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The Weeknd──未来世紀トーキョー


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Blade Runner (1982)
Directed by Ridley Scott
Belong To The World (2013)
Directed by Anthony Mandler


 カナダはトロント出身のつぶやき系(?)R&B歌手、エイベル・テスフェイのソロ・プロジェクト、ザ・ウィークエンド。彼の新曲「Belong To The World」の音楽ヴィデオ('13年7月16日公開)は、東京を舞台にした近未来SFモノ。あれあれ、なんか見たことあるような場面がいくつも出てくるぞ……。


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Metropolis (1927)
Directed by Fritz Lang
Belong To The World (2013)
Directed by Anthony Mandler


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Nineteen Eighty-Four (1984)
Directed by Michael Radford
Belong To The World (2013)
Directed by Anthony Mandler


 というわけで、「Belong To The World」は、『ブレードランナー』と『メトロポリス』と『1984』の特盛りチャンポンである。2つで十分ですよ!

 『ブレードランナー』のチャイナタウンのように煌々とネオンが輝く夜のトーキョー・シティ。高層ビル壁面の巨大スクリーンには、“強力わかもと”のCMガールを思わせる日本人女性の顔が映し出されている。この日本人女性の顔は、『1984』の“偉大な兄弟(ビッグ・ブラザー)”のテレスクリーン肖像のように、街中のあちこちで見受けられる。『メトロポリス』の地下労働者、あるいは、『1984』のオセアニア党員のようなユニフォーム姿のトーキョー人集団がどこからともなく現れ、同じ格好をした主人公エイベルを巻き込みつつ、『メトロポリス』の労働者の群のように、ぞろぞろと階段を昇って巨大な建物の中へ流れ込んでいく。タイレル社風(?)の巨大な建物は集会場であり、そこではテレスクリーンに映っていた日本人女性が白塗りの日本人男性たちと暗黒舞踏を踊っている。集まった未来世紀トーキョーの人々は、“二分間憎悪”に参加するオセアニア党員、あるいは、アンドロイド=マリアの官能的肉体を見つめる吉原クラブの男たちのように、彼女の舞いを見つめるのだった。

 書き割りは『ブレードランナー』風。東京を舞台にしたのは、簡単に『ブレードランナー』風の映像を撮ることができるからかもしれない。トーキョー人たちがぞろぞろと入っていく巨大な建物は、港区にある霊友会釈迦殿。同じく東京を舞台にしたウィル・アイ・アムのヴィデオ「#thatPOWER」('13年4月公開)もここで撮影が行われていた。主人公エイベルは『1984』のウィンストン・スミス風で、彼を幻惑する日本人ヒロインは、『1984』の偉大な兄弟と『メトロポリス』のアンドロイド=マリアを混ぜ合わせたような感じである。影響の強さで言うと、『1984』≧『メトロポリス』>『ブレードランナー』という順になるか(各映画についての概説は面倒くさいので省く。どれも定番中の定番ということでご容赦を……)

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こういう女には気をつけろ──(左上から)L・ブルックス、C・ムーア、A・カリーナ、J・ビノシュ、U・サーマン、N・ポートマン

 日本人ヒロインのボブ・カット(おかっぱ)の髪型は、'20年代にルイーズ・ブルックス、コリーン・ムーア、クララ・ボウといったフラッパー女優が流行らせ、その後、アンナ・カリーナ(『女と男のいる舗道』)、ジュリエット・ビノシュ(『汚れた血』)、ユマ・サーマン(『パルプ・フィクション』)、ナタリー・ポートマン(『レオン』)、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(『シカゴ』)らによって引き継がれていった、映画史においてはファム・ファタール(魔性の女)を示す典型的な髪型のひとつである。彼女たちは大抵、煙草を吸い、何を考えているのか分からない振る舞いで男どもを誘惑・翻弄し、手玉に取る。彼女たちは男を破滅に導く娼婦である。映画を見ていてこの髪型の女性が出てきたら、まず“ヤバい女”だと思って間違いない(アロー・ブラックのヴィデオ「Femme Fatale」には、ずばりこの髪型の女性が登場する)

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「Belong To The World」──未来世紀トーキョーの女神

 「Belong To The World」のヒロインもこの例に漏れないだろう。ヴィデオ内で明示されているわけではないが、『メトロポリス』『1984』『ブレードランナー』という出典から考えると、未来世紀トーキョーの人々を幻惑する女神は、人為的に作り上げられた架空の人物、つまり、アンドロイドのような気がする。だとすれば、そのパフォーマンスを見つめる孤独な群衆は、例えば、初音ミクのコンサートに集まるそれに似ていると言えるかもしれない。

  I'm not a fool
  I just love that you're dead inside
  I'm not a fool
  I'm just lifeless too
  
  I should leave you
  And learn to mistreat you
  Because you belong to the world
  And ooh girl, I wanna embrace you
  Domesticate you
  But you belong to the world

