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紐育ストーリー──Twin Danger meets 山口百恵!!!?




 衝撃の大ニュース。なんと、ツイン・デンジャー山口百恵の名曲「横須賀ストーリー」(1976)をカヴァーした。「You Never Knew」と改題し、オリジナルの英語歌詞をつけたカヴァー版のデモ録音がYouTubeで公開された。リズムをシャッフルに変え、ツイン・デンジャーらしいジャジーなサウンドに仕立て直している。'13年に来日した際、東京の中古レコード屋で山口百恵のアナログ盤を購入したスチュアート・マシューマンが、曲を気に入ってカヴァーすることになったらしい。歌謡曲とクール・ジャズ、横須賀とニューヨークが時空を越えて奇跡の邂逅!

 ……というデマを流そうかと思ったが、洒落にならないのでやめた。この音源を聴いたら、本気で信じる人もいるかもしれないからである。上の再生ボタン、もしくは画像をクリックして、とりあえずその音源を聴いてみてほしい。話はそれからだ。



IMITATION GOLD: COVERS OF MOMOE YAMAGUCHI
CD: Panam/Nippon Crown CRCP-20033, 16 December 1991 (Japan)

Rock'n Roll Widow(ロックンロール・ウィドウ)/ Double Time(絶体絶命)/ Playback Part 2(プレイバック Part 2)/ Imitation Gold(イミテイション・ゴールド)/ Living In A Dream(夢先案内人)/ If Love Ends Now(曼珠沙華)/ Loaded For Love(ひと夏の経験)/ Don't Ask If This Is Love(夏ひらく青春)/ You Never Knew(横須賀ストーリー)/ Dark Night(春風のいたずら)

All arrangement: Glenn Moller and Tom Taffe
English lyrics: Devony Lehner


 「横須賀ストーリー」の英語カヴァー「You Never Knew」は、'91年12月に日本クラウンから発売されたドナ・ロウリンズ&T.G.Dなるユニットによる山口百恵楽曲の英語カヴァー集『IMITATION GOLD』に収録されている。これがツイン・デンジャーにそっくりなのだ。

 『IMITATION GOLD』は謎のアルバムである。駅のコンコース内で売られている廉価CDのような投げやりなジャケットからして不可解だが、内容を知ると謎は更に深まる。ここで歌っているドナ・ロウリンズ Donna Rawlins(アルバムでは“ドナ・ロリンズ”と片仮名表記されている)という女性は、オハイオ州ランカスター出身、ロサンゼルスを拠点に活動するアメリカの声優/シンガー・ソングライター。CMやオーディオブック等でナレーション仕事をする傍ら、'90年代末からImaginary Friends、Rosemont Crossing、Drawing Down The Moonといったポップ/ロック系のインディー・バンドのメンバーとして活動。'02年にはDonatella名義で『UNDER THE MOON』というソロ・アルバムも発表している(いずれもCD Babyで購入可)。『IMITATION GOLD』は、一応、彼女にとってソロ歌手としてのデビュー作に当たる。

Yokosuka_Danger3.jpg 当時、アメリカでも日本でも全く無名だったドナ・ロウリンズ嬢(今でも決して有名とは言えない)が、いかなる経緯でこの企画アルバムの主役に抜擢されたのかは分からない。アルバム・ブックレットには、ごく簡単なクレジット、英語歌詞、ドナ嬢の写真(右)が掲載されているのみで、何の解説もない。彼女と共にフィーチャーされている“T.G.D”なるユニットの名称は、編曲者としてクレジットされているTom TaffeとGlenn Moller、英語歌詞を手掛けたDevony Lehnerという3人のファースト・ネームの頭文字を取ったものに違いないだろうが、彼らが何者であるかもさっぱり分からない。ひとつ分かるのは、このアルバムが、その5ヶ月前の'91年7月にテイチクから発売されたノーランズによる百恵楽曲の英語カヴァー集『PLAYBACK PART 2』の後追い企画であること、そして、かなりの低予算と短期間で制作された作品に違いないことである。

