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Janelle Monae──メトロポリス組曲 第4&5楽章 概説

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 ジャネル・モネイの新譜『THE ELECTRIC LADY』('13年9月10日発売/日本盤9月18日発売)のブックレットに掲載されているテキストの全訳をお届けする。

 ジャネルの作品は、人間に恋をしたアンドロイド少女=シンディ・メイウェザーの逃避行と戦いを描いた組曲形式の連作になっている。第1楽章『METROPOLIS SUITE I OF IV: THE CHASE』(2007)、第2〜3楽章『THE ARCHANDROID』(2010)のブックレットには、一連の物語の概説となる解説文が添付されていた。これは、第4〜5楽章となる最新作『THE ELECTRIC LADY』においても同様である。これらの概説テキストは、彼女の音楽/映像作品を理解する上で重要な手引きとなるものであり、これを読まなければ文字通りお話にならない。

 『THE ELECTRIC LADY』の概説は、前作同様、パレス・オブ・ザ・ドッグズ(犬の館)という精神病院風の特別施設──ヴィデオ「Tightrope」の舞台にもなっていた──の副院長による手記という形をとっている。ジャネル・モネイという人間のDNAから造られたアンドロイド=シンディ・メイウェザーが28世紀で奮闘する一方、モネイ嬢はタイム・トンネルで28世紀から21世紀の現代へ強制的に飛ばされ、犬の館に患者として収容……というのが前回までの流れだ。『THE ELECTRIC LADY』の物語について、ジャネルはインタヴューで以下のような説明もしている。

「これはシンディ・メイウェザーが大アンドロイド(アークアンドロイド)になる前の物語。彼女が社会からどう思われたか、彼女は何を思ったのか、彼女はなぜ災難に見舞われたのか、組織はなぜ彼女を隠蔽したがったのかについて語られてる」(13 September 2013, The Charlotte Observer)

 尚、これまで4楽章で完結すると予告されていたジャネルのメトロポリス組曲(デビューEPのタイトル、および、ジャケット右下の記号を参照)は、最新作『THE ELECTRIC LADY』へ来て、7楽章完結に変更となった。これは、時空を超えたシンディ・メイウェザーの戦い──それは私たちをも巻き込み始めている──によって、未来が常に変化していることを示しているだろう。

 ようやく国内盤の発売が実現し、正式に日本に紹介され始めたジャネ〜ル・モネイ。あとは初来日公演の決定を待つのみである。祈るしかない……。


METROPOLIS SUITES IV and V: THE ELECTRIC LADY
メトロポリス組曲 第4&5楽章〜電気じかけの女

(2013年作品/ブックレット解説文 日本語訳 by Abeja Mariposa)

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親愛なるリスナーへ

 『The ArchAndroid』と同様、ここに所収の楽曲、テキスト、イメージ群は、パレス・オブ・ザ・ドッグズ(犬の館)の患者、番号57821であるジャネル・モネイの作品、ヴィジョン、空想である。熟考の末、創造的情報公開法に則り、私はこの作品──彼女のメトロポリス物語の第4章と第5章──を公表することに決めた。

 加えて、残念ながらジャネル・モネイは、ここパレス・オブ・ザ・ドッグズには既にいないということをお知らせしなければならない(この秘密施設、及び、モネイ嬢の数々の不思議な預言についての詳細は、彼女のデビュー・アルバム『The ArchAndroid』ライナーノーツに掲載されている私の声明文を参照されたい)。今から3ヶ月前、モネイ嬢は忽然と姿を消した。施設警備の話によると、彼女はドアを開けることもなく、窓を軋ませることもなく部屋から消えたという。謎はそれだけではない。彼女が去った翌日、『The Electric Lady』の音源が、綺麗に包装された小包で届けられたのである。

 2ヶ月後、彼女は伝書鷹(細かいことは訊かないでくれ)を通じて私にメッセージを寄こした。その音源は、彼女がアンドロイド・ヒーロー、シンディ・メイウェザーから授かった秘密の楽曲群であり、私にそれらをDMHで(できるだけメチャメチャはやく)発表して欲しいとのことだった。メッセージには“MADTTAOREH”なる短い暗号がひとつ添えられていた。

 それが何を意味するのかは見当もつかない。私に言えるのは、アメリカ、及び、世界は、この音楽を聴いて然るべきだということである。また、ジャネル・モネイは全くもって正常であり、限りなく真実に近い話を語っているのではないかと私は考える──あるいは、そう強く信じる次第である。ゆえに、考慮に考慮を重ねた上、2週間前に私のコンピュータ画面上に現れた以下の怪文書には取り合わないことにした。

我々スター委員会の下記署名者たちは、捜査中の『The Electric Lady』音源に、非良性メッセージ、革命的対抗ヴードゥー、有害なワンダーヴァイヴが含まれていることを確認した。因って、この録音物は、現時点において正規の一般流通・消費には相応しくない。上記の音源を聴いてノっているドロイドは、発見され次第、909法に則り、即時解体処分となる。また、これらの非良性メッセージを配布、所有、購入する罪を犯した人間の善良市民は、男女を問わず、いかなる者も拘束され、ダーク・パーク・ジザー・キングのハレムへ強制収容される。

 この文書を読んだ時の私の驚きはお察し頂けることと思う。
 
 その翌日、夢の使者(細かいことは訊かないでくれ)を通じて、モネイ嬢は私に“恐れないように”と告げてきた。曰く、この音源は、シンディがアンソニー・グリーンダウンとの危険な恋愛について自らの心情をありのままに告白したものであるだけでなく、その周波数内にある種の秘儀的な戦闘計画が含まれているため、グレイト・ディヴァイドにとっては脅威となるというのである。

 もしそれが本当なら、これらの歌を聴き、愛し、共有する私たちは一人残らず、既に戦いの中に身を置いているのかもしれない。自由を賭けた未来世紀の戦いの真っ只中に。

 祈るしかない……。
 
 敬具
 
 2013年9月29日
 パレス・オブ・ザ・ドッグズ芸術院 副院長
 マックス・ステリングス


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SUITE IV
01: Suite IV Electric Overture
02: Givin Em What They Love Feat. Prince
03: Q.U.E.E.N. Feat. Erykah Badu
04: Electric Lady Feat. Solange
05: Good Morning Midnight (interlude)
06: Primetime Feat. Miguel
07: We Were Rock & Roll
08: The Chrome Shoppe (interlude)
09: Dance Apocalyptic
10: Look Into My Eyes
SUITE V
11: Suite V Electric Overture
12: It's Code
13: Ghetto Woman
14: Our Favorite Fugitive (interlude)
15: Victory
16: Can't Live Without Your Love
17: Sally Ride
18: Dorothy Dandridge Eyes Feat. Esperanza Spalding
19: What An Experience

EXECUTIVE PRODUCERS: JANELLE MONAE, NATE WONDER, CHUCK LIGHTNING, SEAN "DIDDY" COMBS
CO-EXECUTIVE PRODUCER: ANTWAN "BIG BOI" PATTON
ASSOCIATE ALBUM PRODUCERS: MITCH "MITCHOWSKI" MARTIN AND ROMAN GIANARTHUR
A&R DIRECTION: MITCH "MITCHOWSKI" MARTIN


DOWNLOAD: Janelle Monae "The Electric Lady" iTune lyrics (pdf)
DOWNLOAD: Janelle Monae "The Electric Lady" iTune booklet (pdf)



【備考】

Electric_Ladyland.jpg

■『THE ELECTRIC LADY』のジャケットは、アルバムに先行して公開されたヴィデオ「Q.U.E.E.N.」同様、ウィリアム・クライン監督『ポリー・マグーお前は誰だ(Qui etes-vous, Polly Maggoo?)』(1966)へのオマージュだが、同時に、タイトルの類似からも窺い知れる通り、ジミ・ヘンドリクス『ELECTRIC LADYLAND』(1968)のヌード版ジャケット(上/見開きで19人の裸婦たちがずらりと床に並ぶ)を意識したものでもあるだろう。『THE ELECTRIC LADY』には、ジミヘン「Little Wing」(1967)に酷似した「Victory」という曲も収録されている。


Clockwork_Orange.jpg

■“電気じかけの女”という表題の和訳は、「Dance Apocalyptic」ヴィデオにおけるジャネル一味の白装束(サスペンダー&黒ブーツ)がスタンリー・キューブリック監督『時計じかけのオレンジ(A Clockwork Orange)』(1971)の不良たち(上)に触発されたものであること、また、「Q.U.E.E.N.」ヴィデオに同じくキューブリック監督『シャイニング(The Shining)』(1980)へのオマージュが含まれていたことを踏まえたものである。『時計じかけ〜』のコスチュームは、かつてジギー・スターダスト時代(1972)のデヴィッド・ボウイにも影響を与えた。英ロック・バンドのブラーも音楽ヴィデオ「The Universal」(1995)で同映画のパロディをやったことがある。『時計じかけ〜』は、尖った若者の永遠のバイブルなのである。

