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Maxine Ashleyの“勝手にしやがれ”

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PERPETUAL NIGHTS (2014)
Artist: Maxine Ashley | Director: Tragik

 ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』(1960)を勝手に映写しながら歌っているこの子は、ニューヨーク出身の新人R&B歌手、マキシン・アシュリー。ヴィデオではセミロングの黒いボブのウィグをつけて、ちょっとアンナ・カリーナ風のファム・ファタールを気取っていたりもする。

 『勝手にしやがれ』が引用されている理由は、沢田研二「勝手にしやがれ」(1977)と同様、恐らく単純に気分的なもので、特に深い意味はないと思われる。このヴィデオには、最近やたらよく見かける、ヴィヴィアン・ウェストウッドのバカでかい帽子を被った兄ちゃん(既にオッサンか)も出ている。あんた、どこにでもいるな! 彼はこの曲のプロデューサーでもある。


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MOOD SWINGS
Digital: Krucia Noise MA1001, 1 October 2013

Between You & I / By Your Side / Mary (Prelude) / Perpetual Nights / In My Songs (Interlude) / Glory Box / Reciprocity / A Minute Of Moments / Bonus Track: Here We Are

Produced by Kerry "Krucial" Brothers, except "Mary" and "Here We Are" by Maxine Ashley, "Perpetual Nights" by Pharrell Williams, "Reciprocity" by Zeke MacUmber, "A Minute Of Moments" by The Outsyders

 生まれも育ちもニューヨークはブロンクス、エキゾチックな容姿のプエルトリコ系アメリカ人、マキシン・アシュリー。'14年2月17日に公開された上掲の“勝手にしやがれ”ヴィデオに添えられている公式プロフィールによると、現在20歳。'13年秋にデビューEP『MOOD SWINGS』を発表した(もちろん、勝手に聴きやがれの無料配布)。ジャケ画像の気の強そうなルックスを見る限り、M.I.A.、ネナ・チェリー、あるいは(初期の)ケリスあたりに近い印象を受ける。彼女の短いキャリアを掘っていくと、それもあながちハズレではないことが分かるのだが、このデビューEPは、そうした女傑たちとはまた違う方向に舵が取られていて面白い。

 メイン・プロデューサーは、アリシア・キーズの長年の音楽パートナーであるケリー“クルーシャル”ブラザーズで、EP自体も彼のレーベル、Krucia Noiseから発表されている。全体的には、昨今のインディR&Bの流れを汲んだ浮遊感のある折衷的なサウンドに、トリップホップのムーディーさを加味したような雰囲気が特徴と言えるか。ロックやエレクトリック・ポップ色も見られるが、“ビヨンセの歌真似をするソランジュ”といった感じのマキシン嬢のしなやかで明朗なヴォーカルが、オーセンティックなR&B感覚で全体にきちんと筋を通しているところに好感を覚える。

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ライオン・ベイブ「Treat Me Like Fire」(2012/監督:Lucas McGowen)。ガオ〜!

 1曲目「Between You & I」でまずビックリ。イントロのループがライオン・ベイブ「Treat Me Like Fire」そのまんまだ(最初、サンプリングかと思ったが、聴き較べてみたら違った)。ライオン・ベイブ Lion Babe は、ヴァネッサ・ウィリアムズの娘、ジリアン・ハーヴェイ Jillian Hervey と、ルーカス・グッドマン Lucas Goodman というプロデューサーによって結成されたニューヨークのインディR&Bデュオで、'12年末に発表されたデビュー曲「Treat Me Like Fire」が、“アルーナジョージに対するアメリカの返答”などと言われて当時かなり評判になった。ポスト・ダブステップを通過したゆがんだ'90年代R&Bルネサンスの一種なのだが、“ライオンちゃん”というバカっぽいユニット名や、実際にライオンの格好をしたジリアン嬢の徒花感満点のキャラに得難いポップさがあり、何となくスカした感じのするアルーナジョージよりも私はずっと好きだった(曲もモータウンばりに激キャッチー。その後、彼らは新曲を発表しておらず、本当に徒花になりつつある)。その「Treat Me Like Fire」を下敷きにしたと思しき「Between You & I」は、マキシン嬢の“ビヨンジュ”なヴォーカルがライオン・ベイブ以上にメロディアスな歌を紡ぎ、小粒ながらも、オルタナR&Bをポップ・フィールドに落とし込むまずまずの佳作になっている。この1曲目が彼女の基本的な方向性を示唆しているように思う。

