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あなたのそばに

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 前作から8年ぶりに発表されたアルバム『LOVERS ROCK』(2000)。長い沈黙を破ったそこからの第一弾シングルが「By Your Side」だった。

 久々の復帰に対するリスナーの過剰な期待を軽く払いのけるようなレイドバック感全開のミディアムスロー。音楽的な目新しさは特にない。相変わらず我が道を行くシャーデーだったが、何のケレンもないこの穏やかな曲からは、以前より数倍豊かになった彼ら自身の人間性が伝わってくるようだ。8年のブランクもダテではない、実に“大きな”曲である。


 By Your Side
 (Adu/Matthewman/Hale/Denman)
 
 You think I'd leave your side baby
 You know me better than that
 You think I'd leave you down
 when you're down on your knees
 I wouldn't do that
 I'll tell you you're right when you want
 If only you could see into me
 
 あなたのそばから去ると思って?
 そんなわけないでしょう
 跪いているあなたを
 置き去りにすると思って?
 そんなことしないわ
 私を方を見てくれさえすれば
 いつでも頷いてあげるから
 
 Oh when you're cold
 I'll be there
 Hold you tight to me
 
 寒くなったら
 私がいる
 しっかりあなたを抱いてあげる
 
 When you're on the outside
 baby and you can't get in
 I will show you you're so much
 better than you know
 When you're lost and you're alone
 and you can't get back again
 I will find you darling and
 I'll bring you home
 
 外に閉め出され
 入れてもらえないとき
 思っている以上にずっと
 自分が素晴らしいんだと教えてあげる
 独り迷子になって
 帰れなくなったら
 私が見つけて
 家に連れ帰ってあげる
 
 And if you want to cry
 I am here to dry your eyes
 and in no time
 You'll be fine
 
 もし泣きたくなったら
 私が涙を止めてあげる
 すぐに
 立ち直れるから
 
 You think I'd leave your side baby
 You know me better than that
 You think I'd leave you down
 when you're down on your knees
 I wouldn't do that
 I'll tell you you're right when you want
 And if only you could see into me
 
 あなたのそばから去ると思って?
 そんなわけないでしょう
 跪いているあなたを
 置き去りにすると思って?
 そんなことしないわ
 私を方を見てくれさえすれば
 いつでも頷いてあげるから
 
 Oh when you're cold
 I'll be there
 Hold you tight to me
 Oh when you're low
 I'll be there
 By your side baby
 
 寒くなったら
 私がいる
 しっかりあなたを抱いてあげる
 落ち込んだら
 私がいる
 あなたのそばに
 
 Oh when you're cold
 I'll be there
 Hold you tight to me
 Oh when you're low
 I'll be there
 By your side baby
 
 寒くなったら
 私がいる
 しっかりあなたを抱いてあげる
 落ち込んだら
 私がいる
 あなたのそばに


 歌詞を見るだけで一目瞭然だが、とにかく優しい。ものすごい包容力である。
 こんな歌をかつてシャーデーが歌ったことがあっただろうか。

 周知の通り、8年のブランクの間にシャーデー・アデュの人生にあった最大の出来事は、初の出産である('96年)。ここには確かに母性的な愛が強く感じられるが、対象は子供に限定されず、飽くまで普遍的なラヴ・ソングとして捉えることが可能だ。

 ここでアデュは相手に何も問わないし、要求もしない。自我や人間関係の相克に悩み煩い、愛され、受け入れられることを渇望する曲を歌い続けてきた彼女は、ここで遂に、ひたすら「肯定」する強さを身に付けたようだ。まるで世界を子宮で包み込んでいくような柔らかさ。
 すべてが自ずと光り輝き、もはやわざわざ肯定する必要すらなく、ただ抱擁しさえすればいいような世界観に男はなかなか到達しがたいものだが、女性であるアデュの場合は、出産を経てごく自然にそうした境地に達したのかもしれない。


 ところで、この「By Your Side」を最初に聴いて、個人的にすぐに思い出された曲がある。アニー・レノックスが歌う「A Whiter Shade Of Pale(青い影)」である。ご存じ、プロコル・ハルムの超ウルトラ有名曲を、彼女が'95年にカヴァーしたものだ(ソロ2作目『MEDUSA』からのシングル曲)。
 この曲と「By Your Side」のAメロはよく似ているのだが、単に楽曲や音楽性の類似にとどまらず、レノックスとシャーデー、'80年代のUKが生んだ二大ディーヴァとも言える両者の歩みに、そこでまた改めて繋がりを見るような気がして面白かった(両者は共にヴィデオ監督にソフィ・ミュラーを起用し、似たようなヴィジュアル・イメージを打ち出してもいた)。彼女の歌う「A Whiter Shade Of Pale」は、持ち前の冷たいフィーリングの中に仄かな温かみを感じさせるもので、フェリーニ風のノスタルジックなヴィデオと併せ、非常に印象深い作品になっている。かつてユーリズミックス時代、レノックスは神経症的な氷点下のラヴ・ソングを多く歌っていたが、ユニットが一旦解消された'90年代以降、作品の温度は徐々に上昇し、シャーデー同様、非常に温かでたおやかな女性的側面を見せるようになった。


 「By Your Side」から連想される曲としては、他にジャクソン5「I'll Be There」、ビル・ウィザーズ「Lean On Me」などがあるが、個人的に特筆しておきたいのは、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズの'64年のヒット「I'm On The Outside (Looking In)」。

 この曲の話者である「僕」は、自分から別れたかつての恋人で、今は別の彼氏がいる「君」と縒りを戻したがっている。「君」の心から閉め出された孤独な状態を“外から覗き込んでいる”と表現しているのである。イメージ的には、悪さをして家に入れてもらえない子供が、窓に顔をピッタリつけて家の中を覗き込んでいる感じに近いだろうか。

 I'm on the outside looking in
 I don't wanna be left on the outside all alone
 
 君から閉め出され 覗き込んでる僕
 外に独り置き去りだなんて
 
 Gotta find a way back to your heart, dear, once again
 Won't you take me back again? I'll be waiting here till then
 
 どうしたらもう一度君の心に帰れるんだ
 連れ戻してくれないか それまで僕は待ってるよ

 この“外側に(on the outside)”という表現で疎外感を表すくだりが、「By Your Side」にもそのまま登場する。アデュは、そんな独り外に閉め出された「あなた」を“家に連れ帰ってあげる”と優しく歌うのである(「家」「内側」が暗示するものは、もちろん「子宮」しかないだろう)。要するに、「By Your Side」は、この「I'm On The Outside (Looking In)」に対する返歌としても捉えることができるのだ。

 実を言うと、私が最初に親しんだこの曲のヴァージョンは、リトル・アンソニーのオリジナルではなく、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ『MAKE IT HAPPEN』(1967)収録のカヴァー版だった。スモーキーの歌唱スタイルは、同じくハイ・テナー/ファルセットを操るリトル・アンソニーに非常に近いこともあり、よりスウィートさを増しつつ、ほとんど完コピ状態のカヴァーになっているのが面白い。
 彼が取り上げているせいもあって、私の中で「By Your Side」と「I'm On The Outside (Looking In)」は半ばワンセットになってしまっているのだが、果たしてアデュはこの曲が好きだったのだろうか。「By Your Side」は、もしかすると、クワイエット・ストームの帝王に対するシャーデーからの密かなラヴ・コール……なわけはないか。

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