2017 09123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 11

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Michael Nash Associates

michael nash

 シングル「No Ordinary Love」のカヴァー・デザインを担当したMichael Nash Associates。MichaelとNashの間にナカグロが入っていることからも窺われる通り、これはAnthony MichaelとStephanie Nashという2人を中心としたロンドンのデザイン・チームの名称である。彼らは様々な商品パッケージと同時に、音楽作品のアートワークも数多く手掛けている。今回は、このマイケル・ナッシュがデザインを担当したレコード/CDの数々を紹介してみたい。


no ordinarycontributionwdihtd
ultimatestill beatinginxs greatest
nickelparis ailleursloc'ed

 そう、ミーシャ・パリスの2nd『CONTRIBUTION』(1990)のカヴァーは彼らの手によるものなのだ。これを「No Ordinary Love」と並べてみると、確かに同じセンスのデザインで、なるほど、と腑に落ちる(ミーシャとシャーデーのポーズ、衣装まで似ている)。マイケル・ナッシュに対する私の興味は、この小さな発見から始まった。

 『CONTRIBUTION』と見比べて面白いのは、'82年フランス公演を収録したロキシー・ミュージックのライヴ盤『HEART STILL BEATING』(1990/中段中央)。一面タイポグラフィの背景にモノクロの人物写真が配置される構図は同じだが、これが背景まで実写になっている。アラン・スーション『NICKEL』(1990/下段左)は、逆に人物写真の上にアーティスト名とアルバム表題のタイポが重ねられている。エティエンヌ・ダオ『PARIS AILLEURS』(1991/下段中央)は、顔面アップのモノクロ写真に切手がアクセントに添えられ、そこに更にタイプライター文字でアーティスト名と表題が入る。トーン・ロックの大ヒット作『LOC'ED AFTER DARK』(1989/下段右)は、ドナルド・バードのBlue Note盤をもじったオリジナルのDelicious Vinyl版がお馴染みだが、4th & Broadway版の別カヴァーはマイケル・ナッシュのデザイン。記号類をガチャガチャ詰め込んだタイポグラフィにヒップホップらしい遊び心が感じられる。


so gooddreamerswhisper

 4th & Broadway在籍時(1st~3rd)のミーシャ・パリスのアルバム・カヴァーは、いずれもマイケル・ナッシュの仕事。1st『SO GOOD』(1988/左)からのシングル「Like Dreamers Do」(中央)はいかにも彼ららしいデザインだ(星マークのアクセントが効いている)。3rd『WHISPER A PRAYER』(1993/右)でもデザインの切れは相変わらず。同作からのシングルは、アルバムと同趣向のデザインで統一された。
 どうでもいいが(いや、よくないのだが)、7年ぶりの彼女の5th『IF YOU COULD LOVE ME』(2005)のジャケはあまりにも酷かった(さすがに日本盤は独自ジャケを付けて発売された)。内容が良かっただけに残念。


seal 2seal 1
future lovekillerbeginning

 切り抜いた人物写真に大胆でシャープなタイポを施したデザインが目立つマイケル・ナッシュだが、その極めつけは何と言ってもシールである。2nd(1994/上段左)のカヴァーはあまりにも有名(ニック・ナイト撮影)。意味不明なグリコランナーのようなポーズをとるシールの写真に、絶妙な位置と大きさでタイポが入る。ブロンズ像のように凝固した異形のネイキッド・ソウル。わけは分からないが、こいつはとんでもない奴に違いない、と思わせる異様なオーラを放つ名カヴァーだ。
 仁王立ちのシールが "A" の文字を作る1st(1991/上段右)も威圧感では負けていない。ここからのシングルは「Future Love Paradise」「Killer」「The Beginning」の3枚がアルバムのデザインのヴァリエーションになっていて、並べてみるとなかなか壮観。アコギを銃のように構えたシールがやはり "A" の文字になっている「Killer」が特にカッコいい。皆殺しシール。

 わけの分からなさでは3rd『HUMAN BEING』(1998)も凄いものがあるが(モンディーノ撮影)、そこからはマイケル・ナッシュの仕事ではない。但し、キャラの異形ぶりを強調する点では、シール作品のヴィジュアル・コンセプトには一貫した流れがある。シールはまるで地球圏外からやってきたエイリアンのようで、それは世界のどのジャンルにも属さない彼のハイブリッドな音楽性とも重なるが、あまりにも変種すぎて逆に掴みどころがなく、作品の質やポテンシャルの高さの割に、いまいち広範囲からの支持を得られないでいるのがシールの悲劇であるような気もする(「Kiss From A Rose」級の明快な楽曲がもっとあれば良いといつも思うのだが……)。


LCole.jpgBadVibes.jpg

 ロイド・コールの1st『LLOYD COLE』(1990/左)と3rd『BAD VIBES』(1993/右)もマイケル・ナッシュ。モノクロ写真を使ったこの手のスタイリッシュなデザインは彼らの十八番だ。ポートレイト写真に×印をつけた前者の決まり具合はお見事。右手の位置と形を活かし、被写体のコール自らが×印をつけたかのように見せている。よくこんなデザインを思いついたな。コールが部屋の角に佇む後者のタイポグラフィは、アーティスト名の途中で改行してしまっているが、これも写真とあわせた全体のバランスが絶妙。角に人物が佇む写真(デヴィッド・シムズ撮影)は、'48年にアーヴィング・ペンが撮った“コーナー・ポートレイト”と呼ばれるシリーズ作品のパロディである(ちなみに、シャーデーにも'00年にパトリック・デマルシェリエ撮影による同様のポートレイトがある)。


ForPleasure.jpgD_London.jpg

 オマーの3rd『FOR PLEASURE』(1994/左)とDインフルエンスの3rd『LONDON』(1997/右)は、それぞれオマーとサラ・アン・ウェブの顔面どアップのモノクロ写真を使用。前者は思いきりの良いタイポがマイケル・ナッシュ印。後者は、画面の隅っこにユニット名とアルバム表題の "LONDON" の文字が洋服のブランド・タグを模したデザインで添えられている。実にお洒落だ(デザインだけでなく、もちろん中身の品質も保証付き)。画面全体の白と黒のコントラストのバランスも気持ちいい。


blue linesprotectionhomebrew

 マッシヴ・アタックの1st(1990/左)と2nd(1994/中央)のカヴァーは3Dとのコラボレーションだが、これも実はマイケル・ナッシュの仕事。マッド・プロフェッサーが2ndをリミックスした『NO PROTECTION』(1995)にも彼らの名はクレジットされているが、マッシヴ・アタックに関しては基本的にタイポグラフィのみで関わっているように思われる。『MEZZANINE』(1998)のクワガタ・カヴァー(ニック・ナイト撮影)の方がそれらしい感じもしつつ、そこからデザイン担当はトム・ヒングストンに変わっていて、ハズレ(『MEZZANINE』には、よく見るとクセのある変なフォントが使われている)。

 デザイン的にも人脈的にも、ネナ・チェリー『RAW LIKE SUSHI』(1989)が彼らのデザインに違いないと睨んで確認すると、これも違う。しかし、ついでに何気なく『HOMEBREW』(1992/右)のクレジットを見てみると、これがなんとマイケル・ナッシュだったりするのだ。わからないものである。
 このカヴァーは "NENEH CHERRY" の文字が赤い糸で刺繍されたデザインになっていて、CDブックレットをめくると、そのすぐ裏ページの同じ位置に反転した文字が現れ、刺繍をちょうど反対側から見たかたちになっている(つまり、白い台紙に写真が縫いつけられているということだろう)。各ページの写真も、淵を糸で縫いつけたデザインでレイアウトされていて、女性的なムードを醸し出している。これが本物の糸を使用して実際に縫ったデザインであったらさぞかし面白かったと思うが、当然すべてハンドメイドになるので、莫大なコストがかかって実現は不可能か(そういうアイデア自体はあったと思うが)。刺繍を使った同様のデザインは、このアルバムからのシングルのカヴァーでも見ることができる。
 尚、マイケル・ナッシュは、リップ・リグ+パニックの鍵盤、マーク・スプリンガーのソロ作でもアートワークも手掛けているようだ。


time hassuger mummylove dimension
supernaturalwrote you a songfair affair

 '80年代のお洒落系ジャジー・ポップ流行りの中から登場したオールドランド・モンタノのデビュー作(にして唯一のアルバム)『THE TIME HAS COME』(1988/上段左)のデザインもマイケル・ナッシュ。これもリップ・リグ+パニック人脈で、ショーン・オリヴァーが全面的に制作に関与している。ファッション業界上がりの双頭ヴォーカル、ミシェル・オールドランドとケイ・モンタノの2人の写真を使ったデビュー・シングル「Sugar Mummy」(上段中央)と、続く「Love Dimension」(上段右)は、写真と簡潔なタイポの絡みにマイケル・ナッシュらしさが認められる。「Sugar Mummy」は、ミシェルの唇の位置に文字を組んでいるのが面白い(普通、この位置にタイトルを入れようとは思わない)。
 その片割れ、ミシェル・オールドランドのソロ・デビュー作『SUPERNATURAL』(1994/下段左)も引き続きマイケル・ナッシュのデザイン。得意のモノクロ写真、単色アクセント、インパクトのあるフォント使いで、彼ららしい仕事だ。背景が文字で埋め尽くされているシングル「I Wrote You A Song」(下段中央)もいかにも。「A Fair Affair」(下段右)では、ミーシャ・パリスの1st期のデザインでも見られた星マークのアクセントが再び使われている。


