2017 07123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 09

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

クレイジーホース・パリ映像決定版『ファイア by ルブタン』



 映画『ファイア by ルブタン』(3D版)を上映終了間際のヒューマントラストシネマ有楽町で観た(上映期間:'13年12月21日〜'14年2月21日)。ロードショウでも展覧会でも終了間際にならないと行かないのは私の悪い癖だが……。

 『ファイア by ルブタン』は、クレイジーホース・パリのショウを映像化した作品。クレイジーホース・パリ(1951年開業)は、ムーラン・ルージュ(1889年開業)やリド(1946年開業)と並ぶパリの老舗キャバレー。洗練された視覚演出、伝統と斬新さを兼ね備えたハイセンスなお色気で現在も高い人気を誇るナイトスポットである。キッチュとも芸術的とも言える独特のヌード・ショウは男女を問わず様々な観客を惹きつける魅力があり、世界中のアーティストやクリエイターの間にも多くのファンを持つ。'12年6月にはフレデリック・ワイズマン監督による舞台裏ドキュメンタリー『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(2011)が日本でも劇場公開され、最近ではビヨンセが話題のヴィジュアル・アルバム『BEYONCE』(2013)の中でクレイジーホースとコラボするなど、近年、頓に世界的な注目を集める機会が増えている。

 私も過去に一度、クレイジーホースの舞台を生で観たことがある。と言っても、パリ本店のショウではなく、ラスベガスのMGMグランドでやっていた直輸入版の方である。今から2年半ほど前、'11年9月にシャーデーのコンサートを観にラスベガスを訪れた際、数あるショウの中で私がひとつ選んで鑑賞したのがクレイジーホース・パリだった('01年にオープンしたMGMグランドのクレイジーホース・パリは'12年10月で閉業し、現在はやっていない。当時の体験記はこちら。今回の3D映画『ファイア by ルブタン』は、実際に生で観るのとはまた違った面白さがあり、私にショウの記憶を蘇らせてくれると同時に、新鮮な感動を与えてくれる逸品だった。

【注意】この記事には女性の裸が出てきます。18歳以上の方のみご覧ください。


Feu02.jpg
ファイア by ルブタン(2012)
FEU: CRAZY HORSE PARIS
監督:ブルーノ・ユラン
音楽:ミルウェイズ、デヴィッド・リンチ、他
出演:クリスチャン・ルブタン、クレイジーホース・ダンサー


 『ファイア by ルブタン』は、フランスの靴デザイナー、クリスチャン・ルブタンがゲスト・クリエイターとして演出に関わり、'12年3月〜5月に期間限定で上演された特別プログラム〈FEU〉を映像化したもの。ルブタンは以前から自身のブランドのトレードマークでもある赤い靴底の黒ハイヒールをショウに提供しており、クレイジーホースとは関係の深い人物である(DVD『CRAZY HORSE PARIS with Dita Von Teese』に特典収録されているルブタンのインタヴューによれば、クレイジーホースと彼のコラボレーションは'06年10月から始まっている)

 『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』が舞台裏の様子を中心にした純粋なドキュメンタリー作品だったのに対し、『ファイア by ルブタン』は実際のパフォーマンスを中心にしたミュージカル的な作品。クレイジーホースのライヴ映像は過去にいくつかDVDで発売されているが、『ファイア by ルブタン』は、パリにあるクレイジーホースの劇場ではなく、1300平方メートルの巨大スタジオで特別に3D撮影され、通常のライヴ映像とは異なる映画的刺激に溢れた作品に仕上がっている。まさにクレイジーホース映像の決定版と呼ぶに相応しい内容だ。

Feu03.jpg
狂言回し役を務めるクリスチャン・ルブタン

 クレイジーホースのショウは全体を通して一貫した流れや物語性があるわけではなく、独立した演目が次々と披露されるレヴュー形式で進行する。厳しい審査に合格した見事な肢体を持つ女性ダンサーたちがトップレスで登場し、様々な演出で官能的なパフォーマンスを繰り広げていく。女性たちはGストリングを穿き、ほとんど全裸に違い状態で登場するが、女性の身体を美術品やオブジェのように美しく見せるショウなので、下品さやいやらしさは全くない。性的欲望ではなく、観客の性的幻想を誘うような知的でフェティシズム溢れる視覚演出、芸術の域にまで高められた“そそり(teasing)”の美学こそがクレイジーホースのショウの醍醐味である。

 『ファイア by ルブタン』では12通りの演目がノーカットでたっぷり楽しめる。日本での劇場公開に際しては“演出:クリスチャン・ルブタン/音楽:デヴィッド・リンチ”という点がやけに強調されているが、実際に映画を観た限り、それは部分的なものに過ぎず(特にデヴィッド・リンチの関与に関しては)、内容としては“通常のクレイジーホースのショウ+α”的なものと考えた方が良いと思う。ダンサーたちの靴はもちろんルブタンの手によるものだろうが、彼が演出面でどの演目にどの程度まで貢献しているのかは不明。クレイジーホースにしてみれば、演出担当としてルブタンの名を前面に出すことには、話題作りの意味合いが大きいのではないか。とはいえ、少なくともこの映画に関して言えば、ルブタンは狂言回し役としてとても良い仕事をしている。“ファイア by ルブタン”というより、ルブタンのMCと共に本格的なクレイジーホースのショウが楽しめる“ルブタン presents ファイア”といった趣の作品だ。

 映画内に登場する12演目は以下の通り。


Feu04.jpg
God Save Our Bareskin

Feu05.jpg
Voodoo

Feu06.jpg
Lecon d'Erotisme

Feu07.jpg
Spoutnik

Feu08.jpg
Legmania

Feu09.jpg
Masteroide

Feu10.jpg
Scanner

Feu11.jpg
Upside Down

Feu12.jpg
La Penitente

Feu13.jpg
Purple Underground

Feu14.jpg
Final Fantasy

Feu15.jpg
West Side Crazy


 以上の12演目の他に、2番目の「Voodoo」の直前にクレイジーホースの看板演目「Teasing」──赤い靴底の黒ハイヒールを履いた女性の脚だけがステージに現れ、ゆっくりとじらしながら黒いパンティを脱いでいく(本記事トップに掲載したポスターにもイメージが使われている)──がほんの触り程度に挿入されている(お馴染みの黒ハイヒールが爪先と踵部分に黄色い蛍光塗料が塗られた特別仕様に変更された上、ストリップティーズはなく、次の「Voodoo」へ繋がる導入部のような扱いになっていた)。この中で、少なくとも「God Save Our Bareskin」「Lecon d'Erotisme」「Legmania」「Upside Down」の4つは以前からあるクレイジーホースの定番演目で、'11年に私がラスベガスで観たショウでも披露されていた(「Scanner」も観たような気がするが、記憶が定かでない)。2人のダンサーが人工衛星内で回転する「Spoutnik」は「Evolution」、椅子を使った「Purple Underground」は「Chair Me Up」(ベガスのショウではBGMにプリンス「Pheromone」が使われていた)、ボブのウィグを被った「West Side Crazy」は「Baby Buns」という具合に、新演目の中には過去の演目の名残りを感じさせるものもかなり含まれている。過去のショウと比較すると、クレイジーホースのショウがどのように更新されているかが分かってまた面白い。

 クレイジーホースのステージを忠実に画面内に再現しながら、大胆なクローズアップや垂直俯瞰など、映画は観客が通常見ることのできないアングルからもパフォーマンスを捉える。ガラス張りの床下からダンサーの脚を仰瞰で撮るバズビー・バークレー風のショットなどはいかにも映画的だ。ダンサーの繊細な息遣いや、指で腿をピタピタと叩く音まで拾う生々しい録音もショウのエロティシズムを強調する。幾何学模様のプロジェクション・イメージとダンサーたちの脚がトリックアートのように溶け合う「Legmania」はさすがに生のステージのインパクトには及ばないが、パリの街から地球を周回する人工衛星まで一気にカメラが垂直に上昇していく「Spoutnik」導入部の映像など、映画ならではの飛躍が積極的に試みられている点は大いに評価できる。元のステージ・パフォーマンスのイメージを大事にしながら、きちんと映画的な解釈が加えられているところが『ファイア by ルブタン』の大きな魅力だ。

 また、この映画は3Dという点も売りである。3D撮影はヴィム・ヴェンダース監督『PINA/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)のスタッフが担当しているそうだが(この映画も私は公開時に劇場で観た)、空間の広がりがそのままパフォーマンスの肝でもあったピナ・バウシュに比べると、幅8メートル、奥行き4メートルの小さなステージで演じられるクレイジーホースのショウには、それほど3D撮影の効果は感じられなかった。ダンサーがカメラに向かって手を伸ばしたり、手足を縛られたダンサーが宙に浮かんでいる場面(「Final Fantasy」)などではそれなりに効果的だったが、例えば、オッパイやお尻が立体的で触れそうだ、とか、そういう嬉しい効果はない。3D効果は、むしろパフォーマンス以外の場面で顕著だった。各演目の合間には、クリスチャン・ルブタン、または、女性ダンサーたちが一人ずつ登場してコメントするインタールード的なパートが挿入される。ダリの唇ソファ──「Lecon d'Erotisme」で使用される──に座って話すルブタンの周りを靴が旋回したり、ダンサーが入ったスノーボールが浮遊する幻想的な視覚効果の場面では3D効果が存分に発揮されていた。

