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Michael Jackson──もう12時です




 マイケル・ジャクソンのマジカル超傑作『XSCAPE』。そのベスト・トラックのひとつ「Do You Know Where Your Children Are」の拙訳をお届けする。

 『XSCAPE』で私が個人的に最も驚き、感動させられたのはこの曲かもしれない。マイケルが単独で書いた『BAD』期のアウトテイク。「Wanna Be Startin' Somethin'」のコード感と「Behind The Mask」〜「Another Part Of Me」のエレクトロ・ポップ・ロック路線が合流した曲は、まさに『BAD』期という感じだ。この未完成曲を、ティンバランドは元のデモ版の方向性をそのまま踏襲しながら、MJ度100%のサウンドで見事に仕上げた。「Slave To The Rhythm」は100%を超える出来だと思うが(ある意味、MJよりもMJらしい)、これに関してはMJ度90%でも110%でもなく、本当にどんぴしゃで100%だと思う。もしマイケルが存命で'14年にこの曲を仕上げたとしても、全く同じサウンドになっていたのではないかと思わせる。生きているとしか思えない奇跡的な完成度だ。

 サウンドこそ幻想的だが、歌詞は現実の社会問題──児童売春、児童への性的虐待──を扱ったシリアスな内容。詞作面においても、その音楽性と同様、『BAD』期らしさが見受けられる。多分、マイケルはこの歌を1本の映画に触発されて書いた。その映画とは何か?


 Do You Know Where Your Children Are
 (Michael Jackson)
 
 Father comes home from work
 And he's scared to death
 Mother cries for the kid
 And the note she read
 Father runs to the table
 He says "What's going on"
 Mother cries desperately,
 "Our little baby's gone!"
 
 仕事から帰宅して
 父親は青ざめる
 我が子を案ずる母親
 手には一通の置き手紙
 テーブルに駆け寄って訊ねる
 「どうしたんだ」
 動転しながら母親が言う
 「あの子が出ていったの!」

 Do you know where your children are?
 Because it's now 12 o'clock
 If they're somewhere on the street
 Just imagine how scared they are
 
 お子さんがどこにいるかご存じですか?
 もう12時ですよ
 どこかの路上にいるとしたら
 今頃どんなに怯えていることか
 
 She wrote that she is tired
 Of step daddy using her
 Saying that he'll buy her things
 While sexually abusing her
 Just think that she's all alone
 Somewhere out on the street
 How will this girl survive?
 She ain't got nothing to eat
 
 少女は手紙に書いていた
 義父に利用されるのが耐えられない
 物を買ってやるからと言われて
 性的虐待を受けていたのだと
 今頃 独りぼっちで
 街のどこかをさまよっているだろう
 こんな少女に生きる術が?
 食べる物もないというのに
 
 Do you know where your children are?
 Because it's now 12 o'clock
 If they're somewhere on the street
 Just imagine how scared they are
 
 お子さんがどこにいるかご存じですか?
 もう12時ですよ
 どこかの路上にいるとしたら
 今頃どんなに怯えていることか
 
 Save me
 Save me
 Save me
 Save me
 Save me
 
 助けて
 助けて
 助けて
 助けて
 助けて
 
 Now she's on the move
 She's off to Hollywood
 She says she wanna be a star
 She heard the money's good
 She gets off from the train station
 The man is waiting there
 "I'll show you where the money is
 Girl, just let down your hair"
 He's taking her on the streets
 Of Sunset Boulevard
 She's selling her body hot
 "Girl, that will take you far"
 The police come round the corner
 Somebody there told
 He's arresting this little girl
 She's only 12 years old
 
 少女は思い立ち
 ハリウッドへ向かう
 スターになりたいと言う
 金になると聞いたからだ
 電車を降りると
 駅に男が待ちかまえている
 「いい仕事を世話してやろう
  さあ 髪を下ろしてごらん」
 連れていかれるのは
 サンセット大通りの街角
 少女は自分の体を売り物にする
 「これで君も成功できるぞ」
 そこへ警察官が現れる
 誰かが通報したのだ
 小さな少女は連行されていく
 彼女はまだ12歳だった
 
 Do you know where your children are?
 Because it's now 12 o'clock
 If they're somewhere on the street
 Just imagine how scared they are
 
 お子さんがどこにいるかご存じですか?
 もう12時ですよ
 どこかの路上にいるとしたら
 今頃どんなに怯えていることか
 

 家出少女の物語である。明快な語り口ゆえ、内容に関しては何の説明も要らないと思う。“Save me”という間奏のリフレインに合いの手で入るマイケルの歌唱部分は、正確な歌詞が聞き取り不能のため割愛した(『XSCAPE』ブックレットでも割愛されている。“Save me from this living hell(この生き地獄から救って)”、“Save me, I'm tired of dad(パパにはうんざり)”などと聞こえる。ヴァース部分の客観的なストーリーテリングとは対照的に、間奏部分では主人公の少女の心情が代弁されている)

