2017 051234567891011121314151617181920212223242526272829302017 07

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Sabrina Starke──麗しのサブリナ



「自分の曲が誰かにカヴァーされるというのは常に名誉なことだ。サブリナ・スタークのような才能溢れる女性が自分の曲だけでわざわざアルバムを1枚作ってくれたとなれば、もう恐縮するしかない。彼女がじっくり曲に向き合ったのは明らかだ。ひとつひとつの歌に込められた思いもきちんと理解してくれている。今は亡きスキップ・スカボロウ──〈Let Me Be The One You Need〉の共作者──に、彼女のヴァージョンを聴かせてやりたいものだ。これはこのカヴァー集の中でも私のお気に入りのひとつだ。嬉しいだけでなく、私は感銘を覚える。これらの曲に素晴らしい歌声を与えてくれたサブリナに感謝したい。君は才能に恵まれている。君は世界への贈り物だ。取り組んでくれてありがとう。君は見事にやってくれた! やったぜ!」──ビル・ウィザーズ

It is always a compliment when someone covers one of your songs. When someone as talented as Sabrina Starke takes the time and the interest to do a whole album of your songs, it is a bit overwhelming. It is clear that she took the time to listen. It is also clear that she understands the sentiment and the intent of each song. I wish that Skip Scarborough, the co-writer of "Let Me Be The One You Need," was alive to hear her version of the song. It is one of my favorites from this collection. I am not only flattered. I am impressed. Thank you Sabrina for lending your wonderful voice to these songs. You are gifted and a gift to the world. Thanks for the attention. Love what you did and the way you did it! Yeah girl! - Bill Withers


A BEGINNER'S GUIDE TO BILL WITHERS

Sabrina2_20130722011901.jpg
LEAN ON ME: THE SONGS OF BILL WITHERS
CD: Star-K Records/8ball Music 7466614, 3 May 2013 (EU)

Kissing My Love / Just The Two Of Us / Friend Of Mine / I Don't Know / Who Is She And What Is She To You / Ain't No Sunshine / Use Me / Let Me Be The One You Need / Grandma's Hands / Hello Like Before / You Just Can't Smile It Away / Lean On Me

With Metropole Orkest conducted by Vince Mendoza
All songs produced by Vince Mendoza


 オランダのネオ・ソウル歌手、サブリナ・スタークの通算4枚目のアルバム('13年5月発売)は、ビル・ウィザーズのカヴァー集。本記事冒頭で紹介したのは、アルバムのブックレットに掲載されているビル・ウィザーズ本人(74歳)の寄稿文である。私のつまらない褒め言葉よりも何よりも、彼の熱い賛辞がこのアルバムの素晴らしさを端的に伝えるだろう。

 収録されているのは、ビル・ウィザーズの'71〜85年のキャリアの中からバランスよく選ばれた12曲。どれも不動のクラシックと言える名曲ばかりで、ソングライターとしてのビル・ウィザーズの素晴らしさを改めて実感させてくれる好企画盤である。

 シンガー・ソングライターであるサブリナ・スタークにとって、このアルバムは他人の楽曲のカヴァー集というだけでなく、外部ミュージシャンとのコラボ作という点でもイレギュラーなものだ。本作でバックを務めているのは、'45年に創立されたオランダ国営放送直属の老舗楽団、メトロポール・オーケストラ。ジャズ、ポップス、クラシックなど幅広い音楽に対応し、これまでテレビ/ラジオ、音楽祭などで活躍してきた総勢50人以上から成る大編成のオーケストラだ。国外のポピュラー・アーティストからの需要も高く、近年ではマイケル・キワヌーカ、トーリ・エイモス、アル・ジャロウ、ベースメント・ジャックス(!)、エルヴィス・コステロらとも共演を果たすなどして、その名が世界的に広く知られている(マデリン・ペルーも彼らと組んで'13年11月にアムステルダムでコンサートを行う予定)。メトロポール・オーケストラの柔軟性は、この共演アーティストの多彩さを見るだけでも分かるだろう。アルバムのプロデュースを務めたヴィンス・メンドーザは、過去にビョーク(『SELMASONGS』『VESPERTINE』)、ジョニ・ミッチェル(『BOTH SIDES NOW』『TRAVELOGUE』)などでオケ編曲を手掛け、複数のグラミー受賞歴も持つアメリカの作編曲家/指揮者。彼は'05年からメトロポールの主任指揮者を務めており、本作でもプロデュースの他に、オーケストラ指揮と編曲(4曲)を担当している。

 オーケストラとの共演盤と言うと、クラシカルで格調の高いサウンドを思い浮かべるかもしれないが、敷居は全く高くない。編曲は、ドラム、ベース、ギター、キーボードといった通常のポピュラー音楽のバンド編成を軸にしており、そこに大人数のストリングスやブラスが加わっている。要は、往年のジャズ歌手のレコードによくある“ウィズ・ストリングス”(ビッグ・バンド+ストリングス)の趣向で女性ソウル歌手がビル・ウィザーズ楽曲を歌った作品なのだが、かと言って、聴きやすいだけの甘ったるいイージーリスニングでもない。上品ながらもソウル色豊かなアレンジは、原曲の情感を忠実に表現する非常に洗練されたもの。現代的な新解釈を加えたカヴァー集ではなく、オリジナル版に丁寧に彩色を施したような自然なサウンドで名曲の数々が鮮やかに蘇っている。'70〜80年代にビル・ウィザーズ本人が試みていてもおかしくないような音だ。もしかすると、ウィザーズはこの作品を聴いて“俺もこういうアルバムを作ってもよかったな”と思ったかもしれない。

 ニーナ・シモン系の木訥としたブルージーな歌い口を持ち味とするサブリナのヴォーカルは、ビル・ウィザーズ作品とも相性が良い。大袈裟に歌い上げるようなこともなく、ひとつひとつ言葉を噛みしめるような謙虚で素直な歌唱は好感が持てる。個人的には、オリジナル版が高解像度で蘇ったような「Just The Two Of Us」、メロウさを加味してアスペクト比が横に広がったような「Ain't No Sunshine」あたりがお気に入りだが、はっきり言って、どれも良い。1曲1曲の出来がどうこう言うよりも、このカヴァー集はとにかくアルバムとしてのまとまりや構成が素晴らしい。全体を通してきちんと筋が一本通っていて、作り手のヴィジョンがはっきりと伝わってくるのだ。特に感動を覚えるのは「You Just Can't Smile It Away」〜「Lean On Me」という最後の2曲の流れ。素朴な言葉で愛の大切さを切々と訴えかける前者は、ビル・ウィザーズの現時点での最新作『WATCHING YOU WATCHING ME』(1985)に収録されている比較的地味な作品だが、紛れもない名曲である。これを不滅の友愛ソング「Lean On Me」の直前に持ってきた選曲眼は見事と言うしかない。ウィザーズ作品に対する確かな理解と、それに裏打ちされた丁寧な演出がこのアルバムに成功をもたらしていると思う。

 敢えてひとつ不満を言うなら、オケの存在感が普通よりもやや強調されている点だろうか。歌というよりは、むしろ編曲の華麗さで聴かせる作品になっていて、その点、素っ裸の歌(言葉)が生々しく迫ってくるウィザーズのオリジナルに比べると、さすがにちょっと物足りない感じはする。もう少しサブリナのヴォーカルを前面に出すミックスにしても良かったのではないだろうか。もっとも、これは企画の性格上、当然と言えば当然の結果であって、決してこのアルバムの欠点とは言えないかもしれない。間違いなく言えるのは、洗練された編曲・演奏と丁寧な女性ヴォーカルによって、ウィザーズ楽曲の普遍的な魅力をたっぷり味わえる素晴らしいアルバムだということ。良い意味でイージーリスニングなので、これからビル・ウィザーズを聴いてみようという音楽ファンにも入門編として広くお薦めできる。


Sabrina3_20130722011902.jpg

 既に持っている人も多いと思うが、ビル・ウィザーズの過去の全9枚のアルバムは、9枚組CDボックス・セット『THE COMPLETE SUSSEX AND COLUMBIA ALBUMS』として'12年10月にSony/Legacyから再発されている。これまで入手しづらかったいくつかのアルバムも、これで簡単に聴けるようになった。この夢のようなビル・ウィザーズ箱、購入した人はご存じの通り、内容もさることながら、価格が驚異的に素晴らしい。先生、この値段で本当にいいんですかっ?! と本人に問い合わせたくなるような投げ売りぶりである(価格は実際に自分の目で確認して欲しい)。さすが庶民派シンガー・ソングライター、ビル・ウィザーズ?