  僕はバカじゃない
  命がない君が好きなんだ
  僕はバカじゃない
  僕だって死んでいるもの
  
  君を忘れるべきなんだろう
  適当に使い捨てるべきなんだろう
  なぜなら 君はみんなのものだから
  ああ 君を抱きしめたい
  自分だけのものにしたい
  でも 君はみんなのものなんだ

 エイベルはこんなことを歌っている。“君は世界のものだ(you belong to the world)”というのは、つまり、皆のものだということである。“君”を愛しているのはエイベルだけではない。他の不特定多数の男子にとっても同じように“君”は愛しい存在なのだ(ヴィデオ内で集会場に集まるトーキョー人たちは全員男子である)。そして、“君”には実は命がない(dead inside)。どう考えてもアンドロイドか初音ミクである。もっと単純に“アイドル”と言い換えてもいいだろう。“君”は山口百恵でもAKBの誰かであっても構わないわけだが、幻影であることを十分理解しているにもかかわらず──あるいは、そうであるからこそ──愛してしまうという心理が今っぽいなという気がする。エイベルには女神を愛してはいけないことが分かっているが、それでも誘惑に抗うことができない。彼はこう言うだろう──君は死んでいる。僕も死んでいる。僕らはみんな死んでいる。すなわち、“僕たちは生ける屍だ(We are the dead)”(オーウェル『1984年』/新庄哲夫訳)。「Belong To The World」は、もはやヴァーチャルな女しか愛せなくなった現代男子の実に悲しいラヴ・ソングである。エイベル、おまえは暗いぞ!

 やけに昭和な感じの日本間に登場する爺さん──ヴィデオ冒頭で小倉百人一首を詠む狂言回し的キャラ──には、笠智衆のイメージが投影されているような気がする(『夢の涯てまでも』? そう言えば、あの映画でソルヴェイグ・ドマルタンはボブのウィグをつけていた)。あと、ボブ・カットの日本人ヒロインを見て、「Desire」を歌う中森明菜を思い出したりもしたが……エイベルや監督のアンソニー・マンドラー(リアーナ、ドレイク、ラナ・デル・レイらを手掛けるヴィデオ監督)が中森明菜のファンだとはさすがに思えない。とはいえ、“愛の見えない時代”の不毛な恋愛を歌う「Desire -情熱-」(1986/作詞:阿木燿子)の歌とヴィジュアル表現は、ある程度、「Belong To The World」の気分とも通じるものである。


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Nine Inch Nails - We're In This Together (1999)
Directed by Mark Pellington

 「Belong To The World」には、実は『メトロポリス』『1984』『ブレードランナー』の他に、もうひとつ明らかな元ネタがある。未来世紀トーキョーの男たちが街中をぞろぞろと走る場面は、ナイン・インチ・ネイルズの音楽ヴィデオ「We're In This Together」からの頂きである。「Belong To The World」には、はっきり特定できるだけでも、4つもの過去の映像作品ネタが盛られているのである(2つで十分ですよ!)。

 「We're In This Together」は、同じユニフォームを着たトレント・レズナーら大勢の人々が人気のない街中を走り、(恐らくは自由を求めて)平原へと辿り着くが、最後にはレズナーを残して全員が忽然と姿を消してしまうという不気味な作品(ヴィデオ冒頭でレズナーがいる場所は、恐らく『1984』の101号室、あるいは『未来世紀ブラジル』の拷問室に当たる部屋で、以後の場面はすべてレズナーの幻想であるように思われる)。その音楽性も含め、ザ・ウィークエンド作品への影響は大きいと思われるが、この「We're In This Together」という映像作品自体、『メトロポリス』『1984』からの影響を強く感じさせるものである。こうして引用/オマージュは繰り返されるわけだが、それもこれらの映画/文学作品が持つ先見性・耐久性の高さゆえのことだろう。

 『メトロポリス』ネタの音楽ヴィデオとしては、デヴィッド・フィンチャーが監督したマドンナ「Express Yourself」(1989)が代表的である(マドンナが片眼鏡をつけてフリッツ・ラングに敬意を表している点にも注目)。『1984』の“二分間憎悪”場面は、以前紹介したベルギーのラッパー/歌手、ストロマエの音楽ヴィデオ「House'llelujah」(2010)でも引用されている。リドリー・スコットが監督したアップル社Macintoshの伝説のテレビCF「1984」('84年1月22日のスーパーボウル中継時に放映)については言及するまでもないだろう。『ブレードランナー』に関しては、Tru Thoughts所属のRiz MCというパキスタン系イギリス人ラッパー/俳優が、音楽ヴィデオ「Dark Hearts」(2012)でなかなか手の込んだパロディをやっているので、暇な『ブレードランナー』ファンには一見をお勧めしておく(大して面白くないが)。




 音楽面に目を向けると、「Belong To The World」という曲は、ポーティスヘッド「Machine Gun」のビートをサンプリングしている(2つで十分ですよ!……って、何度書かせるんだ!)。「Machine Gun」は彼らの3rdアルバム『THIRD』(2008)から先行シングルとして発表された曲で、クラウト・ロックに傾斜した同作の中でも、とりわけエッジーで(その曲名通り)殺傷力の強い曲だった。ザ・ウィークエンドがポーティスヘッドをネタにしたと聞いて最初は意外に思ったが、「Machine Gun」の殺伐としたサウンドスケープは、よく考えてみるとザ・ウィークエンド作品とも通じるものがある。

※「Machine Gun」の歌メロとサウンドの雰囲気は、実はデュラン・デュラン「Wild Boys」(1984)に似ていたりする。上の動画は、'08年春の「Machine Gun」発表当時、どこかの暇なポーティスヘッド・ファンが、実際にその「Wild Boys」をサンプリングして作ったリミックス(マッシュアップ)版「Machine Gun」の音楽ヴィデオ。恐らく映画ファンの手によるものだろう、ヴィデオは'30年代の複数のギャング映画の銃撃場面を編集して作られている。使われている映画は、公開順に『犯罪王リコ(Little Caesar )』(1931)、『民衆の敵(The Public Enemy)』(1931)、『暗黒街の顔役(Scarface)』(1932)、『汚れた顔の天使(Angel with Dirty Faces)』(1938)。容赦なく撃ちまくる暗黒街のワイルド・ボーイたち。ジェイムズ・キャグニーがカッコいい! ハンフリー・ボガートの無様さがたまらない! マシンガンの発射音を思わせるスネアの連打と銃撃映像が同期するように編集されており、見ていて実に気持ちが良い。このミックスはかつてのヒップホップ色が強かった頃のポーティスヘッドの匂いがして、個人的にはオリジナル版よりも好きである。動画はもともと'08年4月17日にYouTubeに投稿され、一部のポーティスヘッド・ファンの間で好評を博したが、投稿者のチャンネル自体が削除されたため、後に再アップされている。

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新譜『KISS LAND』(緑ネオンの表題ロゴが微妙に『ホーリー・モーターズ』風?)

 エイベルによると、ザ・ウィークエンドの新譜『KISS LAND』はポーティスヘッドから大きな影響を受けているらしい。インスピレーションとして彼は他に、スティーヴィー・ニックス(?)、ジェネシス(??)、フィル・コリンズ(???)の名前も挙げている。意味わかんねー。先日の記事“プリンスを1位にしろ!”でも触れたが、ジェネシスはかつて「Tonight, Tonight, Tonight」(1986)の音楽ヴィデオで『ブレードランナー』をネタにしている(映画に使われたブラッドベリー・ビルで撮影)。ああいうポップな'80年代風プログレ・サウンドなのだろうか? しかし、スティーヴィー・ニックスってのは一体……(リンジー・バッキンガムじゃなくて?)。エイベル曰く、サウンド・プロダクションは“とても映画的。かつてなかったほど映画的なR&B”だそうだ。

 また、彼はこんなことも言っている。

「アルバムの大部分は、ジョン・カーペンター、デヴィッド・クローネンバーグ、リドリー・スコットといった映画作家たちに触発されている。彼らは恐怖というものの捉え方を知っている。『KISS LAND』は僕にとってそういう作品だ。自分を取り巻く純粋な恐怖だよ。今の僕には自分が何者か分かっていない。未知の状況下で風変わりなことをやっているんだ。僕にとってこんな恐ろしいことはないよ。レコードから叫び声やぞっとするような音が聞こえたら、音楽に耳を傾けて僕の感じていることを感じて欲しい。『KISS LAND』はホラー映画みたいな作品なんだ」(August/September 2013, Complex)

 ザ・ウィークエンドは、ここ1〜2年で頻繁に名前を目にするようになったニューカマーである('90年生まれ。エチオピア系カナダ人)。'10年末にYouTubeに投稿された曲がネット上で話題を呼び、その後、'11年を通して発表された3つのミックステープで一気に新世代を代表するアーティストの一人になった。殺伐サウンドでソウルフルに歌う“R&B版トレント・レズナー”とでも言うべき個性の新鮮さが受けているようだが、個人的にはマイケル・ジャクソンのカヴァー「D.D.」に“おや”と思った程度で、今までちっともファンではなかった。3枚組としてまとめられたデビュー盤『TRILOGY』も一応持ってはいるのだが、いまだに全部聴いていなかったりする(だって、どれも同じような曲に聞こえるんだもん!)。なよっとしたエモい歌声もあまり好みではない。が、今回、彼が映画好きだということを知って、ちょっと興味が湧いた。暗いことは暗いが、話してみると案外いい奴だったりするのかもしれない。

 新譜『KISS LAND』は'13年9月10日(火)発売予定。なんとなんと、シネマティックR&Bの旗手、ジャネル・モネイの新譜『THE ELECTRIC LADY(電気じかけの女)』と全く同じ日に投下である。世界は一体どうなってしまうんだ。近未来はすぐそこまで迫っている!



Janelle Monae お前は誰だ?

| Man's Man's Man's World | 03:30 | TOP↑

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