Feu16.jpg
デヴィッド・リンチが貢献した「Masteroide」

 どの演目も面白いが、中でも異彩を放っていたのは、劇中でルブタンによってデヴィッド・リンチの関与が明言された「Masteroide」か。ハイヒールとバレエのトウシューズを合体させた奇妙な靴を履いた女性たちの足もとだけがステージに現れ、デヴィッド・リンチの音楽をバックに眩惑的なダンスを繰り広げる。演出的には「Teasing」に近いものがあるが、もはやエロくも何ともなく、脚フェチの妄想を極限まで突き詰めたような、悪夢的とも言える異常な世界に観客を誘う。クレイジーホースと言うよりは完全にデヴィッド・リンチの世界だが、『ファイア by ルブタン』の大きな見もののひとつであることは間違いないだろう。

 この映画を観た音楽ファンの多くはサウンドトラックが気になると思うが、オリジナル・サントラ盤は発売されておらず、パンフレットにも使用楽曲のリストは載っていない。分かる範囲で言うと、例えば「Lecon d'Erotisme」では、この演目で以前から使われているクレイジーホースの同名オリジナル曲(歌詞に字幕が付かなかったのが残念)、「Upside Down」ではヤエル・ナイムによるブリトニー・スピアーズのカヴァー「Toxic」(2008)が使われていた。クレイジーホースのショウではオリジナル曲と既存曲が併用されている。古典的なキャバレー風の曲から現代的なクラブ調の曲まで、バランス良くミックスされたサウンドトラックもまたクレイジーホースの魅力のひとつである。

Feu24.jpg
クレイジーホース・パリの店内──実際のステージはとにかく小さい

 クレイジーホースを生で観たことのある者として敢えて難点を挙げるなら、小さな空間で演じられるショウの、人形劇にも似た独特のユーモラスな興趣が損なわれていた点か。実際に会場で観ると分かるが、クレイジーホースのステージというのは本当に驚くほど小さい。そこに登場する均一なプロポーションの美女たちは、まさしく“大人のための人形劇”のお人形さんである。裸の美女人形が踊る小さなステージを、観客は暗がりの中で覗き込むようにして眺める。生身の女を完全に人形化してしまう倒錯的なステージ空間こそ、クレイジーホースの最大の魔法と言っても過言ではないだろう。クレイジーホースというのは、徹頭徹尾フェティシズムの世界なのである。映画版は、画面内にステージそのものを再現しても、実際のステージ空間と観客の間に生まれるこの魔法までは再現できていない。それを映画で再現するのは不可能だろう。表情や肉体のクローズアップ、生々しい息遣いの音、一人ひとりの等身大の女性像が伝わってくるコメントなど、ダンサーたちが生身の女であることを強調するような映画版の演出は、クレイジーホースが“女体人形劇”である点を鑑みれば、むしろ逆効果と言えるかもしれない。

 しかし、それを言っては身も蓋もない。舞台には舞台の、映画には映画の良さがある。実際のショウの代替にならないことを踏まえた上で、敢えて別のアプローチを考え、映画にしかできないことをやったからこそ『ファイア by ルブタン』は価値ある作品になった。そうでなければ映画を撮る意味などないはずだ。

 ひとつ個人的に印象深かったのは、劇中でルブタンが“世界一美しく存在感のある脚”を持つ女性としてティナ・ターナーの名前を挙げた点である。ディートリッヒあたりを予想したので、ちょっと意外な感じもしたが、なるほどと唸ってしまった(ティナの美脚っぷりは『PRIVATE DANCER』裏ジャケを参照)。女性の脚に徹底的にこだわったクレイジーホースのショウは、脚フェチには夢のような世界に違いない。しかし、性的偏愛の対象としてだけでなく、同時にこの映画は“脚”を女性の重要なアイデンティティのひとつとして捉え、積極的に賛美している。劇中でショウに対する思いを語る女性たちは皆、誇らしげだ。べガスでショウを観た時、裸を売り物にしている彼女たちがそのように自分たちのことを誇りに思っているなどと私は少しも想像しなかった。この映画に登場する女性たちは皆、カッコよく輝いて見える。クレイジーホース・ダンサーたちを“人形”ではなく、熱いハートを持った生身の女性として捉える眼差しこそ、『ファイア by ルブタン』の最も優れた映画的側面であるような気がする。


Feu17.jpg
PARTITION (2013)
Artist: Beyonce | Director: Jake Nava

 さて、現代版ティナ・ターナーと言えば、ビヨンセ。彼女の脚もティナに負けず劣らずダイナマイトだ。'08年グラミー賞での両者の共演を覚えている人も多いだろう。“動くビヨンセ写真集”といった趣のヴィジュアル・アルバム『BEYONCE』の中の1曲「Partition」で、先述した通り、ビヨンセはクレイジーホースとコラボレーションを果たしている。彼女もまたクレイジーホースに魅せられたアーティストの一人だ。

Feu18.jpgFeu19.jpg
Feu20.jpgFeu21.jpg
Feu22.jpgFeu23.jpg
クレイジーホース・ダンサーに変身したビヨンセ

 ビヨンセが挑戦したのは「Upside Down」「Legmania」「Scanner」「Lay, Laser, Lay」「Rougir De Desir」「Jungle Fever」の6演目。このうち3演目は『ファイア by ルブタン』にも登場するので、見比べてみると面白いだろう。ヴィデオ内では断片的にしか見られないが、どれもさすがのハマり具合だ。クレイジーホースのショウには、過去にディタ・フォン・ティース、アリエル・ドンバール、パメラ・アンダーソン、カルメン・エレクトラ、クロティルド・クローといったスターたちがゲスト出演している。ビヨンセが出演する特別公演を観てみたい……というのはさすがに贅沢な望みか。客席にはシガーを吹かしながら一人でショウを眺めるジェイ・Zの姿。要するに、これはビヨンセが夫のためだけに用意した特別なショウなのだ。ヴィデオを制作した経緯を彼女はこう説明する。

「婚約した日がちょうど夫の誕生日で、私は彼をクレイジーホースに連れていった。“すごい、この娘たちイカす!”って思ったわ。今まで見た中で最高にセクシーなショウで、“私もこのステージに立てたらな、自分の夫のためにこれを演じられたらな”と思った。それでこのヴィデオを作ったわけ(笑)」(30 December 2013, "Self-Titled" Part 4. Liberation

 “あなた好みの女になりたいの”と歌われる「Partition」。ビヨンセがクレイジーホース・ダンサーに扮する場面は、豪邸内で夫と向き合って朝食をとる貞淑な妻ビヨンセの性的幻想として展開する。平穏な朝の食卓で新聞を読む夫をビヨンセが意味深な表情で見つめる最終場面、そこで聞こえてくる“チーン、チーン……”という奇妙なベルの音は、ルイス・ブニュエル『昼顔』(1967)の引用のように思われるが、どうだろう。ビヨンセとスーパーモデル軍団ジョーダン・ダン、ジョーン・スモールズ、シャネル・イマン)の最強タッグが見られる激クールな「Yonce」とあわせて、私のお気に入りのヴィデオだ。




 というわけで、ビヨンセ・ファンにもお薦めの『ファイア by ルブタン』。都心での3D上映は終わってしまったが、公式サイトで上映スケジュールを見ると、首都圏外での上映はまだまだこれからのようだ。音楽ファン、ミュージカル・ファン、男を誘惑するコツを知りたい女性から、単にオッパイが見たい男性まで、色んな人にとって“秘かな愉しみ”になること請け合いのクレイジーホース・パリ。この機会に是非、劇場で!


追記('14年2月28日):
Feu25.jpg

 '14年1月22日に発表されたジャン=ポール・ゴルチエの'14年春夏オートクチュール・コレクションには、BGMにクレイジーホース・パリのオリジナル・サウンドトラックが使用されている。ランウェイにはゲスト・モデルとしてディタ・フォン・ティース(相変わらずウェストが超細い!)も登場。ルブタンと思われる赤い靴底のハイヒールを履いている。このショウはクレイジーホースのファンも必見だ。



関連記事:
Sade @ MGM Grand Garden Arena 2011 (part 5)
('11年9月、ラスベガス、MGMグランドでのクレイジーホース・パリ鑑賞記。ショウを観た日の晩、宿泊先のモーテルで私は奇遇にもビヨンセに遭遇していた)
Addicted to the 80s──ゴルチエ2013年春夏コレクション
Life is a Carnival!──ゴルチエ2014年春夏コレクション

| Dance to Jazz and All That Jazz | 04:10 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT