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ビバ! 反重力生活




 ライオン・ベイブの新曲「Jump Hi」に因んで、前回、フィリップ・ハルスマンをはじめとする傑作ジャンプ写真の数々を紹介した。今回はその続きとして、ジャンプによって重力に挑戦した秀逸な映像作品を2本紹介したい。どちらも必見の傑作である。摩訶不思議な反重力生活の光景をお楽しみあれ!


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GRAVITY // UN RÊVE DE DEMAIN (2012)
Directed: Filip Piskorzynski and Natalia Dufraisse
Music: "Tasty City" by Rone
Starring: Natalia Dufraisse

 ポーランド出身、ハンブルグで活動する若手映像作家が制作した4分間の幻想的な短編作品。表題は“重力”、副題は仏語で“明日の夢”。

 ある日のこと、ひとりの若い女性が浜辺で目覚めると、自分の身体が宙に浮いていることに気付く。そこから彼女の奇妙な反重力生活が始まる。果たして彼女が地面に戻ることはあるのか……?

 身体が宙に浮いている様子は、ジャンプした瞬間をコマ撮りすることによって表現されている。これが独特のシュールな興趣を醸し出していて実に面白い。主演/共同監督を務めたのは、ナタリア・デュフレスというベルギーの女優/ダンサー。ダンスの要素も含んだ表情豊かな身体表現からは、宙を舞うことの歓びが伝わってくる。この作品を撮るために彼女は一体何回飛び跳ねたのだろう。この作品はフィクションだが、ドキュメンタリーとしても秀逸だ。絶え間なき重力との戦い──ひとコマひとコマがその戦いのリアルな記録なのである。CGでお手軽に浮くのではなく、コマ撮りという手法を採ったところが決定的に素晴らしい。

 女性主人公が海辺で目覚めるところから始まる幻想的な映像詩には、マヤ・デレン監督/主演のシュルレアリスム映画の古典『陸地にて(At Land)』(1944)──最近、米ロック・バンドのシー・キープス・ビーズ She Keeps Bees が「Owl」という曲のヴィデオで完コピ(過去にマドンナガービッジもネタにしている)──にも比肩する瑞々しさと美しさがある。ブルキナファソ等で撮影された詩情溢れる浮遊映像はそれだけでも十分に魅力的だが、ワンアイデアの単なる面白映像ではなく、きちんと物語性があるところが更に素晴らしい。

 ネタバレになるが、浮遊しながら大自然の中を散策した後、ナタリアは突如として都会の街なかに迷い込み、そこで通りすがりの男性の手によって強引に地面に引き戻される。都会では重力に逆らうことは許されないのだ。徐々に浮力を失っていくナタリア。彼女の浮遊病(?)は、最終的に電車の送電線を使った電気ショックによって治る。が、地に足はついても、彼女の髪の毛だけは重力に反してゆらゆらと逆立っている……。この物語において、ナタリアを地面に縛りつける重力は“現実”、浮遊は“夢”の暗喩として捉えることができる。この作品は、夢見る少女が現実世界と向き合い、大人になっていく過程を描いた一種の青春映画と見ることもできる。群衆の中でナタリアの髪の毛だけが宙に浮いているラストシーンのなんとチャーミングなことか。

 ナタリアの提案により、サントラには仏エレクトロニカ・アーティスト、ローンの「Tasty City」(2009)が使われた。コマ撮りという古典的でほのぼのとした技法を使った映像に、彼の音楽がハッとするような新鮮さと緊張感を与えている。『Gravity』は、もともとローンの音楽ヴィデオとしてではなく、ローンの音楽を使用した独自の短編映画として制作された作品だが、正式なコラボレーション作品として、ローンの所属レーベル、Infinéの公式YouTubeチャンネルを通して'12年1月に公開された。この作品の成功を受けて、監督のフィリップ・ピスコルジンスキー、ナタリア・デュフレス、ローンの三者は、同年9月に公開されたローンの音楽ヴィデオ「Parade」で再び集結。そちらもコマ撮りで浮遊少女の冒険を描いた同趣向の美しい作品に仕上がっている。