 既に知られた事実だと思うが、表題、および、サビに使われている“Do you know where your children are?”というフレーズは、アメリカの夜10時(もしくは11時)のニュース番組の冒頭で、子を持つ視聴者に向けてアナウンサーが言う決まり文句を引用したものである。番組開始と同時に“午後10時です。お子さんがどこにいるかご存じですか?(It's 10 p.m. Do you know where your children are?)”と呼びかけ、子供の夜遊び防止を親に促す。午後10時は大体10代の子供の門限に当たる時間なので、このフレーズには“午後10時です。お子さんは家に帰ってますか?”という意味合いもあるだろう。ニュースキャスターがスタジオから生で呼びかける、フレーズを表示した映像、あるいは、有名人が呼びかける録画映像がアイキャッチ的に流されるなど、メッセージの放送の仕方にはいくつかのパターンがある(実例は本記事末のYouTubeリンクを参照)

 この呼びかけが行われるのは通常10時か11時だが、マイケルの歌では更に遅い“12時”になっている。12時になっても子供が家に帰らないというのは、かなり深刻な状況である。


SHE'S ONLY 12 YEARS OLD

MJ_12Oclock2.jpg
アイリスを演じたジョディ・フォスター

 家出して売春婦になった主人公の少女が、物語の最後に“まだ12歳だった”と明かされた時、私の脳裡に浮かんだのは、ホットパンツをはいて街角に佇むジョディ・フォスターの姿だった。映画『タクシードライバー』(1976)のアイリスである。ジョディは当時13歳で少女娼婦アイリスの役を演じた。アイリスの年齢もまた12歳だった。

 ショート・フィルム「Bad」でマイケルが監督に選んだのはマーティン・スコセッシである。同じ『BAD』期に書かれた「Do You Know Where Your Children Are」が、『タクシードライバー』に触発された作品だったとしても不思議はないだろう。映画を観て感銘を受けたマイケルは、アイリスが売春婦になるに至った経緯を自分なりに想像し、彼女をモデルにしながら独自の歌を書き上げた──私にはそうとしか思えない(違うとは言わせないぞ、マイケル!)。

 もはや本人を問い詰めることはできないが、仮に『タクシードライバー』が元ネタだったとして、あの映画を観てこういう独創的な曲が作れるというのは、逆にすごいことだと思う。社会的なテーマを持った曲作り、映画的なストーリーテリング……マイケルがスコセッシから受けた影響は、私たちが考える以上に大きいかもしれない。

MJ_12Oclock3.jpg
「Bad」撮影現場のマイケルとスコセッシ

 「Do You Know Where Your Children Are」は、中絶問題を扱った同時期のボツ曲「Abortion Papers」(『BAD25』で蔵出し)と多くの点で似ている。しかし、出来はこちらの方が格段に良い。三人称の客観的な描写が強く聴き手の感情に訴えるし、ニュース番組の常套句を引用したサビもキャッチーだ。“12”という数字の掛け方も上手い。なぜこれがボツになってしまったのか。『XSCAPE』デラックス版に収録されている“オリジナル版”は、明らかにデモ録音である。音楽的に満足いく形で完成できなかったのか。「Wanna Be Startin' Somethin'」に似ていたからか。あるいは、詞の内容がアルバムの雰囲気にそぐわないと判断されたのか。理由はどうあれ、『BAD』期にこんなすごいマイケルの自作曲が眠っていたという事実に私は本当に驚いた。『BAD25』の冴えないアウトテイク集は一体何だったのか。「Just Good Friends」などという酔狂な歌(好きな人がいたらごめんなさい)を『BAD』に収録する余裕があったら、絶対にこれを入れるべきだった。


 “ご存じですか、お子さんのいる場所を”
 
 マイケルのこの問いかけは、'14年の今も全く意味を失っていない。ティンバランドの完成版で力強く歌うマイケルは、本当に生きているとしか思えない。人は死んでも、その精神は生き続ける──彼の真摯なメッセージに打たれながら、強くそう思う。



■Do you know where your children are?──米ニュース番組映像集

MJ_12Oclock4.jpg

10時のニュース 1
10時のニュース 2
10時のニュース 3
10時のニュース 4
10時のニュース 5
11時のニュース 1
11時のニュース 2
11時のニュース『ザ・シンプソンズ』篇

※アニメ『ザ・シンプソンズ』では、ホーマーがテレビで11時のニュースを見る場面にこのフレーズが登場。“11時です。お子さんがどこにいるかご存じですか?”という毎度の呼びかけに対し、“昨夜も言っただろ。知らないよ!”と答えている(笑)。

※ティンバランドがつけたシンセのリフは、ニュース番組のジングルのようにも聞こえる(意識的にそうしたのだとすれば、実に冴えていると思う)。あの素晴らしいリフを聴いて、私は同じくニュース番組のジングルに触発されたスプリームズ「You Keep Me Hangin' On」(1966)のギター・リフを思い出した。




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