 取り上げられているのは、いずれも山口百恵の代表曲ばかり。全10曲中、7曲が阿木燿子+宇崎竜童作品で、それ以外の3曲は初期の少女アイドル時代の作品が選ばれている。「いい日旅立ち」「秋桜」「さよならの向う側」といったバラード曲は一切なく、ロック系のリズミックな楽曲が中心なのが特徴だ。

 1曲目の「Rock'n Roll Widow」を聴いて、まず、音のあまりのチープさに卒倒する。シャッフルのヘッポコな打ち込みドラム、リズムがヨレまくったショボいシンセ・ブラス。このアルバムのオケはシンセサイザーだけで作られている。とはいえ、決してエレクトロニックな編曲を施しているわけではなく(そういう部分も多少はあるが)、シンセは基本的に生楽器の代用として使われている。ドラム、ベース、ギター、ホーン……本来ならミュージシャンが生で演奏するべきパートを、すべてシンセの手打ちでシミュレートしているのだ。粗や詰めの甘さが目立つサウンド・プロダクションは、端から公開を意図していない素描のような印象を与える。まるでレコーディング本番に向けて準備されたデモ録音のようなサウンドなのだ。いや、実際、これはもしかすると本当にデモ録音なのではないか。私の推測に過ぎないが、このアルバムはもともと国際的なスター歌手が百恵作品を歌うものとして企画され、ドナ・ロウリンズはそのデモ歌手として雇われた。ところが、適当なスター歌手が見つからなかった、あるいは、ギャラの折り合いがつかなかった等の理由で企画は頓挫し、最終的に、少しでも利益を得るため、ドナが歌ったデモ録音を“完成品”としてそのまま発売することにした……。このアルバムの背後にはそのような経緯があるのではないか。いくら日本で商品価値の高い百恵作品とはいえ、全く無名のアメリカ人歌手に歌わせるというのは、企画としてあまりにも不自然である。

 デモと割り切って聴けば、このアルバムの完成度はかなり高い。基本的にポップ・ロック調の編曲が施されているが、編曲者にはジャズの素養があるらしく、至るところにジャジー・ポップ的なフィーリングが感じられるのが面白い。終盤でトランペットのソロがフィーチャーされるクールなジャズ・ファンク「Double Time(絶体絶命)」(“double-time”は“二股をかける”という意味で使われている。ドラム・ビートが途中からダブルタイムになるのが洒落ている)、ピアノとフルートをフィーチャーしたアシッド・ジャズ調の「Playback Part 2」あたりは、是非とも本物のミュージシャンを起用した生演奏の完成版を聴いてみたいと思わせる素晴らしい出来だ。「If Love Ends Now(曼珠沙華)」「Imitation Gold」の大胆なダンス・ポップ編曲は、原曲に馴染みのある私が聴いても驚くほど自然だし、スパニッシュ風味の「Dark Night(春風のいたずら)」に至っては、マドンナのヒット曲かと思うほど魅力的な欧米ポップス感を漂わせている。クセのない歌唱で爽やかな色気を漂わせるドナ・ロウリンズ嬢のヴォーカルもなかなか良い。仮にデモ用の裏方歌手として雇われたのだとしても、彼女の歌唱はそのまま表舞台に立てるくらい立派なものである。このまま永久に歴史の中に埋もれさせてしまうには惜しい作品だ。

Yokosuka_Danger4.jpg
山口百恵「横須賀ストーリー」('76年6月21日発売)

 件の「You Never Knew」は、アルバムの中でもハイライトのひとつと言える逸品である。原曲の「横須賀ストーリー」(作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童)は、'76年初夏にシングル発売された山口百恵の決定的な代表曲。百恵の故郷である横須賀を舞台に、十代の少女の切ない恋心を瑞々しく描いた名曲である。その英語カヴァー「You Never Knew」では、歌詞が以下のように改変されている。


 You Never Knew
 Written by Yoko Aki and Ryudo Uzaki / English lyrics by Devony Lehner
 
 You never knew, you never knew, sailor, how I loved you so
 You never knew, you never knew, sailor, how I needed you
 
 In the grey light of dawn, I come down to the shore
 And I stand there alone in the cold salty air
 Everyday my heart asks what it asked me before:
 Is this deserted horizon all we'll ever share?
 