 エキゾチックでアンニュイなトリップホップ調の「By Your Side(シャーデーとは同名異曲)、牧歌的なサイケ・ポップ調の小曲「Mary」。見事に王道を踏み外した曲が続くが、彼女のオルタナティヴ志向が最も如実に現れているのは、何と言ってもポーティスヘッド「Glory Box」(1994)のカヴァーだろう。

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マキシン・アシュリー「Glory Box」(2013/監督:JL Brown)

 '13年9月にEPからの先行曲としてヴィデオが公開された「Glory Box」は、アイザック・ヘイズ「Ike's Rap II」のループを敷き、原曲のサウンドを忠実に再現しながらヴォーカルだけR&B調にしたカヴァーである。マーシャ・アンブロージアスが、'11年の1stソロ・アルバムでポーティスヘッド「Sour Times」を、やはり元ネタのラロ・シフリン「Danube Incident」(『スパイ大作戦』サントラ曲)を使いながら忠実にカヴァーしていたのを思い出す。マーシャはJ Records在籍、マキシンはクルーシャル制作で、いずれもアリシア・キーズと繋がっているのが面白い。また、マキシンの「Glory Box」とほぼ同時期に、ザ・ウィークエンドがポーティスヘッド「Machine Gun」をネタ使いした「Belong To The World」を発表した点も興味深い。ザ・ウィークエンドは、鼻歌っぽい歌メロのセンスやシニカルな歌詞が意外とモリッシーを思わせたりするのだが(実際、彼は現代の“R&B版モリッシー”かもしれない)、マキシンがお気に入りのアーティストとして、ビヨンセとあわせてザ・スミス(!)を挙げているのにはギャフンと言うしかない。ビヨンセとザ・スミスを同時に好むというのは、昔では考えられないセンスだ。ジャンルの折衷や越境はどんどんスゴいことになっている。

 終盤の「Reciprocity」「A Minute Of Moments」はポップ/ロック色が強い出来で、別に悪くはないのが、どこにでもありそうな感じであまりパッとしない。むしろ、最後にボーナス収録されている「Here We Are」の弾け具合が良い。クリスタル・ウォーターズ「Gypsy Woman」(1991)の“La da dee la da da”のリフレインを引用した自己プロデュースのハウス曲で、全体の流れからすれば異色だが、ソランジュ似の可憐でポップな歌声が4つ打ちに気持ち良く乗っていて爽快だ。

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マキシン・アシュリー「Perpetual Nights」(2014/監督:Tragik)

 キャラが定まりそうで定まらないこのデビューEPのベスト・トラックは、結局のところ、ファレル・ウィリアムズが制作した「Perpetual Nights」ということになる。“1、2、3、ハイ”の単刀直入な4つ打ちイントロからファレル印。まろやかなエレピとチープなホーン音を使ったジャジー&メランコリックなR&Bナンバーで、曲調としては割と地味なのだが、迷いのない明快なメロディ、パーカッシヴでファンキーなビートが抜群の立ち具合で、EP収録曲の中では突出して印象に残る。マキシンも伸び伸びと気持ち良さそうに歌っていて、艶っぽい歌声がとても自然で魅力的だ。さすが絶好調男、ファレル。

 現在はクルーシャルのレーベルに所属しているが、マキシン・アシュリーは実はもともとファレルに見出され、彼のレーベル、i am OTHERと契約していた。マキシンが音楽業界入りしたそもそものきっかけは、彼女が趣味でYouTubeに投稿していた“歌ってみた”動画(素人が有名曲を歌う自撮り動画)。それがイギリスの音楽プロダクション・チーム、Xenomaniaの目に留まり、彼女は同チームに在籍していたティム・パウエルというソングライターが書いたアレックス・ガウディーノ(“イタリアのデヴィッド・ゲッタ”と言われるDJ/プロデューサー)のヒット曲「I'm In Love (I Wanna Do It)」(2010)にゲスト・ヴォーカリストとして抜擢された。そこでファレルに目を付けられ、i am OTHERと契約。ファレル制作のザ・クール・キッズ「Summer Jam」(2011)への客演を経て、'12年に同レーベルから「Cookieman」という曲で本格的にソロ歌手デビューを果たした。

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マキシン・アシュリーのデビュー・シングル「Cookieman」(2012)

 ファレルが制作したマキシン嬢のデビュー曲「Cookieman」は、仏ファッション・ブランド、ランバンの'12年春夏キャンペーンCFに採用され、当時それなりに注目を集めた。ジャケットの雰囲気からも想像がつくと思うが、M.I.A.っぽいバイレ・ファンキ調のガチャガチャした曲で、『MOOD SWINGS』の路線とはまた全然違う。それ以前の客演曲「I'm In Love」「Summer Jam」で、マキシンはもろにビヨンセ風のヴォーカルを披露している。彼女がビヨンセのエピゴーネンから脱するための最初の試みが、つまり、これだったのだろう。本人がもっとオーセンティックなR&B路線を望んだのか、あるいは、ファレルに何か考えがあったのか知らないが、最終的に彼女はクルーシャルのレーベルに里子のような形で引き渡され、現在に至っている。

 マキシンがビヨンセから強い影響を受けていることは、彼女のYouTubeチャンネルを覗くとよく分かる。13歳の時からYouTubeに“歌ってみた”動画を投稿し始めたというマキシンだが、最初のアカウントは消滅したらしく、現在のチャンネルにある最古の動画は、新たにチャンネルを作ったことを告知する「Update New Channel」という'09年7月22日投稿の動画。その翌月、'09年8月17日の動画で彼女はビヨンセ「Sweet Dreams」を歌っているのだが、これが激似だ。ビヨンセの歌真似をやらせたら彼女はピカイチである(ビヨンセ楽曲はその後も度々取り上げられている)。ビヨンセ節は抜け切らないものの、クルーシャルのもとで少しずつ個性を固めつつあるマキシン。彼女は今後、プロとして一体どういう歌手になっていくのだろう?

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マヘリア・ジャクソン『THE WORLD'S GREATEST GOSPEL SINGER』(1955)

 デビューEP『MOOD SWINGS』の中盤には「In My Songs」という47秒間の短いインタールードが収録されている。このトラックはマキシンによる録音ではなく、マヘリア・ジャクソン『THE WORLD'S GREATEST GOSPEL SINGER』(1955)の冒頭を飾るトーマス・A・ドーシー作のゴスペル曲「I'm Going To Live The Life I Sing About In My Song」の引用である。マヘリア・ジャクソンがピアノ伴奏で歌うオリジナル音源を、何も手を加えずにワンコーラス分そのまま収録しているのだ。マヘリアは次のように歌っている。

  I'm gonna live the life I sing about in my song
  I'm gonna stand for right and I always shun the wrong
  If I'm in the crowd, if I'm alone
  On the streets or in my home
  I'm gonna live the life I sing about in my song
  
  私は自分の歌う通りに生きていく
  善のために身を捧げ 悪には決して与しない
  群衆の中でも 独りでも
  街角でも 家の中でも
  私は自分の歌う通りに生きていく


 マヘリア・ジャクソンの信念と歌手魂が込められた壮絶な歌。これを座右の銘のように引用したマキシン・アシュリー嬢のガッツに期待したい。



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