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夏のユル&B特集【2】──Blood Orange



 猛暑を乗り切れない夏バテ脱力ピープルのための“夏のユル&B特集”。第2回に登場するのは、耳から補給するビタミンC、ブラッド・オレンジ

 ブラッド・オレンジことデヴ(デヴォンテ)・ハインズ Dev Hynes は、ヒューストン生まれ、イギリス育ち、ニューヨーク在住のマルチ音楽タレント。'00年代半ばに英ダンス・パンク・バンド、テスト・アイシクルズ Test Icicles の一員として活動した後、光速チャンピオン Lightspeed Champion の名でソロ歌手に転向。'80年代ポップ色が濃厚なソランジュ「Losing You」(2012)、スカイ・フェレイラ「Everything Is Embarrassing」(2012)のプロデュースで名を上げ、ブラッド・オレンジ名義による2ndアルバム『CUPID DELUXE』(2013)で大ブレイクを果たした。

 性別不明の自由すぎる音楽性、老若男女の誰にもアピールするポップさ、意外性のある身体の動き、名前が果実に由来する点などにおいて、彼は“ユル&B界のふなっしー”とも言うべき超強力キャラである。今回は、彼の人気を不動のものにした大傑作『CUPID DELUXE』の終幕を飾る美しいバラード「Time Will Tell」を和訳する。




 Time Will Tell
 (Devonte Hynes)
 
 Time will tell if you can figure this and work it out
 No one's waiting for you anyway so don't be stressed now
 Even if it's something that you've kept your eye on
 It is what it is
 
 やがて分かるさ 君が納得して乗り越えられれば
 誰も急かしはしないから 気楽に構えるんだ
 それがずっと君のお目当ての何かだったとしても
 それは仕方のないことさ
 
 Time will tell if you can figure this and work it out
 No one's waiting for you anyway so don't be stressed now
 Even if it's something that you've kept your eye on
 It is what it is
 
 やがて分かるさ 君が納得して乗り越えられれば
 誰も急かしはしないから 気楽に構えるんだ
 それがずっと君のお目当ての何かだったとしても
 それは仕方のないことさ
 
 And it keeps on running back
 
 幾度も胸をよぎる
 
 Finishing 8 or 9? Tell me what's the perfect time?
 Told you I'll be waiting hiding from the rainfall
 Come into my bedroom
 Come into my bedroom
 Come into my bedroom
 
 8時か9時に終わるの? 何時くらいが丁度いい?
 雨宿りしながら待ってるからね
 僕のベッドルームへおいで
 僕のベッドルームへおいで
 僕のベッドルームへおいで
 
 And it keeps on running back
 
 幾度も胸をよぎる
 
 Time will tell if you can figure this and work it out
 No one's waiting for you anyway so don't be stressed now
 Even if it's something that you've kept your eye on
 It is what it is
 
 やがて分かるさ 君が納得して乗り越えられれば
 誰も急かしはしないから 気楽に構えるんだ
 それがずっと君のお目当ての何かだったとしても
 それは仕方のないことさ
 
 And it keeps on running back
 
 幾度も胸をよぎる
 
 Even if it's all you know just keep your heart in
 Anyway to keep it up just never let yourself down
 Even if it's something that you've kept your eye on
 It is what it is
 
 それが君のすべてだったとしても くじけちゃいけない
 とにかく進んでいけば 悪いようにはならないさ
 それがずっと君のお目当ての何かだったとしても
 それは仕方のないことさ
 
 And it keeps on running back
 
 幾度も胸をよぎる
 
 Finishing 8 or 9? Tell me what's the perfect time?
 Told you I'll be waiting hiding from the rainfall
 Come into my bedroom
 Come into my bedroom
 Come into my bedroom
 
 8時か9時に終わるの? 何時くらいが丁度いい?
 雨宿りしながら待ってるからね
 僕のベッドルームへおいで
 僕のベッドルームへおいで
 僕のベッドルームへおいで


 ブラッド・オレンジの歌詞には、聴き手に解釈を委ねるような断片的で曖昧なものが多い。「Time Will Tell」では、何らかの挫折について歌われているようだ。具体的に示されることのない“それ”は、聴き手がそれぞれ自分の人生に当てはめて想像すればいいだろう(失恋の歌と捉えるのが自然だとは思うが)。結びの“It is what it is”というフレーズは、“That's the way it is”と同じで、“(人生や現実なんて)そんなもんさ”とか“しょうがない”という意味の常套句である。“必ずしも欲しいものが手に入るとは限らない。でも頑張れば、何か大事なものが見つかるかもしれないよ”──この曲でデヴ・ハインズが歌っていることは、「You Can't Always Get What You Want(邦題:無情の世界)」(1969)でミック・ジャガーが歌っていることとほとんど同じだと思う。

 「Time Will Tell」は、ワンテイクによる15分間のアドリブ・セッションから生まれた曲だった。ハインズはそこに過去の自作曲のフレーズを即興で乗せていった。“Time will tell〜”というサビのフックは、同じく『CUPID DELUXE』収録の「It Is What It Is」という別曲から。サビとは特に文脈的に繋がりのない“Finishing 8 or 9?〜”の部分と、それに続く“Come into my bedroom”というリフレインは、ブラッド・オレンジ名義の前作『COASTAL GROOVES』(2011)の最終曲「Champagne Coast」からの流用である。世の無情さを歌いつつ、聴き手を肯定し、まるで友人か恋人のように親密に語りかける後者の部分が温かみを感じさせる。凛としたピアノに乗って宙を舞うメロディには、聖歌のように美しい響きがある。'80年代後半の最も才気走っていた頃のプリンス(『SIGN〜』『LOVESEXY』あたり)が、あの密室感とポップ感覚で「You Can't Always Get What You Want」を自由にリメイクしたら、こんな風になっていたかもしれない。

 セクシャルでありながら、男臭さやマッチョイズムをまるで感じさせないブラッド・オレンジの作品は、プリンスと非常に共通点が多い。R&B、ファンク、ヒップホップ、ジャズ、ポップ、ロック等を自由に交錯させるハイブリッドな音楽性はもちろん、常にハインズの歌声に寄り添い、ユニセックスな雰囲気を生み出すウェンディ&リサ的な女性ヴォーカルもプリンスを思わせる(「Time Will Tell」はハインズ一人で歌っているが)。様々な意味で越境的だったプリンスからの強い影響は、シャーデーと並んで、ユル&Bアーティストの多くに共通して見られるものだ。個人的には、時折覗くエスニック・テイストや、黄昏を思わせるジャズ・サックスの物憂げな音色が気に入っているが、何と言っても、多彩な音をひとつのキャンバスにまとめ上げるバランス感覚が驚異的に素晴らしい。まるでカセットテープを聴いているような'80年代アナログ感にも──そのゲイフレンドリーな作風とあわせて──単なる懐古趣味を超えた強い作家性を感じる。

 デヴ・ハインズが室内で歌う様子をワンカットで撮影した「Time Will Tell」の音楽ヴィデオも最高だ。白いピアノに向かってこの聖歌(アンセム)を歌うハインズは、途中からおもむろにピアノを離れ、室内をあちこち気の赴くままに動き回る。展開の意外さもさることながら、まるで壊れたテレンス・トレント・ダービーのような彼の珍奇な動きには目を奪われずにいられない。そして、感動せずにいられない。なんて自由なんだ! この自由さ、ユニークさ、愛すべきヘッポコ感こそ、ユル&Bの真髄ではなかろうか。


ブラッド・オレンジは禁断の果実か?

Blood_Orange_MJ2.jpg
MJからの影響も莫大なブラッド・オレンジ。「Time Will Tell」は新世代の「Man In The Mirror」か?

 過去にプロデュース曲は耳にしていたものの、私がデヴ・ハインズという人物に注目することはなく、『CUPID DELUXE』というアルバムを初めて聴いたのも、'13年11月の発売から2ヶ月ほど経った'14年1月のことだった。なので、'13年末に公表した私の年間ベスト・アルバム10選にこのアルバムは入っていない。聴いて即座に、例年やらないそんな企画をやってしまったことを激しく後悔した(今なら2位に入れたい。ライ以上に素晴らしいと思う)。『CUPID DELUXE』は、シャーデーの『LOVE DELUXE』同様、世界中のベッドルームで永遠に聴かれ続けるだろう真にデラックスな名作である。彼は、あらゆる恋人たちを解放するために天が使わした愛のキューピッドに違いない。

 ブラッド・オレンジ。なんてジューシーな奴だろう。私はこんな果実を待っていた。それは既に解禁されている。さあ、君もかじってみよう。新たな楽園のために!


Music videos from CUPID DELUXE:
Chamakay
Time Will Tell
Uncle Ace [Kindness remix feat. Robert Owens]
You're Not Good Enough
High Street [feat. Skepta]


夏のユル&B特集【1】
夏のユル&B特集【3】


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