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Lianne La Havas @ Billboard Live TOKYO 2013



 リアン・ラ・ハヴァスのコンサートを観た♡

 ギリシャ人の父親とジャマイカ人の母親を持つ英国ロンドン出身の24歳('89年8月23日生まれ)。BBCの“Sound of 2012”(その年の新人注目株ランキング)に選出され、'12年7月発表の1stアルバム『IS YOUR LOVE BIG ENOUGH?』が全英4位のヒットを記録するなど、昨年かなり話題になった新人女性シンガー・ソングライターである。

 3ヶ月前にローラ・マヴーラの来日公演があったばかりだが、言ってみれば、音楽シーンにおいて今年ローラがいる位置に昨年いたのがリアンだった(ずっと記事を書きそびれていて、取り上げる順序が逆になってしまったが)。影響を受けたアーティストとして、ローリン・ヒル、ジル・スコット、エリカ・バドゥ、インディア・アリーなどを挙げるリアン・ラ・ハヴァスは、一応、ネオ・ソウルの流れを汲むアーティストではあるが、彼女がやっているのは、ヒップホップに根差した'70年代ニュー・ソウルの再解釈や更新ではないし、アコースティックな風合いを大切にしたオーガニック・ソウル系の音ともまた違う。自身の弾くエレキ・ギターを軸にした親密な歌、簡素で生々しいサウンド・プロダクションは、ごく自然にインディ・フォーク/ロックの世界と共鳴し、しばしば挿入される密室的で浮遊感のある一人多重録音コーラスは、ローラ・マヴーラとも共通する不思議なポップ感覚を漂わせる(パロマ・フェイスのバック・ヴォーカリストだったという出自も面白い)。ソウルフルでありながら、従来のソウル・ミュージックの枠組みを逸脱した彼女の音楽は、ローラ・マヴーラのそれと同じく、もはや“ポスト・ネオ・ソウル”としか呼びようがない類のものだ。プリンスとスティーヴィー・ワンダーが惚れ込んだというのも大いに頷ける、新鮮で確かな音楽的才能の持ち主である。

 ここ数年の新人の中でも出色と言える彼女が、ローラ・マヴーラに続いてビルボードライブ東京にやって来るというのは、本当に願ってもないことである。歌も素晴らしいリアンだが、写真を見れば分かる通り、彼女はルックスも可愛い。これは何としても生で観たい。今回、間近で彼女を目撃し(おまけに、終演後に握手もしちゃったりなんかして)、私は一層、彼女のファンになってしまったのだった。


 '13年9月後半、ビルボードライブ大阪/東京で計3日間行われたリアン・ラ・ハヴァスの初来日公演。私が観たのは、最終日となる9月20日(金)の東京公演。ビルボードライブは原則的に1晩2ステージだが、今回のリアンの場合は1晩1ステージという例外的な公演スケジュールだった。会場はほぼ満員。開演前の場内BGMでは、アリシア・キーズ「Try Sleeping With A Broken Heart」、ドアーズ「Light My Fire」といった、リアンの雑多な音楽性を物語るような様々な曲が流れていた。

 定刻を少し過ぎた20時06分、客電が落ち、ジャズのBGM(ロバート・グラスパーみたいな音)が流れる中、リアンが登場。トレードマークのモノトーンのエレキ・ギターを抱え、たった一人で現れた。ゴールドの飾りが付いたベージュのブラウス&黒のパンツという出で立ちで、可愛らしいガーリーなファッションが多い彼女にしては、若干、大人っぽい雰囲気。若い女の子らしく、彼女は洋服──特に古着──が大好きで、ステージではいつも違う格好をしている(今回の公演と同じ格好をしているステージ画像を探したが、結局、見つからなかった)。バンビのような彼女が登場すると、女性客からすぐに“かわいい〜!”という声が上がった。小柄な娘という印象があったが、実際のリアンは意外と大きい。欧米人の基準からすれば十分に小柄と言えるだろうが、ヴィデオや写真から私が想像していたよりも、生リアンはひとまわりスケールが大きかった(そして、顔が小っちゃい!)。

 “Good evening, Tokyo!”とひとこと挨拶した後、静かにギターを爪弾きながら彼女が歌い出したのは「No Room For Doubt」。米シンガー・ソングライター、ウィリー・メイソンとの邂逅から生まれた彼女の決定的な代表曲。フィンガーピッキングが奏でる3拍子のリズムに乗って、翳りのあるリアンの歌声が美しく穏やかに漂泊するフォーキー&ブルージーな名曲だ(スタジオ版はメイソンとの共演。同年のゴティエ&キンブラ「Somebody That I Used To Know」に比肩する男女傷心デュエット・ソングの名作だと思う)。いきなりの必殺曲の登場に私は息を呑んだ。