waterboyspagan placethis is the sea
private revolutiongoodbyeegyptology

 ウォーターボーイズのロゴをデザインしたのは、マイク・スコット曰く、マイケル・ナッシュの片割れであるステファニー・ナッシュだそうだ(ロゴは「水」を表しているという)。彼女はもともとIslandレコードの美術部門に所属していた人物で(マイケル・ナッシュの仕事にIsland系列の作品が多いのはこの為だろう)、Islandとライセンス契約のあったChrysalis(Ensign)のウォーターボーイズのカヴァーを手掛けている。'80年代半ばにバンドを脱退したカール・ウォリンガーによるソロ・プロジェクト、ワールド・パーティのアートワークも彼女の仕事(ちなみに、'90年の2nd『GOODBYE JUMBO』からはマイケル・ナッシュ名義になっている)。マイケル・ナッシュのキャリアで最も付き合いの長いミュージシャンは彼らかもしれない。


take me homeread my lipsmurder
mixed upshootwon't change

 イギリスのダンス・ポップ歌姫、ソフィ・エリス・ベクスターの一連の作品のカヴァーもマイケル・ナッシュの仕事。ソロ・デビュー作『READ MY LIPS』(2001 /上段中央)期のアルバム/シングルは、表題に掛けて、口紅を使った手書き文字で統一されている。この文字部分が特殊印刷になっていて(正式に何と呼ばれる印刷なのか知らないが、艶のある透明スクリーンのようなものが付着して微妙に盛り上がっている)、非常に美しい仕上がりなので、これは是非実物を参照してもらいたい。ブックレットの中身も同様にシャープなデザインで素晴らしい。2nd『SHOOT FROM THE HIP』(2003/下段中央)期は、ロシア構成主義風の文字レイアウトで統一されているが、これがラフなスナップ調のカラー写真と組み合わせられている点に捻りが感じられる。
 ちなみに、彼女のPVの多くで監督を務めているのは、同じくソフィという名前の女性。あのソフィ・ミュラーである。


frankin my bed
pumpstake the boxstronger than me

 イギリスの肝っ玉ソウルお姉ちゃん、エイミー・ワインハウスのデビュー作『FRANK』(2003)、および、そこからのシングル群のカヴァーもマイケル・ナッシュ。ソフィ・エリス・ベクスターの2nd期と似たような趣向のデザインが見られる。さりげないようでいて、よく見るとファンシー、どこか人工的な臭いがするところがミソだろうか。
 あばずれチックなキャラで、スパイスの効いたレトロモダンなジャズ~ソウル/R&Bを豪快に歌い飛ばすエイミー。初見、ルックス的には'90年代半ば頃のPJ・ハーヴェイを思い出させたが、彼女の方が喧嘩は強そうだ。よりフリーキーでマニアックになった2nd『BACK TO BLACK』(2006)も明快で悪くはなかったが、柔軟性に富んだ1stがやはり最高だと思う。'08年のグラミー5冠はさすがに過大評価か。


stooshstrip to the bonechoirgirl
el amorbunkkabigger bang

 マイケル・ナッシュはこんなアルバムのアートワークにも参加している。音楽ファンなら誰でも見たことのあるものばかりだろう。ハウイ・Bのプロデュースによる電脳サウンドを視覚化したようなスライ&ロビー『STRIP TO THE BONE』(1999/上段中央)がカッコいい。写真のみの作品に関しては裏ジャケやブックレット内のタイポグラフィで腕をふるっている。それにしても、ローリング・ストーンズ『BIGGER BANG』(2005/下段右)まで彼らの仕事だったとは驚き。これも写真のみのカヴァーだが(ニック・ナイト撮影)、ブックレットではマイケル・ナッシュらしい切れのあるタイポグラフィを見ることができる。


 今回ここに紹介したマイケル・ナッシュ関連作品は、私がたまたま気付いたものを適当にピックアップして羅列したに過ぎない。彼らがアートワークを手掛けた音楽作品は、有名無名を問わず、まだまだ他にいくらでもあると思う。ネットによる音楽配信も随分と一般化したが、こうして眺めてみると、アートワークとセットになった従来のポピュラー音楽作品のスタイルにはやはり格別の趣がある。アートワークを通して、アーティスト間の意外な繋がりを発見するのも一興だ。

| Sade Tree | 22:00 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT