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ジェフ・ミルズの時間旅行



 クレイジーホース・パリの映画『ファイア by ルブタン』を紹介したついでに、同じパリの老舗キャバレー、ムーラン・ルージュ関連の話題をひとつ。と言っても、本店のショウの話ではなく、ムーラン・ルージュが併営するクラブ、ラ・マシン・デュ・ムーラン・ルージュでジェフ・ミルズが'14年1月31日に行った〈Time Tunnel〉というショウの話である。そこで彼がまさかの大ネタをプレイしているのだ。


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 〈Time Tunnel〉は、ミニマル・テクノ界の重鎮、ジェフ・ミルズがこのところヨーロッパで断続的に行っているオールナイトのクラブ・イベントである。彼のDJプレイを中心に、映像、ゲスト・ダンサーによるライヴ・パフォーマンスなど、様々な出し物をフィーチャーしながら自由自在に時空を行き来し、ダンス・ミュージックの過去、現在、未来を探求するというコンセプトのショウのようだ。かつて日本でも放映されていたアメリカのSFテレビドラマ『タイムトンネル(The Time Tunnel)』(1966〜1967)に触発されたものらしく、ステージの壁には同ドラマに登場するタイムトンネルを思わせる巨大な渦模様のイメージが掲げられている。ミルズのこのショウは、彼のレーベル、Axis Recordsの設立20周年記念イベントとして'12年11月23日にラ・マシン・デュ・ムーラン・ルージュで第1回が行われた後、内容を変えて'13年5月31日に同会場で第2回が行われ、今回はシリーズ第3回となる。

 23時から朝6時までのショウの間、〈Time Tunnel〉は1時間ごとに様々な年代にタイムスリップする。ある時は1977年のスタジオ54、ある時は1845年のバリ島、また、ある時は5005年の海王星……という具合に、ミルズのタイムトンネルが通じる時代や場所は実に様々である。'14年1月31日に行われた第3回〈Time Tunnel〉では、その中に1946年のジャズ時代に飛ぶ“1946, Jazz”と名付けられたパートがある。そこでミルズはVJを披露しているのだが、その際に彼が取り上げた映像ネタというのが……。

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ジェフ・ミルズ meets ニコラス兄弟──“未知との遭遇”的衝撃!

 なんと、ニコラス兄弟(笑)。しかも、『ストーミー・ウェザー』(1943)の超必殺ナンバー「Jumpin' Jive」だ。ジェフ・ミルズとニコラス兄弟。何なんだ、この意外すぎる組み合わせは!

 YouTubeにこのパフォーマンスの様子を収めた約12分のオーディエンス動画が投稿されている(上の画像にリンク)。実際に動画を見てもらえれば分かるが、ここでミルズは「Jumpin' Jive」の映像にテクノ・ミュージックを合わせているのではなく、映画のオリジナル音声をそのまま出力しながら映像を操作している。リアルタイムで任意の部分をループさせたり、別の映像を瞬間的に差し込むなど、DJが音盤でやることを映像でそのままやっているのである。キャブ・キャロウェイの歌パートから後半のニコラス兄弟のダンス・パートまで、映像を丸ごと流しながら途中で適当に手を加える感じだ。

 で、このVJが面白いかというと、そうでもない(笑)。何もしないで普通に映像を流した方がよっぽど面白いんじゃないかという気が強くするが……それだとただの上映会になってしまうので、こういうことになったのだろう。正直、パフォーマンスとしてはかなりヘボいが(ミルズのプレイを“ヘボい”とか言うとバチが当たりそうだが)、彼がこのような形でニコラス兄弟を現代の観客に紹介しているというのは嬉しい驚きである。

 「Jumpin' Jive」の後は、4人の黒人男女がリンディホップを踊る映像が続く。これはディジー・ガレスピーの映画『Jivin' In Be-Bop』(1946)に出てくる「Dynamo A」の場面だ。『Jivin' In Be-Bop』は当時よくあったレヴュー形式の黒人映画のひとつで、ガレスピーの他にも様々な歌手やダンサーが登場する面白い作品である。個人的には、タップ・ダンサーのラルフ・ブラウンが出演し、「Ornithology」で最高にゴキゲンなタップを披露していることで印象深い(歴史的傑作ミュージカル映画『ストーミー・ウェザー』については、過去記事“The Nicholas Brothers (part 2)”、または“The Incomparable LENA HORNE”を参照)。「Jumpin' Jive」とこのリンディホップ映像をわざわざ繋げる意味もいまいち分からなかったりするのだが、ジェフ・ミルズがやっているという意外性も含め、試みとしては面白いと思う。YouTubeで他のオーディエンス動画を見ると、『Hellzapoppin'』(1941)の有名なリンディホップ場面に合わせてテックハウス調の曲をプレイしている様子も確認できる。

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ダンス・パフォーマンスも飛び出す〈Time Tunnel〉

 “1946, Jazz”のコーナーでは、実際のステージ上で燕尾服姿の黒人ダンサーによる生パフォーマンスもあった。ミルズがプレイするエレクトロ・スウィング調の曲に合わせて踊っている(これもいまひとつパッとしなかったりするのだが)。後ろ向きに走るようにステップするスライド技(“ランニング・バックスライド”とでも呼ぶべき動き。この動画の2分20秒過ぎで最高の手本が見られる)、ムーンウォーク、スプリットなどを披露して観客を沸かせているが、残念ながらタップは聴けない。曲に合わせてタップを踏み、ミルズのプレイとサウンド面でも絡んでくれると更に面白いのだが……。このジャズの部は是非とも1時間分の全長版を観てみたいところだ。


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ジェフ・ミルズ作品──『METROPOLIS』(2000)と『THREE AGES』(2005)

 ジェフ・ミルズは映画マニア──特にSF映画好き──としても有名で、過去に『メトロポリス』(1927)、『キートンの恋愛三代記(Three Ages)』(1923)、『Cyborg 2087』(1966)、『ミクロの決死圏(Fantastic Voyage)』(1966)といった映画のために独自のサントラ盤を制作したり、『メトロポリス』と並ぶフリッツ・ラングの無声SF映画『月世界の女(Frau im Mond)』(1929)等にライヴで音を付ける“シネミックス(Cinemix)”というショウを行うなど、映像と密接に結びついたSF志向のコンセプチュアルな音楽活動を展開してきた。架空のサントラ制作では飽きたらず、'00年代半ばからは独自の物語を持った“Sleeper Wakes”というSFコンセプト・アルバムをシリーズで発表し、自ら宇宙の旅にまで出ている。今回の〈Time Tunnel〉というショウも、そうした宇宙規模の活動の延長線上にあるのだろう。

 私はテクノ・リスナーではないので、ジェフ・ミルズのキャリアや音楽については大雑把な知識とイメージしか持っていない。所有しているアルバムも『METROPOLIS』1枚だけだったりする。門外漢には何を聴いても同じような音に聞こえるのだが、映像や物語性を伴ったこの手のコンセプチュアルな音楽作品にはとても興味を引かれる。〈Time Tunnel〉では、空間軸に時間軸を加えて様々な時代の音楽にアクセスし、これまで以上に表現の可能性を広げようとしているようだ。“ここではないどこか”に思いを馳せながら、新たな歴史を開拓するジェフ・ミルズ。音楽性こそ異なるが、切り口としてはPファンクやジャネル・モネイ作品にも通じる面白さがあると思う。


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JEFF MILLS presents TIME TUNNEL #2
@ La Machine du Moulin Rouge, 31 May 2013
#1 - Studio 54 (1977)
#2 - Bali Dance Good Luck (1845)
#3 - The Planet Neptune - The Aquatic Ball (5005)
#4 - Michael Jackson Review (1986)
#5 - The Lunar Surface (8991)
#6 - Dark Matter (7 millions avant J.C)

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JEFF MILLS presents TIME TUNNEL #3
@ La Machine du Moulin Rouge, 31 January 2014
23h00 - 1987, Rave Era
00h00 - 1910, The Moon
01h00 - 1973, Robot w/dancers
02h00 - 9999, Black Hole
03h00 - 1946, Jazz
04h00 - 4067, Alpha Centauri
05h00 - 55.000, Beyond

 参考までに〈Time Tunnel〉の第2回と第3回のプログラムを掲載しておく。第2回では“Michael Jackson Review”というコーナーが設けられ、MJの物真似ダンサーによる生パフォーマンスもあったようだ。ジェフ・ミルズ、面白いことやってるなあ。



続き記事:
2013年宇宙の旅

関連記事:
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The Incomparable LENA HORNE
takeSomeCrime──地下室のクール・キャット
未来はすでに始まっている(ジャネル・モネイ関連記事目録)

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