 貧乏人にも優しい究極の全集CDボックス、そして、サブリナ・スタークによる素晴らしいカヴァー集の発売。現在、ビル・ウィザーズの過去の名作を聴く状況は完璧に整っている。じゃあ、いつポチるか?……今でしょ!

※実はサブリナ・スタークの『LEAN ON ME』はCDで買おうとするとかなり高く付く。これは今買わなくてもいいかもしれない(下手するとウィザーズ箱より高い。私は先生の快適な印税生活と老後を支えるつもりで購入したが)。


A BEGINNER'S GUIDE TO SABRINA STARKE

Sabrina4_20130722011902.jpg
YELLOW BRICK ROAD
CD: Star-K-Records SKR 2008002, October 2008 (Netherlands)
CD (Reissue): Star-K-Records/Blue Note 50999 9670612 1, 2009 (EU)


 サブリナ・スタークは、ロッテルダム出身のスリナム系オランダ人シンガー・ソングライター。'79年8月9日生まれの獅子座。普段はオランダ語を喋っているが、歌唱はすべて英語である(オランダ人は普通に英語も喋れるのだ)。ビル・ウィザーズのカヴァー集以前に、彼女は3枚のアルバムを発表している。

 外見からも想像がつくと思うが、いわゆるオーガニック・ソウル系の歌手で、ざっくり言うと、インディア・アリーとアシャを混ぜてメイシー・グレイのエキスを注入したような音楽をやっている(エステルっぽいところもある)。彼女もまたニーナ・シモンから強い影響を受けている女性なので、歌い口はローラ・マヴーラにも通じるものがある。個人的には嫌いな理由がひとつも見当たらないアーティストである。

 '08年発表の1st『YELLOW BRICK ROAD』は、アコースティックな風合いを大切にしながら、ソウル、R&B、ジャズ、フォーク、カントリー、レゲエなど様々な要素を貪欲に吸収してポップに消化した大充実作。日溜まりのように温かなサブリナの歌と優雅なストリングスの調べが美しく交錯する愛の賛歌「Do For Love」(名作!)、フォーク・ロック調のソウルフルな女性賛歌「A Woman's Gonna Try」という本国オランダでヒットしたシングル曲も素晴らしいが、収録曲はバラエティに富んでいて、最初から最後まで飽きさせない。色々とスタイルを変えながらも全く軸がぶれず、アルバム全体に統一感があるのは、制作を担ったビート・ロイヤルティというチームの力に拠るところも大きいのだろうが、サブリナの揺るぎない歌唱を聴くと、やはり彼女自身が持つ音楽的素地の豊かさこそ最大の鍵であるように思われる。珍しくシンセ音を使った「It's Time」は、エステル「American Boy」を彷彿させる割と現代的なR&B調の曲だが、これも自分の流儀で全く違和感なく聴かせる。アルバムを締め括るのは、『オズの魔法使』を引用した表題曲「Yellow Brick Road」。“黄色いレンガを頼りに遥か遠くまでやって来た/思えばここまで長かった/迷子のようにこの道を歩いてきた私/独りぼっちだったけど、今、私はようやく家を見つけた”──その堂々とした歌いっぷりを聴くと、これが本当に新人歌手のアルバムなのかと思う。29歳という年齢は伊達ではない。デビューしたてにして、いきなりRCA時代のニーナ・シモンみたいな熟成と貫禄。'08年10月にStar-K-Recordsなるインディ・レーベルから発表されたこの傑作1stは、翌年にジャケを替えてBlue Note(EMI)から再発された。大推薦盤!


Sabrina5.jpg
BAGS & SUITCASES
CD: Star-K-Records/Blue Note 50999 9091722 6, October 2010 (EU)
CD+DVD: Star-K-Records/Blue Note 50999 9460682 9, October 2010 (EU)


 “旅は続く”といった感じのタイトルの2nd。ビート・ロイヤルティに代わり、前作で2曲を手掛けていた鍵盤のピート・ウォレスが全曲をプロデュース。生音志向は同様だが、ライヴ感を強調したバンド・サウンドへと大きく変化し、前作ではさほど感じられなかったロック色が前面に出た。同時に、サブリナのヴォーカルは一気にグレイ度アップ。グレイドでなく、メイシー・グレイ度アップである。しかし、アコギのストロークを軸にしたロッカ・バラード調の似たような曲が多く、はっきり言って、さっぱり面白くない。私の聴き込みが足りないだけかもしれないが、1stの幅広い音楽性と色彩豊かなサウンドに比べると、どうしても聴き劣りがする。サブリナのヴォーカル自体は熱いのだが……楽曲やサウンドがあまりにも普通だ。金太郎飴的な凡庸なロッカ・バラード群の中で、ソウル色が濃厚な「Can't Keep Running Away」が目を引く。引き続きBlue Noteから配給された本作は、スタジオ・ライヴ映像5曲(ニーナ・シモン「I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free」を演っている!)を収録したDVD付き限定版もあり。この2ndは余程のファンでない限りスルーで良いだろう。


Sabrina6.jpg
OUTSIDE THE BOXCD: Star-K Records/8ball Music 7466413, June 2012 (EU)

 8ball Musicというオランダのレーベルと新たに配給契約を結んで発表された3rd。グレイス・ジョーンズ風情のジャケからして“今度のサブリナは一味違う!”と思わせる。プロデュースは前作と同じピート・ウォレスと、1stから参加しているベース奏者のロバート・プロンク、そしてサブリナの3人が共同で担当。引き続きロック色が濃厚だが、あっさり作りすぎた前作への反省だろう、編曲のバリエーションを増やし、しっかり作りこまれたポップなサウンド・プロダクションで再び勝負に出た。シングルに切られたレゲエ〜スカ・ロック「Backseat Driver」の吹っ切れ方はなかなか痛快。しかし、「All In Line」「This Time Around」「Say Whatcha Wanna」の'60年代ロッキン・ソウル路線はさすがに想定内すぎた(「Say Whatcha Wanna」はケリー・ジョイス〜ジャネル・モネイみたいな曲)。エレクトロニックな「Sun Settle Down」、ピアノ伴奏で歌うシンプルなバラード「Simplest Way」、ローラ・マヴーラがロック・バンドと組んだような「Goldest Gold」等々、バラエティに富んだ内容で前作より楽しめることは確かだが、決定打と言える曲はない。最大のハイライトは、最後に収められているニーナ・シモンのカヴァー「Don't Let Me Be Misunderstood」か。その濃密な歌唱を聴く限り、サブリナはまだまだ全然イケるという気がする。恐らく色々な可能性を模索しているところなのだろう。ひとつ気になるのは、ロックに接近するあまり、メイシー・グレイと個性が被りまくってしまっている点(笑)。『OUTSIDE THE BOX』には、「I Cry」という「I Try」のパロディみたいな曲まで入っていたりする。このアルバムはメイシーの近年の作品(『BIG』『THE SELLOUT』)にとても雰囲気が似ている。オーガニック・ソウルで始まり、気が付いたら“オランダのメイシー・グレイ”状態になっていたサブリナ嬢なのだった。

 で、この3rdから約1年後に届けられたのが、先述のビル・ウィザーズのカヴァー集『LEAN ON ME』である。1stを超えるアルバムをなかなか生み出せずにいるサブリナだが、『LEAN ON ME』の快音からは、今後さらに良い当たりが出そうな気配も感じられる。カヴァー集というのは、音楽アーティスト──特にシンガー・ソングライターにとっては、次の打席で良い結果を出すためのフリー・バッティングみたいなものだと思う。昨年、メイシー・グレイも似たようなカヴァー集『TALKING BOOK』(2012/スティーヴィー・ワンダーのアルバム全曲カヴァー)を出した。サブリナとメイシーは、今ちょうど同じような状況にある。さて、先に抜けるのは一体どちらか?




 ニーナ・シモンやメイシー・グレイに似たサブリナの歌声だが、思い切り声を張ると、なぜかシンディ・ローパーのように刺さってくる瞬間があったりもする。そんな彼女がシンディの「True Colors」をアコギの弾き語りで歌う動画。共演してみたいアーティストは“トレイシー・チャップマンかジョン・レジェンドかザ・ルーツ”だそうです。いいね!


Macy Gray @ Billboard Live TOKYO 2011
Estelle @ Billboard Live TOKYO 2012
Macy Gray @ Billboard Live TOKYO 2012
Laura Mvula @ Billboard Live TOKYO 2013

| Diva Legends | 02:30 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT