは、私たちを時計の支配からしばし解放してくれる実に素晴らしい秘密道具だ(って、いつの間にかドラえもん化しているオノ・ヨーコ)。


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Eric Dolphy - Out To Lunch! (1964)

 エターナル・タイムから私の連想は更に広がった。まず、エリック・ドルフィーのこのBlue Note盤ジャケット。一応説明しておくと、“Out to lunch”は“昼食のため外出中”ということだが、“頭がおかしい、風変わりな”という意味の慣用句でもある。昼食から帰ってくる時刻を示す時計がスゴいことになっている。アルバムのサウンド自体もジャケそのまんまのシュールさだ。

 余談だが、“流れさった時間は二度とかえってこないんだ!!”というドラえもんの言葉は、『LAST DATE』最後に収録されているドルフィーの名言、“音楽は、終わればどこかへ消えてしまう。二度と掴まえることはできないのだ(When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again)”を思い出させる。


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Wild Strawberries (1957)
Directed by Ingmar Bergman

 イングマール・ベルイマン『野いちご』。これは秒針すらない(笑)。この町、どうなってんの?! 年を取ったらこういう町でのんびり暮らすのも悪くない。


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Metropolis (1927)
Directed by Fritz Lang

 そして、フリッツ・ラング『メトロポリス』。これは時計ではなく、労働者が操作する意味不明な機械である。ランプが点灯した場所に即座に針を合わせなければいけないのだが(モグラ叩きに似ている)、重い針を長時間動かし続けるのはかなりの重労働で、労働者は終いにランプの点灯についていけなくなる。時計をモチーフにした機械のデザインには、時間に縛られて生きている現代人への強烈な皮肉が感じられる。

 ここから更に、チャップリン『モダン・タイムス』、宮崎駿『カリオストロの城』、マーティン・スコセッシ『ヒューゴの不思議な発明』、ロバート・ゼメキス『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、ジャッキー・チェン『プロジェクトA』、ハロルド・ロイド『要心無用』、オーソン・ウェルズ『ストレンジャー』……という具合に私の連想ゲームは続いていくのだが、さすがに話が脱線しすぎるし、そんなことをだらだら書くのも、わざわざ読むのも時間の無駄に違いないので、やめておく(シャーデー・アデュの異常な時間感覚についても書こうかと思ったが、これもまた別の機会に)。

 “時は金なり”という。お金を大事にするのは良いが、あまり細かく気にしすぎるのはセコい。時間に関して、私たちはもう少し太っ腹になっても良いのではないか……などと、時間にルーズな自分に都合のいいオチで今回は結んでおくことにしたい。


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 ……しかし、ドラえもん、鬼だなあ(笑)。

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