■プリンス、Pファンク、スライ、ジミヘン、スティーヴィー、モリコーネ、ジョン・バリー、ミシェル・ルグラン等々、タランティーノ映画並みに様々なネタが飛び出す『THE ELECTRIC LADY』だが(この手の作品は元ネタ探しも楽しい)、「We Were Rock & Roll」がユーリズミックス「The King And Queen Of America」(1989)、および、メイシー・グレイ「Help It」(2010)に似ていることに気付いた人はいるだろうか(ついでに、“I remember... We were like a king and queen"という歌詞が、微妙にD・ボウイの「Heroes」っぽいという点も指摘しておく)。「Q.U.E.E.N.」の歌メロがメイシーの「When I See You」(2003)に似ていたのは、多分、偶然ではない。ジャネルの音楽性はメイシー・グレイ(ベティ・デイヴィス〜プリンス直系のファンキー・ロッキン・ソウル)と何かと共通点が多い。過去にサントラ盤『IDLEWILD』(2006)、『FOR COLORED GIRLS』(2010)に揃って参加もしていた2人は、実際に面識もある──“メイシー・グレイに会って遊んだ。大好き(Met & hung w/ Macy Gray. Love her.)”('10年10月31日のジャネルのツイート)。みんなアンドロイドになってジャネルのアルバムに参加したらどうだろう。

■単純な疑問。今回のマックス・ステリングス文書の日付は、なぜ“2013年9月29日”なのか? 『THE ELECTRIC LADY』という作品集が彼の手によって発表に至ったのであれば、その日付は、アルバム発売日である2013年9月10日よりも前でなければいけない。『THE ARCHANDROID』掲載のステリングス文書の日付は“2010年4月6日”で、同アルバムの発売日(2010年5月18日)よりも前だった。これなら辻褄が合う。単純なミスなのか、何か特別な理由があるのか。あるいは、もしかすると、グレイト・ディヴァイドの暗躍によって時間軸にゆがみが生じているということなのか……。

■どうでもいい話だが、これまで“ジャネル・モネイ”で定着していた片仮名表記を、日本のレコード会社はなぜ今更“ジャネール・モネイ”にしてしまったのだろう。語感が“バザールでござーる”みたいで何だか間抜けである。“ジャネル”という表記が何となくしっくりくるのは、恐らく、それがシャネル Chanel というファッション・ブランドの名称と似ているためである。 Chanelも、Janelleという名前と同じく、実際には“シャネール”と発音する(後半の“nel”にアクセントがある)。Janelleを“ジャネール”とするのは、シャネル株式会社、および、シャネルという表記でこのブランドに長年親しんできた日本人に対する挑戦行為ではないだろうか(んなわけない)。Janelleが“ジャネール”なら、ミゲルは“ミゲール”、アデルは“アデール”、アレサ・フランクリンは“アリーサ・フランクリン”と書かねばならない。カニエ・ウェストは“カーニエ・ウェスト”になってしまう。『ジ・エレクトリック・レディ』は『ジ・イレクトリック・レイディ』、『時計じかけのオレンジ』は『時計じかけのオーレンジ』となるだろう。なんでもかんでも原音に片仮名表記を近づけようとする洋楽業界の風潮はちょっと過剰だと思う。Janelleの片仮名表記は、シャネルの法則に従い、簡潔に“ジャネル”で良いのではないか。外国の人名や単語を片仮名で書く場合、一番大事なのは、どれだけ原音に近いかではなく、汎用性・通用性である。今後、“ジャネール”という表記が一般的になればそれに従いたいが、Janelle Monaeに関しては、当ブログでは当面、これまで通り“ジャネル”と書くことにする(なんか、その方が可愛い感じがするし)。


追記('13年9月19日):
 『THE ELECTRIC LADY』日本盤(9月18日発売)を入手した。驚いたことに、マックス・ステリングス文書の対訳はなかった。信じられない。拙訳の公開は100%無駄ではなかったということになるが、ちょっと複雑な気分ではある(これに伴い、日本盤入手前に書いた本記事のリード文の一部を削除した)。
 日本盤には、折り畳み式のオリジナル・ブックレットとは別に、解説・歌詞対訳を掲載した1色刷りブックレット(全44頁)が付いている。解説:高橋芳朗(取材協力:Miho Suzuki/Chiaki Nanako)、歌詞対訳:Yumi C. Parks(Trk. 1〜4、6、7、9、20、21)/Kana Muramatsu(Trk. 10〜13、15〜19)/Minako Ikeshiro(Trk. 5、8、14)。歌詞対訳は3人掛かり。1〜9曲目(+リミックスのボートラ20〜21曲目)と10〜19曲目を2人で分担し、もう1人がインタールード3つを担当(ラジオ放送を模したインタールードは、聴き取りによる英語原文も掲載)。全8頁にわたる高橋芳朗氏の解説は、独自取材によるジャネル本人の発言をふんだんに盛り込みながら彼女のキャリアを概観する、非常に丁寧で充実したものである(取材自体は高橋氏ではなく、取材協力としてクレジットされている2氏によって行われたようだ)。全体の半分以上を占めるジャネルの発言は読み応え十分。盤の内容的にはボートラ4曲を収録した2枚組Target限定盤が最強だが(eBayで簡単に入手できる)、それ以外なら、日本のファンは解説・歌詞対訳付きの国内盤が絶対に買いである。




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