2017 06123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 08

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

Scott Walker──いとしのマチルダ




 前回、“5月の歌”としてスコット・ウォーカーが歌う「When Joanna Loved Me」という曲を紹介した。そのおまけとして、同じく『SCOTT』(1967)収録曲で、アルバム冒頭を飾る「Mathilde」を紹介したい(彼がこの2曲を歌う素晴らしいテレビ出演映像があるので)

 「Mathilde」は、ベルギー出身のシャンソン歌手、ジャック・ブレルの'64年発表曲。オリジナル版は仏語だが、スコットは英語で歌っている。彼は、米シンガー・ソングライター、モート・シューマンの英訳によるジャック・ブレル楽曲を自身のソロ・アルバムで数多く取り上げた。英語圏にブレル作品を広く知らしめたことは、スコット・ウォーカーの大きな功績のひとつである。

 仏語を解さない私も、やはりスコット・ウォーカーの解釈を通してジャック・ブレルを知った。涎や鼻水を垂らしながら汗だくで歌うブレルの激しさ、無様さに較べると、スコットの歌唱は品が良すぎると言うか、カッコ良すぎると言うか、いかにもスマートである。純粋にブレルが好きな人にとっては物足りないと思うが、英語圏におけるブレル解釈の第一人者、また、ブレル作品を自分のものにした数少ない歌手のひとりとして、偉大であることに違いはないだろう。

 「Mathilde」は狂おしい恋の歌である。かつて自分を破滅させ、ボロボロにしたマチルダという宿命の女が帰ってくる。自分を捨てた彼女のことを忌々しく思う一方、主人公は歓喜に身を震わせる。愛の囚人と化した男のジレンマを生々しく描いた名作だ。原文は、自分の“心(heart)”と“両手(hands)”を擬人法で表現している点が秀逸だが(ここに主人公の葛藤がよく表れている)、拙訳では自分に言い聞かせるような口調に若干砕いて処理した。僅か2分半で表現される壮絶な感情のドラマは、それでも十分に堪能して頂けると思う。




 Mathilde
 (Jacques Brel/Gerard Jouannest/Mort Shuman)
 
 Mama, do you see what I see
 On your knees and pray for me
 Mathilde's come back to me
 Charley, don't want another beer
 Tonight I'm gonna drink my tears
 Mathilde's come back to me
 Go ask the maid if she heard what I said
 Tell her to change the sheets on the bed
 Mathilde's come back to me
 Fellas, don't leave me tonight
 Tonight I'm going back to fight
 Wretched Mathilde's in sight
 
 ママ 一大事だ
 僕のために祈ってくれ
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 チャーリー ビールはもう要らない
 今夜は飲めるほど涙を流すから
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 女中は僕の言いつけを聞いてるか
 ベッドのシーツを張り替えるよう言ってくれ
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 君たち 見ていてくれ
 今夜こそ決着をつけてやる
 哀れなマチルダはすぐそこだ
 
 My heart, my heart, stop beating so
 Just make as if you didn't know
 That Mathilde's come back to me
 My heart, I don't want you to say
 She's lovelier than when she went away
 Mathilde, who's come back to me
 My heart, stop being overjoyed
 Remember you were once destroyed
 By Mathilde, who's come back to me
 Fellas, please don't go away
 Tell me that I mustn't stay
 Mathilde's coming back today
 
 静まれ 高鳴るこの胸よ
 平静を保つんだ
 マチルダの帰りなど知らないかのように
 僕を置いて出ていった彼女を
 いっそう愛らしいなどと思うな
 あのマチルダが帰ってくるんだ
 浮かれるんじゃない
 打ちのめされたことを忘れたか
 あのマチルダが帰ってくるんだ
 君たち 行かないでくれ
 まずいことになると言ってくれ
 今日 マチルダが帰ってくる
 
 My hands, you'll start to shake again
 When you remember all the pain
 Mathilde's come back to me
 You'll want to beat her black and blue
 But don't you do it, I beg of you
 Mathilde's come back to me
 My hands, remember all the years
 Remember when you caught my tears
 Mathilde's come back to me
 My hands, you'll want to touch her now
 But please try and be strong somehow
 Mathilde's here, she's coming now, now
 
 数々の痛手を思い出せば
 この両手はまた震え出す
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 こてんぱんに伸してやりたいが
 ダメだ そんなことはできない
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 思い出せ あの年月
 この手で涙を拭ったあの日々を
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 きっと彼女を愛撫したくなるだろう
 だが どうにか堪えるんだ
 マチルダが帰ってくる いま 帰ってくる
 
 Mama, can you hear me yell
 Your baby boy's gone back to hell
 Mathilde's come back to me
 Charley, champagne right away
 I know you've been saving it for the holiday
 But Mathilde's come back to me
 Go ask the maid if she heard what I said
 Tell her to put the best sheets on the bed
 Mathilde's come back to me
 My friends, don't count on me no more
 I've gone and crashed through heaven's door
 My sweet Mathilde's here
 Once more, once more
 
 ママ この叫び声が聞こえるか
 可愛い息子は地獄へ逆戻りだ
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 チャーリー シャンペンはどうした
 取っておきのやつがあるだろう
 マチルダが帰ってくるんだから
 女中は僕の言いつけを聞いてるか
 ベッドに上等のシーツを張るよう言ってくれ
 マチルダが僕のもとに帰ってくる
 みんな 僕にはもう取り合うな
 僕は天国の扉を突き破ってしまった
 愛しいマチルダが帰ってきてくれた
 もう一度 もう一度


※埋め込み動画は、'67年9月19日にBBC放映のダスティ・スプリングフィールドの歌番組〈DUSTY〉にゲスト出演した際の映像。「Mathilde」「When Joanna Loved Me」の2曲を披露(スタジオ録音版は本記事トップの画像下に)。


関連記事:
Stromae──ストロマエは男前
Stromae──死ぬまでテ・キエロ
Oxmo Puccino──黒いジャック・ブレル
The Walker Brothers──太陽はもう輝かない
5月の歌──When Joanna Loved Me

| Man's Man's Man's World | 00:45 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT