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夏のユル&B特集【1】──Miguel



 暑い。毎日暑すぎる。“夏到来 絶好の季節 さあ 街へ出て踊ろう”という歌を今月の始めに紹介したが、こんな時に表で踊ったら熱中症で病院に運ばれるのがオチである。暑すぎてまるで気合いが入らないので、通りで踊るのはやめにして、私は冷房のきいた室内でユル&Bを聴いて過ごすことにした。

 “ユル&B”というのは、ここ数年ずっと流行っている新手のR&Bのことである。インディR&B、オルタナティヴR&B、エーテルR&B、PBR&B、ヒップスターR&B……といった様々な名称で呼ばれているアレだ。呼び方のひとつに“チル&B”という言葉があり、“ユル&B”はそれを和訳したものである。キメキメでイケイケでビンビンな従来のR&Bとは違う、常道を踏み外した出来損ない感、やり損ない感が漂うユルいR&B──私はそれを“ユル&B”という言葉で理解する。ユルいもので癒されたい、和みたい、まったりしたい、という気分は日本だけのものではないのだ。

 今回の特集では、ユル&Bアーティストの中から精鋭3人を取り上げ、その作品をまったり鑑賞していく。何のまとめもせず、考察もせず、各人の歌をひとつ選んで和訳するだけ、という全3回の実にユルい企画である。

 第1回に登場するのは、LA出身のミゲル。「消臭力」の少年歌手と名前が被ってやたら検索がしづらい、あのミゲルだ。ユル&B界の中でも、彼は“くまモン”に匹敵する先駆的なスターのひとりである。ナヨっとしたヘタレっぽい歌声、じっと見ているとだんだんムカついてくる、人を小馬鹿にしたようなルックスにも、正道を外れた独特のユルさが漂う。プリンスによく似たオルタナ感とアクの強さを持つミゲルは、グラミーを獲った「Adorn」(2012)に顕著な通り、かなりオーセンティックなR&B感覚の持ち主でもある。ユル&Bブームとは関係なく、今後も幅広い層から長く支持されそうな非常に完成度の高いキャラクターだ。

 和訳するのは、'14年2月に発表された彼の最新曲「Simplethings」。




 Simplethings
 (Miguel Pimentel)
 
 She said, I don't want a model
 I don't want a movie star
 You don't have to win the lotto
 I want you to win my heart
 
 彼女は言う モデルじゃなくていい
 映画スターじゃなくていい
 宝クジを当てなくてもいい
 私の心を当てて欲しい
 
 She said I just want someone true
 She said I just want someone
 
 ただ信じられる人が欲しい
 彼女は言う 私が求めるのは
 
 To smoke with me babe
 And lay with me babe
 And laugh with me babe
 I just want the simple things
 To smoke with me babe
 And laugh with me baby
 And lay with me babe
 Cause I just want the simple things
 I just want you
 I want you
 
 一緒に煙草を吸う人
 一緒に眠ってくれる人
 一緒に笑ってくれる人
 ただ単純なことを求めてる
 一緒に煙草を吸う人
 一緒に笑ってくれる人
 一緒に眠ってくれる人
 ただ単純なことを求めてる
 ただあなたが欲しい
 あなたが欲しい
 
 I said, I don't need a model
 I don't need a debutante
 Just be a tough act to follow
 You know, a free spirit, with a wild heart
 
 俺は言う モデルじゃなくていい
 若い女優じゃなくていい
 ただ降参させてくれればいい
 そう 自由な精神で 汚れなき心で
 
 I said I just want someone real, someone true
 I said I just want someone else
 
 ただ信じられる人が 本物の人が欲しい
 俺はそんな誰かを求めてる 
 
 Smoke with me baby
 Lay with me baby
 Laugh with me baby girl
 I just want the simple things
 Smoke with me baby
 Lay with me baby
 Laugh with me baby
 I just want the simple things
 I just want you
 Look at me baby
 I just want you
 You, I want you baby
 You, alright, I just want you, you
 
 一緒に煙草を吸ってくれ
 一緒に眠っておくれ
 一緒に笑っておくれ
 ただ単純なことを求めてる
 一緒に煙草を吸ってくれ
 一緒に眠っておくれ
 一緒に笑っておくれ
 ただ単純なことを求めてる
 ただ君が欲しい
 いいかい
 ただ君が欲しい
 君が欲しいんだ
 ただ君が そうさ 君が欲しいんだ
 
 Smoke with me baby
 Lay with me baby now
 Laugh with me baby
 I just want the simple things
 Smoke with me baby
 Lay with me baby now
 Laugh with me baby
 I just want the simple things
 I just want you
 I just want you
 Give it all you
 All to you darling
 I want you, I want you
 I just want the simple things
 
 一緒に煙草を吸ってくれ
 一緒に眠っておくれ さあ
 一緒に笑っておくれ
 ただ単純なことを求めてる
 一緒に煙草を吸ってくれ
 一緒に眠っておくれ さあ
 一緒に笑っておくれ
 ただ単純なことを求めてる
 ただ君が欲しい
 ただ君が欲しい
 すべてを捧げよう
 すべてを君に捧げるよ
 君が欲しい 君が欲しい
 ただ単純なことを求めてる
 
 
 「Simplethings」は、米人気TVドラマ『Girls』のサントラ盤への提供曲。歌詞・楽曲共にデビュー時のヒット「Sure Thing」を思い出させる、ミゲルらしいストレートで官能的なラヴソングだ。ミゲル自身が監督を務めたモノクロの音楽ヴィデオも公開されている。

 タイトル通りシンプルな歌だが、途中で話者が入れ替わる構成にミゲルの曲作りの巧さが光る。同じように反復される歌詞が、単なる繰り返しではなく、1番は“君”、2番以降は“俺”の独白として歌われ、男女の運命的な出会いを描き出している。

 オフ気味にミックスされたロック・ギターが、内に秘めた激しい情念を感じさせてスリリングだ。ミニマルな打ち込みビートに乗って空間いっぱいに大音量で響き渡るミゲルの歌声には、アラン・ヴェガ(スーサイド)にも似た暴力的な官能が漂う。音に広がりはあるが、解放感は希薄である。叫べば叫ぶほど、むしろ逆に孤独感や飢餓感が増していく。内に向かって沈み込むような閉塞した音像、白日夢を思わせる幻惑的で屈折したサウンド・センスは、ユル&Bの大きな特徴のひとつである。

 この曲でのミゲルの歌い込みは素晴らしい。何の迷いもためらいもないミゲルの真っ直ぐな歌声には、「消臭力」のCFと同様、誰もが心を打たれるはずだ。恐らく彼は、本当にシンプルなことを追い求めているアーティストなのだと思う。そこらのユル&B歌手とはやっぱり一味違う、と思わせてくれる「Simplethings」である。


夏のユル&B特集【2】
夏のユル&B特集【3】


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