 何と言っても、この人は声が素晴らしい。ルックスはコリーヌ・ベイリー・レイのような可愛子ちゃんだが、その声は、まるでシャーデーのスモーキーさとアリシア・キーズのハスキーさを混ぜ合わせたような、深い憂いと情念を湛えた何とも言えない響きを持っている。容姿からは全く想像もつかない大人びた歌声。初めてリアンの存在を知った時、私はその声質だけで無条件で彼女に惚れてしまった。ブルースやフォーク色が強い彼女の歌だが、ハイトーンで感情を全開にするとグッとソウル度を増す。その激烈な体当たり歌唱は、彼女が十代の頃に親しんだであろうメアリー・J・ブライジやアリシア・キーズの影響を強く感じさせるものだ。力を抑えつつ、レコードよりも熱くソウルフルな歌唱を聴かせた「No Room For Doubt」のパフォーマンスにおいても、彼女のそうしたヴォーカルの魅力はよく伝わってきた。様々な音楽的要素が渾然一体となった表情豊かな歌に、私はうっとりと聴き惚れた。

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Alden/Harmony 9908 Tuxedo model

 リアンを初めて知った時、私はその美声だけでなく、彼女の外見にも強く惹かれた。サボテンのようなビッグヘアやキュートなファッションの他に、リアンをヴィジュアル的に特徴づけているのは、何と言っても、彼女が愛用しているモノトーンのエレキ・ギターだろう。この見慣れないギターは、'60年代初期に発売されたAlden 9908というヴィンテージ・ギターである。原型としてHarmony社のH45 Stratotoneというギターがあり、Aldenというブランドから発売されたその白黒モデルがAlden 9908ということらしい。このギターには、そのデザインに因んで“Tuxedo”という粋な名前が付けられている。インディア・アリーのようにアコギを弾きながら歌うパターンが多かったネオ・ソウル〜オーガニック・ソウル系の女性アーティストたちと違い、リアンがエレキを持って現れたという点に私は強い興味を覚えたのだった。

 このタキシード・ギターを、リアンはピックではなく、指で演奏する。リアンがギターを始めたのは18歳の時で、未だギター歴5年くらいなのだが、彼女の演奏は実に巧い。ギターを練習し始めた頃、彼女はYouTubeで米女性ジャズ・ギタリストのエミリー・レムラー(1957〜90)がA・C・ジョビン「The Red Blouse」を弾く教則ヴィデオを見て感銘を受け、それを見ながら一所懸命コードを覚えたという。実際、リアンのギター演奏にはジャズの要素が多く含まれていて、それがまた彼女のサウンドに広がりを与えている。同時に、エレキであることで、ロックのダイナミズムも自然に取り込むことができる。リアンの作品がシンプルなようでいて味わい深いのは、こうした様々な音楽的要素が、ヴォーカル&ギターという最小限の表現の中に全て詰まっているからだと思う。

 挨拶代わりの「No Room For Doubt」が終わると、他のメンバーたちがステージに現れ、ローラ・マヴーラのような多重唱(メンバー全員による)と共に「Elusive」が始まった。英フォーク・ロック系シンガー、スコット・マシューズの'06年のデビュー曲で、アルバムの中で唯一のカヴァーだった作品。サポート・メンバーは、鍵盤、ベース、ドラム、女性バック・ヴォーカルの4人(全員白人)。曲によってベース奏者はギター、鍵盤奏者はベースも担当。女性バック・ヴォーカル以外の男性3人は、アルバム録音にも参加していたミュージシャン。リアンのヴォーカル&ギターに丁寧に彩色を施すような、飽くまでサポートに徹するストイックな演奏が印象的である。

 3曲目で早くも人気曲「Forget」が登場。コロコロと表情を変えるリアンのヴォーカルが重層的にミックスされたカラフル&キャッチーなファンク・ロック調の傑作ナンバー(ヴォーカル・アレンジの面白さはローラ・マヴーラ「Green Garden」とも通じる。万華鏡的なサウンドを見事に視覚化した音楽ヴィデオも素晴らしかった)。“今日は日本での最後の夜だから、みんな一緒に歌ってくれないかしら”というリアンの誘いがあり、イントロで観客がサビのリフレインを合唱。切れ味抜群のギター・カッティングとヴォーカルでバンドをグイグイ引っ張るリアン。フルバンド演奏であっても、軸になるのは常に彼女のヴォーカルとギターだ。スタジオ版よりもダイナミックな演奏で会場を沸かせた。

 余談だが、'13年7月のインタヴューによると、リアンが生まれて初めて自分の小遣いで買ったアルバムは、意外にも(?)レッド・ホット・チリ・ペッパーズのベスト盤『GREATEST HITS』(2003)だったらしい。初めて聴いた曲が「Californication」で(若いなぁ)、そこからレッチリにハマったのだという。ゴツゴツしたヘヴィなリズムと叙情的で繊細なサウンド感覚が同居した「Forget」を聴くと、彼女のそんな過去も何となく納得がいく。

 次に披露されたのは、シャッフル・リズムのジャジーなナンバー「Au Cinema」。『ベティ・ブルー』を引用しながら、銀幕の男女に自分と恋人を重ねるユーモラスでちょっとセクシーな歌。リアンの涼やかな語り口が実に魅力的だ。これもまた彼女の弾くギターが曲を牽引している。気持ちよく聴いていると、驚いたことに、演奏は中盤でスティーヴィー・ワンダー「Master Blaster」へ突入。なんだ、この展開! お馴染みのリフに続いてサビ部分を熱唱し、最後にまた「Au Cinema」に戻った。いまいち意味が分からないメドレーだったが、これは思わぬ聴きものだった。このメドレーを聴いて何となく思ったが、「Au Cinema」のシャッフル・リズムは、もしかして(レッチリもカヴァーした)「Higher Ground」に触発されたものだろうか(曲自体は全く似ていないが)。

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 リアンはスティーヴィー・ワンダーと面識がある。彼女のショウにスティーヴィーが観客として足を運んだのだ。“初めてインディア・アリーを聴いた時みたいだ!”と御大に感想を言われ、リアンはいたく感動したようだ。バックステージで45分ほどお喋りし、イヤホンでスティーヴィーの新曲も聴かせてもらったという(あまりにも素晴らしくてリアンは泣いてしまったそうだ)。感動の対面の後、リアンのもとにスティーヴィーから音声メッセージが届いた。“やあ、リアン。スティーヴィーだよ。僕の歌を送ります。会えてとても良かった。今後の活動を楽しみにしてるよ”。彼がそこで歌ったのは、なんとリアンの曲「Is Your Love Big Enough?」だった(涙)。

 コンサート中盤ではサポート・メンバーたちが退場し、リアンのヴォーカル&ギターがたっぷりフィーチャーされた。まず、鍵盤奏者によるピアノ伴奏だけで痛切な失恋バラード「Gone」。アリシア・キーズも真っ青の激しい歌い込みはどうだろう。そして、1曲ごとに律儀にギターを取り替えながら「Tease Me」「Everything Everything」「Age」を弾き語りで披露(タキシード・ギターの他にもう1本、アームが付いたフェンダーのテレキャスター・シンラインを使っていた。音圧がすごい)。リアンの歌世界はギターとヴォーカルだけで十分に完成されているので、バンドなしでも全く聴き劣りがしない。むしろ、彼女の真骨頂はソロの弾き語りでこそ発揮される。“年の差なんて関係ないわ”と歌われる最後の「Age」は、実際にリアンが交際している年上の恋人(30代くらいらしい)についての歌。このミュージック・ホール風のノスタルジックなナンバー(歌詞も含めて、ビートルズ「When I'm Sixty-Four」をちょっと思い出させる)は、観客の受けもとても良かった。

 再びサポート・メンバーたちが登場し、バンド編成で聞き覚えのない曲が披露された。てっきり新曲かと思ったが、後でセットリストを頼りに調べたところ、それはレディオヘッド「Weird Fishes/Arpeggi」(2007)のカヴァーだった。単に私が原曲を知らなかったせいもあるかもしれないが、全く何の違和感もなかった。続いて披露された「They Could Be Wrong」のロック・テイストも無理がなく、ごく自然に彼女の世界に馴染んでいる。

 先述の「Forget」、あるいは、同様にロック色の強いアルバム表題曲「Is Your Love Big Enough?」などを聴いても感じることだが、リアンの音楽性は(若い頃の)PJ・ハーヴェイによく似ている。具体的には、1st『DRY』(1992)、または、音楽性の幅を広げた後で初期のストレートな作風に回帰した『STORIES FROM THE CITY, STORIES FROM THE SEA』(2000/トム・ヨークも参加)あたりの雰囲気に近い(「Forget」は「Sheela-Na-Gig」にちょっと似ている)。どちらもエレキ・ギターを弾きながら歌う英女性シンガー・ソングライターであり、シンプルなバンド編成で非常にブルース色の強い音を志向しているという共通点がある。ブルースという起点は同じだが、PJはそこからロックへ、リアンはソウルへ向かっている(ざっくり言うと、だが)。私がリアンから最初に受けた印象は“ソウルフルなPJ・ハーヴェイ”というものだったのだが、それは今回、実際に彼女のショウを観ても基本的には変わらなかった。

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リアンのファッション・アイコンは、ずばりプリンス!

 そして、'11年発表のデビューEPの表題曲でもあった「Lost & Found」が登場。叙情的なピアノとギターの響き、リアンのしっとりとしたヴォーカルが胸に染みる名バラード。プリンスのお気に入り曲のようで、彼は自分のショウ('13年1月17日、ミネアポリス、Dakota Jazz Club公演)でこれをカヴァーしている。その話を知って気付いたのだが、この曲はかつて彼が作ったジョニ・ミッチェル風のフォーキーな名曲「Sometimes It Snows In April」(1986)に雰囲気がよく似ている。ジャズの香りがするリアンのフォーキーで涼やかな歌は、ジョニ・ミッチェルの世界にも通じるものがある(「Au Cinema」あたりは特にそれっぽい)

 プリンスはリアンについてこう語っている。

「僕にとって彼女はジョニ・ミッチェルなんだ。ストーリーの語り方、それを面白いギター・コードに乗せるところとかね」(20 September 2012, Chicago Tribune)

 リアンはプリンスとも面識がある。面識があるどころではなく、実は、彼女はプリンスの招きでペイズリー・パークにまで遊びに行っているのだ(!)。面白いので、リアンのペイズリー・パーク訪問談をちょっと紹介しよう。

 まず、プリンス本人から直接リアンに電話がかかってきた(この時点で既にヤバい)。リアンの説明はこうだ。

「プリンスから電話を貰っちゃって……。あの人が電話を使うこと自体信じられないでしょ。“どうしよう、私の番号を押したんだわ。わざわざ音楽の話をするために!”みたいな。とてつもなく光栄なことよね」(7 March 2013, MarieClair.co.uk)

 2人は電話で音楽やソングライティング、自分たちの好きなアーティストについて語り合った。プリンスはリアンの音楽を褒め、リアンはプリンスの音楽を讃えた。その際、プリンスはリアンの曲「Age」に言及し、歌詞に出てくる“年上の彼(恋人)”が自分だったらいいのになあ、などと言ったらしい(笑)。その数週間後、リアンは彼の自宅、ペイズリー・パークに招待された。

「レコード会社のA&Rの人と一緒に行ったの。ペイズリー・パークまでマネージャーさんの車に誘導してもらって。で、いきなりあの人が階段から下りてきた。“えー、あれがマジでプリンス?!”みたいな。彼は全身黒ずくめだった。全く非の打ち所がない格好だったわ。すごく可愛い合わせ襟の黒ジャンパー、細身の黒いフレア・パンツに、黒い靴を履いてた。髪は自然にカールしてて。もう、とにかく素敵だったわ。面白いし、気さくだし、クールだし。2人でギターを弾いたり、お喋りしたり。ビル・ウィザーズのドキュメンタリー『Still Bill』を一緒に観たりもしたわ」(10 May 2012, Just Another Magazine)

「基本的には音楽について喋ったり、あとは、一緒にギターを弾いたり、好きなミュージシャンの動画をYouTubeで見たりとか。とにかくスゴいとしか言いようのない人よ。とても歓迎してくれて、まるで古い友人と話してるみたいだった。大感激よ。完全にあり得ない体験だったわ」(2012, 7digital.com)

 そうか、プリンスもYouTubeを見るのか……。“口説かれはしなかった?”というガーディアン紙の質問にはこう答えている。

「それはないわね。まあ、でも、私はそういうことに関しては鈍感な方だから」(23 May 2013, TheGuardian.com)

 '13年2月、リアンはグラミー賞の直前にもロサンゼルスでプリンスと邂逅している。彼はいつものように綺麗なおネエちゃんたちを周りに侍らせていたそうだ(笑)。プリンス、カッコ良すぎる!