 You never knew, you never knew, sailor, how I loved you so
 You never knew, you never knew, sailor, how I needed you
 The black waves and cold wind have carried you away
 Why do the tides and the wide ocean skies hold your heart?
 My heart is your harbor
 
 All the love that you need waits here in my heart
 Distant shores hold no love half as honest and true
 But before my heart spoke, you had sailed in the dark
 Rocked by the sea, do you hear my heart whispering to you?
 
 You never knew, you never knew, sailor, how I loved you so
 You never knew, you never knew, sailor, how I needed you
 Tonight I will sit longing for what we had
 Even though you never know what a treasure was ours
 I'll always remember


 マドロスさんに対する切ない恋心が綴られている。“私”が胸の内を伝える前に“あなた”はひとり海へと旅立ってしまった。これっきりですか?! という歌だ。“Lover, come back to me”ならぬ、“Sailor, come back to me”。海辺の町という原曲の設定はきちんと生かされている。未熟な恋愛関係や、苦悶する少女の心情を描いているところも一緒だ。しかし、舞台が違う。ここは横須賀、ではない。これは“桑港ストーリー”、あるいは“紐育ストーリー”とでも呼ぶべき作品である。

 『IMITATION GOLD』の収録曲はどれも原曲の“英訳”ではなく、原曲を換骨奪胎しながら自由に創作されている。阿木+宇崎の百恵楽曲はいずれも詞先で作られていて、メロディは日本語の響きと分かち難く結びついているが、英語歌詞を担当したDevony Lehnerという人物は、そのメロディを解きほぐし、原詞の世界を一から英語で書き直すことで、山口百恵の名曲群を欧米ポップスとして実にスマートに生まれ変わらせている。歌詞/編曲共に原曲のイメージを丁寧になぞったノーランズの翻訳調カヴァーとは対照的だ。ノーランズの百恵カヴァー集『PLAYBACK PART 2』は、'60年代前半に日本で流行ったカヴァー・ポップス(アメリカン・ポップスの日本語カヴァー)の逆ヴァージョンと言うべき作品だが、英語版でありながら、聴き手として日本の百恵ファンを想定していることもあり、結果的にオリジナルの単なる劣化コピーになってしまっている。一方、『IMITATION GOLD』の制作者たちは──仮にそれが日本でのみ発売される作品だったとしても──端から日本の百恵ファンを相手にしていない。このアルバムで聴けるのは、百恵作品の “模倣(imitation)”ではなく、飽くまで“解釈(interpretation)”であり、当時の欧米ポピュラー音楽の基準に則した、百恵作品の全く別の可能性である。

 「You Never Knew」は編曲も秀逸だ。原曲は、ミーナ「L'eclisse Twist(太陽はひとりぼっち)」(1962)、ジャンニ・モランディ「Go-Kart Twist(サンライト・ツイスト)」(1962)といったイタリア産ツイスト曲を参照したアップテンポのいなたいロック編曲だったが、T.G.Dの3人は、これをシャッフルのレイドバックしたジャジー・ポップに大胆に改造している。デモ・クオリティの安くさいフェイク・ジャズ・サウンドが逆にクールだ。'80年代のクレプスキュールのコンピにアンナ・ドミノやアンテナなどと一緒に収録されていてもおかしくないような音なのである(「Double Time」のスカスカ感も相当にヤバい。イントロなど、思わずサンプリングしたくなるようなドープさだ)。この面白さが山口百恵ファンに理解されるかどうかは分からないが、シャーデーやツイン・デンジャーのファンには恐らく分かってもらえると思う。

 未完の傑作『IMITATION GOLD』は、現在、アマゾンで中古価格1円から購入することができる。シャーデーと山口百恵の双子姉妹説に信憑性を感じる人は、プレミアが付く前に速やかにゲットしておくべきだろう(5年前に私が購入した時も1円だった気がするが……)。ツイン・デンジャーには是非とも「You Never Knew」をカヴァーしていただき、「Sailor」──歌詞は「You Never Knew」Part 2状態──とカップリングでシングル発売してもらいたいものだ。






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