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TAKE ME TO BROADWAY a.k.a. STREET DANCE
from SMALL TOWN GIRL (1953)
Directed: Laszlo Kardos
Staged: Busby Berkeley
Featuring: Bobby Van

 世紀の大天才ミュージカル映画作家、バズビー・バークレーがミュージカル場面を演出したMGM映画『Small Town Girl』(日本未公開)。映画後半に登場する「Take Me To Broadway」は、決してバークレーの代表作ではないが、その単純明快な楽しさゆえに多くの人に記憶されている傑作ナンバーだ。MGMミュージカル・アンソロジー『ザッツ・エンタテインメント Part 2』(1976)でも紹介されているので、ご存じの方も多いだろう。ジャンプをテーマにした映像作品と言えば、これに尽きる。

 「Take Me To Broadway」は助演のボビー・ヴァンによるソロ・ナンバー。小さな町の喉かな朝、将来の展望が開けて心を弾ませるヴァン──ブロードウェイ・スターを夢見る青年──が町なかをカエルのようにピョンピョンと飛び跳ねながら進んでいく。近所の人や牛乳屋と挨拶を交わしたり、おばあちゃんに花を手渡したり、ゴミ箱の蓋をシンバルのように鳴らしたり、赤ん坊をあやしたり、犬と戯れたりしながら、夢見る青年は延々と飛び跳ね続ける。彼の幸せは他の人にも伝染し、やがて町中の人々が彼のもとに集まってきて、町全体が大きな祝福感に包まれる。

 もはや“ダンス”とは呼びがたい奇抜なナンバーだが、よくもこんなバカバカしくも素晴らしい演出を思いついたなと感動する。このシークエンスは長回しによる流麗な移動撮影で描かれていて(計5カット)、ヴァンが実際に延々と飛び跳ね続けていることが映画の観客にも分かるようになっている。飛び跳ねた瞬間のみを取りだして連続させれば、そのイメージは前述の『Gravity』に限りなく近づくだろう。これもまた重力への飽くなき挑戦の記録と言える。

 『Small Town Girl』は、ジェーン・パウエル、ファーリー・グレンジャー(ジョージ・チャキリス似のイケメン俳優。ニコラス・レイ『夜の人々』等)主演の恋愛コメディ。この映画の前半にはもうひとつ、ボビー・ヴァンが閉店後の百貨店内で歌い踊る「Take Me To Broadway」の本格的なミュージカル場面があり、路上を舞台にしたピョンピョン・ダンス場面はそのリプリーズ的なナンバーに当たる。ボビー・ヴァンのソロの他、ミュージカル場面としては、ブロードウェイ女優役のアン・ミラーが踊る2曲──バズビー・バークレー主義全開の「I've Gotta Hear That Beat」、フラメンコとタップの融合「My Gaucho」──が出色。主人公カップルが訪れるニューヨークのナイトクラブでナット・キング・コールが本人役で登場して歌う「My Flaming Heart」も最高だ。歌、踊り、物語、何もかもが楽しいMGMミュージカルの秀作のひとつである。

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COME AS YOU ARE (1987)
Artist: Peter Wolf | Director: Edd Griles
HAPPINESS (2008)
Artist: Goldfrapp | Director: Dougal Wilson

 往年のハリウッド・ミュージカルは音楽ヴィデオのネタの宝庫。ボビー・ヴァンのピョンピョン・ダンスは、後にピーター・ウルフ「Come As You Are」、ゴールドフラップ「Happiness」のヴィデオで焼き直されている。

 ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースやシンディ・ローパーのヴィデオを手掛けていたエド・グライルズ監督の「Come As You Are」は、ロケーションや演出の細部に至るまでオリジナルの「Take Me To Broadway」を忠実に再現した作品。オリジナル版では、ボビー・ヴァンがジェーン・パウエルにプロポーズを断られたところからピョンピョン・ダンスが始まるが(ブロードウェイ・スターを志す彼は、幼なじみのパウエルと結婚して実家の百貨店を継ぐことを望む父親によって強引にプロポーズさせられたため、断られて逆に喜ぶ)、「Come As You Are」は、『Gravity』と同じく、ピーター・ウルフが目覚まし時計で起床する場面から始まる。ピーターもナタリアも、いずれも寝坊しているのが面白い(「Come As You Are」の時計は11時50分、『Gravity』の時計は2時30分を示している。彼らが常識的な生活リズムから外れた人間であることは重要なポイントだろう)。この作品は計4カットの長回し映像で構成されているが、特筆すべきは、カット繋ぎの際に別アングルへ普通に映像が切り替わっていたオリジナル版と違い、ヒッチコック『ロープ』式にワンカット風のシームレスな編集が施されている点。'87年当時、〈ベストヒットUSA〉でこのヴィデオが放映された際、司会の小林克也が、“よく見ると場面によって日差しが違います。1日中、飛び跳ねて撮影したものと思われます”という実に的確なコメントをしていたことを私は今でも覚えている。バンドが演奏する東屋でクライマックスを迎えるアレンジも良い。ジュリアン・テンプルが監督した前年のジャネット・ジャクソン「When I Think Of You」(1986)と並ぶMGMオマージュの傑作だ。

 ゴールドフラップ「Happiness」は、「Come As You Are」同様、オリジナル版の演出を随所に引用しながら、巧みな映像処理によって長回し映像の面白さを更に追求したものになっている。ボビー・ヴァンと同じ白スーツ姿の青年が道路を飛び跳ねていく中、町のいたる場所で様々な人物──バス停で待つ少女、婦警、庭師、花屋──に扮したアリソン・ゴールドフラップが顔を出すのが面白い。各カットは、車、通行人の背中、電話ボックスといった画面上を横切る障害物を境に繋がれているが、映像技術の発達により、繋ぎ目は驚くほど自然で、パッと見た限りでは本物のワンカット映像のように見える(恐らく5〜6カットで構成)。

 '08年の「Happiness」は疑似ワンカット映像だが、現在であれば、この作品は本当にワンショットで撮影されていたかもしれない。CGや編集技術が高度化し、映像で何でもできるようになった一方、フェイクの利かない長回しワンカット映像は、ライヴ感に溢れたリアルな視聴者投稿映像を発信するYouTubeの興隆に伴って、近年、再び人気を集めるようになった。難易度の高い複雑なパフォーマンスを一発撮りしたOK Goの音楽ヴィデオや、ファレル・ウィリアムズ「Happy」の24時間ヴィデオなどはその最たる例だろう。往年のミュージカル映画は、少ないカット割り、引きのアングルで、俳優のリアルなパフォーマンスを見せるものだった。そうした素朴なドキュメンタリー性が再び人々の心を掴んでいる。結局、人の心を強く動かすのは、映像技術ではなく、生身の人間の表現なのである。


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Eva Marie Saint
Photo by Philippe Halsman, 1954

 ジャンプ学の権威、フィリップ・ハルスマンは、ジャンプという行為の中に人の無意識を読み取った(彼はサルバドール・ダリと組んで素晴らしい作品を残してもいる)。ジャンプする人間のイメージがどこか感動的なのは、重力という超えがたい現実を超え、鳥のように自由に空を飛びたいという人間の永遠の夢がそこに表れるからだろう。重力を完全に克服することはできないが、しかし、諦めずに何度もジャンプし続ければ、人は必ず宙を舞うことができる。『Gravity』のナタリアのように。

 ジェイムズ・ブラウンは「Gravity」(1986)の中でこう歌っている。
 
  If you can dream, you can fly
 
 “ジャンプ(跳躍)”とは、つまり、“夢見ること”である。Let's Jump!

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