2017 09123456789101112131415161718192021222324252627282930312017 11

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

夏のユル&B特集【3】──Jesse Boykins III



 身も心も折れかけている夏バテ脱力ピープルのための“夏のユル&B特集”。最終回の第3回に登場するのは、ジェシー・ボイキンス三世

 一世と二世がよく分からないボイキンス三世は、シカゴ生まれ、ニューヨークを拠点に'00年代後半から活動する新感覚ソウル/R&B歌手。メロー・X、クリス・ターナー、マラ・ルビーといった音楽仲間や、Street Etiquetteというファッション・ブログの主宰者らと共に“The Romantic Movement”という徒党を組むロマンチックな男でもある。いつも頭が爆発している。どちらかと言うと、ビラルのようなネオソウル〜エクスペリメンタル(フューチャー)ソウル寄りの音楽性を持つ人で、彼をユル&Bアーティストとして扱うことには少々無理があるかもしれないが、“ユルさ”という点では先に紹介した2人にも決して引けを取らない。

 彼の作品はまるで浮き雲のような感じで、寝起きみたいな髪型と同様、独特の掴み所のなさがあるのだが、'14年4月に発表された2ndアルバム『LOVE APPARATUS』からの先行曲「Plain」は、エイフェックス・ツイン「Windowlicker」(1999)を歌モノにしたようなエッジーかつポップな仕上がりで手応え十分。サウンドの浮遊感のみならず、歌詞にユル&B的な気分がよく表れているように思われたので取り上げることにした。




 Plain
 (Jesse Boykins III)
 
 Never thought I'd ever be alone again
 Never thought you'd go and find yourself a new trend
 Shoulda known I was always in the dark with you
 Shared less words than even secrets do
 
 まさかまた一人になるとは思わなかった
 まさか君が去り 新たなトレンドに乗り換えるとはね
 僕らにはちっとも互いが見えていなかったんだね
 僕らは沈黙ほどにも言葉を交わさなかった
 
 Plain
 This feelings feelin' plain
 Plain
 I always knew we'd be plain
 Plain
 This feelings feelin' plain
 Plain
 I always knew we'd be plain
 
 味気ない
 この気持ちは味気ない
 味気ない
 僕らの仲は味気ないと思ってた
 味気ない
 この気持ちは味気ない
 味気ない
 僕らの仲は味気ないと思ってた
 
 Did you ever even feel some kind of way
 Cuz' now when I look at you yea I feel plain
 Our kisses never hot never cold
 Thought you were the one you were just her mold
 Wouldn't call it stale wouldn't call it fresh
 Doesn't tip the scale it ain't seasoned yet
 Wouldn't say its good wouldn't say its bad
 But I guarantee you've already had it
 
 なんかイマイチだとは思わなかったかい
 君のことを眺めてみても つくづく味気ない
 僕らのキスは熱くも冷たくもない
 結局のところ 君は彼女のもどきに過ぎなかった
 傷んでるわけでも 新鮮なわけでもない
 何の歯ごたえもなく 何の味もしない
 美味いわけでも 不味いわけでもない
 けれど君は確かに味わったんだ
 
 Plain
 This feelings feelin' plain
 Plain
 I always knew we'd be plain
 Plain
 This feelings feelin' plain
 Plain
 I always knew we'd be plain
 
 味気ない
 この気持ちは味気ない
 味気ない
 僕らの仲は味気ないと思ってた
 味気ない
 この気持ちは味気ない
 味気ない
 僕らの仲は味気ないと思ってた


 愛の不毛が歌われている。胸が躍るような恋愛でもなく、胸が裂けるような失恋でもなく、何となく付き合って何となく別れた“恋人”──とすら呼べないような“君”──に対する複雑な思い。キーワードの“plain”は良い意味では使われていない。あっさり、淡泊、物足りない、シケてる、ショボい、つまらない、冴えない、退屈、平凡、平板、無味乾燥、中途半端、ゆるい、ぬるい、煮え切らない……様々な訳語を考えた末、プレーン・ヨーグルトを食べている時、“味気ない”が適語であると思い至った。

 およそ歌にならないような非ドラマチックな出来事、フラットな感覚が歌われているところが面白い。ロックの世界には、例えばザ・スミスのモリッシーのように、日常の細部にフォーカスしながら鬱屈した若者の心情を歌うアーティストがいただろう。同じようなことがR&Bというフォーマットで普通に歌われるようになった。そこが面白い。かつてロックが担っていた役割を、今ではR&Bが担うようになっているのである。

 「Plain」を聴きながら、汗や涙とは無縁の“プレーン”な青春を描いた米インディ映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)──当ブログの名称の由来にもなっている──を思い出した。その映画は、人とのコミュケーションが下手で、社会に居場所を見つけられないアウトサイダーたちの姿を、独特のユルいテンポとユーモアで淡々と描いている。劇中で繰り返し流れるスクリーミン・ジェイ・ホーキンス「I Put A Spell On You」(1956)が、まさしくオルタナティヴ・リズム&ブルースの古典と言うべき曲であることは何やら示唆的である。ユル&Bという音楽もまた、同様のアウトサイダーにまつわる音楽なのではないだろうか。そして、それが広く支持され、流行にまでなるということは、そういう傾向を持つ人間が世界規模で増えているということではないだろうか。


これがユル&Bの正体だ!?

Screamin_Jay.jpg
スクリーミン・ジェイは元祖ユル&B歌手かもしれない。いま気付いたぜ。ガチョーン!

 最後に“ユル&B”を以下の3箇条で定義しておきたい。

1. 自由精神に満ち溢れた強いメッセージ性があること
2. 立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること
3. 愛すべき“ゆるさ”を持ち合わせていること

 これは、みうらじゅんによる“ゆるキャラ”の定義を流用したものである。1の“自由精神”を“郷土愛”から変えただけで、2と3はオリジナルの定義そのままだ。すべてのユル&Bアーティストに当てはまるわけではないが、本質は押さえているように思う。

 “立ち居振る舞いが不安定かつユニーク”というのは、要するに“queer(ヘンテコな、奇妙な)”ということである。“queer/クィア”という語が性的マイノリティを指すことは、この記事を熱心に読んでいる人には恐らく説明するまでもないだろう。ユル&Bは、音楽ジャンルを越境すると同時に、性のステレオタイプを超越する。同性愛者への偏見や差別が根強いアメリカの黒人音楽の世界で、ゲイっぽい雰囲気を漂わせた珍獣的なR&B歌手が“あり”になったのは非常に画期的なことだと思う。実際にゲイであることをカミングアウトしたフランク・オーシャンに対する高い人気と社会的評価(グラミー2冠)は、ユル&Bという潮流の巨大さと重要性を何より明快に示すものだろう。もちろん、ユル&B=ゲイの音楽ということでは必ずしもないが、そのような社会的アウトサイダーたちの共感を得やすい要素がユル&Bに多分に含まれていることは確かである。それは“ゆるキャラ”にも言えることだ。ふなっしーがゲイ・アイコンとして支持されたとしても、私はちっとも驚かないだろう。彼だか彼女だか分からない梨のお化け──船橋市からいつまで経っても公認されない──は、社会的に疎外された者の哀しみと、それでも生きていく逞しい精神を全身で体現しているからである。

 今回の特集の第2回で取り上げたブラッド・オレンジは、上の3つの条件をすべて完璧に満たしている。この定義から考えると、ジャネール・モネイもまた典型的なユル&Bアーティストということになる。結局、何でもありなR&B、というのがユル&Bなのだと言えるだろう。何ともユルい結論に達してしまったが、そういうことなのだと私は思う。自由であるのは良いことに違いない。私が望むのは、ロックのように、ユル&Bがダメ人間のための免罪符にならないことだけである。

 ひと昔前のニュー・クラシック・ソウル〜ネオソウルは、黒人アーティストたちによるヒップホップというフィルターを通した'70年代ニューソウルの再解釈だったが、ユル&Bでは他ジャンルとの混交が更に進み(中でも'80年代ニューウェイヴ・ロックとの親近性が高い)、アーティストの人種も黒人に限定されなくなっている。かつてのオルタナティヴ・ロックがそうであったように、ユル&Bはどんどんメインストリームを侵食し、やがて“オルタナティヴ”でも“インディ”でも何でもなくなるだろう。その時、世界は今より少しだけ良くなっているかもしれない。そして、ふなっしーは船橋市の公認キャラクターになっている……かもしれない。


【執筆後記】
 夏らしい企画を、と考えて今回のユル&B特集をやってみたが、全3回の記事をアップしてみたら、野郎のむさ苦しい顔が3つ並んで単に暑苦しくなっただけだった。この企画は失敗だったぜ……。



夏のユル&B特集【1】
夏のユル&B特集【2】


ユル&B関連記事:
Rhye──究極の背中ミュージック
Jessie Ware──ジェシーをさがせ!
シャーデー大賞2013を占う
The Weeknd──未来世紀トーキョー
Mahmundi──今どきのイパネマの娘
Maxine Ashleyの“勝手にしやがれ”
Jarell Perry──週末のタブー

| Man's Man's Man's World | 03:00 | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT