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5月の歌──When Joanna Loved Me




 5月が好きだ。空は晴れ晴れとして、木々は青々と茂り、暑くもなく寒くもなく、外を歩いているだけで気持ちがいい。特に初旬は最高である。一歩外へ出ると、そのままどこかへ遠出したくなる。この季節が嫌いな人はいないだろう。

 先月末、ウォーカー・ブラザーズの「The Sun Ain't Gonna Shine Anymore」を和訳した後、私はスコット・ウォーカーの1stソロ・アルバム『SCOTT』(1967)を棚の奥から引っ張り出し、久しぶりに聴いた。その中に「When Joanna Loved Me」という曲が入っている。5月という季節の美しさ、温かさを、これ以上ないというくらい瑞々しく鮮やかに描いた名作だ。5月に因んで、今回はこの歌の拙訳をお届けしたい。


 When Joanna Loved Me
 ジョアンナの思い出
 (Robert Wells/Jack Segal)
 
 Today is just another day
 Tomorrow is a guess
 But yesterday
 Oh what I'd give for yesterday
 To relive one yesterday
 And its happiness
 
 今日は今日の風が吹く
 明日の風はわからない
 しかし 昨日
 ああ かけがえのない昨日よ
 昨日というあの日の
 あの幸福が蘇ったなら
 
 When Joanna loved me
 Every town was Paris
 Every day was Sunday
 Every month was May
 
 ジョアンナと送った愛の日々
 どの町もパリだった
 どの日も日曜だった
 どの月も5月だった
 
 When Joanna loved me
 Every sound was music
 Music made of laughter
 Laughter that was bright and gay
 
 ジョアンナと送った愛の日々
 どんな音も音楽に響いた
 笑い声が奏でる音楽
 明るく朗らかな調べ
 
 But when Joanna left me
 May became December
 
 だが ジョアンナが去って
 5月は12月になった
 
 But even in December
 I remember
 Her touch
 Her smile
 And for a little while
 She loves me
 
 しかし12月になっても
 忘れはしない
 彼女の温もり
 彼女の微笑みを
 そして ほんの束の間
 彼女は僕を愛してくれる
 
 And once again it's Paris
 Paris on a Sunday
 And the month is May
 
 そこは再びパリ
 日曜のパリ
 それはあの5月
 
 
 「When Joanna Loved Me」は、ロバート・ウェルズ(作詞)とジャック・シーガル(作曲)によって書かれた'64年発表のポピュラー・ソング。もともとトニー・ベネットが歌った曲で、スコット・ウォーカー版はそのカヴァーということになる。スコットの録音は、マイケル・サーン監督/ジュヌヴィエーヴ・ウエイト主演のカルト映画『ジョアンナ』(1968)の劇中でも使用された。ややこしいことに、スコット・ウォーカーには全く同じ名前の女性を歌った「Joanna」という持ち歌もあるのだが(ジャッキー・トレント&トニー・ハッチの書き下ろし曲。'68年にシングル発売され、スコットにとって最大のヒットとなる)、私が好きなのは「When Joanna Loved Me」の方である。

 聴けば分かるが、「When Joanna Loved Me」は正確には5月の歌ではない。歌の現在時は12月であり、主人公である“僕”はその時点から過ぎ去った5月を回想している。この視点によって、5月という季節は実際の5月以上に美しく歌の中に描き出される。

 失ったものを万感の思いで回想する歌詞は、“ふるさとは遠きにありて思ふもの”という室生犀星の詩句を連想させる。犀星の詩はその後に“〜そして悲しくうたふもの”と続く。オリジナルのトニー・ベネット版はまさにそんな感じなのだが、スコット・ウォーカー版では美しかった“5月”を鮮明に思い出すことに重点が置かれていて、情景喚起力がとにかく半端でない。“5月”がいかに素晴らしい季節であったかが、その繊細で甘美な歌唱、きめ細かなオーケストラ編曲からありありと伝わってくるのである。悲哀が滲むトニー・ベネット版、そして、印象主義の画家のように美しく記憶を描き出すスコット・ウォーカー版。どちらが好きかは人それぞれだが、私としてはスコット・ウォーカーの解釈に最も感動を覚える。

 この歌を愛したトニー・ベネットは、曲名に因んで、'70年に生まれた自分の娘に“ジョアンナ”という名前を付けている。聴く度に思うのだが、ポール・マッカートニーはこの歌──'64年のベネット版──を聴いて「Yesterday」(1965)を作詞したのではないだろうか? 今月来日するポール卿に“Do you remember when Joanna loved you?”と訊いてみたい。


※私が持っている『SCOTT』の日本盤CD(マーキュリー PHCA4015/原詩のみ掲載で対訳なし)では、「When Joanna Loved Me」の邦題が「ジョアンナが恋した時」とされている。映画『ジョアンナ』に使われた関係でそうなったのかもしれないが、とんちんかんなので、ここでは適当に別の邦題をつけた。



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