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なんか、ギターを弾くアリシア・キーズのような……

 「Lost & Found」が終わったところで、リアンのMCがあった。実は、私が観た9月20日の東京公演は、ずっと続いてきたコンサート・ツアーの最終日で、この後、彼女は次のアルバムの制作に入るのだという。公式サイトでツアー日程を確認すると、'13年夏に世界各地の音楽フェスを廻った後、最後におまけのように日本公演のスケジュールが入っていて、その後は確かにコンサートの予定が何もない。この日会場に集まった東京の観客は、リアンの1st時代最後の公演を観たということになる。最後の最後に日本に来てくれて本当に良かった。

 本編ラストを飾ったのは、アルバム冒頭に収められていた重厚なナンバー「Don't Wake Me Up」。途中でメンバーたちを一人ずつ、名前の後に“〜ラ・ハヴァス”を付けて紹介(笑)。熱のこもった長尺の演奏を終えると、バンドは一旦ステージを去った。

 アンコールは2曲。まず、アルバム未収録の素朴な小曲「Empty」。そして、最後の最後に、アルバム表題曲である高揚感溢れるアップ・ナンバー「Is Your Love Big Enough?」。この曲は彼女がニューヨークを訪れた際に書かれたもので、そこでの楽しい経験が基になっているという。“中古ギターに私は自分を見いだした”という、ちょっとロックンロールな歌詞がワクワクさせる。観客はそれまでずっと座ってショウを観ていたが、この最終曲の途中でリアンから立ち上がるよう促され、最後は総立ちに。同時に、6拍子の変則的なハンドクラップでも参加。大いに盛り上がったところでコンサートは幕となった。ちなみに、リアンはステージ上から客席の光景を写真に撮るのが趣味らしく、最後にステージを去る際、客席の右サイド・中央・左サイドをそれぞれ記念撮影していた(公式サイトに載るかも?)。

  Is your love big enough for what's to come?

 最後に演奏されたアルバム表題曲のこのフレーズが私は好きだ。直訳すると“来るべきもの(自分の描く未来)に対してあなたの愛は十分なの?”という意味だが、噛み砕くと、“あなたには自分の人生を生きる覚悟ができてるの? 心からそれを望んでいるの?”というような感じである。“あなた”はもちろん自分自身のことだろう。振り向かず、何があっても自分の信じる道を進むんだ、というリアンの思いが込められているように思う。彼女の前向きな姿勢と確かな自信が、そのヴォーカルとギターからしっかりと伝わってきた。

 終演は21時22分。未来への期待に溢れた約76分の素晴らしいコンサートだった。


限りなく透明に近いブルース

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終演後にはサイン会も行われた(リアンの手はプニュッとして、とても柔らかかった)

 リアンの1st『IS YOUR LOVE BIG ENOUGH?』を繰り返し聴きながら、改めてその素晴らしさにしみじみと感嘆する。私がリアン・ラ・ハヴァスを初めて知ったのは'12年初頭、ちょうど「Forget」の音楽ヴィデオ(最初のヴァージョン)が公開された頃で、その音楽性や容姿から漂うプリンス臭──今までのフォロワーとは一味も二味も違うそれ──に一発でヤられた。その半年後に発表された1stアルバムに、私は当初、プリンス的なオルタナティヴ感や、シャープで風変わりなサウンドを期待していたのだが(具体的に言うと、リースの1stを少し生っぽくしたようなサウンドを想像していた)、実際に届けられたのは、飽くまで彼女のヴォーカルとギターを中心にした非常に簡潔な音作りの作品だった。あれ、意外とフツーだな……。声や楽器の鳴りが生々しい、ほとんどインディ・ロックのような質感のサウンドに私は違和感を覚え、あまり聴き込まずにしばらくCDを放置していたのだが、ある明け方、寝しなのBGMとしてぼんやり耳を傾けた時、その良さにハタと気付いた。無防備になった時、彼女の歌は驚くべき親密さと浸透力で私の心に深く染み込んできたのである。

