2017 09123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 11

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

ミスター・ブラウンの“ええじゃないか主義”



 先日紹介したマイケル・ジャクソンの未発表曲「Xscape」。あのファンク・ナンバーを聴いて、私は御大ジェイムズ・ブラウンのある曲を思い出した。JBにも同じように“脱出”をテーマにした曲があるのだ。ミスター・ブラウンの“Xscape”とはいかに?


JB_Xscape2.jpg


 『HOT PANTS』(1971)に収録されている「Escape-Ism」。当時のJB作品の典型であるミッド・テンポのユルいファンクだ。アルバムには“Part 1”と“Part 2”に分割したハイライト版で収録。同様のエディットでシングル発売もされ、全米ソウル・チャートで6位、ポップ・チャートで35位のヒットも記録した。基本的にJBの曲は尺が長いが、「Escape-Ism」の全長版は実に19分にも及ぶ(『HOT PANTS』CDにボーナス収録)

 表題の“escape-ism”とは何なのか。“escape(逃避、脱出)”と“ism(主義)”がハイフンでそのまま連結している。ほぼ同じ綴りの“escapism”という言葉を辞書で引くと、“現実逃避(癖)”とある。例えば、宝クジで一等を当てて会社を辞める、という人生プランを真顔で話す同僚に向かって、ひとこと“That's escapism(そんなの夢だ)”。しかし、“Listening to James Brown is my escapism”と言えば、それは“気晴らし(趣味)”という意味になる。映画を観ること、本を読むこと、楽器を演奏すること、スポーツをすること、パチンコをすること、ゲームをすること、ブログを書くこと……これらもまた“escapism”の一種に違いない。“escapism”は“(良くも悪くも)現実を忘れさせてくれるもの/こと”、または、それに没入している状態を示す言葉である。

 JBの曲名表記は“escape-ism”であり、通常の“escapism”とは微妙に異なる。これはもしかすると、“escape”を“xscape”と表記するのと同じことかもしれない。消極的な“逃避”ではなく、積極的な“脱出”であることを示唆しているのではないか。深読みかもしれないが、実際に「Escape-Ism」を聴くと、そんな気もしてくるのである。

 「Escape-Ism」に歌詞と呼べるものは、ない。ご存じの通り、JBの曲の多くは常識的な意味でのメロディや歌詞を持たず、単純なフックラインや掛け声、バンドメンバーたちへの指示の声などで成り立っているのだが、この曲は特に構成が無茶苦茶である。

 演奏が始まって間もなく、一応、“escape-ism”に関するJBの説明がある。歌っているわけではなく、バンドのメンバーたちに向かって普通に喋っている。こんな風に。

  こないだの晩 誰かとこういう話をしてた
  今 みんなは何を求めてるんだろう、と
  みんなが求めてるのは“escape-ism”だ ハッ!
 
 「Escape-Ism」内に登場する“escape-ism”に関する説明らしき説明は、これだけである。あとはひたすらバンドのメンバーたちとダベったり、メンバーの一人ひとりに出身地を訊ねたり、適当に掛け声を入れたり、思いつきでオルガン・ソロを弾いてみたり、ミスター・ブラウンは延々と好きなことをやっている。それが19分続くのだ。自由すぎる。

 JBは“escape-ism”が何であるかを言葉でろくに説明していない。が、答えは明白である。“escape-ism”とは、例えば、常識にとらわれることなく自由に音楽を作ることだろう。例えば、ボビー・バード「I Know You Got Soul」の録音前に何の気なしに始めた19分のジャム・セッションの断片をシングルとして発売し、更には、それをヒットさせてしまうことだろう。「Escape-Ism」という音楽作品自体が、その“イズム”を体現しているのだ。

 “escape-ism”とは何か? 私の理解では、それはつまり、精神を解放することである。とにかく、この世の常識や通念、掟や禁忌、自分を拘束するすべての考えから抜け出しまくるのだ。脱出主義、逸脱主義、底抜け脱線主義……“escape-ism”の日本語訳をいくつか考えてみたが、私が一番しっくりきたのは“ええじゃないか主義”である。何をやったって“ええじゃないか”。楽しければ“ええじゃないか”。JBなんだから“ええじゃないか”。ジャニーズWESTでも“ええじゃないか”。

 この考え方は応用が利く。
 
 会社をクビになりました──ええじゃないか。
 彼女が妊娠してしまいました──ええじゃないか。
 破産しました──ええじゃないか。
 覚醒剤でパクられました──ええじゃないか。
 人を○してしまいました──ええじゃないか。
 
 “escape-ism”を極めれば、人生、恐いものなしである。ハッ!

JB_Xscape3.jpg

※“escape-ism”の取り扱いには注意が必要です。脱出はほどほどに。


TO BE CONTINUED...


関連記事:
Michael Jackson──脱出

| Man's Man's Man's World | 03:15 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT