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TaxiWars──ジャズの覚醒



 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開を記念して、タクシーウォーズという新バンドを紹介することにしたい。フォースには目覚めないかもしれないが、これを聴けばあなたもきっとジャズに目覚める……かもしれない。


TAXIWARS: THE JAZZ AWAKENS



 タクシーウォーズは、'15年4月に同名アルバム『TAXIWARS』でデビューしたベルギー出身の野郎4人組。“男性”ではなく、敢えて“野郎”と書きたい。バンド編成は、ヴォーカル、テナー・サックス、アップライト・ベース、ドラム。ジャズ・バンドがロックをやっているようにも聞こえるし、ロック・バンドがジャズをやっているようにも聞こえる。と言っても、彼らがやっているのは、プログレ/フュージョン的な大昔の“ジャズ・ロック”ではなく、もっとパンキッシュでハードボイルドな、いわば無頼派ジャズ・ロックである。と言うと、今度はジェイムズ・チャンスのような音を想像するかもしれないが、ああいうファンク崩れのエキセントリックなノー・ウェイヴ・サウンドともまた違う。ずばり、タクシーウォーズはツイン・デンジャーの野郎版である!……と誤解を恐れずに言いたいところだが、“じゃあ、チェット・ベイカーみたいな?”と聞き返されたら、それは誤解です、と答えるしかない。結局のところ、実際に聴いてもらうしかない。

 後から素性を知って驚いたのだが、ヴォーカルのトム・バーマン Tom Barman は、ベルギーのオルタナ・ロック・バンド、デウス dEUS の中心人物だった男である。'94年にアルバム『WORST CASE SCENARIO』でIslandからデビューしたデウスは、キャプテン・ビーフハートとソニック・ユースとスマッシング・パンプキンズとアーケイド・ファイアを全部混ぜたような、とてもユニークなバンドだった(メンバーにヴァイオリン奏者を含む)。ロック、ブルース、フリー系ジャズ、現代音楽などがゴチャゴチャと入り混じったビーフハート風ミクスチャー・サウンドを、彼らは'90年代的なオルタナ感覚で実にスマートに鳴らしていた。同時代のバンドで言うと、アメリカのソウル・コフィング Soul Coughing に近い音だが、デウスにはちょっとアウトサイダー・ミュージックっぽい奇妙な捻れがあった。……と書くと、“じゃあ、ベックみたいな?”と言われそうだが、ああいうヒップホップ色はない。まあ、結局、これも実際に聴いてもらうしかない。

これがデウスだっ
W.C.S. (First Draft) from the album WORST CASE SCENARIO (1994)
Theme From Turnpike from the album IN A BAR, UNDER THE SEA (1996)


 シャーデーなど単なるお洒落ミュージックだと思い込み、トム・ウェイツ、アルチュール・アッシュ、ニック・ケイヴ、ティンダースティックス、ムーンフラワーズ、ポーティスヘッド、チョコレート・ジニアスなどを愛聴する偏狭で暗いロック青年だった私は、当時、このデウスというバンドのかなり熱心なファンで(他にも、ここにはとても書けないようなものを聴いていた。黒歴史……)、アルバム、EP、シングル、ブートレグ、メンバーのサイド・プロジェクト作品──Moondog Jr.、Kiss My Jazz──などを色々と買い集めていたのだが、'99年の3rdアルバムがつまらなくて、そこで聴くのをやめてしまった。私が知っているのは2nd『IN A BAR, UNDER THE SEA』(1996)期までだが、バンドは'00年代以降も活動を続け、ベルギーを中心にヨーロッパでずっと高い人気を誇っているようだ。“ユニークなバンドだった”と過去形で書いてしまったが、最近作は'12年発表で、バンドは今も存続している模様。

 タクシーウォーズは、そのデウスのヴォーカルであるトム・バーマンが、ニューヨークで活動するベルギー人ジャズ・サックス奏者、ロビン・ヴァーヘイエン Robin Verheyen と意気投合して始めたサイド・プロジェクト的なバンドである。ベースとドラムもジャズ畑の人間だ。

 スウィングしないアップテンポの直線的なロック・ビートに乗って、やさぐれたダミ声でトム・バーマンが捲し立てるように歌い、ロビン・ヴァーヘイエンが骨太なテナー・サックスで並走する。ヴァーヘイエンは、フリー/スピリチュアル期のジョン・コルトレーンみたいな重くて饒舌なテナーを吹く。彼のサックスは歌の伴奏ではなく、トム・バーマンのヴォーカルと常に対等な関係にある。ヴォーカルとサックスが交互に咆哮し、せめぎ合う双頭バンド。曲の体裁はロック的だが、非常にジャズ度の高いサウンドだ。

 ギターレスというのが良い。演奏自体はパンキッシュだが、ギターがないせいで耳障りなロック感がないし、和音を奏でる楽器がなく、音が隙間だらけなので、演奏がヒートアップしても暑苦しくならない(ごく一部でオルガンが使われているが)。ジャズとロックが互いに補完し合う形で混じり合い、陰影の濃いノワールな音世界を作り出している。この編成にしたセンスをまず褒めるべきだろう。トム・バーマンは抑揚の乏しいブルース調の歌を無愛想にがなる。AメロもBメロもサビもない。演奏は恐らくすべて一発録りで、生々しい音響は完全にジャズ・レコードのそれだ。決してポップとは言えないが、ビートにはロックンロールの分かりやすいドライヴ感があるし、アドリブ度が高いとはいえ、長いソロ演奏や、フリー・ジャズのような無軌道さはないので、それほど取っつきにくいわけでもない。ニューヨーク、夜のダウンタウン、紫煙がたちこめるモノクロームの世界……といったジャズの定型イメージをストレートに突くような音なので、誰が聴いても素直に“カッコいい”と感じるはずだ。要するに、彼らの音はスタイリッシュなのである。そういう意味で、タクシーウォーズはツイン・デンジャーとよく似ている。ロック度は高めだが、ツイン・デンジャーのファンなら一聴の価値はあると思う。

 デビュー作『TAXIWARS』は、本国ベルギーで'15年4月に先行発売され(オランダでは7月、ヨーロッパのその他の国では9月発売)、チャートで5位を獲得したという。何のチャートか不明だが、このサウンドで5位という成績は大したものだと思う。日本でも人気が出るのではないだろうか。『スター・ウォーズ』はどこも混んでるしなあ……という人には、代わりに家でタクシーウォーズを聴くことをお勧めする(ジャケのバンド・ロゴもそれっぽいし)




 そう言えば、モーフィーン Morphine ってバンドがいたよなあ……。'92年にデビューし、翌年発表の2nd『CURE FOR PAIN』でブレイクしたボストン出身のオルタナ・ロック・バンド。2弦スライド・ベース、バリトン・サックス、ドラムの3ピース。当時、私にとってはニルヴァーナ以上に重要なバンドだった(何度か来日公演に行き、メンバー全員にサインをもらったりもした)。ソウル・コフィングも近いが、私が知っている過去のバンドの中では、彼らが最もタクシーウォーズに近い。似たようなハードボイルドなサウンドが持ち味だが、モーフィーンの曲はもうちょいメロディアスでポップである。もしタクシーウォーズが気に入って、モーフィーンを知らないなら、絶対に聴くべきだ。彼らはとんでもなく素晴らしいライヴをやるバンドでもあった。過去形でしか書けないのが残念だ。


※『TAXIWARS』は、'15年の第3回シャーデー大賞の正式ノミネート作品です。大賞、および、その他のノミネート作品は日本時間12月30日(水)午後10時に発表される予定。タクシーウォーズは大賞を獲ることができるのか?

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