 余計な装飾を排除し、ひとつひとつの音の存在感を大切にしたプロダクションは、リアンの歌が持つ漂泊感や透明感を浮き彫りにする。押しつけがましさが全くない、ドライで研ぎ澄まされた彼女の都会的なブルース感覚は、間違いなくシャーデーやチェット・ベイカーのそれに通じるものだ。透き通るような淡いブルーを背景にした美しいアルバム・ジャケットを眺めていると、“限りなく透明に近いブルース”というフレーズが思い浮かぶ。街の雑踏やビルの谷間に漂泊する透き通ったブルースを、彼女は丁寧にすくい取り、少しだけ拡声してみせる。聴けば聴くほど良さが分かる、本当に洗練された作品だと思う。このアルバムは10年後に聴いても十分に感動を誘うだろう。

 スティーヴィーはインディア・アリーだと言い、プリンスはジョニ・ミッチェルだと言う。私はPJ・ハーヴェイだと思った。聴く人によってはまた別のアーティストを思い浮かべるだろう。リアンの音楽には様々な歌手の面影が覗く。そして、それらの豊かな表情は、表面的なアレンジによるものではなく、すべて彼女のヴォーカルとギターから生まれているものだ。すごい器だと思う。ギターさえあれば、彼女は渡り鳥のようにどこへでも行ける。アルバム・ジャケットのブルーは、彼女の周りに広がる無限の青空を示しているようにも思える。どの方角へ行くにせよ、リアンの音楽はきっと素晴らしいものになるだろう。コンサートを観て、彼女の将来がますます楽しみになった。My love is big enough for what's to come!

 ところで、『限りなく透明に近いブルー』という村上龍の小説名の英訳は“Almost Transparent Blue”という。それで思い出したのが、チェット・ベイカーが最晩年に取り上げたエルヴィス・コステロの名曲「Almost Blue」。果たしてこれをリアンが歌ったらどうだろうか(もちろん“she”を“he”に変えて)。きっと素晴らしいと思うのだが……。


01. No Room For Doubt
02. Elusive [Scott Matthews cover]
03. Forget
04. Au Cinema - Master Blaster [Stevie Wonder cover]
05. Gone
06. Tease Me
07. Everything Everything
08. Age
09. Weird Fishes/Arpeggi [Radiohead cover]
10. They Could Be Wrong
11. Lost & Found
12. Don't Wake Me Up
-encore-
13. Empty
14. Is Your Love Big Enough?

Billboard Live Tokyo, 20 September 2013
Lianne La Havas (vocals, guitar), Rhianna Kenny (backing vocals), James Wyatt (keyboards, bass), Christopher Dagger (bass, guitar), Jay Sikora (drums)

Lianne La Havas: Japan Tour 2013
September 17 - Billboard Live Osaka
September 19 - Billboard Live Tokyo
September 20 - Billboard Live Tokyo




 フランス発の音楽サイト、La Blogothequeによるオンライン音楽番組〈A Take Away Show〉にリアン・ラ・ハヴァスが「No Room For Doubt」で登場した神回。この番組は、街なかでミュージシャンが生演奏する様子をゲリラ撮影したドキュメンタリー的な音楽動画をシリーズで配信している。手持ちカメラによる瑞々しい撮影、即興的な演出、ほぼワンカットの臨場感溢れる生々しい映像は、さながら“音楽ヴィデオ界のヌーヴェルヴァーグ”といった趣で、商業ベースの作り込まれた音楽ヴィデオとは全く違う新鮮な感動を与えてくれる。街の様々な環境音を拾いつつ、ミュージシャンの演奏を鮮やかに捉える録音も素晴らしい。'11年9月に撮影された「No Room For Doubt」では、リアンがタキシード・ギターで弾き語りをしながら午後の賑やかなモンマルトルの通りを歩く。雑踏の中をさすらうリアンのブルースはどこまでも美しい。彼女の奏でるギターと大道芸人のカスタネットがほんの束の間通じ合う終盤の一場面──歌詞に描かれる男女の孤独な対話を思わせる──は奇跡的な素晴らしさだ。ウィリー・メイソン共演の正式な音楽ヴィデオも良いが、とにかく、この〈A Take Away Show〉映像は決定的な傑作である。
 リアンは1年後の'12年9月にも「Forget」で同番組に再登場。また、La BlogothequeのColin Solal Cardoを監督に迎え、公式ヴィデオ「Lost & Found」('12年3月公開)、ドラマ仕立ての連作ヴィデオ「Elusive」「Gone」('13年2月公開)も制作している。ちなみに、〈A Take Away Show〉はアロー・ブラックが出演した回も死ぬほど素晴らしい(Part 1:「 Hey Brother」「I Need A Dollar」/Part 2:「You Make Me Smile」「Use Me」/「Green Lights」)。シャーデーにも出演して欲しい!

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