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Prince──カネなんかどうでもいい



 今月はプリンス月間ということで、前回の「The Ballad Of Dorothy Parker」に続いてもう1曲、彼の名曲を取り上げることにしたい。

 今回和訳するのは『DIAMONDS AND PEARLS』(1991)からの5thシングルだった「Money Don't Matter 2 Night」。テンポをやや落としたMJ「Rock With You」にスティーヴィー「You've Got It Bad Girl」の歌メロを乗せたような(?)、'70年代ソウル・フレイヴァー漂うミディアム・スローのバラード曲だ。海賊ラジオから流れてくるようなプリンスのローファイ気味なヴォーカル・サウンドが実にカッコいい。私の好きなプリンス楽曲ベスト10の5位くらいに入るかもしれない。とにかく好きだ。

 淡々としたメロディに乗せて歌われる歌詞がこれまた素晴らしい。“今夜カネは問題じゃない、重要じゃない”というサビのフレーズから、「Can't Buy Me Love」的な単純な歌だと思っている人もいるかもしれないが、さにあらず。愛とお金を秤にかけるラヴ・ソングではなく、拝金主義や利権主義を真っ向から批判する実に辛辣なメッセージ・ソングなのである。しかし、語り口の巧さによって説教くさい歌にはなっていない。プリンスが決して“ダンス、ミュージック、セックス、ロマンス”だけのアーティストではないことをはっきりと示す名曲だ。


 Money Don't Matter 2 Night
 
 One more card and it's 22
 Unlucky 4 him again
 He never had respect 4 money it's true
 That's why he never wins
 That's why he never ever has enough
 2 treat his lady right
 He just pushes her away in a huff
 And says money don't matter 2 night
 
 もう1枚カードを引けば22
 またもや彼はツいていない
 お金の大切さが分かってないのさ
 だからいつまでも勝てない
 だから自分の妻を
 満足に養うこともできない
 苛つきながら妻を突き放して言う
 「カネなんか今夜はどうでもいい」
 
 Money don't matter 2 night
 It sure didn't matter yesterday
 Just when u think u got more than enough
 That's when it all up and flies away
 That's when u find out that u're better off
 Makin' sure your soul's alright
 Cuz money didn't matter yesterday
 And it sure don't matter 2 night
 
 カネなんか今夜はどうでもいい
 昨日だってどうでもよかった
 余るほど手にしたと思った途端
 あっという間に消えてなくなる
 そこでふと自分の心は大丈夫なのか
 見つめなければいけないと気づく
 昨日カネがどうでもよかったなら
 今夜だってどうでもいいさ
 
 Look, here's a cool investment
 They're tellin' him he just can't lose
 So he goes off and tries to find a partner
 But all he finds are users
 All he finds are snakes in every color,
 Every nationality and size
 Seems like the only thing that he can do
 Is just roll his eyes and say
 
 さあ こいつはおいしい話だ
 絶対に損はしないと彼は教えられる
 手を組む相手を探しに行ってみれば
 他人を利用する連中ばかり
 あらゆる色 国籍 大きさの
 ヘビどもがとぐろを巻いている
 開いた口が塞がらず
 呆れて彼はこう呟く
 
 Money don't matter 2 night
 It sure didn't matter yesterday
 Just when u think u got more than enough
 That's when it all up and flies away
 That's when u find out that u're better off
 Makin' sure your soul's alright
 Cuz money didn't matter yesterday
 And it sure don't matter 2 night
 
 カネなんか今夜はどうでもいい
 昨日だってどうでもよかった
 余るほど手にしたと思った途端
 あっという間に消えてなくなる
 そこでふと自分の心は大丈夫なのか
 見つめなければいけないと気づく
 昨日カネがどうでもよかったなら
 今夜だってどうでもいいさ
 
 Hey now, maybe we can find a good reason
 2 send a child off 2 war
 So what if we're controllin' all the oil
 Is it worth a child dying 4?
 If long life is what we all live 4
 Then long life will come 2 pass
 Anything is better than the picture of the child
 In a cloud of gas
 And u think u got it bad
 
 ほら 子供を戦争に送り出すための
 いい口実ができそうだ
 石油を掌握しているからどうだと言うんだ
 そのために子供の命を犠牲にするのかい
 誰もが長生きのために生きるなら
 長生きは実現するだろう
 ガスに巻かれている子供の写真ほど
 ひどいものはない
 そして我に返るのさ
 
 Money don't matter 2 night
 It sure didn't matter yesterday
 Just when u think u got more than enough
 That's when it all up and flies away
 That's when u find out that u're better off
 Makin' sure your soul's alright
 Cuz money didn't matter yesterday
 And it sure don't matter 2 night
 
 カネなんか今夜はどうでもいい
 昨日だってどうでもよかった
 余るほど手にしたと思った途端
 あっという間に消えてなくなる
 そこでふと自分の心は大丈夫なのか
 見つめなければいけないと気づく
 昨日カネがどうでもよかったなら
 今夜だってどうでもいいさ


 この歌は主人公の男=“彼”が賭博場でブラックジャックをしている場面から始まる。男は賭けに負け、今夜も金をすってしまう。恐らく、彼の暮らし向きはあまり良くない。小金ができてはギャンブルで失うということを繰り返すせいで、経済面で自分の女に良い思いをさせてやることができない。“自分の女(his lady)”を“妻”と解釈して、1番の最後の2行で歌われている場面を具体的に想像してみよう。場所は彼の自宅、夜遅く彼が賭博場から帰ってきた時のことである。

妻「遅かったわね。何か食べてきたの? ご飯、これしかないんだけど……」
男「……」
妻「大家さんが来週までに家賃を払えって。子供の学費もあるし……。あんた、今日、給料日だったわよね?」
男「……」
妻「お給料は?」
男「……すった」
妻「はあ?! ギャンブルはもうしないって約束したじゃない! 一体どうするつもりなのよ?!」
男「うるさい! おまえは黙ってろ! カネのことなんか今夜はどうでもいい!」

 “カネなんか今夜はどうでもいい(Money don't matter 2 night)”という表題フレーズは、この歌でまず、ギャンブルで負けた男の放言として登場する。そして、それは直後のサビでそっくりそのまま反復される。

  カネなんか今夜はどうでもいい
  昨日だってどうでもよかった

 
 “昨日だってどうでもよかった”というのは、つまり、昨日も男は同じようにギャンブルで金をすった、そして、同じことを言った、ということである。これとよく似た“台詞の反復”が日本の過去のヒット曲にある。

  馬鹿にしないでよ そっちのせいよ
  これは昨夜の私のセリフ


 山口百恵「プレイバック Part 2」(1978)。交差点で文句をつけてきた隣の車に向かって“馬鹿にしないでよ そっちのせいよ”と主人公の女が言い返す。その台詞は歌の中で巻き戻しのように反復(プレイバック)され、男と喧嘩をして家を飛び出した彼女の内省場面へと繋がっていく。

 “カネなんか今夜はどうでもいい/昨日だってどうでもよかった”で始まるサビ部分は、語り部であるプリンス自身の考察、見解、主張であると同時に、「プレイバック Part 2」と同様、主人公の男の心の声でもあるだろう。苛立って“カネなんか今夜はどうでもいい”と言った瞬間、ああ、俺は昨日も同じことを言ったじゃないか、同じことの繰り返しじゃないか、と彼は気付くのである。

 “余るほど手にしたと思った途端 あっという間に消えてなくなる/そこでふと自分の心は大丈夫なのか 見つめなければいけないと気づく”という内省に続いて、サビの最後でもう一度、“カネなんかどうでもいい”というフレーズが繰り返される。“今夜”と“昨日”の順序が入れ替わっているのがポイントだ。

  昨日カネがどうでもよかったなら
  今夜だってどうでもいいさ


 結びの“今夜だってどうでもいい”は、最初に男が言った“カネなんか今夜はどうでもいい”とはニュアンスが180度異なる。昨日も同じ過ちをした、だから今夜はもう金に心を惑わされるのはやめよう、という意味に変わっている。この歌の一番の優れどころは、“カネなんかどうでもいい”という同一フレーズが、文脈によってどんどんニュアンスを変えていく点にある。金で自分を見失った人間の放言をそのまま引用しながら、鮮やかな論理の運びによって、逆にそういう人の目を覚まさせる仕掛けになっているのである。

 プリンスは視野を広げていく。2番の歌詞では、経済や軍事面における国際社会の取引や連携が歌われ(“snakes”は“腹黒い奴ら”と訳してもいい)、3番では湾岸戦争にまで話が及んでいる。イラクがクウェートに侵攻したのは'90年8月2日、イラクと多国籍軍が戦争状態になったのは'91年1月17日〜同年2月28日、『DIAMONDS AND PEARLS』が発表されたのは'91年10月のことだった。3番に登場する“ガス”は化学兵器のことだろう。湾岸戦争では使われなかったが、イラク軍による使用が警戒され(イラン・イラク戦争末期にはイラクのバラブジャで実際に化学兵器の使用があった)、多国籍軍兵士やイスラエル国民などがガスマスクをつけている様子が当時報道されていた。それでもまだゲームを続けるのかい?というのがプリンスの主張である。


MDM2N-1.jpg
MDM2N-2.jpgMDM2N-3.jpg
Money Don't Matter 2 Night (1992)
Directed by Spike Lee

 スパイク・リーが手掛けた音楽ヴィデオも印象深い。「They Don't Care About Us」(1996)でマイケルがしたように、プリンスはまずスパイク自身にヴィデオを監督したい曲を選ばせたそうだ。

「彼は僕にアルバムを聴かせ、1曲選んでくれと言った。最初に選んだやつはちょっと無理でね。じゃあ、〈Money Don't Matter 2 Night〉はどうだと言うと、彼はOKしてくれ、僕も“よっしゃ!”ということになったのさ」(14 April 1992, The Baltimore Sun)

 プリンスはスパイク・リーの自由にさせた。彼が制作したのは、貧しい黒人家庭、失業者、子供たちなどの様子を描いたモノクロ映像に、カジノ、湾岸戦争、ブッシュ大統領、世界恐慌時代の古いニュース・フィルムなどの映像を混ぜ合わせた非常にメッセージ色の強い作品だった。ヴィデオの冒頭では、5人の子供と妻を抱える黒人男性がカメラに向かって大統領へ申し立てをする。

“大統領、あなたは私たちの現状をお分かりでないと思います。私には家族を養うことができません。仕事がないのです。解雇されたんですよ。妻も家計を支えてくれてましたが、これまた解雇されてしまいました。大統領、どうしたらいいのでしょう。私たちは失業しています。景気回復? この有り様はどうなんです?!”

 プリンス本人が全く登場しないことにワーナーが難色を示したため、このヴィデオにはプリンスとバンドがスタジオで演奏する様子を挿入した2ndヴァージョンが作られている(ヴィデオ集『Diamonds And Pearls Video Collection』に収録)。私はプリンスが登場しないオリジナル版を見たことがないが、バンドの落ち着いた演奏場面もクールなこのヴィデオは、歌のメッセージや曲の雰囲気をストレートに伝えるなかなかの佳作だと思う。


 「Money Don't Matter 2 Night」は、'90年8月末〜9月初旬にプリンスが〈Nude〉ツアーで来日した際、東京のワーナー・パイオニア・スタジオでレコーディングが行われている(ヴォーカルは後に録られた可能性もあるが。このレコーディング・セッションでは他に「Willing And Able」「Strollin'」なども録音されたようだ)。〈Nude〉ツアーの東京公演は、'90年8月30日と31日の2日間、東京ドームで行われた。どちらの日だか忘れたが、私はその時のドーム公演を2階席で観ている。それは私にとって生まれて初めて生で体験するプリンスのコンサートだった。あの時、東京でこの曲を録音していたのだなあ、と思うと感慨もひとしおである。

 あれから約四半世紀。日本では“アベノミクス”“集団的自衛権”“カジノ解禁法案”といった言葉が新聞紙面を賑わしている。この先、日本は一体どうなってしまうのだろう──「Money Don't Matter 2 Night」を聴きながら、改めてそう思う。今、私たちが最も聴くべきプリンスの歌はこれではないだろうか。



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